81:反撃の狼煙を上げます!
誤字脱字報告ありがとうございます。
事件発生から数日後、私はお爺ちゃんから思いもしない報告を受けることとなりました。
「え? 聖女教から和解の提案? 意味が判んないんだけど」
お爺ちゃん達は、日ノ本にいる関係各所を総動員で情報収集にあたっている。それに加えて、日ノ本に拠点を置くキリスト教系の人達からは海外における聖女教の情報も入って来ているみたい。
そんな中、今回はその海外にある聖女教の本拠地から和解の提案がされたとの事。これだけやりたい放題しておいて、今更だと思うよね。
「うむ、聖女教の中で穏健派と強硬派とで対立が激化しておるらしいの。もっとも穏健派からの提案じゃが、そこで手打ちをしても強硬派を止められるかは判らんがの」
「それって提案を飲む意味あるんですか?」
一緒に聞いていたお姉ちゃんも、思わず首を傾げる内容です。
「うむ、聖女教と約定を交わすことで強硬派は約定を守らぬ信頼できぬ者達と信用を落とすことが出来る。意外とこの信用と言うものは馬鹿にならんでの」
そう告げるお爺ちゃんだけど、そもそも聖女教に信用なんかあるのかな? 犯罪集団として国家手配とか出来ないのが不思議なんだけど。
「人が死んでなかったらそれも有りだったのかもしれません。でも、私達を守って亡くなった人がいる段階で、私の心情的には納得できないものがあります」
そう告げるお姉ちゃんだけど、そうだよね。ただ、このまま全面戦争となると、より死者が増える可能性もあるんだけどね。
「お爺ちゃんはどう思ってるの?」
「うむ、まあ毒にも薬にもならぬなら結んでおいても悪くは無いかと思うておるの。少しでも強硬派の動きを牽制できるなら悪い事ではあるまいのう」
現状、相手の居場所がはっきりしない中ではどうしても動きが後手後手に回っているらしいです。情報を得て駆けつけても、一歩遅くて逃げられるなどのケースが往々にして発生しているみたいです。
「どっかから情報が洩れてたりしてそうですね」
「うん、あまりに相手の動きが良すぎるよね」
私達の言葉にお爺ちゃんは苦笑を浮かべるけど、そんな事は恐らくお爺ちゃん達も判っているんだろうな。
何度も何度も逃げられているとなると、どっかから情報が洩れている可能性を疑うのは普通です。ただ、その方法は内通者から始まって、それこそ多岐に渡るのですよね。
「聖女教の術者の能力で察知されてたら厄介だよね」
「その可能性も無くはないでのう。占いなどは魔女達の専売特許じゃからの」
「あ、占いとかもあるんですね。でも、そうすると占いVS占いとかにならないのでしょうか?」
んんん? お姉ちゃんが面白い事を言います。そっか、相手を捕まえる為の占いと、捕まらない為の占い、そう考えると確かにそんな感じになるのかな?
「ほ、ほ、ほ、今度あの魔女の婆さんに伝えておこうかの。意地でも勝とうとするじゃろうて」
お爺さんはそんな事を言いながら笑い出しますが、結局の所はその強硬派と呼ばれる人たちを何とかしないといけないのです。地元の裏家業の人達は皆さん動きを控えているそうで、ここで動くとすると外国からの傭兵とかになるかもと、空港の出入りも今は厳重にチェックされているらしいです。
入りだけでなく出の方は何故かというと、強硬派のメンバーが国外へと逃亡しないようにする為みたいです。
「追い詰められてまた無謀な事をしない?」
「さて、そこは何とも言えんのが怖い所じゃの。主要メンバーの所在絞り込みは出来て来ておるが、あと一歩で逃げられとる。ただ、あの者達とてこのままでは捕まる事は理解しておるじゃろう」
家の結界は補強したし、お守りも同様に対策はしている。ただ、先日もそうだったように十二分に対策された場合は何ともならない事だってあると思う。
「私が囮になっちゃ駄目? その方が手っ取り早いと思うんだけど」
「ひよりちゃんではの、相手の狙いは小春ちゃんだろうからの」
「え? それなら私が囮になりますか?」
お姉ちゃんが何処かキョトンとした表情でそう言ってくれますが、お姉ちゃんでは咄嗟の対応が出来ないので却下です。
「高性能な装備を作ろうかと考えたけど、万が一奪われたらと思うと怖くて作れない。所在不明者の厄介さがこれ程とは思わなかったよね」
町内に入れば、その段階で敵意を少しでも持っていれば判る。
ただ悪意無く利用される小学生とかの対応は結構悩むんだよね。完全に操られているので、自分の意志で何かをしている訳じゃないんだけど。
実は既に数回そういった第三者を利用した攻撃があったんだけど、町内における浄化結界を強化したおかげで今の所は無害化に成功しています。
「私ね、今回の相手に対して実はすっごく怒ってるんだよ?」
身内への攻撃、第三者を使用しての攻撃、全てが私の我慢の限界を超えてしまっている。
「だからね、穏健派? だから何? もう既に敵認定されているよ? 状態なの」
「ふむ、しかしの、具体的にどうするつもりなんじゃ?」
実際の所、お爺ちゃん達は対応限界に来ているんだと思う。相手はそこを見抜いていて、今回の提案をしてきてる。強硬派が追い詰められているのは事実だとは思うけど、それが決定的になる前に動いて来たという所かな?
