92:学校を休む時は注意しましょうね
誤字脱字報告ありがとうございます。
お姉ちゃんが帰宅して、爆弾? それ程でもないから爆竹? 発言をしてからお話し合いをして誤解を解きました。
「そっか、でも中等部がそんな状態になってたなんて」
悪意が結構蔓延していた事、核となる物が無い状態で罠の様に悪意が作動した事。
ついでに、生徒会の今の状況と以前の状況の擦り合わせなどをしていたら、時間はあっという間に夕飯の時間になっちゃいます。
「モグモグ、で、お姉ちゃんは、ズズズ、中等部時代に、モグモグ、何をやったの?」
「ひよりちゃん、話すか食べるかどちらかにしなさい! お行儀が悪いわよ!」
「ごめんなさい」
お母さんに注意をされて、素直に謝ってまずはご飯に集中します。
「何かをやったとか大袈裟な事は無いわよ? だいたいは佳奈が何か暗躍して何時の間にか生徒会や鳳凰会と対立構造が出来ていたのは確かだけど。伊集院さんがいた1、2年生の時はよかったんだけど、3年の時は結構大変だったわね」
鳳凰会の特権意識が突出している人が、結構一般生徒に対して問題を起こすんだけど、生徒会がそれに過剰反応してそれに対し更に被害が拡大する。それが今までの鳳凰学院のパターンだったみたい。
そこに、お姉ちゃんの第三勢力が仲裁に入って穏やかに物事を収めるんだけど、どうもそこに表では無くって裏の圧力みたいなのもあって両勢力から警戒されたみたい。
「裏の勢力って・・・・・・佳奈お姉ちゃん?」
「それしか思いつかないんだけど、佳奈だけでなく文芸部が何かしでかしていたみたい」
「文芸部ってそんな力を持つような部活だっけ?」
お姉ちゃんと二人で首を傾げるのだけれど、常識人の私達では良く判らないですね。
「でも、賢徳僧正が動かれるという事は、それなりの状況なんだよな?」
話を聞いていたお父さんがそう尋ねてくるけど、それこそ私に聞かれても困るよね。
「そうねえ、ただ何かが起こっているのは確かだから二人とも注意してね」
お母さんの言葉に、お姉ちゃんと二人で頷く。
そこで、お母さんの話へと自然と変わっていき、転職以降の状況を話して貰う。
「お母さんも新入生みたいな物でしょ? それでどうなの?」
「そうねぇ、まあ事務仕事がメインだから、どちらかと言えば過去の事例を踏襲しちゃえば結構暇そうよ?」
結局の所、お母さんは宮内庁で新設された宮内庁神仏保全局という良く判らない所に転職しました。
そのもの自体が何方かと言うと伊藤家対策部というか、他宗教や他勢力から伊藤家を保護する為の部署? 顧問でお爺ちゃんや神主さん、あと伊勢の何とかさんとかもいるのです。
「新設なのに過去の事例とかあるの?」
「ええ、新設と言っても他で行っている事とそれ程大きく違う事は無いわよ。だから他の部署で行っている内容を覚えている所ね。他の部署だとそれこそ毎日のように何らかの行事が有って大変そうだったわ」
そう言ってケラケラと笑うお母さんだけど、態々私達の為に転職までして貰っちゃって負い目を感じるんだよね。
「小春もひよりも気にしないで、前の会社も何となく派閥が出来てギクシャクしてたから丁度良いタイミングだったわ。今の子は何であんなに承認欲求が強いのかしらね」
お母さんの言葉にホッとするんだけど、承認欲求かあ、その傾向は私の周りでも結構あるよね。
でも、お母さんの転職が良い方向へと向かっているならそれはそれで嬉しい。
「お母さん、無理しないでね。ひよりや私の事を気にして無理してたりするのは嬉しくないからね」
「ふふふ、大丈夫よ。お母さんだって貴方達の母親なんだから」
「そっか、よか・・・・・・ん? お母さん、それってどういう意味?」
お姉ちゃんがお母さんの事を心配してると、お母さんから思わぬ口撃が、流石のお姉ちゃんも気が付いたみたいですね。でも、お母さんは大笑いしているけど。
そして翌日、本来は学校へととっくに向かっている時間なのですが、私は何故か自宅でお爺ちゃんとお話をしています。
「すると、中等部の鳳凰会を中心に質の悪いアイテムが出回っていると?」
