68:お家に帰るまでが遠足です
誤字脱字報告ありがとうございます。
あの男達を撃退してしばらく経ったら携帯が使用できるようになりました。
何か妨害電波が出る機械が設置されていたみたいです。
「でも、何か魔法使いとかと全然違うね。魔法使わないし、武器もスタンロッドだっけ? 結局は電気だよね?」
お姉ちゃんがそう言って首を傾げます。
私とお爺ちゃんも初動が遅れた理由の一つが魔法を感知しなかった点があるのです。廊下で騒いでるなとは思ったんだけど、酔っ払ってる人とかいればこんな物なのかなと油断してしまいました。
「今回の男達は3人とも能力者ではなかったわ」
桜花さんが言うには、そもそも魔力を体内に持っていない一般人?
体を鍛えてはいるそうですが、それでも一般人の枠内で私の警護をしている親衛隊とどっこいどっこいらしいです。
「比較が微妙過ぎて判断がつかないわね」
お姉ちゃんも困惑していますね。でも、確かに微妙かも。
「それで? お姉ちゃんが目的なのは判るけど、お姉ちゃんの関係者を人質にとるし相当質が悪いよ?」
こういった可能性も有り得るかと結界の解除はお姉ちゃんでは出来ないようにしていました。
そうしないと、お姉ちゃんは絶対に結界を解いちゃいますからね。
「尋問中だが、恐らく雇われじゃのう。残念ながら雇い主の情報は望み薄じゃのう」
「もっとも、あの男達が所属している組織はきっちり潰させて貰うけどね。そうしないと第二、第三の連中が出て来るわ。手を出すには採算が合わないと理解して貰わないとね」
桜花さんっていう魔女のお姉さんが結構悪どい笑顔を浮かべてるんだけど、そこはお任せかな。お爺ちゃんも何かするだろうし、ご冥福をお祈りしておくのです。
「まあ聖女教でほぼ間違いは無いと思うのだが、肝心の聖女教の動向が伺えないのが厳しい」
知らないオジサンがそう言って会話に入って来ますけど、誰でしょうか?
私が不思議そうにそのオジサンを眺めていると、そんな私を見てお姉ちゃんが溜息を吐きました。
「ひより、その人は警察官の竹内さんだよ。覚えてない?」
「ふむ、覚えていません!」
思い切って言い切りました。うん、嘘はいけませんから素直に答えます。
そもそもオジサンは守備範囲外なのですよ?
「思いっきり声に出ているからね」
「なんと!」
素直すぎる自分に驚いてしまいます。
「今回の件は誘拐未遂、暴行未遂などの犯罪になります。警察としましても以前の事件以降において伊藤家に関する対策窓口を設けております。もっとも、私ともう1名の合計2名しかおりませんが」
う~ん、よく覚えてないのですが、あの頭のおかしい人を止めようとしてた人かな?
ただ、これは栄転なのでしょうか? 何となく左遷臭が思いっきり漂ってくるのは気のせいですよね?
「しかし、こうなってくると家族だけでなくその周囲にも危険が及びますよ? 家族を人質に取られて小春ちゃんを呼び出したり、小春ちゃんじゃなくても妹さんをとか、危険の範囲が広すぎですよね?」
桜花さんが今後の危険性を訴えてくるのですが、だからと言って効果的な対処法というと難しいですよ?
「そうじゃのう、ちと聖女教を見誤っておったかのう」
「う~~ん、名前に聖女があるのに行動が酷すぎるのです。何が聖女? て思っちゃいますよ?」
「ひよりじゃないけど私もそう思う。そもそも、私が聖女だとしてだよ、誘拐して、脅迫してで言う事聞くと思ってるの? 最初は我慢しても、絶対に隙を見て反撃するよ?」
お姉ちゃんの言葉に全面的に賛成なのです。
「そうね、普通はそうなんだけど。確保できれば洗脳なりなんなり出来ると思っているんじゃない? その発想もあながち否定できないから怖いけどね」
「そうじゃのう。現にそういう例は結構あるでのう」
桜花さんの言葉に、お爺ちゃんも同意します。
でも、それってお姉ちゃんを甘く見ている気はするのです。あと、私の事も同様ですね。
「むぅ、出来ればこの夏休みにケリをつけたいのです。このまま学校が始まると面倒なことになりそうなのです」
中々尻尾を見せない聖女教ですが、こうやって明確に敵として出てきた以上放置は不可能なのです。
「師匠とかにも連絡は入れているけど、聖女教のメンバーって通り名しか伝わってないから。容姿とかも不明らしいし結構厳しそうだよ?」
「標的がお姉ちゃんになっているのも気に入りません!」
私であればまだ対処できる事も多いのですが、お姉ちゃんは基本的に浄化と治癒特化ですからね。
「さてさて、神道系からも情報は無いでの、すでに数名は日ノ本に入り込んでいると思うのじゃが、それすら把握出来ておらんからのう」
「相手がどういう人物か、何らかの写真等がなければ我々も調べようがありません」
警察も当てにならないみたいです。もっとも、最初から当てにはしていませんけどね。
