3 買い出し
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結局、アーデルハイドにたこ焼きを振る舞ってやることになった俺はたこ焼きの材料を買うために近所のスーパーを訪れた。
「ケイ、このピロピロの奴は何?」
突然、アーデルハイドが魚売り場で何かを指差して聞いてくる。
「ピロピロて......ワカメだよ。ワカメ。海藻」
「カイソウ? ああ、コンブとかの仲間ね」
アーデルハイドは大きなピロピロの正体を知って衝撃を受けたようだった。
「ああ、そう言えば海藻を食べる国って珍しいんだっけか?」
なんか、生のワカメを消化出来るのは日本人だけ~みたいな話を聞いたことがある気がする。真偽は知らないが。
「沿岸部であれば食べるのかもしれないけれど、少なくとも私の住んでいたところでは見たことがないわ」
「海藻サラダとかめっちゃ旨いぞ。食べるか?」
「このピロピロをサラダにするの?」
「いや、海藻サラダ用の海藻ミックスが売ってるからそれをサラダにする。後、レタスやキュウリも入れてな」
アーデルハイドは身震いをした。
「少し怖いけれど挑戦してみるわ」
「分かった。ドレッシングは何が良い?」
「任せるわ」
「んじゃ、チョレギな。家に有るし」
俺は生魚の横に陳列されていた海藻ミックスを手にとって買い物カゴに入れた。
「それにしても海藻を食べるなんて日本人、恐るべしね」
「島国だしな」
「イギリス......」
「彼らの食文化は放っておいてさしあげろ」
「日本のスーパーは興味深いわ」
「ドイツ人の目から見たらどうやらそうらしいな」
先程からアーデルハイドは視界に入る物全てに目を輝かせている。
「私、日本食に興味があるの。ミソは売っているの?」
「ああ、売ってるぞ。ほら、あっち」
同じ大豆製品だからなのだろうか。豆腐や豆乳が並ぶレーンの横に味噌はあった。
「ミソってこんなに種類あったのね」
「赤味噌とか白味噌とか種類は結構、豊富だぞ。米や麦から作った奴もあるしな」
「へえ......」
アーデルハイドは興味深そうにマジマジと味噌を見つめる。
「味噌だったら、家に有るけど」
「作って」
「夕飯がたこ焼きと海藻サラダと味噌汁って、どういう組み合わせなんだよ」
「Das ist mir Wurst」
ブルストだけは聞き取れた。
「日本語でオケ」
「そんなことはソーセージよ」
「日本語でオケ」
「れっきとした日本語じゃない」
「会話文として成り立ってないし」
何だよそんなことはソーセージって。
「Das ist mir Wurstはドイツのことわざなの」
「日本語話者に何故、ドイツのことわざが通じると思ったんだよ。お前も突然『覆水盆に返らず』とか言われても分からんだろ」
「確か、取り返しがつかない事柄を指すことわざよね。それくらい知っているわ。馬鹿にしないで」
何で知ってんだよ。賢いかよ。
「Wurstって、美味しければ具材は何でも良いじゃない?」
「そんなこともないと思う」
「だから、ドイツではどうでもいいってことをことわざでDas ist mir Wurst......それはWurstです、って言うの」
無視された。後、何でソーセージだけドイツ語で言うんだよ。
「成る程。ことわざの意味は分かった。つまり、お前は味が良ければどんな組み合わせでも良いんだな?」
「Ja」
「......それを作らされるのは俺なんだがな」
てか、冷静になって考えると何の前触れもなく入部してきたドイツ人と夕飯の買い物をしてるとか、今の俺は何をやっているんだよ。
いや、頭の中で状況が其処まで整理出来ている時点で何をやっているかは分かるんだが、分かりたくない。
「今度美味しいドイツ料理を作ってあげるから」
「......期待してる。さ、たこ焼きの材料もカゴに入れたし、さっさと買って帰るか。俺はちょっとトイレ行ってくるから会計しといてくれ。食費は割り勘な」
「Ja」
俺は金を幾等かアーデルハイドに渡すと、買い物カゴを彼女に渡してトイレへと向かった。彼女はきちんとレジを通れるだろうか。......いやドイツにもレジはあるだろうし杞憂か。
☆
俺がトイレから戻ると、何やらレジが騒がしかった。
「何故、ビールが買えないのかしら」
「お、お客様のお召しになられている服は雲雀川高校の制服ですよね? 未成年には未成年飲酒禁止法により、酒類を販売することは出来かねます。すみません......」
「私は16歳よ?」
「16歳だから申し上げているのですが」
......何あれ。
「これはビールよ?」
「ビールだから申し上げているのですが」
「貴方では話にならないわ。店長を呼びなさい。って、いたっ.......何をするの」
無言で頭を殴った俺にアーデルハイドは抗議の声を上げる。
