63:お祭りでの出会い
誤字脱字報告ありがとうございます。
魔女さん達との邂逅とルビーさんのゴタゴタで肝心のコスプレ会場へと辿り着いた時には開場からすでに2時間が過ぎていました。
「木村先輩、他の皆が見当たらないんですけど」
木村先輩と私、ルビーさん、そしてなぜか桜花さんの4人のメンバーで会場に来たのは良いのですが、当初聞いていた位置には誰もいません。
「あちゃ、多分だけど休憩に戻ったかも。炎天下だと適度に休憩取らないと死ねるから」
「すれ違いですか。でも此処まで誰にも会いませんでしたよ?」
着替えをする場所は決められてますし、荷物番の1、2年生もいました。休憩するなら交代するはずなのですれ違っていても可笑しくないと思うのですが。
「多分だけどさ、コスプレしたまま休憩してるんだよ。もしかしたら会場に入ってるというか、ブースに戻っているかも?」
毎年の事ですが、用意した販売品を完売させる為にコスプレしての集客は恒例となっています。ただ、例年より早いと思うのですが、もしかすると売れ行きが悪いのかもしれません。
「ブースに引き上げたんだったら着替え室の荷物はキャンピングカーへ移動させるだろうし、一、二年が直ぐにコスプレして来るからそれまでは4人で楽しみましょう」
そう話しながらも、流石は常連の木村先輩です。知り合いのコスプレイヤーの人達へと声を掛けます。
「あ、鳳凰さんとこの人ですよね。ここどうぞ~、さっきまで可憐ちゃんとかアレクサンダーさんとか居たんだけどブース戻るんで後続来たら宜しくって頼まれてたの」
当初の予定地点でポーズをとっていた水色ツインテのアニメヒロインの恰好をしたお姉さんが木村先輩を見て手を振ってくれます。
「良かった、知り合いが周りにいないとちょっと不安だったから」
「こっちこそ遅くなってしまってすいません。もうじき後続がまだ来ると思うんで」
マナーの悪いカメコさん対策は何と言っても仲間内で固まる事です。一応、運営が巡回してくれていますけど、グレーゾーンも多いし自衛しないとな事は多いのがコスプレイヤーなんですよね。もっとも、仲良くなったカメコさんとかが多いと、その人達も注意してくれるので兎に角場数を踏んでいる人が強いのかな?
「暑いです。何でこんな炎天下で暑い思いをしてまでコスプレしないとならないのでしょうか?」
「馬鹿ねぇ、冬よりはマシよ!」
ルビーさんと桜花さんがそんな話をしていますが、私はどっちもどっちだと思います。
ひよりだったら集まってくる人の悪意が見えるので、問題も格段に下がるのかもしれない。そんな事を思いながらも一応事前に勉強したアニメの代表的なポーズを取ったりする。未だに慣れなくて思いっきり恥ずかしいのだけど、木村先輩曰くそれが良いのだと言う。相変わらず判らない方が良い世界だ。
「先輩、お待たせしました~」
一、二年生が漸くやって来たので場所を空けて広場の端っこで周囲を見渡していると、私の横に桜花さんがやって来て腰を下ろした。
「ふふふ、すごいよね。ここだけまるで現実じゃないみたい」
「そうですね。ある意味、究極の現実逃避なのかもしれないですね」
それだけこの世界は歪んでいるのだろうか? 社会に出たわけでは無い私だけど、自分は今生きていると実感できる事が非常に少なく感じる。取り留めのない幻想のような世界に感じる時もあれば、非常に脆い砂上の楼閣のように感じる事もある。ただ共通して思うのは、生きるんだという明確な意思を持っている人は皆無に等しい。こんな事を思うようになったのは、きっとひよりの影響を受けたからなんだろう。
「はぁ、私は平穏な生涯を過ごす事が出来るんだろうか?」
「う~ん、平穏かぁ」
桜花さんはそう言って苦笑を浮かべた。
外見に似合わない苦笑だな、思わずそんな事を思う。20代の女性が浮かべてはいけないような、色んな思いが詰まった、それでいて目が離せなくなるようなそんな苦笑があるんだ。
「小春ちゃんは私達が魔女だって知ってるよね」
「はい、一応ですが」
「私達のルーツはやっぱり欧州にあるんだよね。でもね、魔女って一括りにされてるけど、根っこは結構バラバラなんだよ。ただ昔から薬草とかに詳しい人や、それこそ薬師だった人、ドルイドやシャーマンと呼ばれた独自の民族に由来する者達、あと権力者や宗教関係者に無理やり魔女とされた人だったりね。時の権力者や宗教によって印象操作されて、魔女と言えば邪悪だって決めつけられ、苦しい時代が長く続いたんだよね」
桜花さんが突然魔女の歴史を語り始めて、私は戸惑いながらも話を聞いている。ただ、この会話の意図がわからないから。
「でもね、そんな魔女でも幸せになりたいんだよ? 中には恨みに凝り固まった者もいるし、色んな事から逃げちゃったものもいる。でもね、自分達の事を誇りに思いながらも幸せに暮らせる場所をずっと探し続けている魔女達もいるんだ。そしてね、そんな魔女の一部が100年位前にこの日ノ本に来たの。不思議な国だった、勿論この国でも差別は有った。でもね、魔女だからっていう迫害は無かったの。何故か判る?」
「え? えっと、戦前の話ですよね? というか、その頃の日ノ本人って魔女の概念あったんですか? 知らない気がしますけど」
「そう! そうなんだよね! あとね、この国は宗教的なことに寛容だったの。勿論この国だって宗教で争ったりしてきた歴史があるけど、神仏習合なんて私達には思いもつかない発想だよ! その後、この国に住み着いた魔女達はね、漸く安住の地を作ることが出来たの。知ってる? 魔女と聞いてこの国の人が思い浮かべるのは邪悪じゃないんだよ?」
