97:まずは反撃しましょうそうしましょう
誤字脱字報告ありがとうございます。
目の前で次々に吹き出てくる悪意、そもそも悪意がこの様に相手側に送り込めるとは思いもしなかった。
それでもこの湧き出てくる悪意を遮断、もしくは殲滅しないとこちらの被害は並大抵ではない。
「くぅ、まさか佳奈お姉ちゃんからこの様な攻撃を受けるとは!」
「いや、無いからね! 佳奈からの攻撃を疑うより、佳奈の安全を心配してあげて!」
お姉ちゃんからの突込みが入るけど、まあ確かにこの状態は異常です。
それが佳奈お姉ちゃんの携帯からとなると、最悪は拉致された可能性だってあります。
「でも、一応は佳奈お姉ちゃんにも護衛は付いているんだけど、特に何の連絡も無いよね」
「そんな事より、今は目の前の事に集中して!」
未だに悪意を目視するのが苦手なお姉ちゃんですら、目の前の悪意を視認しているみたい。
まあ濃度が高いし、元から見るよりも感覚で把握していたからね。思いっきり顔を引き攣らせながらも、意外にも冷静にお姉ちゃんは部屋の隅から作り置きされている真ん丸ダイヤさんの入った箱を持ってきた。
「これで結界を張るわ! それで時間は稼げるでしょ?」
お姉ちゃんは携帯を中心に囲う様に真ん丸ダイヤを設置していく。その間、私は携帯から溢れてくる悪意を浄化し続けているけど、良く考えたらこれって携帯を壊せば解決じゃ無いのでしょうか?
「お姉ちゃん、この携帯壊して良い? これ壊れたら終わると思うの」
「駄目! 壊しちゃ駄目だからね! メモリーに写真とか色々入っているんだから! ほら、結界を張るから、壊すのは無し!」
浄化結界を張るのはお姉ちゃん、今では苦も無く結界を展開できるようになっています。
浄化系統と、回復系統は私を追い越す勢いで伸びているんですよね。もっとも、体格差もあるので、魔力を体内に蓄えられる量も変わりますから追い駆けっこみたいになっているんですけどね。
「お姉ちゃん結界張るの上手になったね」
「種類によってはまだ全然だけど、浄化結界は自信が有るわ」
ちょっとドヤ顔のお姉ちゃんですが、身体的な部分での成長が今ひとつなのが悩みどころみたいです。
もっとも、魔力が増えると身体的な成長速度は下がるので、長命にはなるのですから良しとしましょう。
「でも、あれいつになったら止まるのかな?」
「真ん丸ダイヤの消費も馬鹿にならないわ。多分呪いだと思うから、呪い返しをしたいわね、ひよりはまだ覚えて無いの?」
「覚えてないというか、そもそも原理が判らないから理解できないのです」
呪いを相手に返す呪い返しは神主さんやお爺ちゃんの所でも割と行われるんですよね。
何度かその場で見学させてもらったし、実際に唱える祝詞や真言を教えて貰ったんだけど、何でこれで呪いを返せるのか理解できない。その為、未だに身についていないのです。
「そもそも、呪いって属性は何なのでしょう?」
「ん? 闇とかじゃ無いの?」
「ゲームとか小説ではそうなのかな? でも、そもそも闇属性って意味判んないですよ?」
思わずお姉ちゃんと魔法談義をする所でしたが、どうやら我が家の異変を感じ取った護衛の人達が家に乗り込もうとしているようです。
「家を取り囲んでいる結界が攻撃されてるみたい。でも、荒っぽいね」
「そうなの? ちょっと見てみるね」
窓からお姉ちゃんが外を覗いています。
私はその間にお爺ちゃんへと電話をする事にしました。
「あ、お爺ちゃん、今大丈夫ですか?」
お爺ちゃんへと電話を入れると、驚いたことにお爺ちゃんは今の此方の状況を知りませんでした。
「あれ? お爺ちゃんの所らしくないね」
私がそう返事をしていると、電話の向こうでは何やらドタバタとした様子が伝わってきました。
「ふむ、ひよりちゃんや、どうやらうちの者達は排除されるかしたようじゃな。今、ひよりちゃんの所へと踏み込もうとしておるのは良からぬ者達じゃ。すぐ儂も行くよってしばし耐えててのう」
携帯をスピーカーにしていた為、今の今まで窓から外へと手を振っていたお姉ちゃんが、ギギギと音でも出そうな様子で此方を振り向きました。
「え? じゃああれって悪い人達?」
「うん、良い人達では無いと思う」
「うわ! 思いっきり笑顔で手を振っちゃったわ」
「入れなくて必死の相手にそれって・・・・・・思いっきり挑発されてると思ったと思うよ?」
そもそも、悪意ある人達を除外する結界なので、あそこで弾かれている時点でおかしいなとは思ったんですよね。ついでに、タイミングが良すぎですし。
「外の結界は改良版八重垣だから、まず大丈夫だと思うよ。問題はあっちかな、呪が途切れないもんね」
今の所、八重垣の一層目すら破壊されていないのです。いくら改良してあるとはいえ、少々情けない気はするのですが、突入して来ようとしている人達にあまり魔力が感じられないのでこんな物かもしれません。
「うう、わたしの携帯が・・・・・・もう平気な顔して使えないわ。何かすっごく汚れた気がするし、新しいのに買い替えないと」
思いっきり涙目なお姉ちゃんですが、確かにその気持ちは良く判ります。
ほら、トイレでうっかりポケットに入れていたお財布を落っことした感じ? 綺麗に洗って乾かしても、もう使う気しないよね。
「お姉ちゃん、それだったらやっぱり壊しちゃっても良くない?」
「駄目! だから、メモリーに写真とか、連絡先のデーターとか、いっぱい入ってるの! 住所とか知らない人の連絡先とかもあるから、携帯壊れたらもう二度と判んなくなるかも」
お姉ちゃんがおかしなことを言い始めました。
二度と連絡先が判らなくなるような人の電話番号?
