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6:美容の為にはポーションを

 怪我治療用ポーションを作った後、乾燥した薬草を使用して軟膏を作る。これは何方かといえば怪我の治療というよりも日頃の日常における手荒れやニキビなどの皮膚の治療薬に使う。もっとも、ニキビなどで悩まされるのは私もお姉ちゃんもまだ数年の猶予はあると思うけど、作っておいて損はない。


「この軟膏は良いわね、保湿力が生半可じゃないわ、お肌がトゥルットゥルよ」


 という事で、軟膏はお母さんの常備薬とあいなりました。うん、年取ってからの私も日常的に使っていたからね。さすがに肌が荒れてくる度に治癒魔法を使うなんて贅沢なことはしていませんでした。


「薬草さんがワサワサ生えて来てたから、軟膏は結構作れるから贅沢に使っていいからね」


 私の言葉にお母さんは大喜びでした。それと、何故かお父さんのお髭を剃った後のクリーム代わりにもされるみたいです。クリームを塗った後に髭がボワボワ生えて来ないよねっと心配したのですが、髭にはまったく影響を及ぼさなかったので安心しました。


「あ、そっか、毛生え薬が別にあったって事はこのポーションだと毛は生えないんだね」


 思わずそんな事を呟いたら、お父さんが毛生え薬にすっごく反応して焦りましたが、今ある材料ではどのみち作れないので説明したら悲しそうな顔をしました。でも、まだ毛生え薬とか必要ないですよ?


 それはそれとして、この週末に我が家に生えた薬草の採集及び選別を行うことになりました。

 そもそもなぜ薬草が生えてきたのかが解らないのです。それと、もしかしたら他の薬草も生えているかもしれないですし、それ以上に我が家の外にまで薬草が侵食すると不味いような気がします。

 この為、一応生息状況を確認の上、花壇に生えた薬草以外を一度全部刈り取ってしまうことにしました。


「何があるかな、何があるかな」


 お姉ちゃんが楽しそうに歌いながら薬草を採集しています。ただ、数日放置しただけで藪の様になっていた薬草採集は子供には結構大変。特に、今回はこれ以上薬草が生えない様にする為に、根っこからの採集が必要。


「先に上を切り取って、あとで根っこを掘り返す方が楽でいいわよ」


 お母さんがこっちの様子を見にきてそうアドバイスをしてくれる。


「ひより、この根っこも何かに使えるの?」


「う~ん、使おうと思った事が無いから判んない」


 薬草の利点は葉っぱを採集しても数日でまた葉っぱが生えてくる再生能力。その為、根っこから掘り起こしてせっかく今後も葉っぱを供給してくれる薬草を駄目にするという発想が前世にはなかった。だから、ハッキリ言って根っこを何かに調合するとか考えた事も無い。薬師や錬金術師の人達は何か知ってたかもだけれども。


「でも、すごいね、ポーションいっぱい作れるね」


「そうね、軟膏も作れるわ、あ、ひより、化粧水みたいなのはないのかしら?」


「う~んと、化粧水ってポーションでよくない?」


「あ、そうよね! ポーションって1回で使い切らないといけないって思い込んでいたわ」


 なるほど、こっちの世界にあるゲームとかだと使い切りですもんね。1本をちびちび使うと言う発想は無かったようです。

 そして、何と薬草採集は夕方近くまでかかってしまいました。何気に8か所は大変でした。それでも、その労力を十二分に補って余りある成果がテーブルの上に置かれています。


「ぐ~るぐ~るぐるぐ~る~」


 半数をまた天日干しにして、残り半分を更に分割してお鍋に入れる。そして、前と同じように中火でぐるぐると魔力を加えながら掻き混ぜていく。


「ねえねえ、ひより、ひよりがその棒で掻き混ぜている時に棒がほんわか光ってるのって何かあるの? 私が混ぜ混ぜしている時ってそんな光出てないよね?」


 私がお鍋を掻き混ぜている時、お姉ちゃんが突然驚きの発言をします。

 ぶっちゃけますと掻き混ぜるのに使用しているのはただの菜箸です。木製です。思いっきり伝導率は最悪です。その為、私が見ていても結構な量の魔力が菜箸から零れて光っています。それでも、こちらの世界の人にはそもそも魔力を見る為の魔導回路が無いので見れないはずです。


「お姉ちゃん、光が見える?」


「うん、何かポワ~としているのが見える」


「ほむ」


 お姉ちゃんが今この場で嘘を言う必要性は無いですね。であるならば見えるとして考えた方が良い?


