56:まだ夏休みのイベントには早いですよ?
誤字脱字報告ありがとうございます。
某国某所のある教会で複数の男女が喧々囂々と怒声を浴びせあっていた。
「貴方達、何を失敗しているのですか! 今後は警戒されて今回のようには動けませんよ!」
「しかし、精鋭と謳われていた者達ですら任務に失敗したのです。これは計算外です」
「相手が本拠地にいる所を襲撃するとか馬鹿ですか。外出時を狙うべきだったのです」
「それが出来ないから家にいる時を狙ったんだろうが! そもそも精鋭で破れない結界ってその段階で可笑しいだろうが。罠だったんだよ! 情報が洩れてたんだよ!」
「我々の中に裏切り者がいるなどあり得ません!」
誰もが言いあうだけで取りまとめる者が不在なのか、一向に会話は進展しているようには感じられない。
「あの色物連中も邪魔してきたんだろ? とっとと潰せよあんな連中さあ」
「馬鹿か、日ノ本は唯でさえ面倒なんだ、潰せるもんならとっくに潰している!」
数時間に及ぶ罵倒合戦に流石に誰もが疲れてきたのか、ようやく椅子に腰を掛け冷えてしまった紅茶に手を付ける。
「しかしな、その娘は本当に聖女様なのか? 聖女様に会ったものなど生きている者で誰もいないんだ。どうやって判断する」
神父のような衣服を纏った金髪の40歳ぐらいの男が疑問を呈する。
「その娘の周囲では瘴気は確実に浄化され、小児癌に掛った子供を癒し、更には怪我で選手生命を絶たれた者も回復させる。そんな力を持った者が聖女様以外にいるか?」
「その情報は偽りではないのだな?」
「そうね、最低でも日ノ本の能力者連中が挙って庇護している存在ではあるわね。ついでに情報操作、身辺警護も行っているわ。それでもほっとくの?」
シスターと思しきこれも40歳くらいの女性が、決断を急く様に鋭い視線を周囲へと飛ばす。
「慌てるな、誰も動かないとは言っていない。それで? その娘の親族、血統など調べて何か解った事はあるのか?」
「両親にはまったく異能は感じ取れん。しかし妹もどうも怪しいな。姉と同様に何らかの力を持っていそうだ」
「ほう、それで血統はどうだ?」
「駄目ね、これと言った能力者などの血筋には絡まないわね。外からの血が入った形跡もないし、日ノ本でも同様、比較的血筋が辿りやすい家だったから間違いはないわ。でも、姉妹揃って突発的に能力が出るなんてあるのかしら?」
「聖女様であるならおかしな事ではあるまい。要は神に愛されたかどうかだ。血筋はあくまでも参考にしかならん」
「でも、姉妹揃っては前例が少なくないか? 双子ならともかくちょっと信じられないな」
集まった者達はそれぞれ主張をするが、ただ誰も自分の主張が正しいと思えていない所に厄介さがあった。
「我々が見極められれば良いのだが、流石にあの国に入国は出来んしな。入国などすればあっという間にあの世行きだ」
「聖女様の学院に入学していた者もいたが何の訓練もしていない者、精々噂を集めたりするくらいしか使えないしな」
「そういえば、その聖女様が大きなイベントに参加するらしいわ。数万人規模のイベントと言ってたから、そこで何かしらのチャンスを作れないかしら」
「ほう、その話をもう少し詳しく」
怪しい者達の蠢動がこうして始まるのだった・・・・・・。
私はこの後の展開を考えますが、そもそも私はそのイベントに行ったことが無いのです。
「こんな感じで駄目でしょうか? ただ臨場感を出すためには佳奈お姉ちゃんにイベント会場とかの撮影を頼むべきでしょうか?」
「ひよりちゃん、貴方何を書いているの?」
「次の騒動の始まり? 想像だけど、でも当たらずとも遠からずのような気がするのです」
私はリビングで暇を持て余して物語? を書いていたのです。題材は噂の聖女教の人達の事、きっと今頃こんな感じなのかなと思うのです。お姉ちゃんが書きあがっていた原稿を読みだしたのですが、身内に読まれるのは何か恥ずかしいから止めてほしいですね。
「聖女教を牽制するためにも、聖女教が如何に危ない人たちの集団なのかを周知する必要があると思うのですよ。だから佳奈お姉ちゃんにこのお話を基にして本を書いてもらおうかなって。佳奈お姉ちゃんはいつも本を書いているんでしょ?」
「佳奈? そうねぇ、書いてるみたいなんだけど、私は読ませてもらった事無いのよね。でも佳奈が書いてるのは漫画よ? まあいいけど、それで? この話はこの後どういう風に進むの? ちなみに選手生命とかは何? 私が治したのは心臓が弱い子だよ」
まだ数枚の原稿の為、先が気になるのかお姉ちゃんが私の前の席に座って此方を覗き込んできました。
「そこはインパクトなのですよ? ほら、選手生命を救うとかあるあるっぽいじゃないですか。続きはイベント会場を見た事が無いから思いつかないの。お姉ちゃんの学校の文化祭みたいな感じなのですか? あ、一応主人公の聖女様はロリっ子なのです! そこで、紳士な方達をも巻き込んで、壮大なアクションバイオレンスが、あ、ちょ、痛いのです」
なぜか又もやお姉ちゃんのアイアンクローが私の顔面に炸裂しました。
「ねえ、なんで聖女様はロリっ子なのかなぁ? 別に綺麗な美少女とかで良いよね? ひよりは何をどう思ってロリっ子何かにしたのかな? お姉ちゃんそこの所がすっごく知りたいんだけど?」
年々強くなっている気がするアイアンクローなのです。まさかお姉ちゃんは筋トレでもしているのでしょうか?
