61:ご利用は計画的に?
誤字脱字報告ありがとうございます。
荒んだ心をお姉ちゃんの写真と悲鳴で癒した私は、今日は帝都の撮影スタジオにいるのです。
「家でのんびりしているはずの私は、なぜこの様な場所にいるのでしょう?」
思わずそんな愚痴も言いたくなるのです。どうせならお姉ちゃんと同じ噂の聖地とやらを見たかったのですが、なぜか別の聖地にきちゃっているのです。
春芽原と呼ばれる大きなお友達の大好きな場所があるのですが、通りには何故かメイドさんや、コスプレした人が当たり前のように闊歩しています。それに混ざって大きなアニメの紙袋を持って、アニメのTシャツを着た人が、ある意味違和感なく存在しているのが凄いですね。ただ、悲しい事に痛い人に慣れて来た感覚の有る私だからの感想でしょうか?
そんな聖地を抜けて案内されたのが一見すると普通のオフィスビル。そして通されたのがこの撮影スタジオでした。
「それで、お爺ちゃんは私に何をしろと言うのでしょう?」
当たり前ですがここまでお爺ちゃんと一緒に来ています。というかお爺ちゃんの案内です。お祓いと聞いてはいるのですが、今の所この場所は他と変わらないくらいなので、あえて浄化をする必要性が見えないのです。
「ほ、ほ、ほ、もうすぐ来ると思うのじゃが、酷い霊障で悩まされておってのう。所属の芸能事務所からの依頼じゃ。ひよりちゃんも知っておる有名人・・・・・・だと思うのじゃが、ひよりちゃんじゃからのう」
失礼なお爺ちゃんなのです。私だって一応は芸能人を知ってますよ? クラスメイト達がしょっちゅう誰々のファン、コンサート行きたいなど騒いでいるので知識だってあります。
「これでも小学生女子なのです。いっぱしの知識はあるので心配しないでください」
胸を張って言う私に対し、珍しくお爺ちゃんは疑いの眼差しを向けました。
「ふむふむ、それではの、ひよりちゃんが知っとるモデルを誰か言ってみてくれんかの?」
「モデルさんですか?」
成程、芸能人と言ってもモデルさん限定と来ましたか。ふむ、モデル・・・モデル? はて?
「そうですね・・・・・・ロダンさんとか?」
「・・・・・・ロダン・・・・・・知らぬのう。名前から男性じゃろうが」
お爺ちゃんが考え込んでいます。結構有名なあの人なのですが、うん、お爺ちゃんはそのまんま”考える人”になってしまいました。ただ、ボケても気が付いて貰えないのは非常に寂しいですね。
そんな私達は、ほぼ同時に部屋の入口へと視線を向けます。思いっきり問題大有りの悪意の塊のような気配が近づいてきているのです。
「お爺ちゃん、これが今回のお仕事ですか? 何かもう少し簡単なのでも良いのですよ?」
「ほ、ほ、ほ、簡単なのじゃとうちの若いもんでも出来るからのう」
「なるほどなのです」
嬉しくない真実を知ってしまいました。でも、これは今まで経験した中でも最上級に真っ黒案件なのです。ここまで悪意に纏われて生きていられる人が居る事の方が驚きですね。
「おはようございます~」
軽い調子でスタジオに入って来たのは、恐らく20歳代くらいの今どきの女性です。二重のパッチリお目々の茶髪の美少女さん。特にこれと言って問題がありそうにはないのですが、この悪意は異常なのです。
「あれ? 子供がいる。お嬢ちゃんも一緒に撮影かな?」
私を見て不思議そうに近づいて来るモデルのお姉さん。ぱっと見では特にこれと言って問題は無いのですが、最近作った真ん丸ダイヤを8個連ねたブレスレットは一瞬で砕けちゃいました。
「おおぅ、凄いね。一瞬で砕け散っちゃった」
ブレスレットが砕け散る甲高い音がスタジオ内に響き渡って周りで準備していたスタッフさん達が一斉に私を見ます。ただ、その表情は驚きよりも恐怖で思いっきり引き攣っています。
「結構自信作だったのです。それがあっという間に砕けたのはショックかも」
「え~~っと、ごめんね~やっぱり私のせいなのかな?」
お姉さんの顔も引き攣っているのが判ります。これ程の悪意に集られているのですから、恐らくこれに近い出来事は日常茶飯事で起きているはずです。
「どうじゃな? いけそうかのう?」
「ちなみに、お値段はおいくらでしょう?」
「成功報酬で200万なんじゃ。ちっと色々あっての、依頼者の手元不如意というところでの」
「むぅ、微妙なお値段なのです。出来れば500万くらいは欲しいところなのです」
お姉さんを見ながらここ最近の仕事を比較して自分なりの相場を提示します。
