72:ふふふ、私達の敵ではありません事よ?
誤字脱字報告ありがとうございます。
黒い染みがゆっくりとした動きで大きくなってくる。
「距離的な錯覚なんだろうけど、ゆっくりした速度の様で実際は相当速い?」
「目に見えて大きくなっていくから、多分早いのだと思う」
恐らくは呪を防ぎながらも最速で移動をしているのかな?
「突入した警察はどうしたんだろ?」
「警察で何とかなる相手だったら苦労はしないと思う?」
魔導師に対して一般の兵士が相手になるかと言えば無理だよね。それこそ消耗戦で数倍処でない被害を出せば何とかなるかもだけど、それはそれで問題になるんだろうな。
「一般の人向け対魔法装備とかは無いのかな?」
「ありますよ? ただ使いこなせるかは別ですが」
神主さんがそう言ってお札を翳します。
「お札ですか? 実に興味深いです」
神主さんの手にするお札を見ますが、特に強い魔力が感じられたりはしません。
これも研究対象なんですよね。特に陰陽師なんて前世の常識から考えれば有り得ない存在です。
「ひより嬢の使うビー玉などもそうですよね? もっとも、漫画などのような装備をイメージしているとすると無いですが」
「ほ、ほ、ほ、能力者を倒すのは遠距離からの狙撃、毒殺などが主流じゃのう。常時防御を発動できる者など稀じゃからな」
うちの真ん丸ダイヤさんはその点常時防御ですね。ただ、結界を展開するまでのタイムラグがあるから狙撃はもしかすると危険かも。
「どうやら相手は車で移動しているようですね。車であればある程度の防御策を施す事も出来ますか」
神主さんが何処かからの連絡を受けて私達に状況を教えてくれました。
「しかし、何となく胡散臭いですね。何か簡単すぎませんか?」
その後の情報を聞きながら神主さんが難しい顔をしているのは決して良い事ではないのかな? 思わずお爺ちゃんの表情を見ると、お爺ちゃんは相変わらず穏やかな表情をしていた。
「さての、まずは警察の敷いたバリケードをどう突破するかじゃが、映像を後で見たいものじゃのう」
「お爺ちゃん思いっきり楽しんでない?」
「だね、でも相手の正体って結局は判ったの?」
警察が踏み込んだのなら何か情報が有るはず? 先程から漏れ聞こえてくる情報においては残念ながらそれっぽい話は無かったよね。
「外国人と思われる者が3名確認されたらしいですね。もっとも、その3人共に逃げられたようですが」
「その3人とも車でこっちに向かって来てるの?」
「ええ、3人とも一緒に向かって来ているみたいですね」
という事で、外国人という点からも聖女教とみて間違いないんじゃないかなと。
「結構近づいて来たね」
黒い塊は次第に大きくなり、今では軽く家一軒くらいなら飲み込みそうな大きさになっている。
しかし、あの黒い塊はお爺ちゃんの呪なのか、それともその3人が纏っている物なのかの判断が出来ない。
「お爺ちゃん、お爺ちゃんの呪って私の結界に当たったらどうなるんだろ?」
「・・・・・・ふむ、どうなるかのう?」
「あれってもしかするとそれを狙ってない?」
何となくそんな事をふと思った。でも、結界を通り抜けて発動しているから大丈夫なんだろうか?
既に呪として成り立っちゃった後だから反発するのだろうか?