「すみません。コイツのことは放っておいて下さい。オイ、アーデルハイド。そのビール、元あった場所に返してこい」
俺は声を低くして、睨みながらアーデルハイドに言う。
「分かったわ......」
殴られた頭を痛そうにさすりながら、アーデルハイドはビールを返しにいった。
「本当にすみません」
俺は深々と店員に頭を下げた。
「あ、謝らないで下さい。彼女も悪気はなかったようなので」
穴が有ったら入りたい。
☆
「馬鹿もんがあっ!」
俺は商品を袋に詰めてスーパーを出た後、アーデルハイドの頬をひっぱたいた。
「西ベルリンっ!?」
変な叫び声を上げながらアーデルハイドは体をのけぞらせる。
「日本でビールを買おうとしたのはまだ良い。知らなかったんだもんな。ドイツでは16歳から飲めるんだよな。聞いたことがあるよ。それだけだったら普通に外国人のうっかりエピソードで済んだんだよ。だが、さっきのは何だ。さっきのは! 完全に迷惑客のクレームの入れ方だったじゃねえか。アホアーデル!(注1)」
俺は息切れをしながらアーデルハイドに怒鳴り散らす。人目など、どうでもいい。今の俺にとってそんなのものはソーセージだ。使い方あってんのかなこれ。
「アホアーデルって何よ。貴方も如何にも知能の低そうな顔をしているじゃない。後、さっきも殴ったのにまたぶったわね。ヒンデンブルク大統領にもぶたれたことないのに(注2)」
「うるせえアホアーデル! 少しは反省しろ! そして、その大統領お前が生まれる前に死んでるわ! 後、俺の顔は聡明そうな凛々しい顔だ!」
「どうだか......まあ、一応、私が悪かったわ」
突然、しおらしくなって謝るアーデルハイド。何だか拍子抜けだ。
「反省したなら良い。手加減はしたんだが、大丈夫か?」
「Ja。じゃあ、ケイ。仲直り」
「どうやって?」
俺が聞くと、彼女は後ろに少し下がって
「こうやって」
助走を付けて俺を軽く抱き締めてきた。
「なっ!?」
「これで仲直りよ」
「仲直りって、おま......」
「ドイツでは挨拶でハグをするのは普通よ。それなのにその動揺、汚らわしい」
イラッ。
「この野郎」
「挨拶としてのハグで顔を赤らめてしまうようなヘンタイの家に行って本当に大丈夫か今になって不安になってきたわ」
アーデルハイドはそう言って俺にジト目を向けた。
「うるせえ。胸が小ドイツ主義主張してる癖に(注3)」
突然のヘンタイ呼ばわりに怒った俺はそう言い返した。
「っ!?」
「成長の過程で膨らみという名のオーストリアをハブってしまったということか」
「……セクハラ」
アーデルハイドは顔を真っ赤にしてそう言った。
「突然、抱き付いてきた奴が何を言うか」
「だから、ドイツでハグは挨拶なの。......後、取り消して。私をヒンニュウ呼ばわりしたことを」
「でも、事実だし。間違ってもお前の胸から中央帝国思想は感じられない」
「殺す殺す殺す殺す殺す。クソケイ殺す」
アーデルハイドは顔を朱に染めながら呪詛を吐いた。
「わ、悪い。それに、別に胸が小さいのは悪いことではないと思うぞ?」
「でも、クラスの男子は私の体を見るなり『胸以外』は良いと騒ぎ立てていたわ」
猿やん。
「ま、好みは分かれるだろうよ」
「......貴方はどうなの」
「え?」
「貴方はキョニュウ派かヒンニュウ派、どちらなのかと聞いているの」
「それ仮に俺が貧乳派であったとして、お前は嬉しいのか」
俺は呆れたように聞く。
「多少はね。別に貴方じゃなくても良いけど」
変人と無口とツンを掛け合わせたみたいな性格してんなコイツ。
「ああそう。じゃあ、お前の機嫌が直るなら答えてやるよ。俺は胸には全く持って興味がない」
「は?」
「どっちかと言うと貧乳派よりかもしれんが、そんなことよりも足の方が重要だ。足が好き。ニーソ万歳」
「......ジャパニーズヘンタイ」
俺の言葉を聞いたアーデルハイドがボソッと呟いた。
「そーだよ。俺は極東の海洋国家日本国を代表する存在。ジャパニーズ変態だ。ふははははははははははっ!」
それから家に着くまで、アーデルハイドは俺から距離を取っていた。
第三話でした! 少しでも興味を持っていただけた方はどうか、どうか、評価、ブクマ、感想、レビューお願いします!!!! 泣いて喜びます!!!!!
(注1)ドイツではビールやワインなどに限り、16歳からでも飲酒が出来るそうです! 流石、ビールの国!
(注2)パウル・ルートヴィヒ・ハンス・アントン・フォン・ベネッケンドルフ・ウント・フォン・ヒンデンブルク(1847~1934) ヴァイマル共和制の大統領。名前なっがいなおい。
(注3)オーストリアを除いてドイツ統一を統一しようというフランクフルト国民会議での主張。オーストリアのドイツ人居住地域も含めて統一しようという大ドイツ主義の主張と衝突した。因みにオーストリア全土を含めて統一しようという主張として中央帝国思想がある。