「お母さんお鍋混ぜるのちょっとの間変わって~~~」


 夕飯の支度で台所にいるお母さんにちょっと無理を言います。でも、ご飯が遅れてしまうよりもお姉ちゃんの確認の方が大事です。


「お姉ちゃんこっち座って」

 

 テーブル横の椅子にお姉ちゃんを座らせて、お姉ちゃんの頭を支える様にして両手を当てます。

 そして、お姉ちゃんに私の魔力を少し流してみました。これは前世での弟子たちの魔導器官がどこまで成長してきているかを確認するのに何度も行った手慣れた作業。魔導器官があれば他人の魔力に対し必ず反発をします。それは姉弟や親子でも同じに反発は起きます。ただ、未発達な魔導器官ではその反発は弱く、魔導器官が成長していればしているほどに反発は強くなります。


 うん、お姉ちゃんの中に魔導回路が出来てる。何でだろう?


 こちらの世界では魔法は無いのだと、前世の知識がある私はそれ故に自分には魔導回路が備わっているのだと勝手に思い込んでいました。御伽噺や物語、映画や漫画、アニメなどで言われている魔法はそれこそフィクションの中の物で、実際に魔法を使う人はいない。これが今までの認識です。それなのにお姉ちゃんに魔導回路が発生していました。


「お姉ちゃんももしかしたらビー玉とか作れるようになるかもしれない」


「え? ほんと? どうすればいいの!」


 それこそキラッキラの眼差しでお姉ちゃんは此方を見ます。


「う~んと、今の段階では無理だけど練習すればいける? たぶん」


 うん、たぶんなのです。やってみないと判らないのですよね。だって、この世界に神も精霊もいないのです。それでも私が魔法を使えるのは前世の知識と、神の存在を心から信じているからだと思います。

 あちらの世界では当たり前の事、誰もが神の奇跡、精霊の加護などを身をもって経験しているのです、それでなぜ疑いを持つことなどあるのでしょう?


「やった! 私もひよりみたいになれるんだ! そしたらひよりの負担も減るよね? 毎日ビー玉作り大変そうだったもん」


 私が魔法らしき物が使えるという事をお姉ちゃんが知ってすでに数年が過ぎています。その間、お姉ちゃんが魔法を使えるように成りたいって一言も聞いたことが無かった。そんなお姉ちゃんは今、嬉しさを体中で表していますね。ただ、そう簡単に魔導回路は育たないのですよね、特にこの世界だと厳しそう。


「お姉ちゃん魔法使いたかったの?」


 私が魔法を使えるって判ってから結構な時間が過ぎています。その間、お姉ちゃんから自分も魔法を使えるようになりたいと言われたことが一回もなかったのでちょっと意外で思わず聞き返します。


「え、勿論だよ! でも、ひよりが何も言わないから私だと駄目なんだろうなって思ってたの。私にも使えるなら、ひよりなら絶対に教えてくれるはずだもん」


 なるほど、思わずそう納得しちゃいました。ただ、そうですね、魔法を教える事自体は出来ますし、危険な物は教えなければいいのかな? もっとも、こちらの世界ではそもそも魔法は自分の体の中に生まれる魔素を使うしかないので、漫画やゲームみたいな事は出来ませんけど。