「どうやら車を捨てたようですね」
逐次入って来る連絡で相手の動きは把握できる。ただ動きを止める事は出来ていないみたい。
「そろそろ来るのう」
「そろそろ来ちゃいますね」
「来るわね」
お爺ちゃん、私、そしてお姉ちゃんの呟きが零れる。
そんな私達の前では真っ黒な呪を纏った塊が目の前に来ているのが見えていた。
ビリビリビリ・・・・・・
一番大外に張られた結界にぶつかったのか、周囲の空気が軋む様な何とも言えない振動が伝わってくる。
ただ幸いな事に結界が破られた様子はない。一番大外に張られているのは私の結界だから、簡単に突破されたらちょっとショックだったと思う。
「壁が邪魔で姿の確認が出来んのが失敗じゃのう」
上を見れば黒い塊が何処まで来ているか判るけど、お寺を囲う塀のせいで相手を見る事は出来ないんだよね。ただ、今もビリビリと振動が続いている事で、どうもお爺ちゃんの呪が結界に阻まれているような気はする。そして、凄い勢いで黒い塊が小さくなっているように見えた。
「反発しておるのう。これは予想外じゃったわい」
「お爺ちゃんの呪自体は強い物じゃないし、相手を見つけられたなら結果オーライじゃない?」
「お姉ちゃんすごい! そうだよね。相手が特定できたと考えれば良いんだ」
相手がどういう人なのかを特定できたのか私には解らないんだけど、とにかく今目の前にいるだろう3人は記録に残るんだろう。
「呪が消えたの」
そう言うお爺ちゃんだけど、途中からお弟子さん達も真言を唱えるのは止めていたし、私の結界は浄化型だから返りは無いので安全です?
「ビリビリした感じも無くなったね」
結界はまだ維持されている。こうなるとあの3人はどういう行動へと移るのか注意が必要だね。
「既に周囲をうちの者と賢徳僧正の所の者で囲んでいます。これで逃げられたら私達は当分の間は笑い物ですね」
「神主さん、それってフラグって言うんだよ?」
そんな神主さんの言葉が切っ掛けかどうかは判らないけど、前方で明らかに争いが起こったみたいです。
ただフラグは無事に折られたのか、数分後には私達の前に縄でぐるぐる巻きにされた外人さんが3人いました。
「お爺ちゃん、この人達が襲撃事件の首謀者ですか?」
「うむ、間違いないの」
そこは術者ゆえでしょうか、お爺ちゃんはきっぱりと断言します。自分の術を疑うなんて有り得ませんからね。
「貴方達はどこの所属か話していただけますか? ちなみに、術の発動は阻害させていただいています」
神主さんがそう話しますが、相手は黙り込んだままです。
「この場所を真っすぐ目指したことからも、そして隠れ家にしていた場所からも証拠は集まってきているのですが、ダンマリですか?」
それでも、3人ともが此方を見る事も無く、地面を見たままで黙り込んでいます。
我が家の家族は未だに注連縄に囲われた場所でジッとしているのですが、相手は最初からそんな私達を見ようともしませんね。何を考えているのか全然判りません。
「これは困りましたね。急いで照会を掛けていますが、もう少しすれば貴方方の公式な身元もはっきりします。それくらいご自身で申告してはどうですか?」
神主さんは引き続き問いかけていますが、それでも相手は黙り込んだままです。
私は彼らの中にある魔力を見ようと視線を向けます。その魔力量でだいたいの力量が判ります。
すると、そもそもにおいて能力者と呼べるほどの魔力を持ているのは一人だけで有る事が判りました。もっとも、他の2名も魔力自体は持っているのですが、私から言わせると見習いと言った所です。
「お爺ちゃん、この人達がもう二度と魔法を使えなくする事が出来るけどどうする?」
魔力を体内に蓄積させる事、これ自体も才能に左右されますが肝心なのは魔力回路です。
そしてこの魔力回路なんですが、実は一度焼き切れるとまず回復しません。この為、前世でも重い犯罪を犯した者達の魔力回路は焼き切られますね。ただ、それを補う道具なども発明された事により鼬ごっこみたいでした。
「ふむ、それは金田の時のようにかな?」
「う~んと、大筋は間違っていませんよ?」
私とお爺ちゃんの会話が聞こえたのであろうか、漸く男の一人が顔を上げ此方を睨みつけて来た。
「魔女の系譜に連なる者までが我らを邪魔するか!」
ちなみに私はとんがり帽子の魔女っ娘、お姉ちゃんはアニメの魔女っ娘の恰好をしています。一応お父さんとお母さんにも認識阻害のアイテムを持たせてますよ。顔を知られないならそれに越したことはないのです。
「魔女の系譜で馬鹿をする人もいますから、止めないと此方にまで要らぬ被害が来ますものね」
そう言って思いっきり挑発的な眼差しを送りますが、認識阻害だと判るのでしょうか?
