25 ちょけんな
「あ、ヤマナシさん! お久しぶりデス! 体の調子はどうデスカ?」
約一ヶ月ぶりの部活に行く途中、金髪の男性に声をかけられた。懐かしい声だ。
「……お久しぶりです、ジョン先生。まあ、悪くはないって感じです」
「そうデシタカ! 良かったデス! ささ、フノボリが待ってますよ! 部室に行ってあげて下サイ!」
「はい……」
五六、五六渓、その名前を聞くと不思議と胸が暖かくなるのを私は感じた。彼は本当に私のことを待っていてくれているのだろうか。
そんな疑問や不安を抱きながらも私は懐かしいあの部室の扉を開けた……。
「おい、ヴィクトリア! その本を返せ!」
「あら、この本、ルカのでしたの? 女子力高めな強面先輩とあざとい系の後輩のBLねえ……。フフ、フフフ、中々、良さそうな本ですわね。これは大英帝国の名の元に私が検閲させて頂きますわ!」
「やめろおおおお! 返せ! 返せ!」
「うっさいですね。ルイ16世と同じ目に逢いたくなかったら静かにしやがれなのです」
「おい、お前ら、人の部室にお邪魔してるんだから暴れるな」
「ギャアアアアアアアアアアアアア! 虫! 虫! 虫怖い! 助けてアズアズ!」」
「タマムラ、安心して。虫は、私が外に、逃がしてあげた、から」
「ルミティカちゃんありがとおおおおおおおおお!」
私は黙って扉を閉じた。部室、間違えたかな。……いや、あってる筈。今の何。
「フッフッフッ、ヴィクトリアあ……。捕まえたぞ?」
「ギャアアア! 止めて! ちょ、本当に! この本は私が帰って読むの!」
「おいおい、お嬢様言葉はどうしたヴィクトリア? 悪いがその本はマジで駄目なんだ。ローマ帝国の名の元に返して貰うからな!」
「ローマ帝国なんて、そんな昔の国の名前なんて弱いですわ! 弱すぎますわ! んなもん、さっさと東西分裂しちゃえですわ!」
「東西分裂……!?」
「ドイツの話はしてないから座ってろ」
その声は紛れもなく、私の知っている彼。五六渓のものだった。
「あ、あの......」
「言っとくけどな! ローマ帝国はロンドンも領有してたんだぞ! イギリスより凄いんだぞ!」
「時代が違う国と国を比べたってしょうがありませわんわよ。それに貴方、ローマ帝国ローマ帝国言っているけれど日本生まれじゃなくて?」
「ぐぬぬ!」
「あのお......」
駄目だ。扉を開けながら声をかけているのに気付いて貰えない。
「つーか、何でテメェら岬川勢がこっちの部活に来てやがるんですか」
「だって、数が多い方が賑やかで楽しいんですもの」
「それに関してはヴィクトリアに同意見だ」
「あのー......」
「悪いな。コイツらがどうしても此処に来たがって」
「ああ、別に良いよ。部長の俺が許可する。てか、ソ連こそ何でいるんだよ」
「バイト無いから暇なのです」
「ああ、今日はカフェ休みか」
そこで私の中の何かが切れた。深く息を吸い込んで
「……あの! 五六! 先輩!」
と、大きな声で自分の存在を伝えた。騒がしかった部屋はたちまち静寂へと変わる。
「ケイ、あの方は?」
見慣れない金髪の少女が先輩に聞く。というか金髪の人、三人も居るし。一体、彼女らこそ何者なのだろうか。まあ、そのうち一人は知り合いだが。
「さあ……?」
「いや、『さあ?』じゃないが? 私、結構古参だが?」
「と、言っているけれど? そうなの?」
金髪の少女が先輩に言う。すると、彼は部室の引き出しから何やらプリントのようなものを取り出した。
「んーと、出席簿には特に名前載ってないな」
「いや、調べないで下さいよ。ほんで、何で載ってないの? 一ヶ月と少し休んでただけで除名しないで貰えます? あ、アフリア先輩。お久しぶりです。この人がタチの悪い冗談言ってくるので何か言って下さ……」
「誰なのです? お前」
「ちょけんな」
ソレンヌ・アフリア先輩は五六先輩のバイト先の知り合いだ。私も過去に何度か会ったことがあるのだが。一回くらいこの先輩方、殴っても許されるのでは。
「ほら、元々この部活には俺以外にもう一人部員が居たって言ってただろ。それがこの地味子、月見里真昼だ」
「地味とか結構的確にコンプレックスえぐるの止めません? 後、覚えてるんだったら最初からそう言って下さい。あ、どうも皆さん、月を見る里と書いてヤマナシの月見里真昼です。ちょっと、病気で入院してて休んでました。宜しくお願いします。……皆さんは?」
私がお辞儀をしてそう自己紹介をすると、五六先輩の近くにいたアフリア先輩のような金髪の女性が近付いてきた。
「Guten Tag. 一年のAdelheide・Vogelよ。貴方が休んでいる間に入部したの。一ヶ月前くらいにドイツから日本に転校してきたばかりだから日本語がオボツカナイところもあると思うけれど宜しく」
「あ、は、はい。宜しくお願いします。フォーゲルさん」
その割には日本語がとても上手い。ドイツで勉強していたのだろうか。
「あ、で、俺が三年の霊群蒼。アーデルネキの後に入部してきた。これから宜しくな」
「はいはい! 二年、蜂須賀梓です! 文芸部には部員じゃないけど、何か入り浸ってます! マヒマヒちゃん宜しく!」
蜂須賀梓と名乗る少女に急に距離を詰められてしまった。それにマヒマヒって、魚やん。
「Hello.イングランド生まれ、神奈川育ちの岬川高校文芸部所属二年のVictoria・Kennedyですわ。以後、お見知りおきを。因みにこの取ってつけたようなお嬢様言葉はただのキャラ付けですから御気になさらず」
「Luna・Tikka、です。フィンランド、から、来ました。日本語、苦手だけど、宜しく。あ、岬川の文芸部、に所属して、います」
「井立田瑠賀だ。俺も岬川高校の文芸部所属。何か、外国勢が多いから対抗して言うと、イタリア人と日本人のハーフだ。生まれも育ちも日本だけどな」
「初めまして。北里夏馬です。岬川高校の文芸部の部長やってます。雲雀川高校の文芸部とは最近、知り合ってよくお邪魔させて頂いています」
限界集落が帰ってきたらいきなり都市部になっていた時、どんな表情をしたら良いのか、何を思えば良いのか、私には分からなかった。
というか、何でこんなに外国人多いん? 植民地にでもされたん? 国際色が豊かすぎる。
「岬川高校って隣町の高校ですよね。皆さん、宜しくお願いします」
元から地味で個性が無いことは気にしていたがこの環境の中では更にそれが際立ちそうだ。はあ……。
「月見里、お帰り」
そして、彼は優しく笑って私を出迎えてくれた。
「んな、優しそうに振る舞っても駄目です。初手から影薄いネタでからかわれたの来世まで覚えてますから」
蛇猫です。ドイツ人の出てくるお話を書いてる私ですが、行ってみたいのはベルギーとロシアです。
ベルギーのブリュッセルandブルージュ、ロシアのウラジオストクに行ってみたいでごわす。コロナが収束したら知り合いでも誘って行こっかな。最後に何時も、ご拝読ありがとうございます。ブクマ、評価、感想、レビューは本当に糧になるので幾らでも送ってください。




