57:魔女っ娘に真実を教えてあげました。
誤字脱字報告ありがとうございます。
「やった! ひよりちゃん、変身出来たから安心してね。貴方は私が守るわ!」
「・・・・・・」
未だに私は衝撃から脱出できずに呆然としていました。グリーンさんはそんな私に気が付かず、ただ周囲を警戒しているのですが。
「おかしいわね、異空間に私達を閉じ込めた癖に次の動きが無いわ」
胸元から取り出したスティックは、いまは長さ2メートルくらいになっています。そして、それを構える姿はそれなりに様になっていますね。
「不思議怪獣とかが出るのでしょうか? あと、巨大怪獣はちょっと楽しみなのです」
「・・・・・・ひよりちゃん、そんなの出て来ないと思うわよ? そもそも、魔女っ娘のジャンルじゃなくなっちゃうわ」
「え? ここでジャンルが関係してくるのですか!?」
衝撃の事実が発覚しました。この世界は魔女っ娘ジャンルの世界だったみたいです! というか、ジャンルが決められた世界とはこれ如何になのですよ?
「包丁持った快楽殺人者って魔女っ娘のジャンルだったんですね」
「え? そんな訳ないじゃん? それはサスペンスの世界よ? そんなの出たら子供が安心して見れないわ」
グリーンさんを見ますが、決して冗談を言っているような感じで無いです。そうなると、きっと頭が残念だったのですね、国立大学在籍でも残念な人っていますもんね。
「ごめん、その憐れむような眼差しは止めて、ちょっと心に来るわ」
どうやら私は感情が顔に出やすいのでしょうか? 思いっきり思っている事を察知されちゃいました。
グリーンさんがダメージを受けている間に、漸く態勢が整ったのかこの不思議な時空を作り出した相手が現れました。
「ふふふ、フェアリージュエルのメンバーが何をしているかと思えば、漸く後継者を見つけたと言うのね。どうやら魔力はあるみたいだけどまだ変身すら出来ないと見たわ、今のうちに潰させてもらう!」
目の前の何もない空間から滲み出るように突然現れたのは、外見年齢10歳~12歳の私とほぼ同学年の女の子でした。
ただ、私は衝動的にその女の子に叫んでしまいましたが仕方が無い事だと思います。
「・・・・・・あっちの方が魔女っ娘です! グリーンさん、偽物は駄目ですよ?」
「違うわよ! あっちは世代交代してるの!」
多少ラメが入ってドキツイメイクをしてはいるのですが、年齢から言っても恰好からいっても間違いなく魔法少女です。
「化粧のセンスが駄目ですね。あそこまで濃くすると興ざめですね。それとも、まさかカメラ映りの問題ですか!?」
慌てて周囲にカメラが無いかを確認します。舞台や映像などでは誇張したメイクをしないと映えないとか聞きます。
「化粧が濃くって悪かったわね! こうでもしないと身バレするのよ!」
「なるほど、認識阻害が弱いのですね。ただ、小さい頃から化粧していると将来的に肌荒れが大変ですよ?ニキビとか大丈夫ですか?」
「え? うそ! そうなの?」
どうやらこの情報は秘匿されていたようです。何と恐ろしい事でしょうか。私達にとって、肌の艶や張りは日頃からの努力の賜物だというのに。
「流石は悪の組織ですね、自分の所の者にも重要情報を秘匿するなど悪魔の所業です。でも、大丈夫ですよ、ちょっと待ってくださいね」
私は収納袋から私謹製の化粧水などを取り出し並べ始めます。
「これは家で作っている化粧水やお肌の為の乳液なのです。これは家族向けの非売品なので今此処でしか手に入らないですよ? これを使えばお肌もトゥルットゥルで、ニキビや吹き出物なんて絶対に出来ません。ちょっと手を出して貰っても良いですか?」
「え? うん」
化粧水を手にちょっと付け、魔女っ娘さんのお肌に馴染ませるように沁み込ませます。
「う~ん、若さで補ってるのです。でも、これだとすぐにお肌が荒れますよ? 女の子だから日光とかにも気をつけないと。あ、乳液を付けますね」
そう言って、手にした乳液を肌を刺激しないようにマッサージするように広げていきました。
「ほら、どうですか、全然肌触りが違うのです」
魔女っ娘さんは自分の手を反対の手で触りながら、手触りの違いを感じ取っています。
「ねぇねぇ、ひよりちゃん、それお姉ちゃんが欲しいなあ」
すっかり存在を忘れていたグリーンさんが、後ろから思いっきり私の手元を覗き込んでいました。そして、見上げたその表情は・・・・・・うん、捕食者がいましたよ!
「えっと、グリーンのお姉ちゃんも欲しいの?」
私の言葉に思いっきり頭を上下に振ります。頷くどころの挙動じゃないです。
「えっと、化粧水が一本3千円くらいかな? あと乳液は一本5千円です。乳液は原材料の種類が多いからこんなくらいですね」
「か、買った! まってね、お金出すって、あ、変身してるからお金出せない!」
なるほど、変身してると衣類が入れ替わる為にお財布は出せないのですか。確かにその方が安心ですよね、激しい動きをしてお財布落っことしたなんて笑えません。
「あとで、あとで渡すから、キープを宜しく!」
グリーンさんがもう食いつく勢いで迫って来るのでコクコクと頷く事しかできません。で、いざ本命の魔法少女はと言うと・・・・・・こちらはお財布を取り出して中身を見て黄昏ています?
