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22 講和

更新遅れてすみません!



「出来たぞ!」


「出来たのです」


 司会や審査員の奴らと雑談をしていると、料理を完成させた井立田とソ連がそう言ってきた。

 ふむ、どちらも赤い。二人ともトマト系で攻めてきたか。買い出しに行ったのは俺なので大体、分かっていたのだが。


「んじゃまあ、最初は俺の料理から紹介するぞ! フィレンツェの伝統的なパスタ、カレッティエラだ! 唐辛子とニンニクを使ったピリッと辛いトマトソースがポイントな。ソースのトマトにはドライと缶詰めの両方を使った。是非とも、ご賞味あれ!」


「「「お~」」」


 俺、蜂須賀、霊群の雲雀川組は井立田の完璧な料理紹介に思わず感嘆の声を漏らしながら拍手をした。

 やや黄色いパスタが、真っ赤なトマトソースと絡み合うことで皿の上に鮮やかなオレンジ色を生み出している。食欲をそそる色だ。


「私は絶対に肉を入れた方が美味しいと言ったのだけれどキャッカされたわ」


「これはこれで完成された料理なんだよ! 何も足すんじゃねえ」


「頑固なラーメン屋の大将みたいなこと言うやん」


 足して足して足しまくる文化の大阪人からすると、ちょっとビクッてするよね。カレーにウスターソース掛けるのは駄目ですかそうですか。


「変なプライド持ってる奴は大変そうですね。私の料理は別に何を足して貰っても構わないですよ。ほら、殆ど何の役にも立ってねえんですから料理の紹介くらいはやると良いです」


 ソ連がそう言ってヴィクトリアの肩を叩くと、ヴィクトリアは料理の入った鍋を俺達に見せ、口を開いた。


「え、えっと、フランス南部の伝統料理、ラタトゥイユですわ! あの、茄子とかズッキーニとか、夏野菜をオリーブオイルで炒めて香草と一緒にトマトと煮た料理......の筈ですわ。本当はワインも使うらしいですけれど、今回は用意出来なかったので使ってませんの」


 此方もトマトベースの料理ではあるが、トマトとパスタだけで作ったシンプルイズベストを貫く井立田の料理に対して、ソ連のラタトゥイユはかなり彩り豊かである。

 ゴロゴロと入っている紫色の茄子や、緑色のズッキーニはトマトの赤に負けじと各々の色を主張している。見るからに栄養が豊富そうな料理だ。


「若干、拙い紹介だったけど美味そうなのは分かった」


「レイグン様に同じ」


「それじゃ、食べてみるか」


 カレッテレ? カレッティレ? 名前が覚えにくいので忘れてしまったが兎に角小皿に取り分けられたトマトパスタとラタトゥイユに俺は視線を落とした。

 うん。どちらもレストランで出てきても可笑しくないくらいに見た目はお洒落である。


「It's delicious! とても美味しいデス、このパスタ!」


 審査員であるジョン先生が物凄い勢いで口に運び始めたのを見て、俺もパスタを口に運んだ。


「うっま」


 良い意味で予想通り、爽やかなトマトの酸味と唐辛子の辛さが病み付きになるシンプルに美味しいパスタである。流石、ウチの子(アーデルハイド)が手伝っただけのことはあるな。


「美味しい、ニンニクの味も、パスタの、味を、ジャマして、なくて」


 ルミも御満悦のようだ。


「流石、シェフの息子、といったところだな」


「フッ、あったりめえよ」


 北里の言葉に井立田は親指を立ててドヤ顔をした。


「アーデルもよく頑張ったな」


「Danke」


 アーデルは満更でも無さそうな表情でそう言った。


「えー、では、続いてソレンヌちゃん達、フランスチームのラタトゥイユの実食をお願いします!」


 司会でありながら、つまみ食いをしていた蜂須賀が思い出したようにそう言った。俺達は一斉にソ連達の料理にフォークを伸ばす。油で一度、炒められているだけあって、煮られてはいるのだが、しんなりとはあまりしていない。


