62:年二回のお祭りです。
誤字脱字報告ありがとうございます。
「うわぁ、すっごい人だよね」
某会場に向かう人の波を見ながら、思わず感想が出るのは仕方が無いと思う。
「暑さ対策しないと死ねるよ? 唯でさえ暑いのに、この人混みだからさ」
帽子を被って凍らせたドリンクを持っているけど、なぜこんな苦行を毎年しないといけないのだろうか? 絶対にこの人達って頭がおかしいと思う。
「佳奈はもう会場に入ったって、出展者サイドは卑怯だよね~」
うちの文芸部はなぜか代々このイベントに出展しているらしい。というか、高等部、大学部、更にはOG、OBを含めて結構な人数が動員されているらしい。うちって本当に名門校なんだろうかと疑問に思う。
「まあ中等部は良いように扱き使われるらしいから一長一短かもね。その点、うちはみんな仲が良いですよね~雪先輩」
私達は私達で一集団を築いているんですが、同じく高等部や大学部に進んだ先輩達が参加しています。私も昨年に初顔合わせしているので、昨年3年生だった先輩を軸にすでに洗礼は受けています。
「小春ちゃんは夏の本格参戦は今年からよね。熱中症だけは気をつけるのよ」
昨年3年生だった早乙女雪先輩が声を掛けてくれますが、白のお嬢様風ワンピースに麦わら帽子、思いっきり普段着でも狙っている恰好なんだけど、横に置いてあるキャリーケースが異彩を放っています。
「先輩、凄い荷物ですね」
「あ、嵩はあるけど軽いのよ? 衣装の型崩れしないようにしてるせいでごっつくなっちゃって」
そう言ってキャリーケースを持ち上げますが、結構な重さな気がします。
「夏はみんなもまだ衣装が軽いから良いのよね、冬だととんでもない人がいるしね」
「夏は夏で逆の意味でとんでもない人いるけどね」
みんながワイワイと話し始めます。同じホテルに宿泊だったので、それこそ昨日の夜から大騒ぎしてたんだけど、その割にはみんな元気だよね。
着替えは大学部の先輩がキャンピングカーを持ってて、そこで着替える事が出来るのと、トイレがあるのです。その点は楽なはずなんですが、開場してからは結局ゴチャゴチャになっちゃうんですよね。ただ、仲間内で集まるので、カメコ対策にもなってる所は安心・・・・・・出来たらいいなぁ。
「暑い~~~、真面目に暑いわ」
扇子を仰いでいると、漸く会場が開いたのか人の流れが動き出した。整然と進むのは日ノ本人の良い所ではあるよね。ただ入口入ってからは怒涛のように目的の場所へと駆けていくから凄いけどね。
「佳奈達のブースはどこだっけ?」
会場の地図を見て確認するけど、まだ初心者の域を脱しない私には良く判らない。その為、比較的長身で目立つ雪先輩に貼りついていく予定なんだよね。
「雪先輩はダッシュとかしませんよね?」
「そうね、流石にこの格好でダッシュは無理ね。今年はジャンケンで勝ったから、買い付けは他のメンバーがやってくれるの」
確かに昨年の冬は、思いっきりスポーティーな格好でしたもんね。ダッシュ班とそうでない人との格好でのギャップが酷いですよね。幸いにして私は部員とはいえお客様扱いの為、買い付け班には組み込まれません。そもそも、何を買って良いかが判らないからです。
「一応マップはしっかり持ってるのよ。中で波に攫われたらあっという間にはぐれるからね」
過去に参加した2回とも思いっきり迷子になりました。携帯があるからと思ってたんだけど、なぜか繋がりが悪いんです。そのせいで初めて来たときは泣きそうになったのを覚えています。
その後、私は無事に佳奈達のブースへと辿り着きはしたんですが、すでに汗が額から流れてて青息吐息になっていました。
「小春、もう第一陣は着替えに行ったよ~」
「え? もう? でも、先輩達は?」
いつもキャンピングカーを持って来てくれる風間先輩の姿を今日は見ていません。その中で着替えに行くという事は、会場指定の部屋を使うのでしょうか? 戸惑う私に大学部の木村文先輩が声を掛けてくれました。
「風間君は暫くは物資調達で飛び回ってるから、鍵は借りてるから。場所判らないでしょ? ついてきて」
おっとり系のお嬢様タイプの木村先輩なんですが、この人もコスプレするんですよね。ここ最近は縦ロールの某小説のドジっ子悪役令嬢に嵌まっているそうです。思いっきり登場人物に成りきる所とか、人の持つ闇の深さを感じさせますよね。
木村先輩に連れられてキャンピングカーへと向かう途中、真正面からどっかで見た人が手に紙を持ちながらぶつぶつ呟いて歩いて来るので思わず立ち止まって凝視してしまいました。
「最重要の物は手に入ったから、あとは出てればだし、一度ベースに戻ろうかな。はぁ、時給に釣られたとはいえまさか此処に来る事になるなんて・・・・・・」
う~ん、お化粧していないからちょっと自信が無いけど、あれってレッドさんだよね? そういえば、魔女の人達が出店サイドにいるってひよりが言ってたっけ?
