8:騒動の種は突然に
真ん丸ダイヤモンドを使ってのアクセサリー作りは、私もお母さんも、そしてお姉ちゃんもドハマりしちゃいました。うん、すっごい楽しいの! ダイヤモンドに色を塗るのは意外に難しくて、中々綺麗に塗れない。指輪やペンダント、イヤリングとかベースになるアクセサリーも多種多様。それこそ本来の目的をすっかり忘れて散財しまくりまして、お母さんがカードの請求を見て真っ青になるまで続いたの。
ちなみに、その後はご飯のおかずが質素になったり、私とお姉ちゃんのお小遣いが減ったり、でも今回の騒動に直接関係なかったお父さんのお小遣いは影響なし。でもお父さんがこっそりお母さんにお小遣いから幾らか渡したのを私は見ちゃいましたけどね!
お守り作りが一応の決着を見せた所で、私は現状の問題点を解決する事にしました。
「お姉ちゃん、お勉強するときこれを身につけてて」
知力上昇の護符です。ダイヤモンドだとこれも作れちゃうんですよね。ただ、予想以上に魔力を使用したのでちょっと大変でした。数回しっぱいしました。
「う~んと、これはなに?」
「勉強するときに身につけていると理解力があがるの」
「なんと! そんな物があるの?」
「試作品だけど効果はあると思う」
こっちのゲームみたいに知力や体力が数値で見れたら便利だろうなとは思うのだけど、残念ながらそんな便利な魔法は無い。魔力量の多さを見たりといった大まかな物はあるけどね。
「うん、ひよりが言うならとにかく使ってみる」
鳳凰学院の特待生枠はすっごく競争が激しいみたいでお姉ちゃんをもってしても合格は微妙なところみたい。追い上げで頑張っているのはお姉ちゃんだけじゃないから、頑張った人みんな合格すれば良いのにって思うよね。前世では学校より各専門家に弟子入りして、技術を身につけるのが普通だった。だから私にも弟子はいた、もっとも王宮などの官吏何かは専用の途用試験専門の私塾はあったから、そんなものかもしれない。
大きく違うのは、前世では子供達も常に将来の姿を頭に努力していた事くらいかな? こっちのように将来では無く学校に入る為に努力するっていうのは違和感があるんだよね。
「ひより、そういえば最近ね、クラスに設置してるビー玉の消費がまた増えて来てるの。一度見に来て」
お姉ちゃんに知力増幅の護符であるネックレスを渡した後、次は何を作ろうか思案していた私に、思い出したようにお姉ちゃんが声を掛けて来た。
なぜかお姉ちゃんは魔力は見れても悪意が見えない。その為、何かが起きていてもその原因を探るのが非常に苦手。
「お姉ちゃんのクラスで最近何かあった? 喧嘩とかそんなのでも良いから何か思いつく?」
「う~ん、記憶に残る程の何かがあったって事は無いし、私のお守りはあんまり影響ないよ?」
お姉ちゃんのお守りは既に真ん丸ダイヤモンドにバージョンアップしているのですよね。だから逆に小さな変化は拾いにくいのかな?