桜花さんがそれこそ満面の笑みを浮かべる。
その桜花さんの横で、私は魔女と言われて思い浮かべるイメージを考えてみる。
「そうですね、魔女って言われて浮かべるのは美人とか美魔女、あとは魔女っ娘とか、アニメや漫画のイメージが強いですね。それと、猫の使い魔とか?」
「うんうん、私達がこの国に来て行ったのが、まさにその印象操作なんだ。魔女は邪悪じゃないよ! セクシーでボンキュッボンのお姉さんだったり、ちょっとドジな美少女だったり、そうやって頑張ってこの世界に魔女という存在が無害だよって広めてきたの。だからね、あっちの魔女に今更この国で好き勝手にさせない、邪悪なイメージを作らせたりしない。その為には、布教活動だって惜しまないんだよ!?」
どうも魔女でも自分達は良い魔女なんだよという事なのかな? ただ、その布教活動のために今もこの年に二回行われるお祭りは重要な存在なのだそうです。というか私達が考える魔女のイメージって魔女さん達が作ったの? その方が怖いんだけど。
「魔女の中にはプロの小説家や漫画家もいるからね。うちのサークルにも勿論いるよ、文ちゃんはファンだったみたいでさっき大喜びしてたよ」
ニコニコと笑う桜花さんを見て、この人が実は魔女だと思う人はいないだろうな。そんな感想を抱きながらも、そろそろ休憩が終わりそうなので再度一、二年生と交代するために腰を上げた。
「あ、あとね。一応伝えておくけど、この場所には似たような境遇の者達も集まってるから、もしかしたら声を掛けられるかもしれないけど注意してね。ルビーに警護させるけど、中には面倒な連中もいるから」
「えっと、面倒な連中っていうと例えばどんな?」
「う~ん、簡単な所で行くと妖怪? あの人達ってそれこそこの国に古来からいる種族だし、小春ちゃんに興味はあるみたいだけど害はないと思う・・・・・・たぶん?」
「妖怪もいるのかぁ」
思わず空を見上げてしまったのは仕方がないと思う。ただ、この時思いっきりフラグを立てちゃったみたいなんですよね。後になって判ったんだけど、獣系の妖怪は特に耳が良い。
「あらあら、妾の事を噂してましたの?」
突然背後から掛けられた声に、思わず飛び上がってから振り返る。するとそこには、ある意味コスプレイヤーらしい露出度の高い衣装を纏ったお狐さまがいました。っていうかそれ本物ですか? と言いたくなるほどの巨乳さんで思わず2、3歩後退ったのは仕方がない事かと。
「別に玉藻さんの話をしてた訳じゃないんだけどね」
桜花さんは知り合いの様で、この露出過多のお狐様に気軽に声を掛ける。ただ、私は思わず顔を真っ赤にして視線を泳がせている。
「桜花殿は今年はコスプレはしないのかの?」
「うん、今年はルビーちゃんがしてるよ、ほらあそこでカメコに囲まれてる」
桜花さんが指さす先には、まさに男装の麗人と言った格好のルビーさんがいます。ただ、あまり写真を撮られるのに慣れていないのか顔は思いっきり引き攣っていますが。
「おや? あれは駄目じゃ。手抜きはいかんぞ?」
「ごめ~~ん、急遽決めたんで幻影で誤魔化したんだけど、流石に玉藻さんにはバレるか」
「ふむ、うちで良ければ空いている衣装がないではないが、まああの者では着こなせぬか」
「まさかそれって去年の荼枳尼天? それだったら絶対に無理だよ、ルビーちゃんじゃ妖艶さがぜんぜん足りないわ」
「うむ、ただの露出の多いお姉さんで終わりそうだ。精進が足らんなあ」
二人は私そっちのけでルビーさんを酷評しているけど、ルビーさんだって美人さんだと思います。ただ、妖艶かと言われると、それはないなあと私も思うけどいい意味で清潔感があるからであって。
頭の中で二人の会話を聞きながらルビーさんを弁護していた。そうしたら、いつの間にか二人の会話は終わっていて二人の視線が私に注がれていた。
「成程の、確かに聖女教が狙いたくなるのが判る。しかし、ここまでの天然物が生まれるとは、ほんに世の中は不思議に溢れておるの」
「だよね、だから楽しくなっちゃう。たださ、このお祭りを理解していない無粋な輩がちょっかい掛けてきてお祭りが潰れるのは困るから玉藻さんも協力してくれない?」
「ふむ、そんな馬鹿がいるのか? 今この場にちょっかいを掛けて無事に済むとは思わないのだが?」
「それが判ると良いんだけど、そこまで読めるかなぁ? そもそも、聖女教って歴史も薄ければ能力も大したことないし、やる事は馬鹿で過激だけど」
「とにかく他の者にも気を付けるように言っておこう。ではの、天然の」
そう私に声を掛けたらさっさと広場の中央へと進んでいきました。
「すごいですね・・・・・・あの胸」
「あ~~~、うん、あれは反則的な存在だからね。っていうか玉藻さんに会って最初の感想がそれって小春ちゃんも大物だなぁ」
桜花さんの言葉に首を傾げるのですが、桜花さん曰く存在感が段違いなので畏縮しちゃうのが普通らしいです。
「このお祭りの間とはいえ玉藻さんが味方に付いたのは大きい! 拗ねるととことん面倒な人だから。あと影響力が凄いからその点も助かったね。さて、あれは小春ちゃんとこの人達じゃない?」
桜花さんが指さす方向を見ると第一陣の先輩達が此方へと向かってくるのが判りました。
書きたい事が上手く文字にならないまま迷走中です><