71:お爺ちゃんの実力?
誤字脱字報告ありがとうございます。
お爺ちゃんが何か自信有り気に帰った後、私は私で正体不明の敵に対する対策の研究を始めます。
今の私には思いつかなくとも、このような状況のヒントがきっと何処かにあると信じて私はじっと見続けるのです。
「ひより、あのさ、ヒントを見つける為の資料が昔のアニメってお姉ちゃんはどうなのかと思うんだけど」
私の横で一緒にテレビを見ているお姉ちゃんが疑問を口にするのです。
でも、私はこの世界に来て多くの物をアニメから身につけ、人の持つ発想力、想像力のすごさを実感したのです。
「魔法とはイメージなのです!」
「えっと、それもアニメでの知識だよね。ひよりはそのシリーズ好きだけど、見るアニメが古すぎない?」
なんと! お姉ちゃんがこのシリーズの発想力の凄さに気がついていなかったとは!
「お姉ちゃん、このアニメは凄いんだよ! 魔法なんて無い中でこんな発想が出るなんて凄いんだよ!」
「え? でも、このシリーズって魔法じゃ無くない? どちらかと言うとトンデモ科学だよ?」
「なんと!」
言われてみると確かに魔法では無いですね。
「科学とはここまで凄いのですね。結構この毎シリーズ出てくる人達お気に入りだったんですが」
「いや、その認識間違ってるから! ていうか気に入ってるの魔法でもないし!似てるけど別人だし!」
お姉ちゃんに根底を崩された私は、お父さん秘蔵の段ボールから新たなDVDを取り出したのですが。
「はぁ、ひより? そっち参考にしたらルビーさん達と被るよ?」
「むぅ、それも拙いですね」
キャラ被りは拙いですね。ただ、もう一個の箱は魔法少女は出て来ても敵らしい敵が出てこないです。
「何を参考にすれば良いのでしょうか・・・・・・」
「だからアニメを参考にするのはどうかと思うよ!」
「そうすると実写なのです? 実写って驚かせたりするのが好きじゃないのです」
先日お姉ちゃんと見た映画も思いっきり驚かそうという意図がありすぎて驚いた瞬間に思わずテレビを壊しそうになりました。あれは子供が見る物じゃないのです。
「やっぱり陰陽師とか良いのです。似たような感じで出来ないでしょうか?」
「前に断念してなかった? ひよりは式神とか使いたいのよね?」
「うん、実際の動物を使うのは何かあった時に可愛そうなのです。でも式神ならって思うんですが、そもそも神なんですよね」
「文字を呪文にしてとかじゃ出来ないの?」
「動くための魔力はどうするのです? ビー玉みたいに溜めれないですよ?」
「う~~~ん、そこはほら、空中に漂っているのを使うとか」
「漫画なんかにあるマナです? そもそもあるのかなあ、私が言う悪意は思いっきり漂ってるんだけど、あの悪意を使うの前に失敗しているのです」
悪意を使おうとすると爆発するのですよね。あと、溶けちゃったりしたのもありました。
「それこそひよりが悪意だって思ってるからとかない? イメージなんでしょ?」
考え込んでいると、お姉ちゃんから思わぬ発言が飛び出てきました。
「悪意と思ってるから? でも人の悪意から生まれるんだよ?」
悪意について考えますが、あれが動物に溜まると魔物になるんだよね。でも、この世界には魔物はいないのは何で? あれ? 悪意は悪意じゃない?