「占いとかでズバっと見つけるとか出来ないの?」
お姉ちゃんが突然そんな事を言いました。
「そんな占いがあったら凄いわね」
「そうじゃのう」
お爺さん達の反応からどうやら無理っぽいですね。
「よく本とかで占いを武器にしているのとかあるよ? 出来ないの?」
この世界の魔法は実に不思議な発展をしています。だからあっても良さそうな気はするのです。
「う~ん、ほら、ルビーはこの質問に答えれる?」
部屋の隅にある小さなテーブルで鞄から勉強道具を取り出して勉強していたルビーさんが、慌ててこちらを見ます。うん、このお姉さんさっきから我関せずで勉強しているんだよね。まあ大学生だって言ってたからね。
「え、あ、占いですか? えっと、未来における事象の確定は分岐が多岐に渡るため成しえないでしたっけ?」
「うん、そうだね。時間軸において過去はすでに確定している。だから過去を占う事は比較的容易いんだけど、確定していない未来は無理なの。直近における高い確率の未来を見る事はまだ不可能ではないって研究をしている人知ってるけど、それでも確率は70%くらいだって言ってたかな?」
「うん、判るようで判らない!」
私は素直なのです。
「過去は判るのだったら過去における犯人の特定とかは出来るの? それなら犯罪検挙率もっと良いと思うんだけど」
素朴な疑問です。未解決事件も多いですし、早く解決して欲しい、してあげて欲しい事件も結構あります。
「出来なくはないとは思うがの。サイコメトリーなどと呼ばれる能力者などもそうじゃろうが、実際どうなのかは儂でもわからんでのう」
「だね、そもそも自分の能力をはっきりと言う者なんかいないから。下手すると命に係わる」
成程、ただ納得できるような出来ないような。ただ自分の身に置き換えてみると何となく理解できます。
「そっか、治癒魔法を簡単に使えないのと一緒なんだ」
この世界では魔法は日常ではないし、科学で証明されたものでもないもんね。で、この世界の人は科学で証明されていないものを信じないからね。
「そうじゃのう。それにの、聖女教は今の所は一切の魔法を使用しておらんの。魔法の痕跡は発見されやすいで使用しておらんのじゃろう」
「魔法を使えばだいたいの居場所がばれるからね」
お爺ちゃんと桜花さんの言葉に思わず首を傾げます。
「ほ、ほ、ほ、そうじゃの、簡単に言うとなぜ儂らが伊藤家に気が付いたか判るかの。毛色は違うがそこに超常があったからじゃ」
「えっと、浄化と結界?」
私の言葉にお爺ちゃんは頷きました。
「他に比べて瘴気が薄い場所がある。その中心で結界が確認された。これはの、古来より張り巡らされた草達の報告じゃ。日ノ本は古来より超常が残る地じゃから至る所に力は無いが超常を感じる事が出来る者が居る」
お爺ちゃんがそう言って笑いますが、それって結構怖い事ですよ。
至る所に生きた魔法探知機が設置されているのも同然じゃないですか!
「この国は無駄に歴史が古いからねぇ、師匠達もこの国に来た時に驚いたみたいだよ」
「ほ、ほ、ほ」
そう言って笑うお爺ちゃんだけど、そう考えれば考えるほどにその優秀な探知網を潜り抜けている聖女教は油断がならないのかもしれないのです。
「でも体内に魔力があるから、うちの傍でそれを見つければいいんだと思う?」
そうだよね、そもそも前世に使用していた魔力探知は魔物だけでなく人にも有効だった。もっともメジャーすぎて対策されるから対人の場合は魔力を隠す魔法と探知の魔法でイタチごっこだったけど。
「それにしても、一般人を巻き込んでくるとは思わなかったね」
「え? 姉弟子、それって今更です。伊藤家に対し犯罪者とはいえ一般人を使ったのは警察が先です」
「そういえばそうか」
「1回だけでなくって2回もだよね。ましてや、その頃のひよりはまだこんなに小さかったのに!」
お姉ちゃん、それだとたぶん3歳くらいだと思いますよ?
ベットの端に座ったお姉ちゃんが、恐らく私の身長を現しているんだと思いますがすっごく低い位置を示しています。
「しかしのう、伊藤家全員の周辺も警戒せねばならんしキリがないのう」
「結局のところそこに話が戻りますね」
現状嬉しくはありませんが相手に主導権があります。
「次の行動を予測出来ませんか?」
「そうねえ、言えるのはお家に帰るまでが遠足って事かな?」
桜花さんの表情で、冗談を言っているのではない事をしりました。
「そっか、まだ襲ってくる可能性があるのかあ」
非常に厄介なのです。
小 春:「何か話が進まなくなった?」
ひより:「うん、説明回みたいになってるよね」
小 春:「きっとね、登場人物が多すぎて困ってるんだよ」
ひより:「でもさ、まだ敵の姿すら見えてないよ?」
小 春:「たぶんね、名前が決まらないんだと思う!」
作 者:「・・・・・・」