85:今更ながらに思い出しますね
誤字脱字報告ありがとうございます。
中等部へと進学してから何故か状況は混沌の一途を辿っている私です。
前世において生き残る事が大前提であったあの時代、良くも悪くも皆が真剣に生きていたと思います。
まあ、貴族達がどうだったかは知らないですけどね。
で、中等部で何が起こっているかというと、簡単に言うと遊び感覚での虐めですね。
鳳凰に通学できているくらいですから、良い所の子女や、成績優秀者達の集まりのはずなのですが、やっている事が実に陰湿です。一部特定の者を定めて仲間外れにしたり、あからさまにその人を見てクスクス笑ったり。対象となった子は、それこそ委縮してしまい、又、周りにいる第三者は巻き込まれないように傍観者を装います。
「ふむ、結局の所、対象は彼女になりましたか」
思いっきり傍観者である私ですが、何と驚くべきことに危うく私が標的になりそうだったようです。
え? ならなかったのかですか? うん、私に何かした人達はその後数日は悪夢に魘されて地獄を見るようになるので、今や完全なアンタッチャブルとなっていますが何か?
ただ、それに懲りずに別のターゲットを作る所に心の闇を感じますね。
貴方達、動物の本能を制御できていませんよ? 集団で行動するときの順位付けは動物としてあるあるな行為ではあるのですが、その感情を制御できないと将来大失敗をどこかですると思います。
「伊藤さんは凄いよね、結構侮れない知り合いが多そうだし」
最近やたらと私に絡んでくる橋本君ですが、この子も結構癖があります。
一見すると温厚な躾の行き届いたラブラドールのような感じですが、私の直感では思いっきり腹黒な感じで油断できないと出ています。
「知り合いはどちらかと言えば姉の御蔭です。まあ良くも悪くもですが」
この数日で何故か姉の存在がクラス中に噂と共に広がりました。もっとも、尾びれ背びれどころか、もう原型を留めない程にメタモルフォーゼした噂です。
流石にあれが本当では無いですよね? 本当だとしたら、思いっきり姉を見る目が替わる自信がありますよ?
「ふ~ん、で、伊藤さんはあれを何とかしたりしないの?」
そう言って橋本君の視線が向けられているのは、先程私が眺めていた絶賛虐め被害者の子。
「新たな中学校生活が始まってまだ数日と言うのに、すでにマウント合戦が始まっていること自体が驚きです」
「ああ、受験組の子はそんな感じなんだ。そもそも小等部からの繰り上がり組にしてみたら、友人もほぼそのままだし普通にありえる光景だと思うよ」
「なるほど、どちらも繰り上がり組だという事ですね」
ただ、受験組がターゲットにされるのかと思いきや、同じ繰り上がり組がターゲットになるとは業が深いですね。まあ未だ未知な存在である受験組は今の時期では手を出しにくいのかもしれません。
「虐めてるグループは菊園さんを中心にしたグループで、あの菊園さんは鳳凰会のメンバーだね。で、ターゲットになってるのは宮田さん、元は菊園さんのグループメンバーだったはずだけど、何かあったかな?」
胡散臭い笑みを浮かべながら、要らない情報をくれる橋本君だが、彼もその鳳凰会のメンバーだ。
まだ中学生という精神が育ち切っていない子供に特権意識やエリート意識などを持たせるような馬鹿な会なんぞ誰が作ったのやら。
「家庭でしっかりとした教育をしないと歪んだ人間を作り出す事になるね。因果応報の恐ろしさを知らないって本当に怖いわ」
私の言葉に橋本君は面白そうに笑うけど、そのせいで何かこっちが注目を浴びてしまったじゃないですか。
「あら? 伊藤さん、何か言いたいことが有るの? 先輩達から気にかけていただいているからって調子に乗ってない?」
菊園さんが取り巻きを連れてこっちへ来ますが、思わず感嘆の溜息が漏れそうです。
「うわぁ、取り巻きって本当にいるんだね。すごい、初めて見た」
「はぁ? 貴方私達の事を馬鹿にしてるの?」
