74:危機意識は大事ですよ?
誤字脱字報告ありがとうございます。
曖昧に終わってしまった家族会議ではあったんだけど、意外なことにお姉ちゃんが真剣に進路について考え始めたので意味はあったのかな? ただ、前にも言ったように普通の会社に入社とかは無理だと思うので、具体的な話は高校での進路相談などを踏まえながらになるみたい。
私はと言えば、あんな事件があったにはあったんだけど小学生最後の夏休みはどんどんと過ぎて行って、特に何もせずに終わってしまいました。
「気が付けば夏休み最後の日だったもんね」
それでも実際には中学受験へ向けた夏期講習があったり、英会話教室へ体験入学したりとイベントはあったんだけどね。
「秋の修学旅行があるでしょ? 古都と山城という定番のお寺回りだけど思い出にはなるわよ?」
「お爺ちゃん達が何か色々動いてるみたいだけど、無事に行事が終わるのかの方が不安だよ」
まさにお爺ちゃんのテリトリーへ行く訳だし、それこそお寺で歓待とかされそうで怖い。お爺ちゃんが良識のある対応をしてくれることを期待するしかないのです。
「高校は修学旅行は2年生だもんね。でも琉球と永崎は羨ましいなぁ」
「ひよりはまだ飛行機も乗った事ないからね。凄いよ~空から見た雲海がすっごく綺麗でさ、その上で雷様が寝てたんだよ! すっごく運よく見れたの」
「ふわあああ、すごい! 雷様って本当にいたんだ! 私も見てみたい!」
雷様って神様の一柱? あ、もしかして風の精霊になるのかも? ぜひ見てみたいと飛行機での旅行に憧れていると、お姉ちゃんが思いっきり噴出します。
「ひより、雷様が見れるわけないじゃない! おとぎ話とかの存在だよ?」
そういって思いっきり笑ってくれるお姉ちゃんだけど、真剣な話で居てもおかしくないように思うよ?
「お姉ちゃん、もしかしてだよ、本当に雷様はいるかもしれないよ? ただ見えない人には見えないだけで、お姉ちゃんもそういう経験してるよね?」
私の言葉に今まで笑っていたお姉ちゃんが真顔になります。
うんうん、何事も思い込みって良くないですからね。
「え? うそ、でももしかしたら」
何かぶつぶつと言い始めましたが、それは放っておいて私は私で今やっていることを終わらせましょう。
「真ん丸ダイヤさんの灰を此処に入れて、薬草を煎じた液を入れて」
何をしているかというと、化粧水を作っているのです。
我が家ではお母さんも、お姉ちゃんも私が作った化粧水を使用しています。その為に二人ともお肌すべすべのモチモチだったりします。ここで問題となったのはそんな二人を見ていて同年代の女性がどう思うかなんですよね。
「この化粧水を売り出したら凄い事になりそうだね」
「今でも大変なのに、そんな事はしませんよ?」
お姉ちゃんもこの化粧水を使用しているので、思春期特有のニキビは皆無でスベスベでモチモチです。
その為、何人かのお友達には分けてあげているそうですが、使用した人達すべてがその効果を実感してしまって定期販売の状況になっています。
「そうね、変に売り出しても怖いよね。あと薬事法とか色々と問題がありそうだし」
「うん、とりあえず知り合いに格安で配るくらいかな?」
成分検査をしたとしても特に問題となる物質なんかは出てこないと思うけど、良く判らないのは薬草なんだよね。前世ではありふれた物だったけど、こちらではどうも似て非なる存在らしいのです。ただ、今の所我が家のお庭でしか生えてないからたぶん大丈夫?
「ひより、こっちのポーションは出来たよ。あとは瓶詰するだけ」
なぜかポーション作りに昔から積極的だったお姉ちゃんも、すでにベテランの域に達しているくらいポーション作成が上手になってます。ほぼ全部が下級を脱して中級ポーションの効果があるのは最後にお姉ちゃんが愛情注入と称する治癒魔法を込めているからだと思う。ただ、あの意味の解らない恥ずかしいやり方を最後にしないといけないと思い込んでしまっているので、私は面白いから放置していたりする。
「瓶に浄化魔法使うのを忘れないでね」
「うん、気を付けるね」
慎重にポーションを詰めていく姿を見ながらも、真剣な眼差しでポーションを慎重に瓶へと注いでいた。
このポーションの売り上げは一旦は伊藤家に入るんだけど、その後に作成者が5%貰える事になっている。その為、お姉ちゃんの気合の入れ方が半端じゃなく高いです。
「入部した部活が悪かったよね」
以前は此処までひっ迫した状況では無かったんだけど、昨年入部したコスプレ部でお金が掛かりすぎてるよね。
「それは否定しない」
それでも楽しいから続けているんだろうし、私がこれ以上言う必要もないし、中等部に私が無事進学した時に巻き込まれないなら構わないと思う。
「こっちの世界の化粧水も良い物はあるんだけど、質に応じて値段が思いっきり上がるからね。それでも、市販されているものはひよりの作る化粧水に比べて悪いから問題なんだよね」
「でも、これ知っちゃった人は製造を停止するって言っても諦められないと思う」
「女性の美への執着は生半可じゃないからね。それこそ、有名人にでも知られたら怖いわ」
「常習性で麻薬みたいになりそうで怖い」
私達はそんな事を笑いながら話していたんだけど、この時思いっきりフラグが立った事に気が付いていなかった。
二学期が始まって数日後、私は家に帰ってのんびりとアイスクリームを食べていた。そうしたら、お姉ちゃんが息を切らせて学校から帰って来たの。
「ほよ? お姉ちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」
「ひ、ひより、不味いわ、バレちゃった」
「バレたって何が?」
息を切らせているお姉ちゃんを眺めながら、私はとりあえずアイスクリームを食べる事に集中する。そうしないと溶けちゃうよね?
