94:誰かが私に罠を仕掛けたのかな?
誤字脱字報告ありがとうございます。
私に関して出回った噂は翌日には無事に払拭され、佳奈お姉ちゃんからはお姉ちゃんのプロマイドが完売したとの喜びの連絡がありました。
「もっとも、その中に私の持ってるプロマイドがあったかは不明なんですけどね」
梨花ちゃんの質問に私は答えます。
「あったとしても他の人に絶対に言わないと思いますよね」
「うん、だから購入者みんなが疑心暗鬼になってるみたい」
「二人とも悪魔のような笑顔だよ」
そんな会話をしている私達の前では、噂の真相を聞きたくてやってきた玲子ちゃんがいます。
「あの場にいたら玲子ちゃんだって同じ感じになるよ? ほんと男ってね~」
「ね~~~~~」
まあ男なんてそんなものです。特に思春期に入ったくらいの女子は特に潔癖ですからね。あの男子達は思いっきり下手を打ったという事です。
「で、そこで思いっきり頭を下げている男子は?」
「好奇心でのこのこ着いてきて巻き込まれたおバカさんの橋本君です」
「もう勘弁してください」
橋本君も噂の中にしっかりと登場している為、先日までの余裕なんて欠片も残さず吹っ飛んだみたいです。
「何とかしてあげても良いけど、それだったらあの日いったい何が有ったのか教えて欲しいな。そもそも噂の原因は鳳凰会での騒ぎだよね?」
「あ~~~、うん、そうなんだけどさ、箝口令が引かれているんだ。僕から情報が漏れたなんてなったら転校ものになるんだ、勘弁してくれ」
鳳凰会の中の情報が漏れ聞こえて来ないのはある種の恐怖統制のせいでしょうか?
ある程度の地位に居なければ、それこそ制裁の対象になってしまうんでしょう。
「仕方がありませんね。誰が救急車で運ばれたとかは要らないので、その人はもう復帰したのかくらいは教えてください」
「う~ん、それくらいは良いのかな? まあ休んでいれば自ずと判っちゃうから、倒れた二人ともまだ通学していないよ」
「ふむ、そうですか。あの叫び声を聞いていますから、余程の何かがあったと思うのですが、その場に他の人は居なかったのですか?」
「いや、居たから生徒会を遮断したんだよ。3年の川内先輩が一応の責任者で動いているよ。生徒会を追い返した人って言えば伊藤さんは判るかな?」
「ああ、あのごつい人ですね」
まあこれ以上聞いても仕方が無いと思いますし、お爺ちゃんの情報待ちです。本当なら例のアイテムの事とかを尋ねたいのですが、何で私が知ってるのかの説明が出来ないので断念です。
「文芸部経由でプロマイドのセットを大量購入した人達の情報はありますから、橋本君は居なかったのでその情報で噂の打消しをしてみます。上手くいかなかったら諦めてくださいね」
「うん、ありがとう。それで頼むよ。彼女に思いっきり嫉妬されて参ってるんだ」
「・・・・・・彼女持ちですか」
「リア充ですね」
「中一が? 許すまじです?」
橋本君の一言で、思いっきり私達の雰囲気が変化しました。
ただ、流石はKYの橋本君、状況の変化を逸早く感づいて慌てて撤退していきました。
「はあ、それにしても騒動が次から次へとやって来る気分です」
「うん、あと学校内の空気が結構淀んでない? 小学校の時と比べて何か息苦しい気がする」
「あ、私もそれは思った。ひよりちゃんのクラスと比べると何かね」
流石は小学校からのクラスメイトです。ある意味、ずっと浄化された無菌室育ちと言いましょうか、悪意が無い状態で生活して来た二人ですからこそ気が付いた変化なのでしょう。
「貰ってるお守りが無いと生きていけないよね~」
「うんうん、自然と空気が浄化される気がするよね。ほんと手放せない」
二人の高評価に思わず笑顔を浮かべていると、そこにしぶとく橋本君が絡んでくる。
「なんだ、君たちもペンダントを手に入れてるんだ。まあ流行だけど数が少ないから結構高いよね? よく買えたね」
「ん? 何の事?」
「お守りってこれだよ」
二人がお財布に付けている一見神主さんのところの学業成就のお守りを橋本君に見せる。
中に入っているのは、以前と違って再利用可能な銀のプレートを使用した試作タイプ。小さなダイヤを銀のプレートにある穴に複数魔法でコーティングする感じで使用するんだけど、銀との相性が良いのか効果も上がって長持ちです。
あと、厚みが緩和されるのでお守りにもすんなり入れられてすっごく便利。
「あ、なんだ、本当にお守りだったんだ。ごめん、勘違いした」
橋本君が二人のお守りを見て勘違いした事に気が付いたみたいだけど、そのペンダントってもしかして例の奴かな?