「どうしたのです?」
「お金が無いの、今月はあと600円ちょっとしかもう残ってないの」
そう言って見せてくれるのは、お札が空っぽのお財布です。
「でも、まだ8月は始まったばかりですよ?」
「月のお小遣いは1500円だもん、元々買えないよぉ」
ウルウルした眼差しというか、真面目に涙が溜まってますよね。でも1500円ですか、小学生高学年だと多いのか少ないのか良く判りません。
「でも、魔女っ娘のアルバイト代とかで買えば良いのではないですか? 全額お母さんが貯金です?」
私はお爺ちゃんの所のアルバイト代はお母さんが管理していますから、きっとこの魔女っ娘さんもそうなのかと思っていたら驚きの返答が帰って来ました。
「アルバイト代ってなぁに? お金なんか貰ってないよ?」
「へ? なんで? 自分の時間や場合によっては命も犠牲にするかもしれない過酷なお仕事なんですよ! まさかタダ働きなのですか!?」
「え? えっと、がんばれば幸せになれるの」
驚愕の事実が目の前にありました。有り得ないのです、まさに純真な少女を騙くらかしているのです。
「駄目ですよ、そんなの詐欺の手口なのです。労働の最低賃金が時給1000円として考えてください。1日3時間の労働で、月に4回とするのです。それだけで月に12000円のお金が発生するのです。ましてや、危険手当とか、少女手当とか、マシマシ要素いっぱいなのです。騙されてますよ!」
「え? え? そうなの? でも、魔法使えるようになったし、魔女っ娘になれたし」
真実を突き付けられ今までの常識が崩壊してしまったからなのか、魔女っ娘はぺたんと地面に女の子座りをしたまま途方に暮れています。ついでに、グリーンさんも地面に両手をついて乙ってますがどうしたのでしょう?
「だ、騙されていたの? でも、私達が頑張らないと世界が不幸で溢れるって言われて」
「うん、どうやらグリーンさんもタダ働きだったみたいですね。魔女っ娘斡旋組織などが有るのかは判りませんが、怖いですね。思いっきり騙して、その後に洗脳でもしているのでしょうか?」
思わず今思っている事が言葉として漏れてしまいました。
「一万円以上のお小遣い・・・・・・」
うん、具体的に数字が出たからか、魔女っ娘さんは何かお怒りモードっぽい表情になってきています。
「そもそも、この世界の人達は異性とお付き合いしないで30歳になるとみんな魔法使いになれるのです!」
ここで私は最強の手札を切りました。これは、私がこの世界に生まれてから調べた中で最大の発見なのです。
「え? そうなの?」
「それはどうなんだろう?」
魔女っ娘もグリーンさんも首を傾げるのですが、これは色んな本で書かれていたから間違いが無いのです。
「色んな文献にも出てましたし、それで魔法使いになった人が主人公の小説だってあるのです。それに、知り合いのおばさんに聞いたら「そういう風に言われてはいるわね」って顔を引き攣らせてはいましたが認めたのです! きっと私が知ってはいけない秘密を知った事で不味いと思ったのだと思うのです」
私の説得力のある説明に、二人とも納得してくれたみたいです。そもそも二人は魔法が使えるのですから、疑う要素は少ないのです。
「私、騙されていたんだ。私が頑張らないと妖精界が大変な事になるって言われてたのに」
「私達だって後継者が見つからないからってこの年まで魔女っ子遣らされてたんだよ。そっか、騙されやすいから良い様に使われてたのかも」
二人が真実に気が付いたところで、私は二人に掛けられていたであろう洗脳を解く最後の言葉を使います。
「悲しいけど、誰でも魔法使いになる素養は持っているんだよ!」
ふふふ、どうです。この悲しみを滲ませた微笑は。今まで争ってきたその歴史が、いいように操られた結果だったなんて、悲しいですね。
「さあ、あとはお爺ちゃん達に相談しよ? きっと良いようにしてくれるよ」
「そうね、争いからは何も生まれない」
「うん、お姉ちゃんごめんね」
魔女っ娘と魔女っ子? がお互いに笑顔を浮かべて握手をしました。うん、感動ですね。いい仕事をしたのです。あとはお爺ちゃんに丸投げしちゃいましょう。
ひより:「絵美おねえちゃん、最近は魔法使いさんが増えてるの?」
絵 美:「え? そ、そうねえ。どうなのかしら? お姉さんはあんまり詳しくないの」
ひより:「あ、もしかしたら絵美おねえちゃんも魔法使いなの?」
絵 美:「え? えっと、あ、ひよりちゃん、ご本でも買いに行きましょう。お姉さんが買ってあげるわ!」
ひより:「ほんと! いく! 魔法使いの本を買うの!」
絵 美:「そ、そう、せめて夢のある本を買いましょうね」