そんな私とお爺ちゃんとの遣り取りを、戸惑いながらも聞いていたお姉さんが突然私の両手を掴みました。
「え? ま、まさかだけど、この事ばかり起こるのを何とか出来るの!? 500万、500万出せば何とかなるなら500万出すよ!」
まさに藁にも縋るような様子で頼み込んでくるお姉さんですが、うん、何かお姉さんに纏わりついている悪意が私の腕を登ってこようとするのでいい加減に手を放して欲しいです。
「う~ん、お爺ちゃん、500万でいい? 口頭だから後で言った言わないにならないようにしてね」
うんうんと頷くお姉さんを一旦部屋の中央にポツンと置かれている席に座ってもらい、私は浄化の準備を始めました。
「部屋の隅に真ん丸さんを設置して、外部からの干渉を遮断。あ、お姉さんはそこに座っててね。この台座をお姉さんを中心に五芒星の位置で設置して・・・・・・うん、こんな感じかな?」
特に今回は真ん丸さんを置く台座に凝ってみたのです。浄化の増幅効果が当社比1.2倍なのです! 併せて五芒星にする事でより効率的に中心にある対象を強力に浄化するのです。
「お姉さんが動かないように固定しますね。そこから出ちゃうと意味が無いので」
「え? え? 何かすっごく不安なんだけど」
何か言っているお姉さんを置いといて、用意して来たロープで椅子にぐるぐる巻きにします。
「さて、あとはこの最後の台座を設置すれば発動です。わくわくしますね!」
今回新たに作ったアイテムは、前回突破された八重垣を強化する為に生まれた物の一つです。ただ、家を対象とすると五芒星を組めないので、今回は初の試みです。すっごく楽しみですね。
「ひよりちゃんや、ちっと不安に思ったのじゃが、どこぞでテストはしたのかの?」
私のやる事を見ていたお爺ちゃんは、どうやら私の最後のわくわくするという言葉に逆に不安を感じたみたいです。
「大丈夫ですよ、理論は完ぺきなのです」
あちらの世界でも魔法陣の研究はマイナーでしたがありました。その中に、不思議とこちらと共通のものもあって、五芒星もその中の一つですね。
「・・・・・・理論という事はじゃ、実践は初めてかの?」
「大丈夫です、ビー玉でテストはしてますよ!」
私の言葉にお爺さんは漸く安堵の溜息を吐きます。
「さあ、稼働です!」
私が五芒星の最後の頂点へと台座を設置すると、台座に設置した真ん丸ダイヤさん達が一斉に発光し、併せてそれぞれの頂点を光で結び五芒星を構築しました。
「うわぁ、すごいね。ビー玉はすぐ破裂しちゃったからここまで見れなかったんだよね」
「なんじゃと!」
実験をした時にはビー玉の強度が増幅に耐えられなくて粉々に破裂したんですよね。併せて、浄化予定だった悪意を纏わせた人形は発火しちゃうし、散々な結果だったのです。でも、それも原因さえ判明すればこの様にしっかりと結果を出してくれるのです。まあ前世でも似たようなことはしてましたから、初めてと言うには語弊はあるかもしれませんが。
「きゃあああああああ~~~~」
五芒星の中心にいるお姉さんに纏わりついていた悪意が軒並み発火しました。といっても、そのように見えるだけで、実際に体が燃えている訳ではありません。
「お姉さんが燃えている訳じゃ無いですよ?」
髪の毛とか見ればすぐに判るのですが、別にチリチリになったりはしていません。ただ、もしかすると幻痛とかはあるのかな? そこは後で聞いてみたい所ですね。
「ビクンビクンしとるが、大丈夫かのう?」
「実際に炎でって訳では無いから大丈夫なはずですよ? そもそもあの炎は悪意が見せている幻影で浄化の時に炎なんて出ません」
お爺ちゃんと話をしている間にも、だんだんと鎮火してというか悪意が浄化されてお姉さんの姿がハッキリと見えてきました。
「一応浄化は成功ではあるのですが、そもそもの根本原因は解決してないのです。そこら辺は良いのです?」
普通の人はあんなに悪意に捕らわれたりしませんし、モデルさんをしているからと言っても、そこまで悪意を向けられるものでは無いと思うのですが。それこそ、一人二人が向ける悪意処ではないです。
「ふむ、それも問題なのじゃが、ちっと気になる事がのう」
お爺ちゃんは椅子に縛られて白目を剥いて天井を見上げ、微動だにしないお姉ちゃんへと近づいていきます。うん、モデルさんとしてはしちゃいけない表情をしていますね。ちょっと刺激が強すぎたでしょうか?