「あの、レッドさんですよね?」
目の前をこちらに気が付かずに通り過ぎようとするので、ついレッドさんの肩を叩きました。先日我が家にブルーさんと二人で来られたので面識はあるし、声を掛けないのは失礼ですよね。
「ふぇ! え? 何!?」
突然声を掛けたから、思いっきり吃驚されました。しかも、私を見るより先に被っている帽子で慌てて顔を隠そうとしてるんですが?
「あ。あああ、小春ちゃんだったっけ? ああ吃驚した。誰か知り合いに会っちゃったかと思ったわ」
「ほぼすっぴんですよね?でもすっぴんでもお綺麗ですよ?」
眉とかは流石に綺麗に書いています。でもそれ以外はナチュラルメイクすらしていないのは、この暑さのせいですね。化粧なんて汗であっというまに崩れておかしくないです。
「う~ん、ありがとう。そっか、小春ちゃんも来てたんだ。そう言えばコスプレ部だっけ? これから着替えに行くの?」
「いえ、一応は被服部なんですが」
非常に不本意なんですが、否定しきれないのが悲しい。ただ一緒にいた木村先輩を紹介したら、木村先輩が何やら興奮し始めた。
「え? このブースって、魔女の花園さんの所ですよね!? すごいです! 午前中完売確定の有名どころじゃないですか!」
「魔女って・・・・・・名前くらい隠そうよ」
思わず小声でそう言ってしまいましたが、どうやら魔女さんの所は有名どころらしいです。
「良ければ寄ってく?」
この一言で事態は思わぬ展開を迎えました。なんと、木村先輩が暴走し始めた。
「ぜひ、あ、うちは毎年鳳凰というサークルで参加してます!」
木村先輩がレッドさんと連れ立って魔女さんのブースへと移動を開始しますが、私は必死に追従します。人混みが凄くって油断すると見失いそうになります。
「せ、先輩、寄り道して良いんですか!?」
出来れば行きたくない私は木村先輩を引き留めようとしますが、どうやら魔女さんの所は是非お知合いになっておきたい所だったようで一蹴されました。
「あああ、何で声掛けちゃったんだろう」
先程の行動を思いっきり後悔していると、どうやら私の呟きが聞こえたのかレッドさんが苦笑を浮かべながら振り向きました。
「小春ちゃん大丈夫だって、お祭りの間は姉弟子達も機嫌が良いから厄介事は無いよ。騒動起こして出禁にされたくないから大人しいし心配ないって」
レッドさんの言葉に、僅かな希望を胸に魔女さん達のブースに辿り着きます。
「うわ、すごい広いです。しかも壁際ですよ! 確か壁って凄いんですよね?」
「うん、壁サーは大手の象徴だからね。それに広さもうちとは大違い」
私の言葉に木村先輩が答えてくれますが、広さもそうですがそれ以外の展示とか、壁に作られた垂れ幕とか、完成度が全然違います。まるで企業ブースみたいです。
「おかえり~、頼んでた物は買えた?」
魔女さんのブースにいた一人が、レッドさんに気が付いたのか声を掛けて来た。どうやらレッドさんの手にした紙袋の中身を確認したいようで手招きしている。ブース内に入っていくレッドさんはともかく、私達はどうすれば良いのかと戸惑っていたら、レッドさんに手招きされたのでブースの中へとお邪魔する事にしました。
「あれ? この子達は?」
「桜花さん、こっちが伊藤小春ちゃんで、あと小春ちゃんの先輩の木村文ちゃん。どっちも鳳凰ってサークルでブース出してるんだって」
「おお、どうもどうも、魔女の花園の桜花です。伊藤小春ちゃんっていうとあの小春ちゃんかな?」
