76:魔石誕生?
誤字脱字報告ありがとうございます。
気が付けばもうじき3月、大きなイベントとしては小学校の卒業式を残すのみとなりました。
「うん、何かに熱中していると時間が経つのが早いわね」
あの化粧水を魔女さん達にお願いしようとして、そこから思いっきり製薬の楽しさに嵌まったお姉ちゃんは時間があれば魔女さんの所で何かしら薬を作ったり、研究したりしています。
「お姉ちゃんは目標が決まったもんね」
「うん、薬剤師さんを目指すの!」
楽しそうで何よりなのです。
目的が出来たせいか勉強も頑張ってますし、何と言っても薬剤師は理系なのです。今までどちらかと言うと忌避していた数学や物理なんかも頑張っているみたい。
「ひよりはあっさり受験に合格しちゃうからああ、私は結構努力したのにさ」
「入学してからの順位はお姉ちゃんと違って低いと思うよ? 私の場合は得意不得意が顕著だもん」
お姉ちゃんは3学期の中間試験が過去最高の6番だったそうです。今までは20番台で来てたのが、苦手の理数系で頑張りだしたので先週終わった期末も多分好成績だと思う。それに対して私は逆に社会と国語が今一つなので入学してからの成績は多分パッとしないだろうな。小学校では上位だけど、そんな子が集まるからどうしても今までの様にはいかないかな。
「ところで今は何のお薬の研究をしてるの? 化粧水は目途がついたんだよね?」
「うん、今研究してるのはなんと! 頭が良くなる薬です!」
ドド~~ンと背後に荒波でも出しそうな感じですが、すっごく胡散臭さが漂います。
「もしかして、佳奈お姉ちゃんの希望だったり?」
「え? 何で判ったの?」
うん、だってそんな希望を言いそうなのは佳奈お姉ちゃんくらいしかいませんよ?
ルビーさん達3人組だったらやっぱり美容絡みになると思うし、お婆ちゃん達なら何だろう? やっぱり美容関係かな? 今更頭が良くなりたいって考えるのは佳奈お姉ちゃんと、たぶんお姉ちゃん自身の希望もあるかもしれない。頑張ってるからと言って理数系が好きなわけじゃないからね。
「その効果はどうやって試すの?」
「ルビーさん達3人と佳奈と私の併せて5人で試すの。計算問題を一定数毎日解くんだけど、偽薬を飲む人が3人、作った薬を飲む人が2名でこれはお婆ちゃん達が決めてるの。それで最初と一か月後で差が出るかを比較するんだよ」
「意外にちゃんと考えてテストしてるんだ」
もっとアバウトにやってるのかと思ってたけど、ちゃんと比較検討してるのは意外だった。
「でも5人だと少なくない? もっと人を増やせなかったの?」
「うん、ルビーさん達の姉弟子さんたちは、この年になってまで計算や試験とかはしたくないって拒否された」
「判らなくも無いけど、魔女ってそれでいいの? 何か駄目そうなんだけど」
「う~ん、どうなんだろう? 魔女は経験が命って良く言ってるから良いんじゃない?」
「たぶんそれ駄目なやつだよ・・・・・・」
前世で同様にポーションだ、何だと作って来たから判るけど計量は命です。品質だけでなく、何か予測もしない変化をした理由を突き詰めるのにもしっかりと記録しないと再現できません。再現できない物は作っても意味はない、これはよく前世での師匠に私が言われた事だし、私が弟子たちに言い続けて来た事だからね。
「う~~~ん、それはそれとして、ひよりも何か作ってたでしょ? 出来たの?」
「うん、ちょっとまってて」
お姉ちゃんに聞かれて、新しい魔道具を部屋へと取りに行って自信満々にお披露目です!
「ぬふふ、見て見て! 悪意強制吸い込み機!」
敵として現れる人達は悪意をエネルギーとしている可能性があると思うのです。みんな真っ黒で見えないくらいに悪意を纏ってますからね。それをこの魔道具で強制的に引き剥がして吸い込んじゃうのです!
「ハンディー掃除機にしか見えないんだけど、それどうやって使うの?」
「あのね、ここにあるビー玉に魔力を流すと中のファンが回るの。そして吸い込んだ悪意をここのフィルターで浄化して排出するんだよ! なんと、近づかなくても安全な1メートルの長さの延長ポール付!」
これさえあれば悪意を強制的に除去出来る優れものなのです!
