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64:お祭りにスーツで来る人は怪しい人です

誤字脱字報告ありがとうございます。

 午後休憩をとるために第一陣と交代した私は、コスプレしたままでブースでもそもそと御握りを食べています。その合間にも同人誌が売れていくのですが、私はその情景をただ眺めているだけです。


「午前中でだいぶ掃けたから、何とか完売出来そうだね」


 私の横で一緒に御握りを食べていた佳奈が残りの冊数を見ながら言う。


「先輩たちのコスプレしての呼び込みが良かったの?」


「うん、出だしはいつも悪いんだけどね。大手や人気のとこ、あとは企業ブースにまずみんな向かうから、その後で漸く常連さんとかが来てくれるんだけど、今年は去年より冊数増やしたから出来るだけ早めに仕掛けないと怖かったんだよね」


 まあ売り上げで自腹金額が変わるんだから、売れる売れないは死活問題なんでしょう。


「小春も慣れて来た? もう3回目だし、そろそろ知り合いのレイヤーさんとかも増えてきた?」


「うん、毎回とも同じような場所に陣取るから、何人かの人とは顔見知りにはなったよ。でも本名なのか、コスプレ名なのか判んないし、どの道このお祭りに来ないと会わないから」


 さすがに連絡先の交換をした人は皆無ですね。


「あ、でもレイヤーなのかは微妙だけど、小春ちゃんはさっき魔女さんの所の桜花さんと連絡先交換してなかった?」


 同じく休憩に入っていた木村先輩が会話に入ってきました。

 その内容に、佳奈が思いっきり興奮します。


「うそ! 桜花さんってあの桜花さん? なんで! すごいじゃん!」


「え? そうなの? あ、ほら前に話したレッドさんが桜花さんの関係者だったの。それで紹介されたんだけど、レッドさんの知り合いが出店してるのは知ってたけどそんなに有名な人とは知らなかった」


 はっきり言って未だに私は何がどう凄いのかは判らない。ただ、本物の小説家さんや漫画家さんがいるという時点で凄いサークルなんだなと思うくらい。


「うう、紹介して欲しいけど失礼になるよね、あああ、何で小春と一緒に行動しなかったんだろう」


 過去の自分に対して後悔真っ盛りの佳奈に対し、木村先輩は非情にも止めを刺していく。


「ぬふふん、か~なちゃん、これ見てごらん?」


 そう言って木村先輩が差し出したのは携帯端末。私からは見えないけど恐らくは先程の魔女さんの所でツーショット写真を撮ってたから、たぶんその写真を見せているのだろう。


「これね、ウィンディーネさん、ほら、百合小説で有名な」


「え? うそ! フェイクじゃないですよね木村先輩!?」


「ウィンディーネさんって魔女の花園のメンバーだったの。紹介された時には思わず意識が飛びそうになったわ」


 あ、木村先輩が仲良く話をしてたショートのスレンダー美女さんが小説家さんだったのか。やり取りでそんな推測は出来るけど、佳奈の悔しがり方がそれはもう凄い。


「佳奈ちゃんはファンだったもんね~」


 ただ、その会話に現在売り子をしている先輩や後輩も参入してきて大騒ぎになっている。

 そんな騒動で売り子が足りなくなってるので、私は売り子の手伝いを始めます。


「あ、はい、こっちは一冊500円になります。そっちは1000円です」


 値段は2種類、それぞれ値段によって置くテーブルを分けて計算をしやすくしています。


「あ、小春ちゃん、そこの紙袋取って」


「あ、はい、どうぞ」


 お金はこまめに集めて紙袋に入れます。そして、管理用の金庫で保管します。結構人の出入りも激しいので、お金の管理には特に注意が必要です。


「やっほ~、小春ちゃん、もう広場へは行かないの?」


 そんな中、突然私は声を掛けられ顔を上げたんですが、そこには思いっきりコスプレした桜花さんが立っていました。


「うわ! 桜花さん、その格好というか化粧というか凄いです! 何歳か若返って見えます!」


 目の前にいたのはセーラー服をベースにした何かのアニメキャラなんだと思いますが、私にはそのアニメが何かちょっとわかりません。ただ、それ以上にインパクトがすごいのは、エクステンダーで髪をロングにした桜花さんのナチュラルメイク?


