91:中等部が何か変ですよ?
誤字脱字報告ありがとうございます。
みんなで揃って階段を駆け上がっていると、雲雀先輩が突然声を上げます。
「しまった! 副会長、悪いけど誰か先生を呼んできて!」
「あ、そっか、わかった」
藤巻先輩が突然止まって今度は階段を駆け下りていくのを私は不思議そうに見ていると、2年女子の先輩が理由を教えてくれる。
「生徒会が駆けつけても鳳凰会のサロンには入れない可能性が高いからね」
「なるほど」
まあ争っている者同士であれば、有り得る事ですね。
特に鳳凰会のサロンは特権的な位置付けらしいので、メンバー以外の立ち入りを許可する可能性は低いかな?
「でも、自分達で対処不可能な場合はどうするのでしょう?」
「多分だけど高等部の鳳凰会へお伺いを立てるとかじゃないかな? 実際に前にも高等部が介入して来たことがあるからね」
これまた2年男子の先輩が教えてくれますが、うん、この二人の名前が判りませんね。
まあこれからも付き合っていくわけでは無いので別にどうでも良いかな?
そんな事を思いながら3階へと辿り着くと、私は思わず絶句してしまいました。
「おお、前が見えないよお姉ちゃん」
順繰りに浄化はしていたのですが、言われてみれば此処に来たのは初めてだったかもしれません。
その為なのか、原因は他にもあるのか、廊下に充満する悪意に思いっきり視界が遮られています。
「浄化!」
このままでは進み辛いので思い切って浄化を行ったのですが、又もや前方で悲鳴が響き渡りました。
「う~ん、悲鳴の大安売り?」
思わず首を傾げる私ですが、たまたま隣にいた藤堂さんが驚きの表情で此方を見つめていました。
その視線の意味を問いかけるよりも先に、思いっきり前方で騒動が発生、拡大しています。
「だから、今の悲鳴はなんなのですか? 悲鳴ですよ悲鳴! それも断末魔みたいなのが2回も」
「煩い! ここは鳳凰会の神聖なサロンだ。お前達のような者達が立ち入って良い場所ではない!」
「貴方達ってやっぱり馬鹿? これで事件になったら貴方達は隠蔽罪よ? 犯罪者よ? そこの所は判っているの?」
おお、雲雀先輩が押していますね。犯罪者と言われて思いっきり動揺が広がっています。
「高等部の方達が間もなくやって来られる。そもそもお前達がいたとしても変わらないだろうが」
そんな中、どうやら今いる鳳凰会のメンバーの中でも中心的な存在なのか、3年生の制服を着た男子が一切の動揺を見せずに壁の様に立ちふさがっている。
「うん、確かにそうだね。なんたって中学生だもんね」
思わず同意しちゃう私に、周りから何だ此奴といった視線が注がれる。
「新一年生か、道理が判る奴も生徒会に入るのなら歓迎だな」
件の3年生が私を見て笑うんだけど、う~ん、何かねぇ。
「雲雀先輩、この年齢詐欺のおっさん男子って本当に中学生?」
そもそも修羅場というか、イレギュラー、ハプニング、まあ色々言い方はあると思うけど、この状況でこの態度って普通有り得ないよね。少なく見積もっても高校3年生と言われても違和感ないよ?
「ははは、まあ確かに疑いたい気持ちは良く判るけど、これでも中等部3年で間違いないわね。見てくれは遺伝かな?」
爆笑したいのを堪えているのか、雲雀先輩は口元をムニムニさせています。
まあそんな間にも、後ろから走って来る足音が聞こえて、漸く先生達が到着しました。
「悲鳴が聞こえたって事だけど、どういう事?」
何か入学式で壇上で話していたおばさん先生が来ました。
確か生活指導とかでしたっけ?
「鳳凰会のサロンから2度、断末魔のような悲鳴が聞こえました。生徒会室はこの真下なので間違いありません」
うん、雲雀先輩の発言に先生達の視線がサロンへと向きます。
「そう、新見君、通していただけますか?」
おお、先生でも勝手にサロンへの立ち入りは出来ないの? そんな事だとサロン内で悪い事し放題だと思うんだけど。
驚きに思わず先生達を見ると、どうやらそういう訳でも無い?
「高等部の鳳凰会には連絡を入れていますので、出来れば待っていただきたいのですが、そういう雰囲気では無さそうですね。まあ市橋先生は鳳凰会OGですし、後ろの先生方も一応気を使っていただけているようなのでお入りください」
そういうとおっさん先輩は後ろにいたメンバーに指示して先生達をサロンへと案内させましたが、相変わらず私達は入り口で通せんぼです。
「まあ、後は先生達に任せるしかないのかな。出来れば何が起きたのか状況を知りたい所なんだけどね」
藤巻先輩が相変わらず入り口で壁になっている鳳凰会の面々を見て、雲雀先輩に指示を仰ぐ。
「まあここで高等部の人達と更に揉めるのも得策では無いわね。ちょっとというか相当残念だけど」
未練たらたらの雲雀先輩だけど、まあ私の手応え的に言っても救急車案件だからね。
「それでは解散で宜しいですか? 私も何か勢いで来ちゃいましたけど、そもそも一生徒が関わる話ではなさそうです」
ここら辺が私の引き際だと思うんだよね。まあ原因とか、発生源とかは特定しておきたかったけどね。
「まあそうだね、引き上げるわ。新見君、良ければ後で詳細を教えてくれると嬉しいけどね」
「さて、私が言う事ではないな。恐らく会長が何か公式発表をするか、もしくは学院が何か発表するだろう」
そう言うと、蠅でも追い払う様にしっしと追い払われましたが、何かそれ行けで走り出した野次馬根性の納まりがつかないのか2年生はブチブチ言ってますね。
ただ、私は階段で2階へと降りた所で再度お暇宣言をさせてもらいます。
「それでは、生徒会の皆さま、私はここで失礼しますね」
「あら、残念ね。伊藤さん、また遊びに来てね。あと、東君と藤堂さんはごめんなさい、肝心の説明が何も出来ていないからもう一度生徒会室へ戻ってもらえる?」
雲雀先輩達にペコリとお辞儀をして荷物を置いたままの教室へと踵を返しますが、良く考えたら問題ばかり発生して何も解決していないような?
