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100 大集合

更新遅れてすみませんでした。何やかんや100話です。ここまで書けたのは皆さんのお陰です。いつも本当にありがとうございます。


 月見里の衝撃の告白の後、ニーチェの飼い主を探していた俺達はひとまず、俺の家に集まることになった。勿論、月見里も一緒に。


「よくよく考えたらそうね。関西弁を話しているのだから、マヒルの家の子という可能性を考えるべきだったわ」


 アーデルは月見里の掌の上で丸くなるニーチェを眺めながら言った。


「バーカ。ホンマフザケンナ! アホカイナ!」


「この口の悪さを知ってたら真昼のペットとは思わねえのです」


 安堵と呆れが混じったような溜息を吐きながらソ連が呟く。それに対し、月見里は申し訳なさそうに苦笑いをしながら何度も頭を下げていた。


「すみません......。ウチ、お父さんとお母さんの言葉遣いが荒いんですよ。よく喧嘩もするし......」


 はたしてその『ウチ』は『家』の意味なのだろうか、はたまた『私』の意味なのだろうか。もし後者の意味ならば月見里への印象がかなり変わるが。


「まあ、良かったじゃないか。飼い主が見つかったんなら。飼い主目線で言えば、ペットが見つかった、かもしれないが」


 北里がにこやかな笑みを浮かべる。そして、その横からヴィクトリアがニーチェに手を伸ばしていた。


「ギイイイイイイイッ!」


 そして、速攻で噛まれた。


「あいたぁっ!? 暴言を吐かれるとかですらなく、普通に唸られて噛まれましたの」


「おかしいわね。私とソビエトに懐いているから金髪が懐くかどうかの判断基準かと思ったのだけど」


「金髪ドイツ人とフランス人には懐いて、金髪イギリス人に懐かないあたり、多分EU離脱反対派なのです。おいルミ、触ってみてくれなのです」


 自らの珍説の説得力を高めるため、EU加盟国であるフィンランドの血を持つルミにソ連は頼んだ。


「嫌、怖い」


「怖くないのです。EU加盟国の人間なら大丈夫なのです。私が保証するのです」


 その自信は何処から来るのだろうか。


「ルミティカちゃん。動物苦手なんだ」


「ううん。動物全般というより、鳥が苦手」


「マジかー。梓も鳥頭だけど嫌わないでね」


「梓のことは好き」


 何かイチャついている。


「じゃあ俺が検証してやるよ。半分イタリア人だから」


 と、言いながら井立田はニーチェのことをじっと見つめ、ゆっくりと手を伸ばした。


「グァァァァァァ!」


 そして、噛まれた。それはもう、容赦なく噛まれた。慌てて手を引っ込めた彼の皮膚に痛々しい噛み痕が残っていた。


「あはは、ごめんなさい。......シーラ、何故か男の人のことが嫌いなんですよね」


「ニーチェの本名、シーラって言うのね」


「ええ。蜂須賀先輩が呼ぶみたいに、私が大阪に居た頃のあだ名が『マヒマヒ』だったので、魚のマヒマヒの正式名称のシイラをもじって、シーラに。......というか、何でフォーゲルさんは勝手に名前付けてるんですか」


「だって、名前分からなかったし。名前無いと不便でしょ」


「にしたって、普通ピーちゃんとかにしません? ニーチェって......」


「そんなにおかしい? 私の家で昔飼ってた犬の名前はハイデッガーだったけれど」


「ドイツの実存主義哲学者縛りでもしてるんですか?」


 月見里は理解し難いとばかりに首を傾げながらそうツッコむ。以前、ドイツで多い犬の名前ランキング、みたいなものを調べたことがあるが普通にチャーリーとかバディとかが上位に入っていたのでアーデルのネーミングセンスがおかしいだけと思われる。


「まあ、兎に角、良かったよ。ニーチェ......ちゃうわ。シーラが家に戻れて。今日、学校休んだのもシーラのことを探すためだったんだろ?」


「ええ......改めて本当に、ありがとうございます。私、もう本当にパニックなってて」


「大好きなんだね、その子のこと。あー、私もペット欲しくなってきちゃったなー。レイグン様も不知火先輩も近所から居なくなっちゃって寂しいしー」

 

 蜂須賀はゴロンと床に転がってそうぼやいた。溜息を吐きかけたようだったが、どうにか押し殺していた。


「まあ、何ですか。ペット飼うのも良いですけど......私達も居ますからね。寂しくなったら相手くらいはしてやるのです」


「それってソレンヌちゃんが私のペットになってくれるってことー?」


「はっ倒すぞなのです」


 俺達の中で小さな笑いが起こった。

 彼女らのそんなやり取りを掛け替えのない幸せとして、何処か客観的に見ている自分に気付く。清々しい寂しさとでも言うのだろうか。そういう気持ちが不思議と湧いてくる。

 春はそういう季節である。


「ケイ、インターホン鳴ってるわよ」


 アーデルのそんな言葉がセンチメンタルな気分に浸っていた俺を覚醒させる。確かにインターホンの呼び出し音が部屋に響いていた。


「ちょっと待ってて」


 宅配だろうか。いや、何も頼んでいない筈......アーデルがまたマニアックなドイツの料理を作るために食材でも買ったのかもしれない。そんなことを考えながら玄関へと向かい、扉を開ける。


「よっ、五十六番。久しぶりだな。ヴィクトリアの姉貴に呼ばれて来たぜ。集合場所とか全然、伝えられなかったから此処に来たけど正解だったみたいだな」


 俺が扉を開けるなり、そう話し始める青年。以前、会った時よりも少しだけ雰囲気が違っていたが、彼が誰であるかは直ぐに分かった。


「あ、霊群を呼んだの忘れてましたわ!」


 ヴィクトリアのそんな言葉と、玄関へ走ってくる彼女の足音が聞こえた。


「あー......ごめん。もうそれ解決しちゃってるかも」


 何となくことの顛末を察した俺は苦笑いを浮かべてそう言った。何とも申し訳ない。


「えええ......折角、大学終わって直ぐに、大慌てでこっちに来たのに。おお、何か大集合してんな」


 霊群が俺の背後を覗くようにしながら言う。振り向くと、俺の背後には申し訳なさそうにシュンとしているヴィクトリアを含め、全員が玄関へとやって来ていた。ニーチェ、もといシーラも月見里の手の中にいる。


「ご、ごめんなさいまし......! 完全に忘れてましたわ」


「俺、完全に忘られてたのか......」


 ヴィクトリアの謝罪は逆に霊群を傷付けたようで彼は自嘲気味に『はっ、へへっ』と笑っていた。


「ま、折角、いつものメンバーが大集合したんです。このままどっか遊びに行きませんか?」


「良いわねそれ。私、お花見に行きたいわ。日本に来てからまだ、ちゃんと桜を見たことないのよ」


 ソ連の提案にアーデルが賛同する。しかし、時刻は既に18時。ライトアップでもされていなければ、肉眼で桜を見るのはかなり厳しい時間であった。


「誰か、この辺で桜がライトアップされてる公園とか知らないか」


「聞かれてるぞ。アズアズ」


「え......ああ、うん。心当たりあるけど。何で私?」


「何となくそういうのは梓が詳しい気がした。頭の中お花畑っぽいし」


「久しぶりにツラ出したと思ったら何ですかその言い草。梓も怒る時は怒りますからね」


 と言いつつも、彼女は少し嬉しそうだった。

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