思考の迷宮に嵌まってしまいました。
前世知識の根底を覆すような発想で、思考停止している間に早くもお爺ちゃんの準備が整ったようで、家族みんなで家の傍にあるお寺へと移動しました。
「昔はこんなに立派なお寺はなかったわよね」
「5年くらい前に改築したそうだ」
お父さん達がお寺の門をくぐって驚きの声を上げるほどにしっかりしたお寺です。
そして、そのお寺の境内では櫓が組まれているのが見えます。
「今日の舞台なんだろうけど、凄いね。何か圧倒されちゃう」
お姉ちゃんが目の前に準備されている様子を見て、顔を引き攣らせていました。
そして今、目の前では炎が高らかに登り、その炎をお姉ちゃんを含む伊藤家みんなでじっと見つめているのです。燃え盛る炎の熱が顔に伝わり、この真夏の暑さと相俟って汗が額どころか全身に湧き出ている気がするのです。
「オン・アビラウンケンソバカ・・・・」
お爺ちゃんが唱える真言と呼ばれる呪文が周囲に響き渡り、お弟子さん達が燃え盛る祭壇に又木の棒のようなものを放り込みます。
「これ、夏にやるもんじゃないわ」
私の横にいるお姉ちゃんがそんな事を呟きますが、伊藤家の面々は注連縄で囲われた場所から出る事が出来ないので思いっきり暑いのです。
「ひより、これも魔法なの?」
「う~ん、魔法なんだと思うけど良く判んない。でも、何となく効果は読み取れるから勉強にはなるかな」
前世ではない魔法は実に面白いですね。目に魔力を纏わせて術式を読み取ろうとするのですが、どちらかというと精霊魔法に近いのか魔法式らしきものが読み取れないんですよね。
「日ノ本は古来から言霊といって言葉を重視した魔法があるからなあ。賢徳僧正の法力も恐らく言霊による力なのかもしれないね」
私の疑問が聞こえたのか、お父さんがそんな事を教えてくれた。
「それにしても迫力あるわね」
お爺さんの周りをコの字型にお弟子さん達が座り、お爺さんと同様に真言を唱え、その声がお爺さんの声に重なり合って周囲を覆う。こんな言い方をしてはいけないのかもしれないけど思いっきり恰好が良いです。
「こういう所は勝てそうにありませんね」
思わず前世の魔法と比べてしまいます。もっとも、あちらはそれこそ生活に密着していたとも言えますし、儀式魔法は発展しませんでしたからね。一部の宮廷魔法師達が研究していたくらいで、私はその行使を見た事がありません。
「うわぁ、何か怖い顔した神様? の姿が見える」
恐らくこの怖い顔の神様が今回お爺ちゃんが使っている魔法の胆なんだろうな。
ユーステリア様をこの世界に降臨していただく魔法なんて考えもつかないし、その為の魔力は計り知れないと思うので多分神様じゃ無く精霊なのかもしれない。
「おおお、派手だね」
祭壇で轟々と燃え盛る炎が一際強く炎を立ち上げた瞬間、お爺ちゃん達の呪文が終わりました。
「ほ、ほ、ほ、いやはや、歳は取りたくない物じゃな」
祭壇の前で真言を唱えていたお爺ちゃんが、そう言って仰向けに引っ繰り返りました。
「お爺ちゃん!」
注連縄で囲われた所からもう出ても良いのか判断がつかなくて、私は声を上げる事しかできないのです。ただ、お爺ちゃんからいつも感じる魔力が、今はすっごく少なくなっているのが判りました。
「ほ、ほ、ほ、夏にやるもんじゃないわい」
うん、お爺ちゃんも同意見だったみたいですね。
お爺ちゃんが正装? の姿を始めて見ましたけど、普段の怪しい雰囲気が逆に見事にマッチしてすっごく雰囲気が出ています。日頃のお爺ちゃんと比較すると200パーセントは恰好が良いですね。
「お爺ちゃん、すっごく格好良いです」
「ほ、ほ、ほ、照れるのう」
そう言って笑うお爺ちゃんですが、お弟子さんに飲み物を渡され一気に飲み干します。
「お爺ちゃん、それでどうなったの? 実は良く判っていないんだけど」
そもそも、今回の目的は敵を特定する為の物みたいです。
「弟子達が今必死に呪いの行方を追っておるでの。無事に呪もかかったようじゃ、後は相手の反応待ちじゃの」
そもそも相手を特定せずに呪いを掛けるのは非常に難しいらしいです。本来は相手の体の一部や持ち物などを使用するらしいのですが、今回はそれを使用していない為に魔力を大量に使う割には強い呪いなどは出来ないそうです。