「鳳凰会で何か流行ってるの?」
橋本君の言うペンダントの事はどうもあまり話してはいけなかった内容だったようで、私の質問に橋本君は途端にしどろもどろになった。
「まあ、そこまで聞きたい話でも無いからいいよ話さなくて、でも気をつけないと幸運の壺とか買わされないでね」
私はそう言うと、梨花ちゃん達との日常の会話に戻る。
橋本君はこれ以上変な事を言わないようにと思ったのか私達から離れて行ったので、梨花ちゃん達が興味津々で尋ねてくる。
「なになに、何か変な物が出回ってるの?」
「うん、わたしも聞いた話なんだけどね。でもすっごく胡散臭いのと、値段が高いらしいよ。でも、どうもそれに関わってる人が救急車で運ばれたらしいから、本当はヤバい物なのかも?」
「うわぁ、呪いのアイテムじゃん」
私の回答に思いっきり顔を引き攣らせてる二人だけど、私と友達でいるせいなのか結構信心深いんだよね。
「どういう物かしらないけど、怖い物や場所って結構あるから好奇心で安易に手を出さない事だよ」
一応二人に釘を刺して、どうしたものかと考えるけど、良く考えたら報酬もないんだよね?
善意だけでは食べていけないのです。という事で放置が決定しました。
「一応だけど、お守りは毎日チェックさせてね」
「「うん」」」
二人の事は当面はお守りで何とかなるし、一年生の階は定期的に私が浄化しているからね。
ただ、あれ以来訪問をしていない生徒会室や鳳凰会のサロンは行ってないから判らない。
翌日、早々に東君を捕まえて生徒会の状況を確認してみる。
「あ、東君、そういえば、生徒会は何か鳳凰会に言われてないの? 私が生徒会の依頼で何かしでかしたって噂だったよね?」
「ああ、何か生徒会室まで来てぎゃーぎゃーやってたよ。ただ、僕らはまだ新入生だしね。一応は蚊帳の外みたいな扱いだよ」
「・・・・・・それで、何で私だけが思いっきり爆心地になったの?」
東君の言う事は確かに道理だよね。新入生文句を言ったって何言ってるの? な状態になるよね。
ただ、ここで不思議なのは私が噂の爆心地になった事、あと私を訪ねて来た3年生が私が小春お姉ちゃんの妹と知らなかった事。
「あれ? そういえばそうだよね。そもそも、なんで伊藤さんの事を鳳凰会は知っていたんだろう?」
「うん、あの場で私、名乗りを上げたりとかしてなかったよね?」
わざわざ鳳凰会に目を付けられるような事はしてない・・・・・・はず? そうすると、色んなことがチグハグな気がして来る。
「何か話には絡んでたような記憶はあるけど、名前は言ってなかったね」
東君が記憶を呼び覚ましてくれてそう断言してくれるんだけど、そうなると誰が? ってなるのは仕方がない。
「あの場で私の事を知ってるのって生徒会のメンバーしかいないと思うんだよね。駆けつけて来た先生は担任でもないし、私の顔は知らないと思うし」
となると一気に生徒会の誰かが、意図するしないに関わらず私の名前を漏らした線が濃厚になる?
「生徒会に怒鳴り込んできた時に伊藤さんの名前は出てたかな? どうだったかな?」
東君は考え込んでいるけど、まあ面識があるとはいえ雲雀先輩にしろ、藤巻先輩にしろ、知り合ったのはあの日が初めて。信用するしないの領域にすら達してないよね。
「まあ鳳凰会はお姉ちゃんの御威光で押さえられたからそこは良いのだけど、何となく私に悪意が向いている気がするのは気のせいかな?」
「良く判んないね。ただ、生徒会室に行ったらそれとなく先輩達にも聞いてみるよ」
東君はそう言いましたが、この東君だってそこまで親しいという訳じゃないんだよね。
会話中も悪意が東君から出ている様子はないから、私に対して害意はないと思うけど、誤魔化す方法が無いとも言えないし。
「あ、そういえば藤堂さんは元気?」
「藤堂さん? うん、毎日生徒会にも出て来てるし元気なんじゃないかな? 何かあるの?」
「特に何かって訳じゃ無いかな。大人しそうな感じだったから、大丈夫かなって思っただけ」
「ん~~~、まあ確かに。でも、結構しっかりしてそうだけどね。成績順位が一桁に食い込めるくらいの人ってさ、結構神経図太いよ? まあこれも偏見かもしれないけどね」
東君が苦笑を浮かべるけど、それこそ藤堂さんから何かを感じ取ったのかもしれないね。
今どうなっているかは判らないけど、あの時くらい悪意に集られてたら普通の人でも感づく人はいると思うから。
「朝からごめんね、何か情報があったらよろしくね」
私は東君との立ち話を終えて、自分の席へと戻りました。
その時、視線を感じて見返すと、橋本君が結構真剣な眼差しで此方を見ていました。私と視線が合った瞬間に表情を取り繕いましたが、橋本君、そこは修業不足ですよ?