53:衣装は年齢を考えて着ましょうね?
誤字脱字報告ありがとうございます。
お姉ちゃんにアイアンクローをされている間に、痛いお姉さん達は私達の所へとやってきちゃいました。
「お姉ちゃん、アイアンクローも良いけど、時と場所を選ぼうね」
相手が目の前まで来てようやく状況を思い出したお姉ちゃんが私を解放してくれましたので、思わず忠言しますよ。常に冷静でいないとなのです。
「ひよりに言われたくないわ!」
まだ般若から戻り切らないお姉ちゃんですが、ともかく問題の相手は・・・・・・
「お姉ちゃん、辛すぎて直視できません」
「「「酷!」」」
「いえ、酷いのはいい年をしてそんな恰好をしている貴方達ですよと言いたいですが、流石に言えません」
「ひより、思いっきり声に出してるからね」
「え?」
何という事でしょう。それこそ魔法にでも掛けられたのでしょうか? お姉ちゃんも何か額を抑えていますから、精神攻撃かもしれません。
「私達だって好きでこんな格好をしている訳じゃないのよ!」
「そうよ、いい加減こんな格好したくないわ!」
「親に顔向けが出来ない・・・・・・」
「「「「え?」」」」
周囲の生徒達からも驚きの声が上がります。ですよね、それならしなきゃいいだけだと思います。
あと、塾に来た子供達がそこら中にいるので、思いっきり注目を集めていますし、みんなも危ない人達がやって来たと思ってると思います。だって、何人かの子は携帯で警察に通報しているっぽいですよ。
「とにかく、話がしたいの。だから話が出来るとこまでついてきてよ」
恐らく3人の中でリーダーぽい赤毛のお姉さんが私とお姉ちゃんを指さして、何とかここから脱出しようとします。子供の視線って時には残酷ですよね。
「嫌です、何で着いて行かないといけないんですか」
「同類と思われるのが嫌なのです。だからご遠慮します」
お姉ちゃんの言葉より、どうも私の返事にダメージを受けたようで青い髪のお姉さんが屈みこみますが、そんな短いスカートだと見えちゃいますよ? あ、スパッツを履いてますね、そうですか。
「ここで具体的な話なんて貴方達も困るでしょ?」
緑色の髪のストレートヘアーのお姉さんが、そう言って何とかして外へ連れて行こうとします。髪の色のせいでしょうか、比較的温和な印象を受けますがどうなのでしょう?
ただ、それとこれとは別と言いますか、だからと言ってこの人達について行くかは別問題なのです。
「知らない人、ましてや怪しい人についていっちゃ駄目なんだよ? お姉さんたち知らないの?」
「怪しくないわよ!」
赤毛さんはそう言いますが、周りの小学生たちは一斉に顔の前で手を振ります。
「ですよね、ここまで怪しい人って逆に見ないですよね?」
私の言葉にみんなは一斉に頷きます。すごくノリが良いですね。
「あ~~~~もう、お願いだから一緒に来て、そうしないと私達はずっとこの格好のままなの!」
「もう一週間も大学に行けてない、単位が、単位が・・・・・・」
「彼に会えないよぉ、こんな格好で会ったら嫌われちゃうよぉ」
グリーンさんとブルーさんの嘆きが切実そうで辛い・・・・・・なんて思わないのです。何と言うか痛々しさが先に来て、どうしても偏見が拭い去れないからでしょうか?
「お姉ちゃん、コスプレ部の人達を紹介してあげたらいいと思うのです。お友達が増えて、きっと幸せになれるのです」
「なれません!」
「コスプレなんかじゃないの!」
「勘弁してください!」
何か言ってますが実際にコスプレと変わらない恰好では説得力皆無です。
周りの小学生達はそろそろ授業が始まる時間になる為、教室へと向かい始めました。それを見ていたお姉ちゃんは、私にも教室へ向かう様に勧めてきます。
「え~~っと、とにかくひよりはそろそろ教室へ行かないと授業が始まっちゃうよ」
「でもお姉ちゃんはどうするの?」
「私も塾へ向かうよ、時間的にもそろそろ向かわないと不味いし」
「でもあの人達が行かせてくれる?」
視線の先には威嚇するように此方を見るレッドさん、懇願するように手を合わせるグリーンさん、床に座り込んでぶつぶつ呟いているブルーさんがいます。
「そろそろ警察か、お爺ちゃん達が来そうなんだけど」
お姉ちゃんがそう口にした時、まるでそれを待っていたかのように真っ白のタキシードに真っ白のマント、目元を隠すアイマスクを付けたお爺ちゃんが現れました。
「どう見てもお爺ちゃんなんですが、まさかあの恰好をする為に遅くなったんでしょうか?」
まさに唖然とした表情で私が呟きますが、隣のお姉ちゃんの反応がありません。チラリと視線をお姉ちゃんに向けると、口をポカ~ンと開いたまま硬直していました。
「ほ、ほ、ほ、どうじゃな、イケてるじゃろう?」
何かドヤ顔しているんだと思うのですが、マスクで見えません。見えなくて幸せだったかもしれませんけどね。
「お爺ちゃん、体型的に厳しいです。狸さんのようなお腹を何とかしてからにしてください」
「ほ、ほ、ほ、このセクシーなお腹を理解するにはひよりちゃんは幼すぎるのう」
「幼くて良かったです」
思わずしみじみと返事をしちゃいました。ただ、あのカラフルさん達もお姉ちゃんと同じ様に口をポカ~ンと開けてるんですが?