「それどうやってるんです? どっからどう見ても女子高生にしか見えないですよ!」


「ぬふふ~、コスプレ道は険しいのよ?」


 意味の解らない返答をする桜花さんですが、桜花さんの登場で佳奈が更に暴走・・・・・・あれ? 背後が静まり返っています。


「あ、そっから中へどうぞ、入っちゃってください」


 桜花さんをブース内に案内すると同時に背後へと視線を向けると、佳奈だけでなく先輩達も全員がそれこそ口をぽか~~んとあけて桜花さんを見ていました。


「すっごいです! それって八王国伝記ヒロインの陽菜ですよね! うわ、剣を持たせたい!」


「かっこかわいいです! すごいです!」


「凄い完成度ですね! うわぁ、思わず見とれちゃいました。でも、惜しむらくはセーラー服をもっと擦り切れた感じにしたい」


 うん、どうやら他の面々はキャラクターが誰か一目で判ったみたいです。その完成度に絶句してたんですね。


「ふふふ~~ん、まあね、伊達にレイヤーを長くやってないわ!」


 その後、桜花さんを佳奈に紹介したらまた何か感激して涙まで浮かべてましたよ。で、またもや後ろでは撮影会が行われていました。


 そんな中でも接客は必要で、私は仕方がなく後ろの騒動から逃げるように接客をしています。


「え? はぁ、あの・・・・・・」


 何だろ? 隣で接客していた高等部の朋美先輩が先程までと違う様子な為にそちらを見ると、スーツを着た40歳くらいの男の人が3人も立っていました。しかも、売り物の本を持っていないのでお客ではなさそう?


「すみません、個人情報なので答える気はありません」


 段々と朋美先輩の声に厳しさが出てきます。後ろで休憩していた面々も、朋美先輩の変化に気が付いたのか前に出てきました。


「どうした? 何かトラブルか?」


 大学部の加藤先輩が朋美先輩の横に立って相手のおじさんを警戒した眼差しで見返します。

 加藤先輩はレイヤーなんですが、コスプレのために筋トレしてる変わり者で、ぱっと見はマッチョさんです。本人曰く喧嘩なんてしたことが無い平和主義だそうですが、こういう時には安心感があります。


「ああ、そんなに警戒されると困ってしまうな。知人の娘さんが今日こちらにいると聞いて顔を見せに来ただけなんですよ。伊藤小春さんなのですが、お見えになりますか?」


 本当に何でもないような柔らかい笑顔を浮かべるおじさんですが、あのお父さんが私の事を知らない誰かにこのお祭りに参加する事を言うとは思えません。ついでに、親衛隊の人達は人達でおそらく何処かからこの様子を警戒していると思います。あまりに会場の人達と同化しすぎて誰が親衛隊の人か判んなくなっちゃってますが。