そんな私にイラついたっぽいお姉ちゃんだったけど、走って帰ってきたみたいでまず暑さが堪えたんだと思う。冷蔵庫からコップになみなみと注いだ冷えた麦茶を持ってきてごくごくと飲み干していった。
「はあ、やっと一息付けた」
「だから、バレたって何が? 誰に?」
お姉ちゃんの慌てぶりもそうだけど、誰に何がバレたかで大きく対応が変わる。それこそ、最悪は家族そろって夜逃げもありうると思うよ? うん、いや真面目にね。
「化粧水がね、マスコミに流れたの」
「?」
そもそもの起点が判らないけど、マスコミに化粧水の件がバレたとしても左程問題は無いように思う。
状況が掴めずにキョトンとしている私を見て、思いっきりお姉ちゃんは失礼な溜息を吐いた。
「あのね、最近やたらと綺麗になった女優さんがいるの。それで、その女優さんがテレビで今自分が使っている化粧水の御蔭だって言っちゃって」
その後、もう少し詳しく聞いているとお姉ちゃんの友達の一人がその女優さんの娘さんだったらしい。
本人も学校では隠していたそうで、今回なんで判ったかと言うとその子本人がお姉ちゃんに化粧水をもう少し分けて欲しいと相談してきたからだった。
「その人と仲が良いのなら分けてあげればいいんじゃないの?」
未だによく理解できていない私は軽くそう答えたんだけど、どうもその化粧品が今や芸能界で騒がれ始めているらしい。
「うん、そうなんだけど、霧江のお母さんの芸能事務所がぜひ大量購入したいって」
「え~~~、お姉ちゃん無理だよ? そもそも家内制だし薬草の量もあるし、そもそも私達は学校もあるし勉強もだよ? お姉ちゃんだって選択肢増やすために勉強頑張るって言ってたじゃん」
「判ってるわよ、だから相談してるんでしょ」
「お姉ちゃん、逆切れ気味に言われてもどうしようもないものはどうしようもないんだよ?」
思わず素の表情になっちゃったよ。でもここまでお姉ちゃんが慌ててるけど、私にとっては何をそんなに慌ててるのかなって気持ちになる。
「あれ? そこになんでマスコミが出てくるの?」
「だから、霧江のお母さんがマスコミで話しちゃったの!」
「ん? でも、それは市販もしてないし全然問題なくない?」
「え? でもマスコミだよ?」
お姉ちゃんのマスコミに対しての警戒感とか恐怖心はやっぱり子供の時の事件から来るのかな? ただ今現在において我が家を報道するほどの勇気あるメディアはあるのでしょうか?
「うちが係わってるっていう段階で終わるよたぶん。先日の事件でうちにマスコミは来なかったでしょ?」
言われて漸く気が付いたのか、お姉ちゃんは「そういえば来なかったね」といって首を傾げました。
「え? でも、あれは何で?」
「う~んと、単純に伊藤家の背後にいる人達が怖いからだと思う」
「背後?」
「お爺ちゃんと、神主さん、あと魔女のお祖母ちゃんかな? たぶん一番怖いのは魔女のお祖母ちゃんみたいだよ? 前に結構な反撃したみたい。あと、テレビ局とかは霊的な問題とか結構あって、そういうのも関係してるのかな?」
とにかくマスコミは大丈夫としても、フリーの人までは判んないけどね。
「問題は化粧水だね。う~ん、今度魔女のお祖母ちゃんの所で作れないか聞きに行ってみる? お祖母ちゃんの所で作れるなら大喜びして販売始めそう」
「うん、わかった。そしたら佳奈に聞いてみるね。ひより、巻き込んでごめんね」
「化粧水くらいなら平気だよ。何が誰にバレたのかって焦っちゃったもん」
私の言葉にお姉ちゃんは首を傾げているけど、ポーションのみならず自分の治癒魔法とかもっと大変なことがあるのを忘れているのだろうか?
「お姉ちゃん、お父さん達が帰ってきたらもう一度危機管理のお勉強をしましょうね!」
私は満面の笑みでお姉ちゃんに再勉強を突き付けたのでした。
いつの間にかマスコミさんは押さえ込まれていました!
何気に魔女のお祖母ちゃんは凄い存在なのです。
あと、化粧水を馬鹿にしてはいけませんよ?
ニキビが出来ない、肌が回復するなんて化粧水があったら・・・・・・