「1メートルって近くない?」
「むむ、言われてみれば近い? でもこれ以上長くすると吸引力が落ちるのです」
そこは要改良な部分なんですよね。私も持ってみてそう思いましたし。
「でも、呪いのアイテムとかならいけるような気がするよ?」
「う~~~ん、でもさ、それだと普通に浄化しちゃ駄目なの?」
「浄化しちゃうと駄目な物用?」
「そこで疑問形で言われても、でもどうなのかな? 今度お婆ちゃんに聞いてみようか」
何となく微妙なアイテムのような気がしてきました。この悪意を吸い込むための機構とか、浄化する為のフィルターとか結構苦戦したんだけどなあ。
私がしょんぼりしていると、お姉ちゃんが慌てたように頭を撫でてくれます。
「大丈夫、ほら、掃除機と考えなくても空気清浄機的な使い方とかありそうだよ?」
「それだと魔力があっという間に尽きそうです」
そもそも、稼働時間自体が一回の魔力フル充電で15分程しか動かせません。電気みたいに供給されるのとはやっぱり違うんです。
「そ、そうなんだ。やっぱり魔力蓄積がネックなんだね。そう考えると真ん丸ダイヤさんを作ったひよりってすごいね!」
「真ん丸ダイヤさんに自己充電機能が付けれればいいんだけどなあ、それはずっと失敗続きなの」
魔力供給の問題はこの世界に来てからずっと続く課題なのです。私が言う所の悪意もエネルギーではあるので利用できないか考えるんだけど、こちらも中々上手くいきません。
「あ、そういえばこんなのも作ったよ」
そう言って取り出したのは一見すると真っ黒なビー玉なんです。もっとも、これはフィルターを作る過程で出来た偶然の産物なのです。
「これなあに? つやつやしてて綺麗だけど」
「えっとね、悪意の結晶?」
「ふぇ?! それって安全なの?!」
「多分? フィルターで悪意を浄化しようとしてフィルターの網に使った真ん丸ダイヤを削った粉に悪意が混ざっちゃったの。粉の塗布の仕方の問題だったんだけど、混ざった悪意が掃除機内部で塊になってた」
蓋を開けた時にコロンと出て来て吃驚したんだよね。でも浄化用の粉と混ざり合ったからなのか、この玉からは澱みとかそういった悪意本来の要素が感じられないのです。
「まだ何に使えるかとか、どういった特性があるかとかは全然判ってないから要研究なんだけど、上手くすると真ん丸ダイヤさんの替わりとかにならないか期待しちゃってます」
同じ大きさの真ん丸ダイヤさんよりも魔力を込められるかテストしようとしたら、すでに魔力を帯びていて驚いたのです。何となく前世の魔石に近い感じがするので期待値は大きいのです。
「悪意って呪いとかの元だよね? 大丈夫なの?」
幾度も呪いなどの恐怖を味わったり教え込まれたりしてきたお姉ちゃんは、その塊となったこの黒いボールに対してすっごく警戒しています。お姉ちゃんは残念ながら感知系の能力が開花しなかったので、このボールと悪意の違いを感じる事が出来ないから仕方がないのですが。
「悪意とは明らかに違う物になっているから安全だとは思う。でも使い方次第の可能性は大きいし、どうやって使用していくかは今後の研究次第かな?」
ただ魔石と考えれば前世の知識が使えるので、魔道具作成の幅が広がりますよね。
「ひよりは何を作る気なの?」
「コンロとかランプとかがまずは定番なんだけど、それ作っても意味が無いよね。そうするとアイテム袋かな? ただこれも魔力がどこまで続くかだし、そう考えるとやっぱりまずは・・・・・・結界の強化に使えるかだね」
「なるほど、結界は重要だもんね」
「うん、それと合わせて結界を破壊する方の研究もしたい。魔女さん達の結界で位相をずらされて閉じ込める魔法が有るよね。あれを内側から何とかできないかの研究とか」
位相がずれると電波も意味が無くなるので連絡できなくなる。あれは結構怖い魔法だよね、そのまま他の位相に弾き飛ばしたりとかされると場合によっては致命的になる可能性がある。
「時空結界破壊装置とか、何か名前が格好良いよね?」
「・・・・・・私にはすっごく物騒に聞こえる」
お姉ちゃんにはロマンが無いのかもしれないよね。
アイテム作りに欠かせない魔石っぽい何かが誕生しました!
アミュレットとか、腕輪とか、まさにファンタジーになる・・・・・・気がしないのは何故でしょうか?
どちらかと言うと特撮方向に行きそうな、何故でしょう?