65:20歳未満の飲酒は絶対ダメですよ
誤字脱字報告ありがとうございます。
販売していた本も無事に完売しました。そのおかげで帰りの荷物は激減して大喜び、掛かった経費も勿論回収できたので部員一同満面の笑顔です。
「今回は冊数増やしたのに3時には完売したからすっごく嬉しい!」
大学部で文芸部の部長をしている清水先輩がすっごく喜んでいます。もちろん佳奈の大先輩で、しかもこの清水先輩が中等部に入学した時からお祭り参加を始めたそうで、ある意味最古参といえる人です。
「あの頃はね、持ってった本が殆ど売れずに持って帰ったんだよね。帰りの荷物の重さ以上に心に来たね。もう敗残兵みたいなもんだったよ」
そう語る清水先輩はその時の事を思い出しているんだろうけど、表情はすっごく優しい笑顔です。
「毎回お酒が入ると出る話だからね、もう何回聞かされたやら」
座敷の隅で佳奈がそう呟きますが、確かに私も既に3回目です。ただ、それでも話したくなるくらいに色んな思いがあるんでしょう。
「あの時のお前はマジで泣いてたじゃないか」
そう言ってチャチャを入れるのは風間先輩、車の運転が有るからと私が参加した過去2回もお酒を飲まなかったんですが、どうも元々お酒が飲めない体質なんだそうです。
「20歳以下の人は絶対にお酒は駄目だからね! 下手すれば停学、場合によっては退学も有り得るからね」
そう言って厳しく指示するのは木村先輩で、お酒組とノンアルコール組ではしっかりとテーブルが分けられています。
「毎回思うけど、始まるまではすっごく忙しくて大変で、でも終わると何かあっという間に終わっちゃったって思うね」
「だな、サンプル本提出の期限前はヤバかった。まあ毎回だけどな」
「印刷所もこの時期は急いでお願いしないと間に合わないとかあるから、最初の頃はそれば焦ったよね」
飲酒組の方は過去の苦労話が飛び出しているけどこれも毎度の事。
でも誰もが楽しそうに話しているのはやっぱりこのお祭りが好きなんだろう。
「はあ、これで苦行が終わった。今回は平穏だった」
「なぁに? 前はそんなに大変だったの?」
しみじみと呟く私に、なぜかノンアルコールテーブル側にいる桜花さんがニヤニヤ笑いながら問いかけて来た。
「あ、はい。まだ3回しか参加してないんですが、昨年夏は訳が判らなくて戸惑っている間に、冬は思いっきり寒さに負けました。みんな何であんなに元気なのか」
実際はもっと色々とそれこそ語れば長くなるのですがオブラートに包んで当たり障りなく、そうしないと周りのメンバーからの突込みやらが凄くなるのは経験で判ってます。
「まあ小春ちゃんは可愛いし、コスプレしてると人気も出るだろうから」
「あ、それはあんまり無かったと思います」
実際に昨年夏は囲まれたりと大変でしたが、その大半が親衛隊の人達でした。まああの親衛隊の人達のあまりの熱気と、夏の日差しと暑さで気分が悪くなったんですけどね。
みんなで和気あいあいと食事をしている。
その中でもやはり魔女の花園サークルから参加してくれている5名の人気は凄まじく、普段は小春の傍にいる佳奈なんかウィンディーネさんの横に貼りついている。
「あ、そういえばうちの妹も今日帝都に来ているそうです。急遽決まったので同じホテルに泊まろうとしたけど無理だったってメールが来てました」
一気に影が薄くなってしまった感のあるレッドさん改めルビーさんにそう告げると、ルビーさんはルビーさんでどうやらひよりの警護でグリーンさんご一緒しているそうでそっちからメールが来ていたらしい。
「あっちは高級ホテルだし、夕食も多分高級なんでしょうね、いいなあ」
「何よ其れ、高級、高級って意外と高級だって思って食べてるだけとかあるんだからね!」
桜花さんはそう言いますが、それはどうなんでしょうか?