「とりあえずお姉ちゃんが何で魔法の光が見える様になったのか調べて、それを育てる方向で進みますね」


「う~ん、判った!育て方教えて」


 素直なお姉ちゃんで助かりました。今すぐ何か使いたいと言われても困るところでした。

 そんな私達の会話を、お鍋をぐるぐるかき混ぜながら聞いていたお母さんがこちらも興味深々で会話に入って来ます。


「ねえ、ひよりちゃん。お姉ちゃんだけじゃなくってお母さんも魔法使えたりする?」


「えっと、お母さんもちょっとお椅子に座ってください」


 今度はお母さんに代わってお姉ちゃんがぐるぐるを担当して、お母さんは椅子に座ります。

 お姉ちゃんと同じ様に頭に手を置いて魔力を通しますが、残念な事に魔力が反発するような感じはありません。


「う~んと、今の所はお母さんには無理っぽい」


 素直に結果だけを告げると、お母さんは実に残念そうな表情を浮かべました。


「残念、ポーションもそうだけど、ひよりの浄化って結構便利そうなのよね。中々落ちない汚れとか落ちそうだし、やっぱり子供の頃から馴染まないと駄目なのかしら」


「なのかな? どうなんだろ?」


 そもそも、お姉ちゃんに魔導回路が出来ている事自体が謎だ。私はおそらく前世の影響だと思っていたけど、そもそもそれ自体が検証していない。勝手にそう思い込んでいただけだった事に今更だけど気が付いた。今後の事もあるし原因を調べないと不味いかな?


「ひより、まずはビー玉から教えてね、それ出来るとひよりの代わりが出来ると思うし」


「う~んと、ビー玉の前に浄化が出来ないとだから、まず基本から教えるよ」


 首を傾げるお姉ちゃんにまずは自分の中の魔導回路を認識して貰わないと、そこが出来ないと先には進めない。魔導回路から生まれる魔力を基にして浄化は出来る。ただ、まだ魔導回路が小さいから育てる所から始めないとかな。


「浄化ってひよりがいつもお水にしてるあれ?」


 家の冷蔵庫に入れてある飲み水やお風呂の水にはいっつも私が浄化をしている。前世には菌の概念はなかったけど、恐らくこれで殺菌出来ていると思うし、浄化された水はある意味聖別されている。調べた事は無いけどきっと体にはいいと思う。


「ところで、そろそろ混ぜるの終わっても良いのかしら? だいぶん量が減って来たけど透明度はあんまり無いわね」


 会話の間もお母さんがお鍋をぐるぐる回してくれていた。でも、魔力を込めずにただ混ぜているだけだとポーションにならないから透明度も上がらない。


「お母さんごめんなさい、交代する!」


 慌ててお母さんと交代し、いつもより多めに魔力を込めて薬液に馴染ませていく。うん、前より絶対に出来は落ちるね。

 お母さんは夕飯を作りに台所に戻って、私はお鍋をぐるぐるかき混ぜる。お姉ちゃんはそんな私の手元を目を眇めて見ているのはきっと魔力を見ているんだと思う。まだ未発達の魔導回路で魔力が見えるなんて、もしかすると目に特化した才能があるのかな?


「これ作ったらお姉ちゃんの練習方法を考えるね」


「うん、すっごい楽しみ」


「でも、浄化の魔法を使えるようになるのだけでも一年とか時間が掛かると思うよ」


 お姉ちゃんのやる気がちょっと心配になる。魔導回路を育てるのはそれはそれは大変。前世で経験も知識も持っている私ですら苦戦している。もっとも、お姉ちゃんも私と同じでこれから成長と共にいくらかは自然と成長すると思う。ただ、それも意識してキチンと育てるのと、育てないのとでは使える魔力の量が全然変わってきてしまう。


「大丈夫、魔法が使えるようになるんだったら一年や二年だって頑張れる」


 お姉ちゃんのやる気に思わず圧倒される。

 実際、ゲームや漫画といった物でこちらの世界で言う魔法という物を見た。あまりに荒唐無稽で驚いた覚えがあるけど、恐らくお姉ちゃんの思っている魔法は使えないんじゃないかなっと思うのだけど、それでも浄化が使えて困る事は無いので頑張って覚えてもらえるように私も考えないとかな。


「うん、一緒にがんばろ」


 お母さんが私達を羨ましそうに見ているけど、目を合わさないようにした。


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