89:意図せず生徒会との交流をしちゃいました。
誤字脱字報告ありがとうございます。
まるで仕掛けられた罠のように発生した悪意。
その悪意が仕掛けられていた場所が生徒会室となると、狙った相手が生徒会のメンバーなのか、そうでないのかで状況は大きく変わるのかな?
「問題はこれが人為的に仕掛けられた物なのかな? 仕掛けられる人がいるという事だけど、これ魔術?」
未だかつてない手応えの無さ、普通なら核となる何かがあるはずなんだけど、それが全く感じられなかったんだよね。
扉の前で首を傾げていると、此方へと向かって来る人が見えた。
「おや? 制服からして一年生ですね。何かありました?」
先頭を歩いて来たのは3年生のタイを付けた女子。その後ろには同じく3年生の男子と女子が一名ずつ。
生徒会のメンバーで間違いは無いかな?
「生徒会に勧誘した子ではないですね。となると相談事かな?」
「この時期に生徒会に来ますか?」
3人が不思議そうな表情で此方を見ますが、この3人に特に悪意は感じられません。
術師にも見えませんし、そうすると今回の悪意とは無関係っぽいですね。
「学校を探索してたので、ここに来たのは偶々です。プレートを見て生徒会室なんだって知ったので、意図は無かったのですがご迷惑おかけしました」
「ん~~、という事は外部生だね。せっかくだからお茶してって、私達もまだそんなに忙しくないから」
「ちょっと!」
「まあ良いんじゃないですか、外部生の子には優しくしてあげないと。それこそ近寄っちゃ駄目な所とかあるでしょ」
ん? 近寄っちゃ駄目な所なんてあるのかな?
男子の発言に思わず首を傾げると、溜息を吐いた女子も結局同意して、なぜか ぺこりと頭を下げて早々に退散しようとしたのに引き留められて生徒会室へと連行されちゃいました。
「ようこそ、鳳凰学院生徒会室に! 新入生で貴方が最初の入室者よ。あ、私は今年の生徒会長の雲雀美幸。そっちが副会長の藤巻正人と書記の中西凜、よろしくね」
「そっち扱いはどうかと思うけど、僕が副会長の藤巻正人、君と同じ外部生だね」
「私は書記の中西凜よ、まあ現在所属している生徒会メンバーは全員が外部生だけどね」
成程、生徒会は成績優秀者で固めるって聞いていたけど、そうすると自然と外部生が多くなるのかな?
「今年入学した伊藤ひより、一年生です」
ぺこりと頭を下げるけど、3人の様子に変化はない。
お姉ちゃんの妹とはバレてないのかな? それともお姉ちゃんに対して生徒会はそこまで警戒していないとか?
「このあと2年生が来るけど、まあそれまでのんびりお話しましょう」
「君たちの代表となる一年生も来るかもね。2年生が声を掛けてるはずだから」
「あの? それだと私が此処に居たら皆さん混乱しませんか?」
何も知らずに来て一年生がいたら生徒会のメンバーだと思っちゃうよね。
「まあ説明すればいい話だね。でも、学校を探索かあ、僕が入学したときを思うとそんな余裕なかったな」
そう言って苦笑いを浮かべる藤巻先輩。それに他の二人も同意するけど、そこまで余裕が無いかな? そもそも探索すると言う発想が出ないのかもしれないけどね。
で、私はと言えば今まさに生徒会室を探索しているのです。
でも綺麗に浄化されているのは判るんだけど、さっきの罠っぽい何かの痕跡は見事に何も感じ取れないです。
「そういえば、この部屋ってすっごく居心地がいいですね。事務室みたいなのに不思議です」
ちょっと探りを入れてみましょう。
普段からあれ程の悪意があるのなら、この部屋に居れば何らかの悪影響は受けていても可笑しくないです。
「ん? そう? どうかな、そんな事思った事は無いけど」
「そうね、まあ去年代替わりしてからは特に居心地が悪いとは思わなかったな」
「まあ上がいなくなれば居心地は良くなるわね」
そう言って笑いだす3人の様子を見る限り、そこまで問題になるような状態ではなかったのかと。
という事は、仕掛けられたのは若しかすると今日? 私って現場運悪すぎ?
思わず頭を抱えたくなるね。
という事は、誰かが仕掛けた罠を私が解除しちゃった、ついでに狙いは生徒会の面々という事?
「まあ今年は静かな一年で終わって欲しいわね。鳳凰会でも面倒なメンバーは卒業したし、内部生でもそこまで厄介な生徒の情報はないから」
「内部生はね。でもさ、外部生は未知数よ? 鳳凰会が積極的に取り込みに動いてるみたいだし」
「まあ逆に言えばあちらは今年は谷年か?」
うん、私そっちのけで話が進みますが、まあこれも情報でしょう。ただ橋本君とかを見る限り、表に出ないで裏で暗躍しそうなメンバーとか居そうですが。
「あ、これ毎年生徒会が外部生に配布している注意書き。流石に表立って渡すと角が出るからこっそり外部生で廻してくれると嬉しいかな」
渡されたのは鳳凰学院生活における注意事項と書かれた冊子です。
中をパラパラとめくると、鳳凰会の事が中心に書かれています。あと、その中に鳳凰会とトラブルになった際は生徒会へ素早く報告を行うとかあります。
「鳳凰会とのトラブルってそんなにあるのですか?」
「あ、伊藤さんは鳳凰会の事知ってるんだね。そうね、まあ毎年両手では足りないくらいは発生しているかな?」
「その殆どが一学期に起こってる。まあ慣習やら何やらと知らないから起きる事が多いから。その冊子を読んでおけば大体は回避できるよ」
成程、その為の冊子なんですね。
「まあ漫画や小説みたいなことが起きうるという笑えない話なんだよね。食堂のテラス席は鳳凰会の専用とか、マジで有り得ないよな」
「うん、まあヒロインがそれを知らずにを地でやった人が去年卒業した先輩でいたよね。真面目にヒロインしてたから笑えるわ」
「小春先輩かあ、あの人のカリスマってまじ聖女だよな。治らない病気も小春先輩の微笑みを見たら治ったなんて伝説すらあるし」
・・・・・・何かお姉ちゃんの話で盛り上がり始めたんだけど、すっごい居辛いんですが?