「変ですね、同類のお姉さん達が何を驚いているのでしょう?」
首を傾げてそう尋ねると、3人とも崩れ落ちました。あ、ブルーさんは最初からですね。皆さん同類という言葉をぶつぶつ呟いていますが、余程嬉しかったのでしょうか?
「ほ、ほ、ほ、儂の魅力でいちころじゃな」
何かくるりと回ってポーズを付けるおじいちゃんです。以外に歳を感じさせない挙動が怪しすぎます。
「お爺ちゃん、その衣装どうしたんですか?」
本当に素朴な疑問です。急に用意しようとしても絶対に無理ですよね?
「小春ちゃんの晴れ舞台に着ようと用意していたんじゃ。ちとお披露目が早くなってしもうたが、なに、その時は更にバージョンアップじゃ!」
「い~~~~や~~~~~~~!」
あ、お姉ちゃんまで頭を抱えて崩れ落ちました。昨年の冬にあった部活? では親衛隊の皆さんがいらない存在感を発揮してお姉ちゃんは地獄だったそうですし、そこにお爺ちゃんが更に参加ですか。私は絶対に見に行きたくないですよ。お姉ちゃんも絶対に来ないでって言ってましたし。
「うん、今日は塾は無理だね。諦めるのです」
あっさりと私は今日の授業を断念します。べ、別に授業に出たくないっていう訳じゃ無いんだからね!
「ひよりちゃんは悪い顔をしておるのう、ほ、ほ、ほ」
「そんな事無いのですよ? そもそも、この状況では私もお姉ちゃんも塾は無理なのです。お姉ちゃん、行きますよ」
崩れ落ちたお姉ちゃんを助け起こしながら、私はお爺ちゃんと塾の外へと向かいます。
「コスプレは嫌、カメコ怖い、コスプレは嫌、親衛隊ウザイ」
何かお姉ちゃんがブツブツ呟いていますが大丈夫でしょか? お爺ちゃんと一緒に来た人達が、あの痛いお姉さん達にも外へ出る様に促しています。結局こうなるのですね。
「あの人達が先日言っていた人達なんですか?」
「ほ、ほ、ほ、残念ながらあれは弟子たちじゃな、しかし、風紀を乱しそうな恰好じゃのう」
そう言うお爺ちゃんですが、表情には全然出ませんのできっとむっつりなんですね。
お爺ちゃんの後について塾の外へと足を踏み出すと、おやまあ親衛隊だけじゃなく警察官もいます。ただそれ以上に異彩を放っているのは、とんがり帽子にローブを纏ったおばさんがいました。
「年齢が読めないです。でも、怖いくらいに・・・・・・化粧が濃いです」
「何ですって! このガキは躾が必要そうだね!」
あ、また心で思った事を言葉にしてしまいました。この癖は直した方が良いと思うのですが、性格が素直すぎるのがいけないのです。
「ひよりちゃんは、良い性格をしておるのう」
「照れるのです」
お爺ちゃんに褒められて、思わずクネクネしちゃいます。すると、化粧の濃いおばさんが更に何かを叫んで近づいてきますが、塾から出て来た痛いお姉さん達へと視線が向きました。お姉さん達はなぜか顔色を真っ青にしていますが、私から注意がそれたので問題なしですね。
「し、師匠」
「お師匠様」
「あ、悪魔、ぎゃふん!」
あ、誰か言い間違えたのでしょうか? ただ、化粧の濃いおばさんは如何にも魔女ですよといった先の捻じれた杖でブルーさんの頭を殴りつけました。
「リアルで初めてぎゃふんを聞きました! 感動なのです」
感動で打ち震える私ですが、お爺さんにエスコートされて黒いスモークガラスのいかにもヤバそうな車に乗せられます。もちろんお姉ちゃんも一緒にですよ。そして、少し走った後にドラマにでも出てきそうな料亭で下ろされました。
「お姉ちゃん、今日は御馳走だね! お昼にはちょっと早いけど頑張ろうね!」
「えっと、何がどうなってるの?」
ドナドナされただけだから、悩んでも仕方が無いと思うのですよ?
次々と新キャラが増えていくのが不安になります。
ひより:「でも、お爺ちゃんがいるから大丈夫だよ?」
小 春:「そうなの?」
ひより:「うん、絶対にシリアスにはならない!」
小 春:「意味が解らないわ」