「あのね、少し前に結構凄い物が使えるようになってるの」
私はそう言ってお爺ちゃんの前に魔石を並べていく。
「見た事が無いの。魔力が感じられるわい、ひよりちゃんが良く使うビー玉とかの強化版かの?」
「うん、それは否定しないよ。でもね、武器はもう一個あるんだよね」
そう言ってお姉ちゃんに合図をする。すると、お姉ちゃんが隣室から連れて来たのは角の生えた猫だった。
「・・・・・・魔女の娘っ子が可愛がっておる角の生えた兎と同じかのう?」
そう言いながらもお爺ちゃんの表情は次第に強張っていく。恐らくだけど角の付いた猫を見て、それが何かを理解したんだと思う。
「使い魔でよいのかの? ただ何じゃの、これはただの猫では無いの」
「うん、魔力を持った猫、一番判りやすい言い方をすると魔獣かな?」
明らかにホーンキャットからは知性を感じる。其れのみならず、お爺ちゃんなら魔力が体を巡回しているのも感じ取れると思う。そして、この猫の強さも凡そ察する事が出来るかな?
「私達姉妹も、今の状況を座して何かが起きるまで待つつもりはありません。幸いにもひよりが新たな力を身につけましたし、そろそろ反撃を開始したいと思っています」
そう言ってお爺ちゃんを見るお姉ちゃんの目は、私と同様に怒りに燃え上がっている。
ここで、実はとっておきの武器をお姉ちゃんが身につけた事は黙っておく。これは正に切り札たりえるものだから。
「むぅ、この魔獣はひよりちゃんや小春ちゃんの言う事を聞くのかの?」
「ええ、そしてこの子は魔力に非常に敏感です。あと、悪意を己の力とします」
「なんと! それでは、むぅぅ」
敵が私達に悪意を向ければ向けるだけこの子は強くなるんだよ。反則的な存在だよね。
「この子を解き放てば、多分ですけど聖女教の人を見つけるのは容易いです。それに、そもそも聖女とは神によって定められるものじゃないでしょうか? 私達は宗教が違いますわ」
私は前世からユーステリア神教の信徒です。ここで問題となって来るのは、どうやらお姉ちゃんもユーステリア神教の司祭みたいなんですよね? これは、先日ある出来事で発覚したんですが。
「それでじゃ、ひよりちゃん達はいったい何をしようというのかの?」
「あのね、宗教って信じている神様がいるんだよね?」
「ふむ、そうじゃの。そうで無ければ宗教では無いからの」
お爺ちゃんの言葉に、私とお姉ちゃんは顔を見合わせてニンマリと笑みを浮かべます。
「そしたら、他の宗教の聖女を自分の宗教の聖女って言うのはおかしくないです?」
「それこそ人が定めるような紛い物では無く、真に神に定められた聖女。神を見た事も無く妄信しているだけの者達、そんな者達に真の神とは何かを教えてやります」
私とお姉ちゃんの顔を見ていたお爺ちゃんの表情は、珍しく引き攣らせています。
「まさかとは思うのじゃが、ひよりちゃんは神を降臨させる事が出来る、などとは言わんよの?」
「にひひ、それはこれからのお楽しみなのです」
私はそう告げると、お姉ちゃんが猫を連れて来た部屋へ通じる扉を開きます。
そこには、角の生えた猫、犬、カラスたちがじっと大人しく自分の出番を待っていたのでした。
「さあ、誰を敵に回したのか、愚か者たちの頭に叩き込んでやりましょう」
お姉ちゃんの声が、反撃の狼煙として部屋に響き渡ったのでした。
ここからの展開が、シリアスになるのか、コメディーになるのか、ハッキリ言って作者すら判りません!
ただ、一つ言えるのはキャストが・・・・・・。
ただ、伊藤姉妹に言いたいんだけど・・・・・・学校始まっちゃうよ? 忘れてない?(ぇ