77:ポーションは魔法薬ですよ?
誤字脱字報告ありがとうございます。
魔石っぽい物誕生後、私はその特性を計るべく色々なテストを繰り返しています。
そんな私の横では、お姉ちゃんが私が研究用に購入したライトノベルを読みふけっていました。
「これを中央に嵌めれば周囲の真ん丸ダイヤで特性を維持できるかな?」
木枠に五芒星を描いて先端に真ん丸ダイヤを設置します。そして中央に魔石を嵌め込んで完了です。
「魔力を通すとどうなるかな?」
真ん丸ダイヤに付与している浄化、これが五芒星で維持されるのは既にテスト済みなのです。今回は中央に置いた魔石を設置してその変化を見るためのテストです。あ、ちなみに魔石っぽい物は言いにくいので仮称で魔石って言ってますよ。
「おお・・・・・・お? 魔力がただ放出されてて浄化になってないかな?」
これは周囲の真ん丸ダイヤさんの特性が打ち消されてるのかな? 何か不思議な感じですね。
魔力の流れを見る限りでは、周囲の真ん丸ダイヤさんと中央の魔石はしっかりと連結しているのです。問題は中央の魔石の特性が優先されている事かな?
「これはこれで面白いけど、配置を逆転させたらどうなるかな?」
魔力を放出するのなら、その魔力を充満させての魔法発動など色々と考えようはあります。黒い煙のようなものではないので、ある意味純粋な魔力の放出と言った感じですね。
スイッチとしている中央の魔石を取り外すと魔力の放出も止まりました。うん、これはこれで計算通りですね。
「ひより、あのさぁ、聖女って何だと思う?」
「ふぇ?」
突然ラノベを呼んでいたお姉ちゃんが、本を閉じて私に問いかけてきました。
「んっと、もしかして聖女教から何か接触があった?」
警護の人達からもそんな報告は受けていません。ただ、お姉ちゃんから聖女という言葉が出てくるのです、用心は大切ですよね。
「違うよ、この小説で主人公が聖女なの」
「あ、なるほど、う~んと、その本の聖女の事を話せば良いって事じゃないんだよね? 私の持ってる概念的なものを話せば良いの?」
私の問いかけにお姉ちゃんは頷きます。
まあ、お姉ちゃんが読んでいた本は国を守っている聖女様が冤罪で追放されて諸国を漫遊するという、今はやりのざまぁ系の本ですね。もっとも、追放された国は魔物に襲われてボロボロになって、結局は隣国に滅ぼされちゃうんだけどね。
「聖女っていうのは人が勝手に決めた者かな? 良く治癒や浄化が使えて、魔力も豊富にあって、結界を使って国を守ってとかあるけど、たぶんそんなの不可能だよ?」
人一人が持てる魔力なんかそれこそ限界がありますし、それで国を24時間365日守るなんてね。常識で考えて不可能です。そんな事が出来るなら、それは人じゃないですよね。
「あと、治癒魔法がすごくてってあるけど、治癒の力が強い事に越したことないけど、必要なのは数だよ? これも一人の人が診察できる数は限られているんだから、魔力がその人の半分の人が複数いる方が色んな場所に送れるし有用だよね?」
一つの国が支配している街が1個なら最悪その聖女一人で良いのかもしれないけど、複数あるなら同じ技術を持つ人が複数居る方が絶対に便利だよね。まあ聖女という存在にメリットが無い訳でもないので、教会とかが指定しても可笑しくは無いけどね。
「ああ、周りの人が聖女様みたいだと思ったか、最悪は教会とか国の権力者達の利益誘導のために作られた称号とか。だって別に聖女にしたからと言って能力が上がるわけじゃないよ? それなら別に聖女って言わなくても良くない?」
前世でも司祭や教皇なんかもいた。でも言われてみると聖女は居なかったなぁ。まあ聖女を作りたいのは国民や信者へのパフォーマンスだろうから、あっちの世界だと成り立たなかったと思うけどね。そもそも一神教だったから教皇の力が強すぎたよね。まあ逆にそのお陰で私達魔導士との対立も無かったんだけどね。
「そっか、聖女ってゲームとかでも職業だもんね。職業って事は人が決めた物なんだね」
お姉ちゃんが納得したところで、大本の問題を確認しましょう。
「それで、実際の所は何があったの? お姉ちゃんがラノベ読むこと自体珍しいよ?」
私の問いかけに、お姉ちゃんがちょっと視線を逸らすのは何かやましい事があるからです。
「お姉ちゃん?」
満面の笑顔で問い詰めると、漸くお姉ちゃんがぽつぽつと語り始めました。