「この国では各々上手く住み分けて暮らしている。余計な者達が荒らしに来られると迷惑なのですよ」
「そうじゃのう、そもそも聖女という偶像に縋るなど他力本願ここに極まれりじゃのう」
お爺ちゃんも言いますね。ただ、本当にその通りだと思うのです。
ただ男はそうは思わないみたいで、それこそ視線だけで殺せそうな眼差しでお爺ちゃんを睨みつけます。
「聖女はこの世を浄化する神が遣わした救いなのだ!」
「馬鹿じゃないの?」
激高した男がそう叫ぶのですが、私は思わず素でそう反論しちゃいました。
「神は私達を救ってはくれないですよ? あくまでも自分を救うのは自分です。神はその存在によって道標になるだけですよ?」
世の中と言うのは生まれる前から不平等です。生家、容姿、才能、他人との不平等を上げれば切りがないですよね。ユーステリア神教では不平等を認めていますし、肯定しています。それでいて神の教えは私達に生きる術を、生きる為の知恵や経験を、そして神の心を教えています。だから私は魔導士でありながらもユーステリア神教の信者でもあるのです。
「貴様ら神を語るな! 邪教徒どもが!」
「うん、話にならないね。そもそも貴方達の方が遥かに邪教徒だと思う」
私はそう告げると共に、男へと魔法を発動しました。
「こういう人に魔法を使わせちゃ駄目。狂人に刃物を持たすような物だよ」
「あああああああああああ」
体の中に構築されている魔力回路を焼き切っていく。
前世で幾度も行った作業だけど、決して慣れる事は無いなあ。
そんな事を思いながらも順番に3人の魔力回路が破壊された。
自分には経験は無いけど、体の中から焼かれるような想像を絶する痛みを伴うらしい。そして、一度焼かれた魔力回路は年月が過ぎようと治る事は無い。それこそ上位の治癒魔法でも使わないとね。
「これは・・・・・・凄いですね、魔力が感じられない。魔術が使えなくなったのですか?」
「うん、魔力を使う為の回路が破壊されたからね」
痛みが限界を超えたのか、男達は目の前で失神していた。ただ、この魔法を使えなくされたという情報が広まれば、私達家族に手を出そうとする人達がいなくなると嬉しいんだけど。
「ひよりちゃんや、後は儂らに任せて構わんよ」
「そうですね、みなさんお疲れさまでした」
お爺ちゃんと神主さんが私達に深々と頭を下げる。多分この二人が頭を下げた事も、色んな意味を含んでいるんだろうな。
「ひより、帰ろうか」
「うん、お母さん、お姉ちゃん帰ろ」
私がそう言って手近にいたお母さんの手を取ると、お母さんの両目からポロポロと涙が流れ始める。
「お、お母さんどうしたの、何かあったの!」
「え? お母さん!」
私も、お姉ちゃんも慌ててお母さんへとしがみ付く。お姉ちゃんもお母さんの顔を見ながら心配そうに手を取った。そんな私達にぎこちなくお母さんは笑顔を浮かべ、膝を折って私を抱きしめる。
「ひよりちゃん、ひよりちゃんが・・・・・・」
お母さんにとって先程までの情景はそれほどまでにショックだったのだろうか?
もしかしたら、私の事に何か、そんな思いが私の中で少しづつ膨れ上がり始めた時、お母さんは思いを漸く口にしてくれた。
「ひよりちゃんが、小春よりお母さんを優先してくれたよ~~~。いつもいつも小春の次だったのにぃ」
「「「・・・・・・」」」
あまりに予想外の発言に、みんなが思いっきり黙り込んでしまった。
でも、あれ? そうだっけ? でもさお母さん、お姉ちゃんに嫉妬してどうするの?
感想返しがまったく出来て無くて申し訳ありません。m(_ _)m
どこかで一気に感想返しをと思ってる間に、どんどん増えてありがたいのですが焦りも感じたり・・・・・
土日を除いた毎日投稿で時間に追われていて><
感想はちゃんと読んでいます!
どこかで感想返ししますので、それまでお待ちください><