「あれ? う~ん、まあいいか。悪意も気になるし、藤堂さんの視線も気になるけど、まあ急ぐことは無いしね」
上から染み出してきただけの悪意にしては異様に指向性があったし、何で私を捕らえるような動きをしたのかも謎です。あとは核となる物ですが、サロンにそれが有ったのか無いのか、疑問はそれこそ無数に出た一日でした。
その後、教室へと戻って鞄を持って駅へと向かい歩いていると、此方へと向かって来る救急車の音が聞こえてきます。ついでに、パトカーもかな?
「どうも事件になりそうですね。となると、お爺ちゃん達が動くのかどうなのか。まあ、今の所は関係ないし、こんな事ならさっさと帰れば良かったかな?」
まあ思いの外生徒会がまともな人達の集団だと判った事は収穫かな? 鳳凰会の評価は未定だけど、まあ選民意識が強いのは確かだけど。
「そもそも貴族制度の無いこの国で、お金の多寡が評価に・・・・・・なるかあ。共通して倒さないといけない敵もいないし、武力で引っ繰り返す事が出来る世界じゃないからね」
まあ基本であって例外は勿論あるけどね。何も持たない者ほど危険な者はいないとも言うし、まあそれも正しいかは怪しいけど。
で、そんな私の前に黒塗りの高級車が止まるのはある意味予想が出来たかな?
「そこのお嬢ちゃん、どうじゃの、ちゃでも一緒にしばかんかのう?」
「お爺ちゃん、良くこんな所で待っていたね。学院へ行かなくても良いの?」
「ほ、ほ、ほ、何やら鳳凰学院で問題が起きたと報告があったのでな、様子見に来ておったのじゃ」
まあ有り得ると言えば有り得る?
私が入学してからのまだ僅かな期間において、結構根深く悪意に捕らわれた人を私が強引に浄化して、体調を崩したり、中には気絶した人もいる。
「学校側としては気になったの?」
「まあの、良いとこの子も多いでのう。親御さんとしては気になるじゃろうて」
まあ確かに気になると言えば気になるし、自分の子が体調を崩したなら原因くらい知りたくなるかな。
「ほれ、車で送っていこうかの」
お爺ちゃんに勧められるがままに車に乗って、学校を後にします。
「で? お爺ちゃんは何となく何が起きているか気が付いてたりするの? お姉ちゃんの時はこんな事なかったんだよね?」
お爺ちゃんが日頃から私を気に掛けてくれているのは良く知っている。
ただ、わざわざ学校の前で待ち伏せするような目立つことは滅多にしないから、何か理由があっての事だと思う。
「ほ、ほ、ほ、相変わらず敏いの。まあ隠しておっても仕方が無いじゃろうかの。鳳凰学院に今までにない瘴気が集っておる。ただ、その原因が判らんのじゃ。だいたいじゃが例年の2倍ほどの量じゃの、日常的にこれ程の瘴気に当たておれば唯では済まんでの」
「だからお爺ちゃん達に声が掛かったのかぁ。それって私の護衛から話が回ったの?」
「本当の名家と呼ばれるところにはの、専属の術者が使えておるものじゃの。そこからも話が入って来ておる。中等部とみならず高等部も同様な状況じゃな」
私とお姉ちゃん両方がという感じでは無さそうだし、そうなると鳳凰学院自体がターゲットなのかな?
それにしては今日の出来事に違和感を感じるんだけど。
「という事があったの。私は鳳凰会のサロンって入れないから中の様子は判らないけど、3階は悪意が充満してたし、核はサロンにあったと思う。叫び声がしたから核となったのは人なのかな? 良く判んない。でもさ、あの悪意は普通じゃなかったよ?」
私の報告に、お爺ちゃんはちょっと考え込んでいます。
そもそも、入学してから私は自分の快適生活の為に細目に浄化を行っています。流石にお守りは所々に隠すように設置しているので範囲は限られているんだけど、それでも一定の浄化は行われている。
その中であの3階だけに悪意が充満するのはおかしいのですよね。核の無い悪意は拡散していくものだから、まあその核があったという事なんでしょうけど。
「まあ救急車で誰が運ばれたかなどの情報から見るしかないの。ひより嬢も十二分に気をつけての」
一応、お爺ちゃんに追加情報をお願いして、そのまま車で家まで送ってもらいました。
それで、お姉ちゃんが帰宅してきたとたん私に駆け寄っての第一声がこれです。
「ひより! あなた生徒会に入ったの!?」
うん、何かデマが飛び交い始めているようですね。