80:お爺ちゃん達と現状確認です
誤字脱字報告ありがとうございます。
「ほ、ほ、ほ、二人とも無事で良かったわい。まさか此処まで過激に出るとは胆を冷やしたの」
ちょっとびくびくした様子の店員さんに案内されたお爺ちゃんは、私達を見て安堵の笑みを浮かべるのですが、結構素で怖いですよ?
「公安も来とるでの、あとはまかせて家に戻るのが良いじゃろう。婆さんも家に来るように伝えておいたでの」
私の頭をくしゃりと撫でて、お爺ちゃんはお店の人に何も頼まず出る事を謝罪し、喫茶店の前に停車した車へと私達を乗せました。
「お店の人は思いっきり安堵してたね」
「そうね、最初っからすっごく怯えてたわ。仕方ないと思うけどね」
そう言ってお爺ちゃんを見るお姉ちゃん。うん、その認識は間違ってないと思うよ。
それはともかく、今回の件はいったいどういう事なのか良く判んないんだよね。
「お爺ちゃん、あれって全部聖女教? 何か対応が両極端な気がするんだけど?」
最初は明らかに此方を結界に閉じ込め、無力化して捕まえる気だったよね。
でも、その後は実際は兎も角、銃を使った段階で大事になるし、普通の対応では無いと思う。
「そうじゃの、あの聖女教の術者だが残念ながらこの騒動の間に逃げたようじゃ。誰ぞ手引きがあったようでの」
あの術者を捕まえた後、あのゴタゴタで目が行き届かなかったのは判らなくはないかな? 私達もすっかりあの術者の事は忘れていたもんね。何と言ってもあの後の騒動のインパクトが強すぎたもん。
「襲撃を掛けて来た者達の身元はこれから調べる事になるでの。明日には少しは状況がわかるじゃろうて」
お爺ちゃんと話している内に、あっという間に家まで到着します。
まあ近いですからね。
「ふぅ、何かどっと疲れたね」
「うん、今更だけど怖くなってきた」
そう言うお姉ちゃんの手が震えているのが判る。
私はお姉ちゃんの横へと席を移動してお姉ちゃんの左腕に抱き着くようにして体を凭せ掛けた。
「すまんのう、儂らの油断もあった。此処まで大事にするなど思いもよらなかったのじゃ」
そう言って頭を下げるお爺ちゃんだけど、親衛隊の人達が防弾ベストを着ていたのを考えれば、最悪のケースで銃が出てくるのは予期していたのかもしれない。
「あれは、私達の警護の人達を排除しようとしてただけなのかな?」
ただそれだけとは思えない程に殺意のような物はあったと思う。
「ほ、ほ、ほ、少ない情報で悩んでも仕方あるまい。色々あったでの、二人は少し休みなさい。儂らがおるで安心しての」
お爺ちゃんに勧められ、お姉ちゃんの部屋で一緒に仮眠を取る事にした。
「ひより、ありがとう」
「ううん、お姉ちゃんも少し寝よ」
「うん」
本人が思っている以上に精神的に疲れていたんだろう。
一緒にベットに入ったら、お姉ちゃんはすぐに寝息を立て始めた。
「スリープ」
もしかしたら魘されるかもしれないので、お姉ちゃんが安眠できるようにスリープの魔法を唱えます。
人の生き死にとはいえ血も出ていないし、人が倒れる所しか見えていないので恐らくまだ死を実感していないのかな。ただそのおかげでお姉ちゃんは予想以上にしっかりとしている。
私は胴体に回されているお姉ちゃんの手を外しながら、その寝顔を見ながら安堵の溜息を吐く。
「よかった、もしかしたら怖がられて拒絶されるかもって覚悟してたもんね」
私は人を容易く殺せる。その事をお姉ちゃんも、それ以外の人も今回の事で理解したと思う。
それが今後の私達家族、周囲の人達との関係にどう影響してくるかはまだ判らない。
「お爺ちゃん、おまたせです」
リビングに戻るとお爺ちゃんが厳しい表情で携帯で誰かと会話しているのが見えた。
「ん? おお、ひよりちゃん、ちょっと待っててくれんかのう」
そう言って携帯で会話を続けているけど、どうやら相手は警察かお爺ちゃんが言ってた公安の人っぽい。
その会話も数分で終わり、誰が用意したのかテーブルの上に置かれているお茶を口にしたお爺ちゃんは、ほっと一息ついた。
「さてさて、お待たせしてしまったのう。小春ちゃんは寝たのかの?」
「うん、疲れてたからすぐに寝息立ててた」
私の言葉に大きく頷き、次に私の顔をじっと見つめて来た。
「ひよりちゃんは大丈夫かの?」
「うん、まあ慣れてるからね」
私は今までで2回も命の危険に晒されているし、こう言っても良いのかな? ただ別の意味に取られるかもしれないけど、まあそれはそれで良いかな?