「まあ、私達が高級な物食べても判らないとかは普通にありそうですね」
実際に、高級な物と言われないと気が付かない自信はあります。だから普通の食事で十分ですし、私って実は鶏肉が一番好きなんですよね、牛や豚ではなく。
「ねぇねぇ、小春ちゃんも今度こそはもう少しセクシー系で攻めてみない?」
私の背後から突然木村先輩が抱き着いてきてとんでもない発言をします。
「次はそもそも冬だから無理です!」
「よし! 冬も小春ちゃんは参戦で確定しましたよ~」
「「「「「お~~~~」」」」」
「え? 何ですか? え?」
私が周りの反応に戸惑っていると、佳奈が横までやって来て私の肩を叩きました。
「うんうん、小春もだんだん染まって来たね」
訳が判らない私はそのまま周りをキョロキョロしていましたが、会話は跳ぶように移って行って結局何が何だか判らないまま打ち上げは終了したのでした。
「よし、ホテルまで帰るよ!」
「キャンピングカーで移動組はこっちに来て」
徒歩で10分くらいの場所にあるホテルなのでキャンピングカーをホテルに置いての合流でも良いのですが、どの道お酒が飲めないからと風間先輩は毎年酔い過ぎたメンバーをホテルまで送迎する為に打ち上げ会場までキャンピングカーを持って来ています。
「あれ、絶対にキャンピングカーがあるから自重せずに飲んでるよねえ」
毎回酔いつぶれる人は決まっているのでキャンピングカーに乗る人も自ずと決まっています。
健全な私達は徒歩で勝手知ったるホテルへと向かいました。
「あれ? もしかして魔女の花園の人達も同じホテルなんですか?」
てっきりお店の前で解散すると思っていた魔女の花園のメンバーが、私達と連れ立って移動する。
その事に疑問を持った私が尋ねると、ルビーさんが同じホテルを予約していた事を知った。
「どうせ誰かが護衛しないといけないし、どうせなら同じホテルにした方が便利でしょ? 皆さんの泊まるホテルは判っていましたから同じに予約しました」
成程、うん、別に何の疑問も無いですね。それこそ情報は筒抜けだっただろうし。私達が言わなくても、この人達が調べようと思えばすぐに判る事でしょう。
「それに、今は私が小春だからね」
耳打ちするように桜花さんが私に囁きます。
ただ、わざわざこの場でそう言ってくるという事は、たぶんそういう事なんでしょう。
「他の人を巻き込みたくないんですけど」
不安になった私が桜花さんにそう告げると、桜花さんは笑って有り得ないと否定してくれます。
「流石にこのメンバーがいる所を襲撃する勇気は無いと思うよ? 私達5人だけでも大変だけど、それ以外にも」
そう言って笑う桜花さんですが、残念ながら私には他にどういう人が警護してくれているのかハッキリとは判りません。まあ、後ろからぞろぞろとついてくる10人くらいの大きなお友達集団。見知った顔が数人いますから間違いなく親衛隊なんでしょうが。
「目立ちますもんね、あの集団」
「え? あ、あははははは、うん、目立つ、目立つね!」
目に涙を浮かべて笑い出す桜花さんですが、何か変な事を私は言ったのかな?
ただ、何となくうちの親衛隊は数に入れられてないのを感じました。
駄目じゃん親衛隊、まあ元々はマスコミとか一般人用だからしかたがないけどね。
「ところで、実は魔女っ娘とかに興味が有ったりしない?」
「ふぇ!? あ、無いです! 全然ないです!」
「そっかぁ、コスプレするくらいだからもしかしたらって期待したんだけど、残念」
そう言ってわざとらしく肩を落とす桜花さんだけど、まあ半分は冗談だと思う。というか、冗談であって欲しい。ルビーさんの視線が後ろからビシビシ感じるような気がするけど、感知系の能力の無い私だから気のせいだ。
「それにしても、しつこいね~」
「え?」
「ああ、小春ちゃんに言ったんじゃないよ。ほら、会場に来た変な連中、会場からずっと追いかけて来てるね」
慌てて周囲をそれとなく伺う。
でも誰かに見張られているような感じは無い。
「さて、賢徳の爺さんの所が動いてるみたいなんだけど、ちょっと相手が上かな。あたしらからするとすっごい未熟、下手するとうちのドジっ子3人娘より酷いかな。ただ師匠が出張ると厄介だし、う~ん、ルビー、どう? いっとく?」
「ドジっ子3人娘って、姉弟子の年齢がバレますよそのセンス? ただ私一人では無理です。下手しなくても負ける自信があります」
ルビーさんの言葉に桜花さんは思いっきり溜息を吐きました。
「会場で名前を偽ったけど、そもそもそれが通じてるかも怪しいわね。まあ魔女が5人いて早々出し抜かれたりはしないから安心してね」
「姉弟子、それフラグじゃ無いと良いですね?」
私達より後ろに位置しているからなのか、ルビーさんが思いっきり桜花さんにチャチャを入れてます。
ただ、本当にフラグにはなって欲しくないなあ。
「ちょっと妹にも連絡を入れておきます。確かお爺ちゃんと一緒だったと思うので」
「うん、まあ賢徳の爺さんならとっくに動き出していると思うけどね。あの爺さんもうちの師匠と一緒で人外みたいな所があるから」
そう言いながらもさっきから桜花さんは胸元のペンダントを弄っているのが気になります。
「まあ今仕掛けてくる事は無いと思うから安心して良いよ」
笑顔を浮かべる桜花さんに、私は頼りない笑顔しか返す事が出来ません。ただ、私も用心をした方が良いのでしょう。でも、自衛用のブレスレットとか渡されていますが自動防衛の為に私がするのは心構えだけなんです。
佳 奈:「気のせいか私の影が薄くない?」
小 春:「え? そう? それ以上濃いと困らない?」
佳 奈:「でも、ここ最近は私の活躍シーンが何にもない!」
小 春:「・・・・・・ここ最近どころか今まででもあった?」