「何ですかその怪しい相手は。何か変だよ?」
「例のお祭りで知り合った人とチャットの交換とかしてるの! そもそも本名すらしらないよ!」
「えっと・・・・・・今後連絡取る事なんてあるの?」
「・・・・・・」
何となく良く判らないですが、そうするとあの携帯からの呪をどうしましょうか。
「ねえひより、良く考えたら携帯の電波が繋がらなくすれば切れるんじゃない?」
「あ、そっか。いつもは電話とか繋がらなくされるのに、今回はそれが無いから変だとは思ったの。携帯の電波が届かなければ呪も切れるよね」
ある意味、自分の携帯の存亡が掛かっているからか、お姉ちゃんが必死に解決策を模索しているみたいです。私はそこまで必死さがないのは自分のじゃ無いからかな?
という事で、浄化結界の外側に電磁波の遮断用の結界を展開します。
これって意外に難しいのですよね、ちゃんと密封? しないと何処かからか電波が侵入してきちゃいます。その為、結界を箱状に作成しないといけません。
「よし、どうかな?」
ここでもダイヤさんが活躍して、結界を展開した後にお姉ちゃんの携帯へと視線を向けます。
すると、先程まで出ていた悪意がピタリと止まったのが判りました。
「あ、止まったわよ! ああ、携帯壊されなくて良かったわ」
「いえ、あくまでも最終手段であって、別に面倒だから壊せばいいじゃんとか思ってませんでしたから」
一応の弁明を心掛けましたが、思いっきり凍りそうな眼差しが帰って来ただけでした。
「何かすっごく疲れたわ。外にもまだいるし、お爺ちゃん達早く駆けつけて欲しいわね。でも、本来の護衛の人達場無事なのかしら?」
心配そうに外を覗くお姉ちゃんだけど、どうやら此方への携帯電話を通じた攻撃が不発に陥った事で、外に居た人達が一斉に退却に入ります。
ついでに、パトカーの音も聞こえてくるのですが、何かパトカー慣れしてきたようで思いっきり嫌ですけどね。
「無事に逃げれると思う方が甘いのです」
バタバタと足早に撤収を始める男達を見ながら、お姉ちゃんが呟きます。
まあ我が家を攻撃して来た貴重な手がかりですし、逃がすつもりは私も無いのです。
「ひより、どのボタンを押せばいいの?」
「う~ん、とりあえず黄色かな?」
リビングにある防犯カメラの映像を映しているモニター、その前に設置されている如何にもな赤青黄色の3つのボタン。その黄色のボタンをお姉ちゃんは躊躇なく押し込みました。
カチッ
「・・・・・・あれ?」
カチッ、カチッ、カチッ
「ひより、ごめん、何も起きないんだけど?」
ボタンを押しても何ら音もしなければ爆発も起きないです。
その為、お姉ちゃんは動作していないと思ったのか、数回ボタンを押しました。
「え? あ、うん、派手なものじゃないから判り辛いかも?」
ただ、漸く外からは悲鳴が響き渡りました。
「ほら、大丈夫だよ、動作してるね」
私の言葉にお姉ちゃんが窓の外を覗くと、十数羽のカラスが男達の頭上から何かを落としているのが判ります。
「えっと、あれは何?」
「痺れ薬の粉をカラスさんが捲いてくれているの」
思いっきり目の前の光景そのまんまです。
ただ、男達は次々に倒れてピクピクし始めていますが。
「無数のカラスの姿と鳴き声で思いっきりホラーな光景なんだけど、また噂にならない?」
「う~んと、他のボタンが良かった?」
「ごめん、ボタンの内容は後で聞かせてね」
お姉ちゃんが窓から外の状況を見て、思いっきり顔を引き攣らせています。
でも防犯カメラの映像だけだと男達数人が家の前でのたうっているのしか見えないんだよね。
ひより:「次回は、佳奈お姉ちゃんの行方です!」
佳 奈:「ねえ、私の扱い軽くない? 二人とも、あんまり心配してない気がするんだけど」
小 春:「え? だってさ、佳奈ってお婆ちゃんの所に弟子入りしているし」
ひより:「うん、転んでも唯では起きないだろうし? そもそもお婆ちゃんいるし?」
佳 奈:「そうだけど、そうだけど、何かひどい!」
ひより:「だって、そもそもの主犯が佳奈お姉ちゃんの可能性も微レ存?」
佳 奈:「え!?」