96:新たな攻撃
誤字脱字報告ありがとうございます。
家に帰ってお姉ちゃんに今日の出来事を話すとともに、今後の事を相談します。
「でね、文科系の部活はある程度把握できたんだけど、運動部はまだ良く判んない。本人が身に着けてたら部室をいくら浄化しても反応はないから」
「そうだよね、私の方も似たような感じかな? 被服部の先輩達にもそれとなく尋ねたけど、ぜんぜん情報を持ってなかったわ。あと、高等部では文科系の部でも反応は無かったけど、鳳凰会のサロンでは手応えがあったから、たぶん浄化できたんだと思うわ」
お姉ちゃんの方でも、部室巡りをしてくれた。というか、被服部に向かう途中で浄化を連発してくれたみたい。高等部では生徒会室と鳳凰会の部室は建物自体が分けられている為、真下や真上から浄化を掛けれるので比較的楽だったそうです。
「それにしても、運動部かあ。部活始めか、終わりに部員が集まっている所を浄化しないと駄目かしら。部活終わりって結構遅くまで練習しているのよね」
運動部は、何と言っても勝敗が絡むので文科系よりはるかに練習には熱心ですからね。ただ、そこにある意味ドーピング要素を混ぜちゃダメでしょうと思うのだけど、それでも勝ちたいとか、レギュラーになりたいと思う思いは判らなくもないですからね。
「練習中はやっぱり辞めた方が良いわよね。途端に動きが悪くなったりしたらすぐにバレるわ」
「部活によっては動作中にレベル低下とかになったら怪我しかねないもんね」
今まで出来ていた動きをが突然できなくなったりしたら、転倒したり、体に無理が掛かったり、イメージした動作についていけなかったり、事故の要素は多分にあります。
ですから、出来れば練習中において浄化を使うのは止めたいなと思うのです。
「それにしても、ゲームとか小説とかでステータスを上げる装備品とか普通にあったけど、現実を考えると問題もあるのね。ひよりに言われるまでそんな事思いもしなかったわ」
お姉ちゃんの言葉に、前世における速度増加や筋力増加の装備品の数々を思い浮かべます。
「そもそも体や精神の鍛え方が足りないとかなのかな? ああ言ったアイテムって掛け算じゃなくて足し算らしいんだよね。だから20とかにプラス5とかは影響が大きいけど、1000とかにプラス5とかあっても体調の誤差範囲に入るでしょ。だからそれ程には効果がないって思われているみたい」
「お爺ちゃん情報?」
「うん、実際のアイテムを手に入れてたみたい。でも、思ったほどの性能はなさそうだけど、お爺ちゃん達的には常習性がヤバそうなんだって」
アイテムで上がった数値を自分の物と錯覚する。それで、効果がなくなると途端に使用していた時の状態が頭にあるから再度購入を考えちゃうみたい。
「実際に、アイテムを取り上げた時に暴れる人がいたみたいだけど、何か麻薬患者みたいだったって。麻薬患者とかドラマでしか見た事ないんだけどね」
「普段より問題が理解できる、普段より動きが軽い、色々な物がありそうだけど、効果が切れたとたんに頭は霞が掛かったみたいとか、手足がイメージしたように動かない何て事になったらまた欲しくなるわね、絶対に」
お姉ちゃんの言い分は的を射ている気がします。
でも、だからと言って放置できるわけではないですし、どうしましょうか。
「そういえば、そのお友達は本当に茶道部に入るの?」
「うん、そう言ってたけどなんで?」
「う~ん、あそこって鳳凰会の出城みたいな所なんだよね。ただ、基本的に鳳凰会の子達は部活になんか出ないけどね。お免状持ちだっているから、部活は名前だけって人が殆どだけど」
「確かにお金持ちの人達が入りそうな部活ではあるね」
実際に私達に対応してくれた先輩達はそうでもなかったけど、文化祭とかも含めて余計な口出しとかしてきそうですね。
「結構虐めとかもあるからね。男の子の部員がいなかったから、そうなるとあっと言う間に派閥が出来るしね」
「うん、大いにありそうだね。そうなると梨花ちゃん達が懸念していたパシリとかを部活でされる? 何のために鳳凰会に入るのを止めたのか判らなくなっちゃうね」
「あ、そっか、鳳凰会辞退したのよね。そうなると余計に目を付けられるかも」
むぅぅ、問題が更に問題を発生させているような気にすらなります。
「話は戻るんだけど、能力アップのアイテムを付けて、それで努力を続けていたら次第に能力は上がるんでしょ? それだと、アップする数値が誤差範囲に入るから問題ない、とかにはならないのかしら?」
「どうなんだろう? でも、そもそもゲームみたいにステータスとかあるのかな? 筋力は判るけど、知力って、そもそも上がる数値なのかな?」
私の疑問にお姉ちゃんは考え込みました。