「ふむ、まあそうじゃのう」
お爺ちゃんは何か考える様に視線を上に向けるだけでそれ以上は何も言って来なかった。
そして、今回の今の状況で判っている事を教えてくれる。
「先の襲撃での術者は間違いなく聖女教の者じゃった。確認も取れておる。その後の襲撃者達は傭兵じゃな。先日のチンピラなど比べ物にならんの」
その後のお爺ちゃんの話では、聖女教が万が一術者が捕えられた時の対策で雇っていたのではないかとの事。そして、今日までにお爺ちゃん達は聖女教の拠点を襲撃し、すでに2名の術者を捕縛しており、聖女教としてはもう余裕が無くなってきているのではとの事です。
「すでに引くに引けない状況と言う事なの?」
「恐らくの、もっとも今回のダメージは計り知れんじゃろうが、あちらも想定外じゃろう」
「で、死んだのは何人?」
「こちらで2名、あちらは14名の死体を確認しておるの」
ああ、やっぱりこっちでも亡くなった人が出ていたんだね。
お姉ちゃんは気がついていなかったみたいだけど、襲撃者が乗っていた車、あれには最初誰かが乗っていたはず。その車が奪われていたんだから襲われた人がいたのは間違いが無いよね。
「亡くなった2名の人はどんな人だったの?」
「意外かもしれんが警察官じゃよ。元々がSP候補生で優秀な男達だったんじゃが、そう易々と襲われて負けるような事はないはずだったんじゃ」
「魔術?」
「恐らくの」
捕えた術者の他に、もう一人の術者が居た事は判っている。その術者が何らかの術でその人達を無効化したんだろう。
「態々殺さなくても何とでもなったと思うのに」
「そうさのう、その場に居らなんだ故に何とも言えぬが、優秀過ぎたのやもしれんのう」
殺さなければ無力化出来なかった。それくらい優秀だったのかもしれない。お爺ちゃんはそう言うけど、それって何の言い訳にもならないんだよね。
「お爺ちゃんごめんね。先に謝っておくけど、今までと違って今後は私、相手が術者だとしてもそうで無かったとしても、もう面倒な無力化なんかせずに命を奪っていくよ。相手からその一線を越えてきちゃったんだから」
たった一人であろうと、二人であろうとも、人の命が奪われてしまえばもう後戻りは出来ないんだよ。だってさ、失った命はもう戻ってこないんだから。
「いったい誰を敵に回してしまったのか、相手がそれに気がついてももう遅いの」
この平和でぬるま湯の様に居心地の良い生活が好きだった。生き死にに関わる事なんかなく、のんびりと
家族で笑いながら生活できればそれで良かったんだけどなあ。
「その捕えられた術者に会う事って出来る?」
「そうさのう。今少し待って貰えんかの? 儂ら大人が情けないばかりに苦労を掛けるが、儂らも漸く目が覚めたわい。少々平和ボケしておったのう」
お爺ちゃんは何とも言えない表情で私を見て、私の頭に手を乗せる。
その後、お婆ちゃんもやって来て同じ様な事を言われた。
「今回は完全にこちらの失態さね。どうも相手が魔術を使うとなると、魔術同士の戦いと思い込んでしまっておった」
そう言って謝ってくれた。お爺ちゃんやお婆ちゃんが悪いわけでは無く、すべての原因は相手にあると言うのに。
「それにの、儂らとしては幼い子供達に人の命を奪う事をして欲しくないんじゃ。これも大人の勝手なエゴじゃの。ただ、今回その様な事をさせてしまった事は慚愧の念に堪えん」
そう言うお爺ちゃんの表情は、非常に厳しかった。
そんな事を話している間にも、お父さんとお母さんが慌てて帰宅して来た。
「よかった! 事件の事を知った時には心臓止まるかと思ったんだから!」
そう言って私を抱きしめてくれたお母さんは、今は部屋で寝ているお姉ちゃんの所に行っている。
「起きた時に一人だったら怖いでしょ?」
笑いながらそう言って、もしかしたらそのまま一緒に寝てるかもしれないかな?
