37 後悔
あけましておめでとうございます!!!
今年も宜しくお願いします!!!!!
「五六」
「うん」
「お客様にカップケーキと紅茶持っていってください」
「うん」
「いや、うんじゃなくて。早く持っていけです」
「うん」
「テメエ喧嘩売っとんのかコr......」
「ソレンヌちゃん、注文!」
「あ、はーい。今、伺いマス! .......おい」
突然、足を強く踏まれた。
「痛えっ!?」
「カップケーキ、運べ。早く」
「え、あ、はい.......」
ジンジンと痛む足を気にしながら、カップケーキと紅茶の乗ったプレートをソ連に言われた席へと持っていった。
「お、お待たせしました〜」
「ありがとう。五六君」
自分の名前を呼ばれたことでギョッとした俺はその客の顔を見る。顔見知りだった。
「あ、瑠賀のお父さんですか。こんにちは」
「こんにちは。昨日は息子と遊んでくれてありがとう。アイツ、随分と楽しかったみたいだよ」
「いえ、此方こそ瑠賀と遊べて楽しかったです......」
「その割には随分、浮かない顔をしているようだが?」
心配そうな表情を彼は俺に向ける。
「流石に疲れが溜まってましてね」
「そうか.......。そうだよな。一日中、海で遊んだ翌日にバイトだったらそりゃ、疲れるか」
「ソレンヌの方が疲れてると思いますけどね。殆ど毎日、バイトですし」
「何か私の話をしましたカ?」
ソ連がひょっこりと現れてそんなことを聞いてくる。
「毎日、ソレンヌちゃんはバイトで大変じゃないのかなってお話だよ」
「私、このお店とお仕事が大好きですから全然、大変だとは思いマセン。確かに疲れたりはしますケド、それよりお客様に居心地の良い空間を提供シタイノデ! エヘヘ......」
ニッコリと井立田父にソレンヌは笑ってみせた。
「ソレンヌちゃんは良い娘だなあ。ケーキも頼めるかい?」
「Oui! 直ぐに淹れさせて頂きマス! フノボリも、そろそらレジに戻ってくだサイ」
「あ、うん」
俺は言われた通り、井立田父に軽く会釈をしてからレジへと戻った。
「何かあったのですか?」
厨房へ行く途中のソ連が大きな溜め息を吐き、そんなことを聞いてきた。
「バレた?」
「朝からお前、ずっと辛気臭い顔してるし、気付かない訳が無いのです。どうせ、ハイジと喧嘩したとかそんなところでしょう」
ソ連は俺の顔を暫し眺めた後
「図星ですか」
と、呆れた様子で呟いた。どうやら、顔に動揺が出ていたらしい。
「喧嘩というか、俺が100悪いんだ。ついカッとなったというか」
「何ですかそのクソみたいな理由。DV男かよ」
グサリグサリと的確にソ連は俺の心にナイフを刺した。しかしながら、今回ばかりはソ連の言っていることは正しい。受け止めなければ。
「猛省してる」
「みたいですね。馬鹿みたいに顔色悪いですよお前。どうせ、一睡も出来なかったんでしょう。お前がどれだけ自分のことを追い詰めても勝手ですが、給料分の働きはして貰うのです」
「......はい、しっかり働きます」
コクリと頷く俺にソ連は苛立った様子で顔を顰めた。
「チッ。『もうちょっと、慰めてくれても良いだろ』とか、少しくらいは反論しやがれなのです」
「いやだって、お前の言ってること全部、正論だし。俺は虫の居所が悪かっただけでカッとなるようなクズだし、俺がどうなってようとこの職場には関係の無いことだし」
「いや、それはそうなんですけど、お前がそんなだと調子狂うのです。.......それに、何か頼りにされてる感が無くてイラつくのです。言っときますが、私もマスターも朝からお前のこと心配してたんですからね。声掛け辛かっただけで」
鼻を鳴らしながら、ソ連は目を逸らす。
「だから、この職場をそんな冷たい場所みたいに言うななのです。私もマスターも一応、お前の味方なのです」
頬を少し膨らましながらそう言って俺の肩をトンと叩くソ連。俺は今にも涙を流しそうになった。
「.......何と言うか、ありがとう」
彼女の言葉を受け入れることは自分のしたことを許してしまう行為になる様な気がした。俺は昨日、自分がアーデルにしたことを許しはしない。それでも、彼女には感謝を伝えたかった。
「フンっ。最低限の慰めはしたのです」
そう言うと、ソ連は足早に厨房へと入っていった。何やかんや言ってああいうところが有るから愛されてるんだよなあ、アイツ。
夏休みということで何時もより多い客に驚きながらもレジ打ちをしていると、またもや顔見知りがやってきた。
それも、かなり顔を合わせたくないタイプの。
「Guten Tag. コーヒー、お願いシマス」
アーデルと同じ金髪で緑色の目をしたその女性は正真正銘のアーデルの姉、アデーレだった。彼女がこのカフェに来たことは一度もない。
アーデル関係でのご来店であることは確実だ。
「あ、こ、コーヒーですね。は、はい分かりました〜。お好きなお席にどうぞ.......」
下手なリコーダーの音くらい、ブルブルと声を震わしながら俺は応える。ソ連は全てを悟った様子で俺に親指を立てると、そそくさとコーヒーを淹れにいってしまった。
「ケイさん、お久しぶりデスネ」
「あ、そ、ソウデスネ〜。会う機会、なかったデスシ......」
緊張のあまり、俺までカタコトになってしまった。
「...... Adelheidが失礼をした様で申し訳ありマセン。どうか、あの子を許して欲しいデス」
ビクビクと震える俺に頭を下げるアデーレ。俺の頭の上にはクエスチョンマークが三つ程立った。
「え?」
「何があったのか、よくは知りマセンガ、あの子『酷いことを言ってしまった』って、凄く落ち込んでマシタ。どうか、また仲良くしてあげて欲しいデス」
「い、いや、違うんですよアデーレさん。アーデルは一切、悪くないんです。俺が100%悪いんです。だ、だから、その、俺、謝ろうと思ってるんです。今日、お伺いしても宜しいですか?」
俺は逆に頭を下げて、アデーレに頼んだ。
「ehm...... Adelheidはケイさんに酷いことを言った、と言ってマシタ。絶対に、私、Adelheidにも非はあると思いマス。ですから、あまり自分を責めないで下サイ。家には、勿論、来てくれてイイです。でも、あまり気を遣わないで下サイ」
俺が無言で深々と再度、頭を下げるとアデーレさんも頭を下げ、そのまま空いたテーブルに座った。丁度、コーヒーを淹れたところだったらしく、ソ連が直ぐにそのテーブルへとコーヒーを置く。
俺はアーデルに何と謝ろうか、頭を悩ませた。