「ふむふむ、要約すると魔女さんの薬では治らない子供がいて、その子を治してあげたいけど家族に迷惑が掛かるかもしれないから悩んでると」
どうやら今日魔女さんの所から帰る時に、魔女さんの薬局を尋ねて来た親子がいました。その患者さんはどうやら普通の薬ではなく、魔女さん達の作る裏の?薬を求めて来たそうですが、残念ながらその薬でもその患者である子供の完治は難しいそうです。
「一応お姉ちゃんが気にしてくれたのは判った。お姉ちゃんありがとうね。でも、たぶんお姉ちゃんが考えている以上に最悪の場合問題は大きくなるよ? たぶん家族総出で夜逃げしないといけないくらいに」
私は、お姉ちゃんの治癒魔法はこの世界ではそれくらい厄介になると勉強した。それはお姉ちゃんも同様なんだけど、お姉ちゃんはどうしても情に流されるところがある、それは欠点でもあるけど美点でもあると家族は思っているけど。
「うん、判ってるよ。それでも目の前で苦しんでるの見ちゃうと、本当にそれでいいのかなって。私だったら治してあげられるのに、それをしないのは私が殺しちゃう事と同じなのかなって」
うん、その気持ちは判らなくもない。でも治癒魔法も万能ではないし、治せないものだってある。また魔力量の問題だってあるし、場合によってはその強迫観念を利用されて自由を制限され死ぬまで治癒をさせられ続けてもおかしくないと思う。ただ、最悪の可能性であってそうならないかもしれない。その思いがどうしても心の片隅に居ついてしまうんだろう。
「お姉ちゃんは薬剤師を目指すんだよね? お薬で苦しんでいる人を救いたいんだよね? でもさ、その過程で多分だけど色んなものを犠牲にすると思うんだよ。だって、薬の効果を試すのってそういう事だもん」
私の言葉にお姉ちゃんが悲しそうな表情で私を見る。でも、お姉ちゃんも漠然とだろうけど私が言いたいことを理解している。
「動物実験で動物を、動物で問題なければ実際に人に投与して効果を試すんだよ? もしかしたらそれで命を落とす人だって出てくるかもしれない。お姉ちゃんはそれに耐えれる?」
「・・・・・・わかんない」
うん、そうだよね。動物が死んだだけでも多分大泣きするんじゃないかな? それでも、その先に病気に苦しんでいる人を助けるために進まないといけないのが薬剤師なんだと思う。もちろんお医者さんとかもだけどね。実験は絶対に必要だし、そうしないと安全かどうかなんて解らない。
「だからって今を見捨てろって事じゃないんだけどね」
私はそう言いながら、マジックバックからポーションを取り出した。
「あ、ポーションだ」
恐らく自分で治癒できるがゆえにお姉ちゃんはあまりポーションを重視しない。というか一度試しに舐めてからはその存在を抹消している気がある。
うん、わかるよ、すっごく苦いもんね。でもね、これだって普通の薬とは比較にならない魔法薬なんだけどな。
「これで治るかは判んないけど、魔女さんに経由でその患者さんに一度試してもらって。これだって魔法のお薬なんだから」
とりあえずこれで治れば今は凌げると思うから。魔女さんの所で薬草栽培が始まってるし、これはこっちへ来てから開発した新しいポーションだ。前に作った初級ポーションとは比べ物にならない効果があるし、おそらく前世の中級くらいの治癒力はあると思う。
「うん、ひよりありがとう! すぐ持ってってみる!」
ポーションを持ってそのまま飛び出していきそうなお姉ちゃんを私は慌てて引き留めた。
「ちょっとまって、お姉ちゃんまだ待っててね!」
そう言って私も急いで外出する用意を始めます。
「え? ひよりも一緒に行ってくれるの?」
不思議そうな顔をするお姉ちゃんだけど、もうすでに夕方だし今からの外出には不安を感じるのですよね。というか、こういうバタバタした時って気を付けないと絶対に何か起きる気がする。
「なんか嫌な予感がするの。それこそお話の定番だよね? こうやって慌てて出て行った後に何かに巻き込まれたり、事故に会ったりするのって。すっごく不安だから私も一緒に行く」
私の言葉に相変わらずお姉ちゃんは不思議そうなんだけど、冷静になって考えれば考えるほど絶対に何かのフラグが立ってるよねこれ!
フラグっていつ立つのでしょうか?
あとで冷静に考えて、思いっきり後悔した事ってないですか?
後悔先に立たずとはよく言ったもので、あとで思いっきり落ち込む時とかあります。