お父さんは私と離れた所でお爺ちゃん達と話をしているけど、私はお婆ちゃんにポーションの事を説明している。本当だったらこのポーションの事でとっくにお婆ちゃんの所に行っていたはずだからね。
「ふむ、成程のう。しかし、あの病気を気にしておったのかい、まだ11歳と高齢とは言えん歳じゃから気になったんじゃな」
苦笑を浮かべているお婆ちゃんの言葉に私は首を傾げる。
「11歳で高齢? 意味が判んないんだけど」
「なんじゃい、小春は説明しておらんのかい。来たのはトイプードルさね。今の薬では完治が難しい病気なんじゃ、あたしらも流石に犬用の薬は開発しておらんからね」
「・・・・・・え? トイプードル?」
「そうさね、まあ動物病院でも出来る限りの治療をしてくれとるようじゃが、血液の病気でまだ治療方法すら確立しておらん。あたしらも一応薬を出しはしたが、はてさて、効果があるのかは判らんさね」
私はてっきり人間の子供だと思ってたんだけど、まさかのトイプードルです。まあ、そこはお姉ちゃんだし、逆に動物の方が確かに何とかしてあげたいと思っちゃうかもしれません。そんな事無いかな? どっちもだねきっと。
「一応は犬でも問題なく効果は出ると思いますよ? お姉ちゃんには言えないですけど、家の近くにいる猫とかには効果がありました。もっとも試せたのは外傷や白内障とかですけど」
「そうさね、今度試させてもらおうかね。同じような病気が人にもあるから試す意義は大きいさね。問題はあたしらで作れるか、はてさて、こう言うのが好きな者に作らせてみるかね」
お婆ちゃんにとりあえず初級のポーションの作り方を説明しました。
それと、お婆ちゃんの所でも何とか薬草の生産に目途がつきそうみたいです。
「土に拘るんじゃなく水耕栽培で試した者がおってな、思いのほか上手く行ってるようさね」
お婆ちゃんの表情はどことなく自慢げですが、確かに水耕栽培は思いつかなかったです。というかそんな設備無いですしね。
「そうじゃ、ひよりが持ってきたあのようわからん不気味な根っこじゃがの、何故かあれを食べさせた兎に角が生えての。どうするか悩んでおるんじゃが、原因などわからんかね?」
「角の生えた兎です? ホーンラビットって魔物はゲームとかでもメジャーですけど、魔物になっちゃったのです?」
「さて、解剖してみようと思うたんだが、ルビー達に猛反対されて出来んかった。あの兎はルビー達が可愛がっておったでなあ」
何処となく途方に暮れた表情のお婆ちゃんだけど、なんでそんな大事な兎に食べさせたの!?
う~んと、シリアスが若干優勢な今日この頃、コメディーさんはいかがお過ごしでしょうか?
そろそろ聖女教も追い詰められ始めているんでしょうけど、何か聖女の名前をうたっている割にやる事がね~な状態ですね。
ただ、追い詰められた人って怖いんですよ?
ただシリアスってコメディーには勝てないんですよね(ぇ