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4 タコヤキ

多くの方に読んで頂きたかったので二話連続更新です!!!


「タッコヤキ。タッコヤキ」


 家に着くなり、アーデルは楽しそうに歌い始めた。表情は仏頂面で口調もクールだが、こういうところがあるので親しみやすい。


「まだ5時半だから、たこ焼きはまだだぞ?」


「え?」


「お前にソーセージ食わされたせいであんまりお腹すいてないし。夕飯は6時半にさせて貰う」


「そんなセッショウな。ケイはん流石に酷すぎますわ」


 大阪弁も地味に堪能で腹立つなコイツ。いや、俺の住んでいた地域ではこんなにコテコテではなかったが。


「そりゃあ、えらいすんまへんな。でも、もう決定したさかいどうにか呑み込んで下さい。ほら、向こうの和室とか珍しいでっしゃろ? あれでも見て暇潰すとええですわ」


「ワシツ......ね。始めてみたわ。確か、日本ではあそこで毒の入ったお茶を飲まされて地位が高い人が殺されるのよね」


「それは時代劇」


「オシイレもあるじゃない。確か、此処で青い狸が寝泊まりしているのよね」


「それは未来から来た猫型ロボット」


 知的好奇心が働いたらしく、彼女は押し入れの扉を開けて、中を見た。


「ゴホッ、ゴホッ。......酷いホコリね」


 そして、咳き込んだ。


「いや、勝手に開けたのお前だし。もう、ずっと掃除してないから当然だ。俺、ベッドで寝てるから和室と押し入れは放置してるんだよ」


「放置って、おかあたまとおとうたまはどうしたの?」


 先輩に向かって滅茶苦茶舐めた口の利き方するやんコイツ。


「居ない」


「居ない?」


「厳密に言うと、此処には居ない。吹田(すいた)に居る」


「何処よそれ」


「大阪」


「此処、カナガワなのだけれど」


 アーデルは理解出来ないとばかりに俺をジトーと見つめる。


「この家は元々、祖母(ばあ)さんを亡くした祖父(じい)さんの家でさ。俺が高一の頃に介護をするために神奈川まで来たんだよ。でも、少し前に祖父さんも死んじゃって俺一人になってしまった訳なの」


「それ、お祖父様をオオサカに呼べば良かったんじゃない?」


「祖父さんは祖母さんと長年暮らしたこの家を手放すのが嫌とかで大阪に来ようとしなかったんだよ」


「だから、ケイは料理が出来るのね」


「そういうこと。今日に至るまで、この無駄にだだっ広い家の掃除に料理洗濯、仕送りだけだと生活が苦しいからアルバイトもやって、それに平行しての学業と部活を頑張って来たんだ。偉いだろ?」


 俺は引きつった笑みを浮かべながらそう言った。


「......もしかしなくても、見ず知らずの外国人にタコヤキを振る舞う余裕なんてなかったんじゃ」


「そうだよ」


「Es tut uns leid。......いえ、ごめんなさい」


「いや、其処まで滅茶苦茶生活が困窮してるとかそんなんじゃないから大丈夫。週四でバイト入れば小遣いも少しだが、手に入るし」


 苦笑する俺にアーデルは同情の目を向けた。


「まだ若いのに」


「アーデルの方が若いけどな?」


「一歳だけよ。てか、何その略し方」


「いや、アーデルハイドって一々言うのめんどいじゃん」


「ハイジじゃ駄目なの?」


「ハイジって感じのキャラしてないやん」


 俺のイメージするハイジはやっぱり、アルプスの山でヤギと戯れている純粋な少女なのだ。こんな色物枠じゃない。


「めっちゃヘンケンやでそれ」


「言っとけ」


「まあ、もう好きに呼んで」


 そんなやり取りをしているとあっという間に時は経ち、夕食の時間になった。


「これがタコヤキキ......可愛い」


 キッチンの棚の奥底に眠っていたたこ焼き機を見てアーデルは興奮する。


「たこ焼きを焼くのなんて久し振りだな。腕が鈍ってないと良いが」


「やっぱり、タコヤキを作るには技術が必要なの?」


「まあ、コツは必要だな」


 たこ焼きを上手く作るコツはたこ焼きを回すタイミングを見極めることと上手く回すことだ。上手く回さないとグチャグチャのたこ焼きが出来てしまう。


「ジトー......」


効果音を口にしながらアーデルは竹串を見つめる。


「その視線は何だ」


「ジトー......」


「おい」


「ジトー......」


「ツンツン」


 俺はアーデルの頬を竹串で軽く(つつ)いた。


「何をするの」


「いや、突きやすそうな頬だと思って」


「突きやすそうって何よ。それは褒めているの? 貶しているの?」


「ああ、うん。褒めてる。褒めてる。それより、何だよさっきのジト目は。たこ焼き回したいのか?」


 俺の問いにアーデルはコクコクと頷く。


「じゃあ、やってみろ。まずは油を引いて......と、生地を流してくれ」


「Alles klar」


 そう言うと、彼女はおたまに入っていた生地をたこ焼き機に流していった。ドイツ語はさっぱりだが、彼女が俺の言った通りのことをしている辺り恐らくOK的な意味だったのだろう。