「そのようじゃの。実際に効果があるから尚の事、質が悪いんじゃ」
お爺ちゃん曰く、思いっきり呪いのアイテムみたいです。
ただ問題となるのは、それは呪いのアイテムとしてではなく成績アップや恋愛成就といった学生達が思いっきり欲しがりそうなアイテムで、実際に効果もある程度はあるそうです。
「成績アップのペンダントは身につけていれば集中力や記憶力が上がるそうじゃ。恋愛成就は対象者に対し魅了効果が発揮される。もっとも、効果があるとはいえ数日で消える程度じゃがの」
「数日とはいっても実際に効果があるなら欲しくなりますよね?」
効果といっても、恋愛成就の方は対象となる相手によって差があるのは仕方がないとしても、相手が自分に好意を持ってくれている場合には顕著に現れるそうです。
「でも、それで何で生徒会に悪意が向くのです?」
「成績を上げたいが素直に頭が良くなりたいとは限らんじゃろう。誰かの成績が下がればおのずと自分の成績が上がると考える者もおる」
「なるほど」
まさに人の持つ性みたいなものでしょうか? 自分が努力するのではなく、誰かを引きずり落とす方向に考える人って結構いますもんね。
「その呪具じゃがの、そこそこ値が張る用での。そのお陰で数は出回っておらんようじゃが、出所がまだ掴めておらん」
ここでお爺ちゃんが顔を顰めるという事は、それこそまだ尻尾すら掴めていないのかもしれません。
「でも不思議なのです。そこまで判っていれば誰から買ったとかである程度追えるのではないのですか?」
「販売しておったのは鳳凰会の1年生じゃ。しかしの、その者が誰から購入したのかが判らんでの」
「お金の動きはどうなのですか?」
「それも不思議と判らん。恐らくじゃが、記憶を消されておるかもしれん」
人の記憶という物は結構複雑です。記憶の一部を消すと、その前後の記憶に歪みが生じますから自分の異常に気が付きやすいのですが。
「時間経過ですか?」
「ほほほ、流石はひよりちゃんじゃ」
人の記憶という物は、時間経過でどんどんと失われて行きます。
その時間経過において忘れていく記憶の範囲が大きくなっても、意外に人は気にしないものです。
「う~~~ん、厄介ですね」
鳳凰会を中心にした動きでは、情報が集め辛いので初動が遅れがちになりそうですね。
「問題はじゃ、相手が何を考えておるのかが判らんところじゃの。何を狙っておるのか見当がつかんわい」
「お金じゃないのです?」
「これだけの術が使えるのじゃ、稼ごうと思えばこんな面倒な事をせんでももっと楽に出来るじゃろう」
そうですね、精神系の魔法だとすれば、それこそ人を操る事も容易いのかもしれません。そう考えれば今回の事は確かに面倒と言えば面倒です。
「でも、これってアイテムを使用した者に問題があるだけで、販売者は意図していない使い方だと逃げれませんか? そうであればこの方法も有りでは無いかと」
「ふむ、なるほどの」
お爺ちゃんがまた考え込んでいますが、結局の所結論は出なかったようです。
私は、この打ち合わせで時間を取られたので、この日はお休みにしたのです。
何でこの日午後からでも学校に行っていればと後で後悔する事になるとは思いもしませんでした。
翌日、クラスへと顔を出すと、何故かみんなの様子がいつもと違う事に気が付きました。
「おはよ~、何かあったの? 空気が変だよ?」
自分の席へと向かいながら、近くの席にいるクラスメイトへと声を掛けます。
「あ、伊藤さん、おはよ~、そ、そうかな? 朝だしいつもこんなじゃない?」
そう言いながらも思いっきり顔を引き攣らせているので、やっぱり何かあったようです。
「んっと、ごめんね、昨日何かあった?」
「え? えっと、あった言うか、何と言うか」
「駄目だよ、そこは無かったと言うかじゃないと!」
「え、あ、うん」
駄目ですね、全然反応して来てくれませんが、つまり何かあったという事でしょう。
という事で、聞き出すとしたら東君かな? 次点で橋本君か、まあ両方から聞いた方がいいのかな? 何と言っても生徒会と鳳凰会だもんね。
「おお、東君、待ってたよ! では話を聞こうか!」