「ヤバい。めっちゃ美味い。体が喜んでる」


 勿論、香草の香りもトマトの酸味も美味しいのだが、ただただ単純に野菜の旨味が感じられ、栄養が身体中に行き渡る気がした。これは良い。


「とてもヘルシーな料理デスネ! とてもオイシイデス!」


「最近、野菜不足気味だったから滅茶苦茶美味く感じる」


「美味しい、野菜の味が、活かされてて」


 此方の料理もイタリア側に負けず劣らず、好評である。


「ふふっ、当然ですわ!」


「お前、皿割りかけて、野菜焦がしかけただけじゃねえですか。ドヤるなです」


「そういうソレンヌだって、普段は和食しか作らないから慌てて簡単に作れるフランス料理で検索していたようですけれど? ......いったあっ!」


「それ以上余計なことを言うなら、もう一度英仏百年戦争をすることになるのです」


 仲良いなあ。


「それじゃあ、司会の皆、どちらのチームの料理が美味しかったかをホワイトボードに書いて、一斉に見せてくれ。美味いなこれ」


 蜂須賀と同様に霊群もつまみ食いをしつつ、俺達にホワイトボードとペンを配ってそう言った。ふむ、どちらにしようか。


「皆、書けたみたいだな。それじゃ、投票行くぞ! いっせーのーでっ!」


 霊群の合図と共に皆がホワイトボードの表側を司会者と参加者達の方に見せた。


「えー、ジョン先生イタリア、北里さんフランス、ルミティカちゃんイタリアそして、五十六番フランス! 結果、引き分けです!」


 審査員を偶数にした奴誰やねん。出てこいや。


「因みに皆さん、理由は?」


「やっぱり、あのピリッと辛いトマトパスタが病み付きになったからデス!」


「野菜不足だったから、栄養価が高そうな方を選んだ」


「ドライトマトと、缶詰めの、トマトの噛んだ感じが、良かったから」


「どっちも美味かったから、かなり迷ったんだが、北里と同じで美味しく栄養価の高い野菜を食べられるという点でラタトゥイユにした」


 井立田もソ連も、何とも微妙な表情をしている。わざわざ、料理対決までしたのに引き分けになってしまったのだから、そんな表情になるのも仕方がないか。

 俺が苦笑していると、何処からか拍手が聞こえてきた。


「おめでとう。貴方達の料理を食べてみたけれど、とても美味しかったわ。私達と戦って引き分けに持ち込むなんて凄いわね」


 アーデルのものだった。アーデルは微笑を浮かべながらそう言う。


「ふっ、冗談は止して下さる? 引き分けに持ち込んだのは貴方がたでしょう? きっと、審査員が五人居たら私達が勝っていましたわ。......でもまあ、貴方がたも頑張りましたわね」


 それに呼応するようにヴィクトリアが拍手をして、少し高飛車な物言いながら確かにイタリア陣営を称賛した。


「......ま、イタリア料理もこれだけの人に認められているとは捨てたものではないですね。フランス料理が一番だとは思いますが」


 その様子を見ていたソ連が軽く、溜め息を吐いて井立田にそう言った。


「いや、一番はイタリア料理だろ。フランス料理も悪くないが」


 そんなソ連に井立田はそう返し、二人は無言で握手を交わした。


「皆さんのリスペクトの姿勢、素晴らしいデス。やはり、勝負はリスペクトの上になくては! 試合の後はノーサイドデス!」


「人は互いを認めた上で切磋琢磨するべき、か。大変、良い話で結構結構」


 お前はどの立場なんだ霊群。


「無理矢理良い感じで纏めやがりましたねこの人達」

 

「結構、実用性のある教訓だし良いじゃん」


 溜め息を吐くソ連に井立田が笑った。


「でも、やっぱり、うどんは関東風だよな?」


 そんな一つの戦いが平和に終結したとき、霊群が突然、爆弾を投下した。は? は? は?


「うどんは関西風やろ。舐めんとんのか自分。関東風は濃すぎやわ。あんなんうどんと認めへんで」


 此処だけは譲れない。


「あ?」


「お?」


 やはり、人間が互いを認め合うということは簡単ではないらしい。


「皆、仲良いなあ……」


 そんなやり取りを見ていた蜂須賀が何故か羨ましそうにそう呟いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  最新話、拝読させていただきました。  料理対決の中での歴史ネタの使われ方が非常に秀逸で、前話に引き続き、楽しませていただきました。  料理の描写についても、使われている食材や味の描写が細…
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