「ですから、その様な者が居るかもお答えする気はありませんし、個人情報なので「あたしが伊藤小春ですが、何方様ですか?」お答えって、え?」


 朋美先輩も恐らく違和感を感じているのか強い口調で返事をしていると、後ろのブースからセーラー服の桜花さんが前に出てきてトンデモ発言をしました。


「う~ん、お父さんから誰かが訪ねてくるって聞いてないし、おじさんたち誰? お父さんに連絡してみるけど」


 そう言って桜花さんは携帯を手にして思いっきりスーツの3人組を睨みつける。


「おや、なるほど。あなたが小春さんですか、私はジャン・ローレンという者です。なるほど、なるほど」


「思いっきり似合わない名前ですね? 日ノ本の人じゃないんですか? あと、何がなるほどなのか判らないですが?」


 見た目が明らかに日ノ本の人、なのに名前は思いっきり外人なので胡散臭さ倍増です。

 周りにいた先輩達もどうやら桜花さんの話に合わせるようで、加藤先輩も桜花さんの前に立ち塞がるように位置取りを変えました。


「いえいえ、ただ近くに寄りましたのでご面識を得られればと思ったまでで、お邪魔なようですので失礼させていただきます。小春さん、それではまた」


 怪しいおじさん達は桜花さんを見るのみで、私達には一切視線を注がずにさっさと去っていきました。


「何よあれ! 塩があるなら塩を撒きたいくらいだわ! 誰かお塩持ってない!?」


 接客していた朋美先輩が大激怒しています。


「流石にお塩はないですよ。でもすっごい嫌な感じだったね」


「そうだな、あれ絶対変だぞ? 運営に報告してくるわ」


 そういうと、加藤先輩は運営のブースへと走っていきました。

 私は矢面に立ってくれた桜花さんにお礼を言います。


「桜花さん、ありがとうございます。本当なら私が名乗り出ないといけないのに」


「ふふふ、逆よ、私が居て良かったわ、ああいう時は小春ちゃんは絶対に名乗り出ちゃいけないの」


「そうよね、でもそうすると小春の名前呼びもヤバそう? どっかで聞かれたら怖いし、これから紅葉って呼ぶわ」


 相変わらず佳奈が変なことを言い出しますが、周りの先輩達も一斉に同意するのには参ります。


「それくらいの用心はしないとね。あと、私の事は小春って呼んで」


 語尾にハートでも付いているのかと思うくらいに甘い声を出す桜花さんに、漸くみんなの表情に笑顔が生まれました。


「ちょっとうちの連中にしばらくは此処にいるって連絡入れておくね」


 桜花さんはそう言ってブースの端っこに行って電話を掛け始めました。


「うんうん、そう、・・・・・・、一応師匠にはそっちから連絡入れて、しっかし、ここで来るか。まあ会場全体が色んな結界で覆われてるから誰が聖女か特定が出来ずに直接動いたんだろうけど、まあ結果よしだね」


 何か所々漏れてくる声に思わず耳を澄ませてしまいますが、その度に此方を向いて良い笑顔をくださるので聞いてませんのパフォーマンスをしてしまいます。


「よっし、それじゃあ今日はこの後は私も鳳凰さんの所に常駐することになったからね。あ、あと終わったら打ち上げはするの?」


「あ、はい。宿泊してるホテルの傍のお店ですが予約入れています」


「そっか、そこに私も参加して平気? あと出来れば他にもうちのメンバー追加で3名ほどお願いしたいんだけど、ちなみに許可が出ればウィンディーネも来るよ?」


 うん、その後は阿鼻叫喚? その後広場にいたコスプレメンバーも戻って来て再度大騒ぎです。

 打ち上げのメンバー4名追加ですか? 勿論何とかしましたとも。

もっと濃いお祭りなのだと思うのですが、その濃さを出すとそれはそれでなのであっさり風味になっちゃいました。

ただ、あの会場で普通のサラリーマンが居たら変ですよね? でも、思いっきり大きなお友達の格好で来られてもそれはそれで・・・・・・

ただ、思いのほか桜花さんがレギュラー化しそうな勢いで、レッドさん?いましたねそんな人(ぇ


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔女やコスプレと魔女キャラ増加が連続で、異世界との魔法比較が一人称で研究されるとこが面白くて読んでたからすっかり置いてかれてしまったので、一旦離れますー、ありがとうこざいました。
[良い点] 世界最大規模の感じはあまりしないですけど、 都市部の大規模イベントの感じは出てますよ。 世界最大規模の方はワリと背広姿の人が居るそうですよ。 警察・消防・自衛隊・政府関係とか、 出版社や…
[一言] スーツ……うん。たしかにアレですね。 スーツで行ってもOKそうな催しというと、たぶん日本SF大会とかかな……行ったことないけども。
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