「とりあえず明日お姉ちゃんの教室に行くね」
「ごめんね、ひより」
「大丈夫だよ、なんて言ったって今は真ん丸ダイヤがあるもん」
お姉ちゃんは結構私に遠慮する。何となくだけどあの神社でお祓いした時以降からかな? とは思う。魔法の練習やビー玉作り何かは一緒に楽しくするんだけど、悪意と関わる事に本能的な恐怖があの時出来たみたい。そして、その自分が嫌な物に私を関わらせる事にも非常に抵抗を感じるみたい。
そんなお姉ちゃんが今回わざわざ私に頼むという事は結構まずい状況にある気がする。ただ、いくらクラスが離れているとはいえ、同じ学校にいる私が何も違和感を感じ取れないから大丈夫だとは思うけどね。
そんな軽い気持ちで翌日私はお姉ちゃんと早めに学校に向かう。そして自分の荷物を持ったままお姉ちゃんの教室へと訪れて・・・・・・愕然とした。
「うわ、なにこれ、真っ暗だよ真っ暗」
お姉ちゃんの教室の外は特に問題は無かった、廊下だって学校全体と変わらないくらいの濃度で、私が毎日のように学校に結界を張っているから学校の外より遥かに綺麗。それなのに教室のドアを開けたら真っ暗で中が良く見えない。
「う~ん、昨日より悪化してるのは確かかも。今日は私でも不味いってわかる」
「とりあえずちょっと浄化するね」
私は自分の魔法でお姉ちゃんの教室を浄化する。成長して増えてきている魔力がごっそりと体から抜けていくのが感じられた。
「うわ、これ危ないよ。私でも浄化が危ういくらいに魔力がとられたよ」
お姉ちゃんだったら多分魔力が尽きていたはず。それ程の魔力がいるほどに教室には悪意が渦巻いていた。
「どう? 何か見える?」
浄化をした教室へと私が入ると、後ろからお姉ちゃんがついてくる。
「教室全体を浄化しちゃったから、う~ん、原因となる物も浄化しちゃったかも」
この教室内だけこのような状況になるのは自然な事ではない。だから絶対に原因があるはずなんだけど、教室を見回してもそれらしい痕跡は見えない。右の列から順番に並べられている机を見るけど怪しい所は無いし、掃除道具の入ったロッカーを開けてもそれは同様だった。
「何かを起点にしてるんだろうけど、それっぽい物がないね」
「あ、ビー玉の状態は・・・・・・あれ?無い」
教室のお守りを作って四方に貼るのはお姉ちゃんの仕事。この時使用するビー玉は持っても数日しか持たないから恐らく粉になってしまったんだろう。
「あれだけ濃い悪意だったから仕方ないよ、代わりのビー玉入れておこ」
「え? あ、違うの。ビー玉を入れていたお守りごと無いの」
「ほえ?」
その後、お姉ちゃんと確認したら教室の四隅に隠して置いてあったお守りが4つとも無くなっていた。
「先生に見つかってとられちゃったかな」
「う~ん、どうだろう? 今日一日様子を見るとして、別の所にビー玉をセロテープで張り付けておこう」
何となくだけど嫌な予感がする。だから場所を換えて合計8個のビー玉を設置する。
「あと、何で教室内にあんなに悪意が集まっていたかも知りたいから、ちょっと注意してみててね。あとお守りを置いていた場所を気にする人が絶対いると思うから、お姉ちゃんはそれも併せてお願い」
お姉ちゃんに任せるのは少し心配だけど、私がいるわけにはいかないから仕方がない。お姉ちゃん自身は真ん丸ダイヤも持ってるし、余程の事が無い限り安全だとは思うけど、何か対策を考えないといけないと思う。
「お昼と放課後に見に来くるね」
後ろ髪を引かれながら私は自分の教室に向かう。
そして、お昼休憩に給食を早めに食べて、急いでお姉ちゃんの教室へと行く。ちょっと緊張しながら教室を覗き込むと、お姉ちゃんは友達たちと談笑しているのが見えた。
「おねえちゃん」
扉の入口で声を掛けると、教室にいる人達の視線が集中する。
そんな中、お姉ちゃんが机から立ち上がってこっちへとやって来る。ただ、その際に私は視線の先で悪意が吹き上がるのを感じた。その悪意のターゲットは明らかにお姉ちゃんだ。
「ひより、わざわざ来てもらってありがとう。何となくの感じだけど良さそうな感じだよ」
笑顔を浮かべながらお姉ちゃんはそう言うけど、今さっきお姉ちゃんに向けられた悪意は、お姉ちゃんのお守りを中心に張られている浄化結界に阻まれて消えていくのが私には見えている。
「う~んと、お姉ちゃんお外でお話していいです?みんな見てるから」
「え? あ、うん」
ちょっと人見知りの可愛い妹っぽくお姉ちゃんの服を引っ張ってみる。すると、何かすっごく不思議な物を見るような眼差しをしながらもお姉ちゃんは私の後について来た。
「ひよりが何か女の子みたい」
「おねえちゃん? ひよりは女の子ですよ?」
思わずちょっと低い声が出てしまったけど、これはしょうがないですね。それでも、お姉ちゃんの不思議そうな眼差しは変わらないのですが。
「それはそれとして、お姉ちゃんの席の二つくらい後ろにいた髪の長~い人ってお友達?」
「え? 二つくらい後ろの髪の長い子? う、う~んと、岸田さんかな? 腰くらいまで髪がある子でしょ?」
私もざっと見た感じだったので、微妙に説明が悪いとは思うけど、あそこまで髪が長い子は今どき珍しいと思う。
「うん、その人。お姉ちゃんと仲が悪い?」
「あんまり話したことが無いから、仲が悪いって事は無いと思うけど?」
どうやらお姉ちゃん側には心当たりは無さそう。でも、さっき溢れ出た悪意は絶対にお姉ちゃんに向かってた。今回の原因の全てでは無いにしても、可能性の一つではあると思うんだよね。
「最近話した事って何か思い出せる?」
「最近? ここ最近だと多分進学の事かな? 中学受験する子が今年は多いらしいんだよね。で、どこどこを受験するって話とか、どんな感じ? とかは岸田さん以外の人とかとも話すよ」
むぅ、受験ですか。そう言えば先日は三者面談がありましたもんね。お母さんは学校で褒められたって喜んでたし、鳳凰学院への受験も心配されなかったみたいだし、う~ん、安易だけどそこらへんかな?