「お姉ちゃん、し、真実とは、時にはざんこ、あ、駄目です! 痛いのです、フィクションなのです、あ、駄目です、ギブですよギブ!」
「あら、ギブギブってもっと強くして欲しいのかしら?」
「ご、ごめんにゃさい~」
平謝りをして漸く許して貰えたのですが、お姉ちゃんの目はマジでしたよ。コンプレックスは妹すら殺すのでしょうか?
「まったくもう、それより明日は佳奈が来るから貴方はどっか遊びに行きなさい」
「ほへ? 佳奈お姉ちゃんが来るんですか? 私は別に佳奈お姉ちゃん嫌いじゃないのでお家にいますよ?」
「佳奈以外も来るのよ、だからひよりは遊びに行ってて」
有無を言わさぬ迫力なのです。仕方が無いので明日は素直に遊びに行く事にいましょう。私にだって日常的に遊ぶ友達はいるのですよ。
という事で、今日は急き立てられるように家から追い出されました。お姉ちゃんは何をそんなに慌てているのか。私は携帯で佳奈お姉ちゃんに連絡を取ります。
「あ、佳奈お姉ちゃん。家から追い出されちゃったので、うん、そう、だから写真はメールで送ってね」
今日はお姉ちゃん達の衣装合わせの日なのです。お姉ちゃんの晴れ舞台は現地で直接見る事が出来ないので、仕方が無いから今日見ようと思っていたのです。なのですが、お姉ちゃんは見られたくなくて私を追い出したのでしょう。
「うん、うん、わかった! 佳奈お姉ちゃんありがとう」
佳奈お姉ちゃんがお姉ちゃんの写真をあとで送ってくれるそうです。やっぱり頼んでみるものですね。
とことこと歩いて駅前に向かう私なんですが、予想はしていたのですが問題が発生します。
「ようよう、お嬢ちゃん、ちょっと茶~でもしばきませんか?」
目の前にはロングの髪を綺麗にソバージュさせて、薄緑のワンピースを着たお姉さんが立っています。
「グリーンさん、普通の恰好も出来たのですね。変身してないから一瞬判らなかったです」
「普段からあんな恰好はしていないわよ? ところで、ひよりちゃんは一人で何処へ行くの?」
「小学校のお友達の家で夏休みの宿題をするのです」
そうなんです。お利口さんの私は早めに宿題を終わらせちゃうタイプなので、クラスメイトの梨花ちゃんと一緒に宿題をするのです。
「そっか、お姉さんにお友達の家までガードさせて。一応、師匠からの命令だからちゃんとやらないと怖いの」
そう言って私を拝むように見るお姉さん。うん、普通に美人さんなので邪険にしずらいのが難点ですね。
「お友達のお家までですよ? 家には入れませんからね」
「流石に家の中までは入らないわよ」
そう言って苦笑するグリーンさんですが、私が梨花ちゃんの家にいる間はどうする気なんでしょうか?
私が気にしても意味が無い事なので、一緒に駅へ向かってテクテク歩いていきます。
「まだ8月前なのにお姉さんが来るという事は何かありました?」
「あら、やっぱり気が付くか。多分だけどね、お家の方には他の二人が居るわ」
うん、まあそんな事だろうと思いました。普段より親衛隊の人の数も多いですし、そうするとお姉ちゃんが心配になります。むぅ、家を出たのは失敗だったかな?
「家に帰った方が良いですか?」
グリーンさんの表情を見ながら問いかけますが、浮かべている表情にはまだ緊迫感は感じられません。
「まだ大丈夫、ここ数日で何らかのアクションが起きるかもって所かな? 流石に今日の今日は無いと思うわ。それにそこまで緊迫してたらもっと他からも護衛が出るわ、だから安心して」
グリーンさんは本当にそう思っているようですね。まあ荒事が起きるかもという時にあえてワンピースを着てくる人はいないでしょう。ただ、敢えて言いましょう。
「お姉さん、フラグを立てちゃいましたね」
周囲が駅前に向かっているというのに静かです。人通りも私たち以外見当たりません。
「先程まで周りにいた人達はどこにいったんでしょう。親衛隊さん達もいなくなっちゃいましたね。これはまさかの不思議な時空でしょうか? ちょっと感動なのです」
「え? え? あ、嘘! 今日の今日なの!」
思いっきり動揺して周りをキョロキョロしながら確認するグリーンさん。ただ、その挙動では異常に気が付きましたと宣言しているような物なのですが。そんな事はお構いなしに慌てて胸元からペンダントの様な物を取り出すお姉さん。うん、伊藤家姉妹の天敵認定は免れましたね。きっと良くてCくらいでしょうか? これなら射程圏内なのです・・・きっと? 多分?
「キラキララブリー・・・・・・」
お姉さんが当てになりそうにない為自分で周囲の気配を探っていた私は、横から聞こえて来た声に咄嗟に思考を乱されて思わずお姉さんを呆然と直視してしまいました。
「ま。マジですか・・・・・・」
高々と掲げられたペンダントから幾筋もの光が広がっていきます。そして、何故かくるくると回るお姉さん、まだあどけない少女であれば微笑ましいのですが、成人女性がやるには痛々しい挙動と呪文をグリーンさんは唱えています。ついでに、際どい系でした、何が? 勿論イリュージョンがですね。
ひより:「うん、魔女っ娘変身はやっぱり必要なのですよ!」
小 春:「ごめん、誰に言っているの?」
ひより:「えっと、大きな子供達?」
小 春:「・・・・・・ちなみに何で必要なの?」
ひより:「そのシーンだけで視聴率が上がるのです!」
小 春:「お願いだから私には止めてね」
ひより:「善処するのです」