「ふむふむ、やはりのう。ちっと不味いかもしれんのう」
お爺ちゃんの後ろについて、お姉ちゃんの所に来た私も、確かにこの表情は女の子としても不味いと思います。
「白目は不味いですね。お目々を閉じてあげましょうか?」
「まあ、それもなんじゃが、瘴気が根こそぎ浄化されておるのは良いのじゃが、人が本来持っておる感情面での悪意も根こそぎ浄化されてしまったようじゃの」
「ん? 良く判らないのです。悪意が浄化されるのは良い事なのではないのですか?」
悪意はあっても百害あって一利なしだと思うのですが。
「そこは後で考えるとしてじゃの、問題はなぜ此処で浄化をしたかじゃ」
「?」
うんっと、良く判らないのですが、どうやら何か問題があるみたいです。という事で周りを見渡してみるのですが、皆さん何か壁際に固まってドン引きしています。
「しまったのう、読み違えたわい」
「ドンマイお爺ちゃん! いつもの事だよ!」
私の言葉にがっくりと肩を落とすお爺ちゃんですが、結局の所モデルさんの撮影が出来なくなった事が問題なんですね。
「むぅ、仕方が無いのです。こうなったら私が代わりにやりましょう!」
マスコミは好きではないのですが、背に腹は代えられませんと意気込んだのですが、お爺ちゃんのみならず周囲にいるスタッフ全員が溜息を吐きました。
「流石に失礼だと思うのです」
「ひよりちゃんがもう20歳であれば皆も喜んでお願いすると思うがのう」
むぅ、それは致し方が無いのです。その条件であればお姉ちゃんでも難しそうですね。
「ちなみに、どの様な服の撮影なのですか?」
「あ、こちらです」
雑誌の関係者っぽい人が先月の雑誌を見せてくれます。うん、白目のお姉ちゃんが表紙に出ています。
「このお姉ちゃんは有名だったのです?」
「一応、うちの雑誌の看板モデルですね」
成程、実物を見ても白目でそうは思えないのですが、雑誌で見ると確かに美人さんなんですね。
「仕方がありません。ここからはサービスなのです。アフターサービスも私は完璧なのです」
「何をするのかのう?」
お爺ちゃんが疑い半分、期待半分と言った表情で私を見ます。
「単純に治癒するんですよ? 状態異常を回復させれば行けるとは思います」
まさか悪意を浄化しすぎると問題になるとは欠片も思わなかったのです。その後、私の治癒で回復したお姉さんは確かに美人さんでした。幸いな事にあの浄化の記憶はすっかり消えていたので問題にならなかったですし、カメラマンさんがお姉さんの事を絶賛してましたから大丈夫でしょう。
「なんじゃのう、新たな領域を開拓と言うか、強制移民させられたようじゃのう」
お爺ちゃんが良く判らない事を言っていました。
ただ、その後にお姉さんは「無垢なる笑顔」、「無邪気な天使」などと以前とは大きく異なった評価を受けながらもモデルとして大活躍をしたそうですから結果オーライなのです。
「最悪はグリーンさんを呼べば良いかな? て思ってたのです」
「ごめん、ひよりちゃん、勘弁して」
お姉さんが頭を抱えていましたが、十分にモデルになれると思うのですけどね?
何故か話がどんどんとズレて行った典型的な話です(ぇ
最初は、代打でお姉ちゃんかグリーンさんを巻き込む予定だったのですが、普通は無理よねって思って。
読者モデルとかならまだ良いのかもですが、代打で素人さんはね。
ただ、悔しいのでどっかでお姉ちゃんかグリーンさんを・・・・・・・(ぇ