「あ、ごめんなさいね。内輪の話題で盛り上がっちゃって」
「あ、いえ、大丈夫です」
何が大丈夫なのか判りませんが、まさか私も内輪ですという訳にもいかないですし、返答に困りますね。
そうこうしていると、生徒会室の戸が開いて4人の生徒が中に入って来ました。
「会長、一年生を連れて来たよ~」
「一応、生徒会への参加を了承してもらいました」
そう言って入室して来た2年生の二人は、怪訝な表情で私を見ますけど、まあそうなりますよ。
「あ。この子は関係ないよ。たまたま生徒会室の前に居たから、外部生って言うから一緒にお茶してたの」
「え? こんな外れに居たんですか? まあ良いですけど鳳凰会のスパイとかでは?」
2年生の男子がこっちをジロジロ見てきますが、私の興味は後ろの一年生へと向かっています。
2年生二人と一年生一人は問題無いのですが、残った一年生の女子が思いっきり悪意に染まってますね。
うわぁ、この子良くこの状態で問題なく生活できているね。周りの人も少なからず影響受けるから、どんどんと苦しくなっていくだろうに。
私の視線に気が付かずなのか、気にしないのか、その子は生徒会室にいる面々に深々と頭を下げて自己紹介をしました。
「一年一組の藤堂京子と言います。外部生です。宜しくお願いします」
「あ、一年二組の東宏典です。同じく外部生で、父親はサラリーマンのド庶民です! 宜しくお願いします」
うん、雲雀先輩とか、皆さんが挨拶を交えていますが思いっきり居た堪れないですね。
私がここで挨拶するのも思いっきり変ですし、空気、空気になるんです!
「で? その子は?」
あ、思いっきり空気を読まない二年生男子、ついでに二年生は挨拶が済んでいるのか名前を言わないので私には解りません。
「えっと、同じクラスの伊藤さんだよね?」
「あ、はい。東君とは話した事無いけど良く判ったね?」
改めての挨拶を聞いていなかったら私は名前判んなかったよ! 顔は、顔は判ったんだよ? でも、名前までは親しくないまだクラス全員の名前なんて覚えて無いよ!
「まあ伊藤さんは目立つし有名だから」
「有名?」
東君のいらぬ言葉に藤巻先輩が興味を示しちゃいました。
「東君、鳴かずば雉もって言葉を知ってるかな?」
「え? あ、あははは」
挨拶からも判る様に、思いっきり軽い性格なのか顔を引き攣らせながら軽い笑い声を立てる東君。
ただ、この様子に益々先輩達は興味を持ってしまったみたいです。
「そんなに有名な新入生っていたっけ?」
藤巻先輩は首を傾げる。ただ、これ以上拙い情報を与えてもと会話に介入する事にします。
「私の小学校からの友人が二名いるんですが、どっちも鳳凰会に誘われて断ったんです。それでちょっと有名になったのかも?」
「ほう、此処に入学して鳳凰会を断るって珍しいね。入りたくても入れない子から恨まれそうだ」
「そこまで家柄も良くないから下っ端で扱き使われそうだからって言ってました」
「判らなくはない判断だね」
「ただ、東君の顔を見ると、それだけじゃ無さそうだけど?」
雲雀先輩の言葉で東君を見ると、うん、え? そっち? っていうような表情をしているね。
「東君、今度じっくりお話しようね?」
「ヒィ!」
私がニッコリと可愛く笑いかけると、東君は悲鳴を上げますが、ちょっと酷くないですか?
「うむ、今の笑顔は怖い。で、その笑顔で私は理由を察してしまった」
雲雀先輩が思いっきり苦笑いを浮かべているけど、他の先輩達は・・・・・・あ、中西先輩も気が付いたみたい。思いっきり顔色悪いよ?
「えっと、一年二組の伊藤ひよりです。ちなみに、先日卒業した伊藤小春の妹です」
「うわ!」
「え?!」
「まじ?!」
上から藤巻先輩、二年生女子、二年生男子ですよ。で、中西先輩は思いっきり顔を両手で覆っているんですが、なんでしょうか?
「伊藤さん、先程の雑談を出来れば内密にお願いできると大変うれしい」
「なるほど、はい、要相談ですね」
「はあ、まあ冗談だよ。小春先輩はこれくらいの会話は笑って許してくれる」
「でしょうね。お姉ちゃんは気にしないと思います。思いっきり爆笑するかもですが」
「爆笑する小春先輩・・・・・・想像できないな」
藤巻先輩の言葉に、3年生の先輩と2年生の先輩は思いっきり頷きますが、どうしてでしょう?
「お姉ちゃん結構爆笑しますよ?」
おかしいですね。全然同意を得られませんでした。
ひよりのこの日の遣り取りをお姉ちゃんに言ったらお仕置き案件ですよね?
誰だって外では良く見てもらう為に演技してますもんね!
ひより:「えっと、猫が一匹、猫が二匹・・・・・・あれ? 結構足りないけど過労死とかしてない?」
作 者:「なにそれ、怖い!」