タイミング良く教室に入って来た東君へと声を掛けると、なぜか周りがざわざわとしました。
「ん? 何だろ?」
「いやあ、何だろうじゃないんだけどさ、伊藤さん昨日休んでたから状況が判らないんだよね」
「うん、何かクラスの様子が変だから、原因を聞きたかったの」
周りのクラスメイト達は、思いっきり耳をダンボにしているのが判ります。
「一昨日、鳳凰会で救急車騒動があったでしょ? それで、あの騒動は生徒会と伊藤さんが鳳凰会に攻撃したとか何とかと噂になっててね」
東君の説明に、私は思いっきり首を傾げます。
「私は救急車とか知らないよ? 学校を出るときに救急車の音は聞いたけど」
「でも叫び声が聞こえた時に僕たち生徒会と一緒に現場にいたのを見た人がいて、何か思いっきり変な噂が走り回ってるみたいなんだ」
「え? 噂が出回るの早くない? 大体なんでうちのクラスの人達が知ってるの?」
「それはね、昨日鳳凰会の先輩達がこのクラスに伊藤さんを訪ねて来たからかな?」
またもや背後から声を掛けてくる橋本君。
相変わらずの胡散臭い笑顔で話しかけてきているけど、目は笑ってないんだよね。
「ふむふむ、橋本君は一昨日鳳凰会で何が有ったのか知ってるの? 私は結局サロンに入れなかったから判ってないんだよね。救急車が来たなんて大事?」
大体の状況はお爺ちゃんから聞いているけど、その事を私が知っているのはおかしいからね。一応、一番情報を持っていそうな橋本君に聞くのはおかしい事ではないでしょう。
「う~ん、僕もその場に居た訳でも見た訳でもは無いから、ただ鳳凰会の先輩が救急車で運ばれたって事くらいしかしらないかな。それよりも、伊藤さんと東君が親しい事に驚きがあるんだけど」
成程、言われてみると確かに普通では私と東君の接点はないよね。
「一昨日学校の中を探索してたら雲雀先輩に捕獲されてお茶したのです! その時に東君とも会いました」
「え? 捕獲?」
「うん、暇してたんだって、一緒にお茶飲むのに丁度いいからって捕獲された!」
私の回答に橋本君の笑みが若干引き攣った気がする。
これは私の勝利だね! 何を競ってるのか判んないけど。
「まあ間違ってはいないと思うよ。あ、橋本君、一応名乗った方が良いかな?」
東君がこれまた澄ました表情で橋本君に声を掛けるけど、流石は橋本君、東君に声を掛けられた段階で表情を戻しました。
「いや、それには及ばないよ。成績上位者の東君を知らないなんてとても言えないよ」
「橋本君だって順位表に載ってたじゃないか。謙遜は伊藤さんに悪いよ?」
「悪かったね、どうせ私は順位表に載ってませんでしたよ!」
東君の返しに、橋本君は思いっきり笑顔が引き攣っていますね。うん、思いっきり私に対しての皮肉と捉えられてもおかしくないもんね。
「でも、攻撃ってなんのこと? 催涙弾とか放り込んだとか? 何それ楽しそう」
何処で催涙弾って売ってるんでしょうか? こんなに噂になるくらいだから、購買とかに売ってないかな? 売ってたら流石は鳳凰学院って思うよ?
「いや、購買に催涙弾とか売ってないから!」
即座に否定してくる東君だけど、私の考えを読めるなんて!
「いや、思いっきり口にしてるから!」
「なんと!」
流石は突込み体質の東君です。私が満足そうな表情でいると、橋本君が思いっきり噴き出しました。
「いや、そんな不服そうな表情をされても、ただ、何となく判ったよ。東君も大変そうだね」
「失礼な!」
そもそも、そこまで親しい仲では無いけど、今後も何となくこの二人とは絡まなければいけない状況が来そうですね。
うん、思いっきり利用させていただきましょう。生徒会と鳳凰会、両派閥の貴重な情報源ですし。
「なんだろう、すっごい寒気がしたんだけど」
「僕もだね、しまったな、好奇心は猫を殺すんだったね」
ふふふ、逃がしませんよ?
ちなみに、まだ噂はひよりのクラスで止まってます。
この為に梨花ちゃんや玲子ちゃんは気がついていないんです。
時間の問題だと思いますけどね?
ただ、その時には噂はどこまで変質しているのでしょう?