82:拠点制圧
誤字脱字報告ありがとうございます。
唐突なのですが、角の付いた動物達は意思の疎通ができます。
前世には魔獣を使役する使役師と呼ばれる人達がいて、動物よりも魔獣の方が意思疎通がしやすいという事で一般人も比較的無害で使役しやすい魔獣を飼う事も珍しくなかった。
餌として魔力を提供しないとならないのだけど、その点をカバーできれば普通の動物よりは飼いやすく、場合によっては護衛を兼ねる事もあるくらいだった。
「ホーンラビットはあっちにもいたけど、角の生えた猫とかカラスは見なかったなあ。邪魔じゃないのかな角って、生存競争を考えると淘汰されそうなんだけど」
目の前を飛ぶ角付きカラスを見ながらそんな事を思う。だってさ、木に止まるににしても、餌を捕るにしても、絶対に邪魔になるよ。
取り留めも無くそんな事を思いながらも、私の乗る車はカラスを追いかける。
「車でカラスを追いかけようと言うのがそもそも間違ってると思いますねえ」
神主さんは窓の外を見ながらそんな事を言うけど、私達が自転車で爆走するのも難しいと思うよ。
敵の炙り出しをお願いした動物達から次々に情報は入って来た。
思いっきり的外れな物もあったけど、一貫して間違いなかったのは見つけた相手の危険度? 動物達が教えてくれた相手は、見事に100%危ない人達だったのが驚くよね。
「動物は本能的に危険な存在を察知しますから」
今回出て来た相手を調べてくれた警察官の竹内さんが頭を抱えながらそう言ってくれた。
でも、竹内さんお手柄でまた昇進できるんじゃないのかな? そんなに甘くないのかな?
そして、私は神主さんをお供に聖女教の隠れ家へと向かっている所です。
最初は一人で向かおうとしたんですがお爺ちゃんに気付かれて、流石にお爺ちゃんだと荒事はという事で神主さんと竹内さんの出番になりました。
「神主さんは荒事担当なのですか?」
同行する前にそう尋ねたら、ニッコリ笑うだけで何にも答えてくれませんでした。
ただ、笑顔がすっごく寒かった事をここに申告するのです!
「ひよりさん? また何か変な事を考えていませんか?」
「ふぇ? な、何にも考えていませんよ?」
危ないです! 何という直観力。今は余計な事を考えないで、この後の事を考える事にします。
「しかし、本当にこの場所に星はいるのですか? 一応資料で確認をしましたが、所有者は10年以上そこに住んでいる日本人ですが」
私達が向かっている場所は、普通の街中のアパートの一室です。
それこそアパート全体が隠れ家とかそう言った事も無く、登録されている住人もごく普通の日本人で、中小企業に勤める至って普通のサラリーマンでした。
「日ノ本に協力者を作っていても何ら不思議ではありませんし、海外へ行った際に洗脳や入れ替えなどされていても不思議ではありません」
神主さんが竹内さんに答えるのですが、その内容が思いっきり真っ黒ですね。
前世においては精神系に関する魔法は禁忌でした。研究するのも民間では極刑で、流石の私も調べた事すらありません。
「怖いですね、だからお姉ちゃんを強引に拉致しても大丈夫って思ったのです?」
「恐らくは、今回逮捕した中にはその様な能力者は居ませんでしたから、そうなるとこの先の隠れ家は怪しいです」
「ひよりさんも竹内さんも一応これを身につけておいてください。どの程度防げるかは不明ですが、一応は洗脳を防いでくれると思います」
神主さんから健康祈願のお守りをいただいてしまいました。うん、間違っていないですけど、何か間違ってる気がしないでもないです? ただ、耐精神系のアミュレットと考えれば、実に興味深いですね。
「洗脳ですか、嫌な時代になりましたね」
竹内さんが顔を歪めながらも大事そうにお守りを身につけます。
「他の警察官の人は良いのです? 前後に覆面パトカーで来てくれてますよね?」
「彼らは事後処理がメインとなりますので、突入は我々が中心ですね」
神主さんがサラッと重要な事を言いますが、まあそうですよね。魔法使いの戦いに一般人を巻き込んでも被害を拡大させるだけですからね。
そうこうしている間に、カラスさんは一本の電柱に停まりました。その視線の先には、今回の目標であるアパートが見えています。
「あそこですね、気が付かれないように見張りは配置しませんでしたから、はたしているかどうかですが」
竹内さんが懸念を述べますが、アパートの下にも、その周辺にも、角付きの動物たちがいるのが判ります。人に見張らせるとすぐに気が付かれる可能性が高いので、ここの見張りは角付きさん達に任せたのです。
「さて、行きましょうか」
神主さんを先頭に、私、竹内さんでアパートに向かいますが、よく考えたら竹内さんって警察官ですけど魔法を使える訳じゃないですし良いのかな?