「んじゃ、タコを入れていくか」


「そう言えば、タコを食べるのは初めてだわ」


 タコを一つ一つ生地の中に沈めながらアーデルが言った。


「え、大丈夫なのかそれ。嫌いな味とかだったら終わるぞ?」


 念のためにタコ以外の具を入れた奴でも作っておいた方が良いだろうか。


「大丈夫。私、ゲテモノじゃなければ何でも食べれるから。ただ、ドイツではあまり食べないの。スペイン料理とかで食べる人はいるけど」


「スペイン料理かあ......俺、一回スペイン行ってみたいんだよなあ」


 美しいビーチにマドリードの王宮、憧れる。


「スペインなんかよりドイツに来て。美しい建造物に美味しい料理、何でも有るわ」


「スペインなんかって言うな。スペインなんかって。それにドイツの料理とかお前に作って貰えば幾らでも食べれるじゃん」


「......それって、私にカヨイヅマをさせるということかしら。気持ち悪い」


 アーデルは顔を真っ赤にする。何でそんな単語知ってるんだよ。


「違うわ。お前、さっきスーパーで今度、美味しいドイツ料理を俺に作ってくれるとか言ってただろ。それだよ」


「確かに言ってたわね。そんなこと」


 適当だなおい。


「お、そろそろ回して良いぞ。ほれ」


 俺は竹串をアーデルに渡す。


「やってみるわ」


 アーデルがたこ焼きに串を刺して動かすと、たこ焼きはクルリと綺麗に回転した。


「うっま」


 俺は思わず、言葉を漏らす。俺でもあそこまで綺麗に回すことが出来るか怪しい。

 アーデルのたこ焼き回しの技術は初めてとは思えないほど上手だった。


「当然よ」


「はいはい。ほら、次の奴も回しとけよ。俺は味噌汁を暖めてくる」


「Ok」


 そして、それから約10分後。


「......美味しいわ」


 アーデルは怒涛の勢いでたこ焼きを食い始めた。


「おい、熱いから気を付け」


「......っっっっっっっ!?」


 俺が言い終わる前にアーデルはもがき苦しみ始めた。


「アホだコイツ」


「オ、オ腹ガ熱イ......一気ニ二ツモ食ベルンジャナカッタワ」


「ほれ、水だ」


「アリガト」


 苦しそうに水を飲み、体を震わせるアーデルの背中を軽く叩いてやる。


「大丈夫か?」


「......何とか。舌はヤケドしたけど」


 俺の作った夕食でドイツ人が舌を火傷することになるなんて、コイツと出会うまでは夢にも思わなかったことだ。


「海藻サラダを食べて舌を冷やせ」


「う、うん。あ、歯応えが気持ちいい。美味しいわね」


「そして、味噌汁を一気に流し込む」


「...........あつっ」


 アホだ。


「ねえ、ケイは何なの? 私に意地悪をしたいの? 気になる女の子に意地悪をしたい年頃なの?」


 アーデルが舌を更に火傷させて泣きそうになりながら俺を恨めしそうに見る。


「悪かったよ。はい、あーん」


「......ん」


 大きく開いたアーデルの口に氷を放り込んだ。


「取り敢えず、それで冷やしとけ」


「ケイって面倒見、良いわね。弟さんか妹さんでも居るの?」


 氷を口の中でコロコロと転がしながらアーデルが聞いてきた。


「いや、俺は一人っ子だ。......アホな後輩は出来たけどな」


「誰がアホな後輩よ」


 俺の言葉にアーデルは苦言を呈する。


「ふわああ。なんか、眠くなってきたな」


 俺は大きなアクビをしてそう言った。今日一日、色々なことが有りすぎて疲れてしまったのだろう。


「此処で寝ないで」


 アーデルがそう言うが、突然襲ってきた眠気は耐え難いものだった。


「悪い......後は好きに......食べといて......くれ。......zzz」


「え、あの、ケイ?」


 そこから俺の意識は途切れてしまった。

あ、そこのアンタ。ちょっと、この後書きの画面を下にスクロールしてくれ。そしたら、星が有るはずだ。そいつをタッチしてくれないか? そうしてくれたら俺、嬉しくて泣いちゃうよ。頼む。お願いだ。『この下にある星をタッチしてくれ!』

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