「あのの意味が判らないですけど、多分その小春です」
「お~~~、どうもどうも」
両手を握ってぶんぶんとされますが、この人どう見ても20歳前後にしか見えないのですが。
「あの、桜花さんって言うと、もしかして薔薇の桜花さんですか!?」
「?」
薔薇で桜花とはこれ如何に? と意味が解らず首を傾げる私を余所に木村先輩は大はしゃぎしています。
ついでに、何かご近所に配る用の新作本を貰って大感激していますが、その感覚は私には今一つ判らないです。
「私にも紹介してよ~」
「私も~」
魔女の花園のブースにいた人達が挙って挨拶をしてくれますが、接客しながらなので大変そうです。
先程と同じ様な挨拶をして面識を得ますが、その度に木村先輩が大騒ぎをしているので有名な人達なんだと思います。ただ、なぜかレッドさんは木村先輩には許可しても、私にはサークルの本を閲覧させてくれませんが。
「小春ちゃんが18歳になったらね」
この言葉で私は無理をしてまで見るのはやめました。木村先輩は18歳だから許されたみたいです。
「それにしても、有名人を連れて来たわね。まあ隠れて警護もついているみたいだし凄いわね」
「え? あ、警護ってやっぱりいるんですね。この人混みで全然判りませんでした」
どっかから狙われる可能性があると言われて警護が強化されているらしいです。ただひよりと違って私は浄化や治癒特化らしいので気配を探るとか、敵を見つけるとかは全然なんですけど。
「うん、結構な人数だよ。私らみたいなのだと逆に注目しちゃうから良し悪しなんだけどね。でも嬉しいね、出会いは一期一会ともいうし、せっかくだから仲良くして欲しいな。あ、私は花井桜花、桜花って呼んでね。あと年齢はナ・イ・ショ」
そう言って笑う桜花さんはそれはもう素人さんとは思えないオーラを発しています。そんな桜花さんに私が今日此処に来る事になっている話をすると、突然桜花さんがレッドさんを呼びます。
「ルビー、あなた小春ちゃんの警護も兼ねてコスプレしておいで」
「ふぇ!?」
突然の事に、レッドさん改めルビーさんがこっちを振り返りました。
「ちょ、何を突然言い出すんですか! そもそもコスプレの準備なんて何にもしてません!」
うん、ルビーさんだけに顔を真っ赤にして必死に抗議をしていますが、余程にコスプレをしたくないのか必死に抵抗を続けています。
「そんなの何とかなるでしょ? 何ならあたしがデザインしてあげようか?」
「え? あ、それは遠慮したいというか」
ルビーさんの語気が一気に弱くなりました。
「よっし、お姉さんに任せなさい。警護だからそうね、ハーゲハクロウスルの親衛隊なんて良くない? ほら、あの麗しの禿に出てくる親衛隊の服装!」
「え、いえ、確かにあの服装は耽美ですが、私に似合うかとか、髪形もありますから」
「え? ルビーちゃんハーゲハのコスプレするの! さっき薔薇十字さんとこで薄本貰ったんだけど、良い感じの絵があったよ!」
木村先輩と話していた人が、突然ルビーさん桜花さんの会話に参入してきました。そっからはもうルビーさんは唖然とした様子で眺めているだけで、あっという間にすべてが決まってしまったようです。
「ルビーさん、ナムです」
私が被服部で覚えたのは、諦めるということです。
このお祭りは、作者がネットの写真などを基に、空想と偏見、その他諸々で創作されております。
現実との違いが多々あると思いますが、それはパラレルだという事でご勘弁願います><