「ここですね、さて、では宜しくお願いします」
「もう気付かれているんですよね? 突然扉が吹き飛ぶとかないですよね?」
思いっきり及び腰の竹内さんですが、一応3人纏めて結界で覆っているので扉が吹き飛んでも問題は無いと・・・・・・。
ドガーーーン!
「おお、真面目に吹き飛ぶとは思わなかったです」
吹き飛んだ扉が結界に当たって思いっきり部屋の中へと吹っ飛んでっちゃいましたが、ついでに人も一緒に巻き込まれたように見えました。
「さて、ちょっと離れていてくださいね」
そう言って神主さんが何か缶を中に放り込むと、中から一瞬凄い光と、その後に煙がこっちまで流れてきました。
「・・・・・・これって防毒マスクとかしないと駄目な気がする?」
「あれ、視界が遮られるし、呼吸もしずらいから嫌いなんですよ」
神主さんが私の疑問に答えてくれるんですが、まさかの物理攻撃にちょっとドン引きしています。
「てっきり魔法とか法力とか、そう言ったもので行くのかと思ってました」
素直な気持ちを口に出しますが、そんな事より部屋の中では最低3人の人の声が聞こえますね。
ただ、どの声もまともな言葉になっていないように思います。
「さて、突入しますが、油断しないでくださいね」
そう言うと、まだ煙で充満している部屋の中へと神主さんが突入します。
それに合わせて私も突入しますが、一応手には魔女っぽい杖を装備しています。
「一人確保!」
早々に神主さんの声が聞こえますが、見えないのでとりあえず部屋の空気を入れ替えましょう。
私は風の魔法で充満している煙を外へと送り出しました。
「二人確保!」
神主さんの言葉にそちらへと視線を向けると、神主さんがバチバチさせながら大きめのスタンガンを涙と鼻水を流しながらのたうってるおじさんに押し付けていました。
「酷いです、予想外に物理です」
ここでもまさかのスタンガンです。
術師としての尊厳が旅立っちゃています。
3人目はと周囲へと視線を向けますが、肝心の3人目が見当たりません。
「さっきは確かに3人の声が聞こえましたよね? 最低あと一人いると思うのですが」
神主さんも身構えながら周囲を見回しますが、肝心の3人目は見当たりません。
「という事は、あそこですか」
二人の視線の先には、トイレとお風呂が一体になったユニットバスへの扉がありました。
「水の流れる音は聞こえませんが、音を消すくらい何とでもなります」
「目とか洗ってる可能性ありますね」
さて、こうなるとやる事は一つですね。
「ウインド・・・・・・」
私が呪文を唱えようとしたら、有り得ない事にまたもや神主さんがやらかしました。
パン! パン! パン!
「ふぇ?」
拳銃をどっかから取り出した神主さんは、扉のど真ん中に一発、鍵の場所と思しき場所に一発、扉の上側に更に一発と3発の銃弾が撃ち込まれます。
「あ、開きましたね」
銃弾を無造作に打ち込んだ神主さんがドアに手を掛け開きました。
鍵が掛かっていなかったのか、それとも鍵を壊したのかは判らないのですが、ドアはあっさりと開きますが、そのユニットバスの中はなんと・・・・・・無人です。
「あれ? いないですね」
「いませんね」
予想を裏切られた私と神主さんが思わず見入っていると、突然背後で音がして次に怒声が響き渡りました。
「逃がすかこの野郎!」
「ごほ、ごほごほ」
入り口で陣取っていた竹内さんが細身の男と格闘戦の真っ最中、恐らくは術師なんだと思うのですが鼻水と涙を流しながら、あわせて咳込んでいる為に多分魔術は使えなかったのか、それとも使おうとしたけどその前に竹内さんに組み付かれたのか、結局最後には竹内さんに締め落とされちゃいました。
「最後は竹内さんに良い所を持って行かれてしまいましたね」
爽やかな笑顔を浮かべてそう言う神主さんですが、多分リップサービスな感じですね。淡々と倒れている3人を見たことの無い道具で拘束していきました。
「これは魔女さんにお借りした拘束具ですね。魔法を使えなくするとの事でお借りしてきました」
そう言って拘束され連行されている3人を見ながら、ふと私が来た意味があったのかな? と疑問に思ってしまいます。
うん、私だけ何の活躍も出来なかったですね。
ふ、拠点が落ちたか、しかしあの拠点はまだ4つある拠点の中では最弱(ぇ
書いていて何かあっさり落ちちゃいました。
おかしいですね、残りの3天王に期待・・・え? そんなにいない? あれ?