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35/103

35 満喫


 霊群達と合流してから約20分後、遂にアーデルは地面を掘る手を止めた。


「よし、このくらいで良いでしょう」


 アーデルは自ら掘った穴を見て、満足げな表情を浮かべた。


「ふぅ、はあっ〜、疲れたあ......」


 俺は思わず、おっさんの様な声を漏らす。日頃、運動不足の俺からすると、かなりの運動量であった。


「んで、掘ったは良いけど、どうすんだこの穴?」


 霊群が手を海水で洗いながら聞いた。やはり、爪の間に砂が入り込んだらしい。


「入るわ」


「入るのか......」


 困惑する霊群を他所に、幼稚園児くらいなら頭まで入ってしまいそうなその穴にアーデルは何の躊躇もなく入った。


「俺も入ろ。折角、掘ったんだし」


 俺もアーデルに続いて恐る恐る穴の中に入る。


「入った感想は?」


「後悔しかない」


 穴の中に座り込んだことで、俺の体は砂と泥に(まみ)れてしまった。太陽の熱に熱された砂と泥は絶妙なぬるさで肌に不快感を与えてくる。

 いや、後で海に入って洗えば済む話なのだが。


「霊群も入れよ」

 

「今の感想聞いた後に入るとでも?」


 そうだよな。


「まあ......これで敵の攻撃からは逃れやすくなったじゃん」


 蜂須賀が何のフォローにもならない言葉を掛けてくる。


「だから、今は戦時じゃな......あいてっ!」


 突然、何処からともなく俺の顔目掛けてビーチボールが飛んできた。俺は立ち上がり、ボールが飛んできた方向に目を向ける。


「さっきのお返しですわ!」


 金髪にたなびくユニオンジャックと、此方へと飛んでくるビーチボールが見えた。またしても、俺の顔面にボールがぶち当たる。


「ヴィクトリアああああああああ!?」


 俺はしゃがみ、塹壕に身を隠しながら叫んだ。


「ケイ、ちょっと退いて」


 アーデルは俺を自らの背後に隠すと、二つのビーチボール勢いよくヴィクトリアに投げつけた。


「ぎゃはあっ!?」


 命中したらしく、ヴィクトリアのそんな声が聞こえる。


「良かったな。穴が役に立って」


 北里が塹壕に隠れる俺にそんなことを言った。


「良くないわ!」


「チッ。なら、俺に投げさせてみろ。オラァッ!」


 井立田のそんな声が聞こえたかと思うと、またもや此方にかなりの速度でボールが飛んできた。


「甘いわ」


 アーデルは楽しそうにニヤリと笑みを浮かべ、ボールをキャッチした。恐るべき運動神経だ。


「チッ。アーデルハイドが相手なら仕方がない! ヴィクトリア! 突っ込むぞ!」


「わ、分かりましたわ!」


 アーデルは此方へと突撃してくる二人を見ると、直ぐに穴の外に置いていたバッグを穴の中に引っ張り込んで、その中から二丁の水鉄砲を取り出した。

 そして、ヴィクトリアと井立田の顔目掛けて情け容赦の無い攻撃を仕掛けた。


「なっ!? それは卑怯ですわ! め、目がああああああ!」


「冷た!? 心臓に悪いわ!」


 二人はそんな風に文句を言い、怯みながらも此方へと迫ってくる。


「お前、水入れた状態の水鉄砲持ち歩いてたのかよ」


「ええ。こんなこともあろうかと、ね。ほら、ケイも」


 アーデルは一丁の水鉄砲を俺に渡してそう言った。


「お、おう」


 俺とアーデルは水の残量を気にすることなく、ひたすら水鉄砲を撃ちまくった。しかし、二人は確実に此方との距離を詰めてくる。


「覚悟しろテメエらああああああああ!」


 ああ、もう駄目だ。塹壕戦線は戦車によるゴリ押しで完全に崩壊する......。そう誰もが確信したとき


「大英帝国の名に掛けて復讐し.....ぎゃあああああああああ!?」


 ヴィクトリアが塹壕のフチを力強く踏んでしまい、崩れたフチと一緒に塹壕に滑り落ちてしまった。


「ヴィクトリア!?」


 その場に居たヴィクトリア以外の者の声が合わさった。


「け、怪我はない?」


「足ちょっと、擦りむいた......」


 アーデルの問いにヴィクトリアは半ベソをかきながらそう答える。


「幾らなんでもへっぽこ過ぎるだろお前......」


 井立田が呆れた様子で呟いた。


「よいしょっと、どれだ? 見せてみろ。ああ、これか」


 塹壕の中にリュックを持って入ってきた北里がしゃがんでヴィクトリアの膝を見る。


「何? 北里、絆創膏でも持ってんのか?」


「ああ。誰かが怪我をした時のために色々持ってきた。まずは、水で傷口洗い流すぞ。......あ、この水、ペットボトルのだけど未開封のだからな。んで、傷パッド貼って終わり」


 ささっと、手当てをする北里、カッコよ過ぎるだろ。流石に柴三郎。


「ぜえ、はあ、こんな所に居たんですか皆さん」


 俺とアーデルが北里の咄嗟の行動と事前準備に拍手をしていると、息を切らした月見里が現れた。


「あ、月見里、何処に行ってたんだ?」


「屋台の食べ物片っ端から買ってました。そしたら、元居た場所に誰も居なくて......。探しましたよ......」


 よく見たら、彼女の手にはビニール袋が左右合わせて7袋もぶら下がっている。


「あ、ごめん。マヒマヒちゃん。何か気がついたら、別行動になっててさ。それで、最終的に皆、此処に集まった感じで......」

 

 蜂須賀に続いて、他の者も次々と月見里に謝罪の言葉を口にする。そう言えば、月見里、『ご飯買ってきます』って言ってたな。

 すっかり、忘れていた。


「先輩、完全にウチの存在、忘れてましたね?」


「ギクっ。そ、そんなことないぞ?」


「いや、ギクって言ってる時点で確信犯なんよ」


「ごめんなさい。何か色々、ハプニングが起こり過ぎて完全に頭から消えてました。反省してます」


 俺は頭を下げて素直に謝った。


「宜しい。というか、この穴なんなんですか?」


「塹壕。アーデルが作ろうって言ってきたんだ」


「......深くはツッコまないでおきます」


 月見里は何かを察した様子で何度か小刻みに頷きながら、そう言った。彼女もアーデルのキャラがそこそこ掴めてきた様だ。


「マヒルも来た、から、何か皆で、出来る遊び、しよ?」


「良いねそれ! 梓たん賛成。海上騎馬戦とかどう?」


「ケイが私を持ち上げる時、シツヨウに脚を触ってきそうだからキャッカ」 


「俺のことなんだと思ってんだテメエ!?」


「脚フェチの変態」


「ごめん。その通りだわ」


「あ、ちょっと、待ってください。買ってきたご飯食べたいので......。はむはむ。このイカの素焼き美味しいですね」


 そんな風にして、自由で気ままな俺達は好き勝手なことを言ったり、したり、しながらも、そこそこ海を満喫したのだった。


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