「もっとも相手を特定する事に限ればそれでも問題は無いですからね。ただ、呪い返しには警戒しないといけませんが」
そう言ってお爺さんの後ろから現れたのは神主さんです。なんでも、儀式中のお爺さんは結構無防備になるそうなので、その警護の一端を担っているらしいのです。
「呪い返しの更なる返しも担っていますよ?」
「何か返しの返しって限が無さそう」
私もお姉ちゃんの言葉に思いっきり頷きます。
「それをすればするほど相手は正体を現す事になるから、まずやってこないと思うんだけどね。一応は警戒しておかないと」
「なんで返しをしてこないのです?」
「ああ、呪いは返すほどに威力が倍になる。そして返すのに魔力がいるからね。本当に敵が聖女教であるなら返さずに浄化を選ぶだろうね」
「あれ? そうするといつも悪意を浄化をしている私達は相手に反撃していない事になるの?」
「呪いの場合だったらそうなるね。ただ伊藤家の場合は本人の魂レベルで浄化した事もあるから、あれは何とも」
そう言って苦笑を浮かべる神主さんだけど、相手によって対応は変えないといけないとは。今後も要勉強ですね。
そうこうしている間にも、どうやら動きがあったみたいです。見るからにお坊さんじゃないよね? という人達が慌ただしく連絡を取り始めました。
「ふむ、どうやら居場所を特定出来たようじゃな。敵地の真っ只中でどういう反応を返してくるかのう」
「今までは正体が掴めなかった故に優位に立てていましたが、バレてしまえば一気に情勢は不利になりますからね」
「それで引っ込む者共ではなかろうがの」
お爺ちゃんと神主さんが何やら話していますが、今までのほんわか空気が霧散しちゃってます。
「ところで、私達はまだこの囲いの中にいた方が良いの?」
この時も我が家のメンバーは全員が注連縄で囲われた場所で座っていました。
「うむ、もう少しまって貰えるかの、相手に的を絞らせたくないでな」
やはりこれも認識阻害の結界の様です。中々興味深い結界ですね。
これで一段落したのかと思っていると、今度はお爺ちゃんの所のお弟子さん達が何やら真言を唱え始めました。次々と木の板っぽいものがくべられて炎がまた高く登ります。
「あれはの、送り付けた呪をより強化維持しておるのじゃ。呪が届いた手応えはあったでの、そこから手繰るのじゃが相手も生半可ではないでの」
お爺さんが笑いながら指さす遥か先の空に、何か黒い染みのような物が見えました。
「あ、何か此方へと来ますね」
「あの距離で見えるという事は相当大きくないですか?」
家族みんなが黒い染みに気が付いたようです。それにしても、何か今までと毛色が違いますか?
「もしかして呪を返されたのですか?」
「ほ、ほ、ほ、返されんように踏ん張っておるんじゃ。相手は浄化では無く返しを選んだようじゃが、そこまでの余裕があるかのう?」
珍しくお父さんが心配そうにお爺さんに問いかけますが、お爺さんはどうやらこの後の展開を予測しているみたいです。
「お爺ちゃん、油断は禁物なのですよ?」
「なになに、場所さえわかれば動きようもあるわい」
この余裕が何となく不安を呼びますが、その後の報告で相手の拠点に警察が突入したみたいです。
「令状とか良いのですか?」
「そこら辺は何とでもなると思います。そもそも相手は白では無いですから」
「うん、知りたくない現実がまた増えたね」
政治とか、貴族とか、権力という物を振りかざす相手は昔から相性が良くなかったんですよね。
もっとも、私達魔導師も同様に善良とはとても言えない存在ではありましたけどね。
「あ、染みが動いたね。もしかしてこっち来るかな?」
「ふむ、なるほど。呪が手ごわいから直接呪術者を狙いに来ますか」
どうやらこれから最終決戦が始まるみたいです。
ひより:「サブタイトル詐欺ですねぇ、見ている私達は凄いと思うのですが、文章では全然伝わってないですよ?
小 春:「え? う~ん、そもそも目に見えないから、私も良く判ってなかったりする」
ひより:「・・・・・・お爺ちゃん哀れ、最終決戦頑張るんだよ!」
小 春:「絶対にまともな最終決戦にならないと思うけどね」