「岸田さんはどこを受験するのか知ってる?」
「うん、鳳凰学院が第一希望って言ってた。でもちょっと厳しいみたい」
うん、あとは家で細かく聞こう、お昼休みが終わっちゃう。ただ、何となくだけど原因が見えてきた。ただ、岸田さんだけであんな状況にはならないと思うし、お守りの袋が無くなったのも気になる。
「お昼休み終わっちゃうから後はお家で聞かせてね」
お姉ちゃんにそう告げると、私はクラスに駆け足で向かった。だって、本当にギリギリだったんだよ。
そして、家に帰ってからお母さんも交えてお姉ちゃんから話を聞くと、うん、出るわ出るわだね。
「ほら、うちの学年って一回学級崩壊してるでしょ。だから中学受験する子が多いんだけど、学力面とか経済的な部分で出来ない子もいて、今年になって受験に向けて頑張ってる子と、それを邪魔する子なんかも出始めてちょっとギスギスしてるのかな」
「そうね、私立中学は結構お金が掛かるイメージがあるから。今は色んな補助金とかあるんだけど、お母さんも小春の受験で調べて初めて知ったんだけど」
お母さんはうんうんと頷いている。ちなみに、私はまったくついていけてないです。
「私はこないだの塾の模試で成績良かったし、同じ塾の子も多いのと順位が張り出されたから結構勉強の遣り方とか聞かれるよ」
「お姉ちゃん頑張ってるもんね」
学校が終わって、遅くまで塾に行って、見てて大変だなって思う。前にも言ったけど漠然としか思い描いていない未来に対して良くあそこまで頑張れるものだと感心しちゃいます。
「こっからは自分の不安との勝負みたいなところもあるから、ひよりのお守りとかのおかげで助けられてるよ。あと、魔法の効果は相当大きい!」
お姉ちゃんの魔法も治癒系統の初期魔法が使えるようになってるから、割とあれって疲れた時にごまかしが利くんだよね。回復速度が上がるのは体も脳もいっしょだから。
「お姉ちゃん、使い過ぎには注意だよ、あれってつい頼っちゃうようになって気が付くと逆に体がボロボロって事もあるからね」
もう少し強い治癒が使える様になれば又違うんだけど、それはそれで問題だからね。
「でも、お守り袋が無くなったのも気になる」
私がそう言うと、何かお姉ちゃんがもごもごと言い出したよ。心当たりがあるっぽい。で、お母さんと追及するとお姉ちゃんが言い辛そうに話し始めたんだけど。
「本当にもしかするとなんだけど、お守りを持ってったの内田君かもしれない」
何かどっかで聞いたことのある名前だなって思ったら、例のお祓い騒動の主犯の内田君だった。
「美穂ちゃんが教えてくれたんだけど、何か内田君がお守りのあった場所でゴソゴソしてたのを見たって」
「美穂ちゃんってお姉ちゃんがお守りをあげた子の一人だよね?」
「うん、それでね、美穂ちゃんが言うんだけど、内田君は私の事を好きかもって。だからお守りを私が置いてるのも気が付いてて可笑しくないって」
そう言うお姉ちゃんはどちらかというと照れてるっていうより困惑してる感じ。まあお姉ちゃんにとってまだ恋愛は早いって言うか、それどころじゃないって感じだもんね。こっちの世界では女の子の方が早熟だっていうけど、お姉ちゃんはまだまだ魔法とかに興味が集中しちゃってるからなあ。
お母さんと思わず顔を見合わせて苦笑しちゃいましたよ。