ただ、実際に前世では魔法で動きをサポートさせる物はあったんですよね。ただ、そもそも大気中にある魔力を使用しないとあっという間に魔力が尽きるし、こっちでは実用性に疑問を感じます。うん、相手が悪意を使用していない限りですけどね。
ただ、それでも知力を上げるなんて物は無かったですね。魔法発動のアイテムとかはありましたけど。そもそも知力を数値化するとはこれ如何にと言ったところで、この世界の人達って何でも数値化しようとするのが実に不思議です。
「暗記力とか、ほら、パソコンのデータ容量とか、処理速度上げるみたいな事出来たらすごいと思わない?」
「う~ん、でもそれって性能の悪いパソコンでやったら焼ききれちゃわない? そもそも、パソコンみたいに人間の脳って進化してるのかな?」
「どうなのかしら?」
お姉ちゃんと二人で、思いっきり変な方向に話と思考が進んでいきます。
ただ、どうやらお姉ちゃんはこの話題が結構興味を引いたみたいで、本来の問題を置いといてでも話を進めたいみたいです。
「ねえ、アイテムで演算機能をカバーするのとか、記憶容量を増やすとか出来たら凄くない? 計算問題とか、暗記問題などすっごく幅が広がると思うんだけど」
「ん~~~、でも、お姉ちゃん。人の脳でそれを制御しようとしたらやっぱり負荷が凄い事になると思うよ? それならパソコンとかで検索したり、計算させてそれを画面で見る方が良い気がする。人の思考を起動キーとかにするのは止めた方が良いと思うよ?」
「駄目なのね、残念」
何か行き詰っているのかな? ただ、お姉ちゃんの発想が結構マッドな感じで驚きました。まさか脳を進化させるなんて発想が出てくるなんて。
「ごめん、思いっきり脱線させちゃったわね。それで、今会話してて思ったんだけど、問題のアイテムって浄化で対処できるんでしょ? それなら各教室にビー玉設置で対応は出来ないの?」
「うん、ビー玉って簡単に言うと周囲の悪意をゆっくり集めて浄化するの。解りやすく言えば空気清浄機かな? だから、空気を悪くしている物を捨てたり、焼いたりしてくれる訳じゃないから無理かな」
私の言葉にお姉ちゃんは納得してくれます。
まあ結界を張れば悪意を持ち込めないとか出来るだろうけど、そうすると又大騒動になりそうだよね。
「難しいわね。供給元を絶たないとなんでしょうけど、お爺ちゃん達も苦戦しているみたいだし、何か私で出来るといいのだけど」
「定期的に鳳凰会のサロンを浄化するとか?」
「そうねぇ、それでも時間を掛ければ効果がない事で、購入者たちが騒ぎ出しそうだけど」
成程、確かに高い買い物をして、それでも効果が無ければ売り手に文句を言いたくなりますよね。
でも、それをやってるのがお姉ちゃんだとバレたら不味くないですか?
「お金、特に大金が絡むと人は変わりますし、平気で人を害しますよね? そう考えるとお姉ちゃん、継続して行うのって結構危険な気がしてきました」
私の言葉に、お姉ちゃんも言われてみればと表情が真剣さを増します。
まだ一回程度でしたら左程に問題は無いと思うのですが、毎回効果が無いアイテムになってしまうとなれば、絶対に原因を突き止めようとしますよね。
「やっぱりお爺ちゃんに相談しましょうか。無闇に相手を刺激しても、相手の全貌が見えていない状態で行うのは危険すぎると思うのです」
「そうだね、ひよりに危害が加えられるとか、前例がありすぎるわ。また神主さんの所でお祓いしてもらう?」
「・・・・・・するなら家族みんなでですよ?」
でも、今回の浄化がすでに相手を刺激している可能性だってあるんですよね。
なにせ、お姉ちゃんと私で、恐らく末端価格? 数千万円くらいのダメージを与えているのかもしれません。まあ本当に目的がお金ならですけどね。
「とりあえず、お爺ちゃんにお電話しておきます」
私が携帯を取り出した時、丁度お姉ちゃんの電話が鳴り始めました。
「あ、佳奈からだ。珍しいわね電話なんて」
家に帰ってくるとお姉ちゃんは基本的に携帯を一階の充電器に刺しっぱなしにします。
この為、佳奈お姉ちゃんとの会話はネット上のコミュニティーチャットが主ですので、電話を掛けてくることなんてまず無いのですが。
「佳奈、珍しいね、どうしたの?」
「お姉ちゃん!」パシン!
佳奈お姉ちゃんと会話をしようとお姉ちゃんが通話ボタンを押した瞬間、私はお姉ちゃんの手を思いっきり叩きました。そして、部屋の隅へと転がっていく携帯へ向けて咄嗟に魔法を放ちました。
「浄化!」
お姉ちゃんの携帯から、思いっきり悪意と、地の底から聞こえてくるようなブツブツとした声が聞こえてきます。
「部屋全体、浄化!」
その異様な状況に、一瞬呆然としたお姉ちゃんですか、すぐに部屋全体に浄化を飛ばします。
それでも、携帯からは次々と悪意が生まれ、こちらへと敵意を向けるのでした。