菊園さんが大きな声で威嚇してくるけど、所詮は中学一年生。怖くも何ともないのです。
「うん、思いっきり馬鹿にしてる。よくやるなあって」
「うわぁ、真正面から言ったよ」
橋本君、いい加減ウザイよ? ちょっと黙っていようか。
「受験組だからこの学園の事良く知らないんだと思うけど、あんまり舐めた事してるとどうなるか判らないから」
これは忠告なのかな? まあ威嚇なんだろうけど、そもそも私には意味を為さないと思うんだよね。
「菊園さんだっけ? 他の取り巻きさん達もだけどさ、絡むならちゃんと相手の事を知ってから絡まないと痛い目を見るよ? それとさ、今の行いがいつか将来の自分に影を差す事が有る事を自覚しようね? 虐めた相手が将来自分より上の立場に居ないなんて誰が決めたの?」
「はあ? 私は鳳凰会のメンバーよ、鳳凰会を敵に回してこの学校で生活できると思わない事ね!」
うん、何か顔を真っ赤にしてドタドタと去って行ったけど、お姉ちゃんって確か思いっきり鳳凰会を敵に回して生活できてるよね? まあ生徒会も敵に回しているみたいだけど。
「すっげ! 女って怖いねぇ」
後ろでニヤニヤ笑ってる橋本君だけどさ、あなた本当に居ただけね。仲裁もせず、菊園さん達に意識される事も無く、それでいてちゃっかり会話は聞いてるし。
「橋本君って油断ならないね」
「酷いなあ、僕ほど無害な存在は居ないのに」
何か思いっきりムカついたので、ちょっとお腹を緩くしておいてあげた。
すると、ちょっと脂汗流しながらも何気ない様子を装いながら教室を早歩きで出て行ったよ。
「ざまあみろ、腹黒め」
しかし、これで又もやクラスメイトとの壁が厚くなったような気がしないでもない。
もっとも、普段においてもクラスメイトと何かをするような余裕は無いと思うけど、何せお爺ちゃんの所でのアルバイトや、お婆ちゃんの所での薬作りなどと普段でも大忙しなんだよね。
「でも、教室の浄化が思いの外効果を及ぼしていないのは気になるかも。小学校の時は何とかなっていたのに、成長と共に矯正が難しくなるのかな?」
私の持論だけど、人と言うのは成長過程での環境によって人格は形成されると思う。
持って生まれた性格という物はある。でもね、それが真っすぐ育つか、歪んで育つかはその成長過程で与えられる外的要因が絶対に大きい。
「まあどんな環境が良いか、それが難しいんだけどね」
そう溜息を吐くと、手にした小説を続きから読み始めます。
ライトノベルだって馬鹿に出来ないんだけどね。架空のものではあるけど、色んな視点や経験を疑似的にではあるけど積ませてくれるんだもん。
「第三者の視点で自分を見る事が出来るように成れば、少しは馬鹿な事を仕出かさないようになるんだけど」
これは、よく師匠が言っていた言葉だね。
「常に冷静に客観的に自分や周囲の状況を見なさい。それが出来ない奴は早晩死ぬよ」
「馬鹿だね、碌に情報も持たず、準備も出来ないで戦うなんて死にに行く様な物さ。あんたはそんな馬鹿になるんじゃないよ」
「判らない事を恐れる。その気持ちを忘れたら終わりだよ。判らないから最悪を想定し、最良を目指して行動するんだよ。判らないから何もしない、判らないから考えないなんざ馬鹿のする事さ」
うん、今になって師匠の言葉がどんどん思い出されてグサグサと心に突き刺さります。
「想像力は敵にも味方にもなる。だから上手く付き合いなでしたっけ? さて、先程の自分の言葉が思いっきりブーメランになって帰って来ますか。まずは相手を見定めないとですね」
この学校で少なくとも中高の6年を過ごさないといけないのです。
であるならば、来るものを力ずくで出来るからと過信するのも馬鹿のする事ですね。
仕方がありません、まずは最悪を想定して行動すると致しましょうか。
う~ん、相変わらず明後日の方角へと進むストーリー。
ただ、ここで漸くひよりは受動から能動へと変わるんですかね?
え? 今までも結構能動的だったです?