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5:薬草だって育てちゃうよ

 薬草の発見、これは私にとって非常に大きな出来事だった。前世の世界では普通に生えていた薬草だけど、この世界ではまったくと言う程に見かけない。その為、3歳の時に買って貰った植物図鑑をこれでもかと隅から隅まで見てみたけど、結局馴染みの薬草は見当たらなかった。

 その後、こちらの世界で薬草と呼ばれているミント、ラベンダー、ドクダミなどを調べてみた。それもそれなりに有用っぽい。ただ私はあくまで魔導士であって薬師ではない。この為、魔導士として使う基礎的な知識は持っていても、薬師が作る各種の薬については判らない。必要であれば薬師から買えばよいのであり、態々私達が作るものではなかった。


「ただ、基本のポーションくらいは自作してたのよね」


 ポーションと言っても治癒力を高める物と魔力回復を促進する物、この2種類くらいしか作る事は出来ない。前世では素材の採集や魔物退治において気休め程度の物でしかないけど、特に治癒力を高めるポーションはこの世界では非常に有用だと思う。


「怪我した時に咄嗟に対応する薬がこの世界では無い物ね」


 致命傷などでは気休めにしかならないけど、止血などに限ってみればポーションは効果が大きい。ぜひ家族に持たせたい一品ですね。


「あとは、薬草を今後も増産できるかだね、あとは、薬草が生えて来た原因が本当に粉入りの水なのかだよね、これも検証しないと、やらないといけない事が増えてく」


 そう言いながらも笑みが零れるのを抑える事が出来ない。まだまだ体が出来上がっていないし、ビー玉に代わる良い素材が見つからない為に研究が出来ていない。そのストレスがこの新しい発見にまさに暴走し始めている。


「粉をまず作らないと、薬草はまだ放置かな、もしかすると放置する事で他の植物にも何か変化があるかもしれないし」


 当たり前だけど前世の世界で薬草何か育てた事は無い。育てようと思った事も無い。ただ判っている事は薬草はなぜか群生するという事。一本だけ生えている事はまず無く、数本は必ず一緒に生えているのが普通だった。


「今回は一本だけっていう事は、粉入りの水が少なかったのかな? それとも濃度の問題かな?」


 すでに私の中では薬草が生えた原因は粉入りの水で確定している。もっとも、それくらいしか考えつかないという事もある。


「でも、それなら庭に埋めて粉になったビー玉の後に何で薬草が生えていないんだろ?」


 結界の点検でビー玉の状態を確認していく。その際に朽ちたビー玉が粉になったはずの場所、その周囲を点検していくけど薬草はやっぱり見当たらない。ある意味当然の結果で、何年も同じことを続けているのだから、もし薬草が生えていればとっくに気が付いたはず。


「昨日との違いは・・・・・・あ、水?」


 庭の粉にだって雨は降る為に水はかかっている。その為、粉は確実に水に溶けているはず。それでも効果が違うとすればそもそもの水に問題があるのではないか。昨日使用した水は家の水、しかも我が家で飲料に使っている水はただの水道水ではなくって同じようにビー玉で浄化された水を使っている。


「浄化した水だったから?」


 お姉ちゃんは昨日確かに我が家の飲料用のボトルに入った水を持ってきた。そのボトルにはビー玉が入れられている。


「よし、試してみよう」


 ジョウロに水を入れ、その水に私は直接浄化の魔法を発動する。


「これでビー玉をいつも埋めている周囲にお水を撒いて、明日どうなっているか確認すれば」


 昨日に引き続き明日に向け、思いっきり期待値が上がる。ジョウロで水を撒きながらニヤニヤとしてしまう。うん、仕方がないよね、楽しみなんだもん。前世も併せるとここ数十年、こんなにワクワクした気持ちになるのは久しぶりかもしれない。前世も最後の方はどちらかと言えば弟子の作業を見守ったりと自分で何かを生み出す事は無くなった。それでも、やっぱり根底にあるのは新しい物を自分で生み出すと言う夢。


「もっとも、ポーション自体はそれこそ数えきれないくらいに作って来たんだけどね」


 そう思いながら私は家の中へと戻っていった。ちなみに、結界もビー玉も問題はなかったよ。


 そして翌日、あまりにワクワクする気持ちが抑えられなくて私はいつもより早起きしてしまった。

 その勢いのままに花壇へと向かおうとすると、学校へ登校する前のお姉ちゃんに捕まってしまう。


「ひよりは何を隠しているのかな?」


 薬草の件はもう少し調べないとと家族にはまだ報告していない。それこそ、私の読みが大きく外れてって事だって有り得るので、あまり期待させちゃうのも問題だから。


「う~んと、こないだお水を撒いた花壇の様子が気になったんだよ」


 うん、嘘ではないよね、元々の発端は確かに花壇に生えた薬草だし、そのまま採集せずに放置して浄化済みの水を撒いているのでその後の状況も気になっているし。


「あ、そっか、でもまだ水を撒いて三日だよ? 気が早すぎない?」


 至極ごもっとものお話です。普通であったら私も同意見だと思う。


「うん、でも気になっちゃって」


「そっか、うん、わかった」


 お姉ちゃんはそう言うと、私の手を取ってお庭へと向かいます。


「お姉ちゃん?」


 思わずそう問いかけると、お姉ちゃんは満面の笑みで私に微笑みました。


「何か楽しい事が起きている気がする!」


「・・・・・・・・・・・・」


 絶句です。思わず絶句しちゃいました。

 根拠はと問いただしたい所ですが、恐らく聞いても意味は無いのでしょう。それこそ、気がするだけで動けるのがお姉ちゃんです。


「おおお~~~」


 一緒にお庭へと向かい花壇の様子を見ると、昨日は一本だった薬草が3本に増えていました。これはこれで興味深いのですが、お姉ちゃんがあげた驚きの声は花壇を見ての事では無く、家の各所で一気に藪? が生まれている事への驚きの声です。


「何かしらない間にお庭が変わっちゃった?」


 否定できません。もっとも前回お庭で遊んだのは三日前です。ですので、そんな短期間にこんなに変わるのはどう考えてもおかしいのです。ついでに、その藪は勿論ですが薬草が群生して出来ています。


「すごいね~、お庭が森になっちゃいそう」


 流石に背丈の短い薬草だけで森にはならないと思うのだけど、ともかく薬草は一気に増えました。これで心置きなくポーションの作成に入れます。まずは作ってみないと本当にポーションになるか判らないですから。


「ひより、すっごい楽しそうだけどこの葉っぱは何?」


 思わずニヨニヨしてしまっていたのをお姉ちゃんに気付かれてしまいました。むぅ、これは不味いですね。好奇心の塊のようなお姉ちゃんですからちゃんと説明しないと学校へ行かないような気がします。


「えっと、とにかく少しこの葉っぱを採集してお家に入ろ? 朝ご飯食べないとお母さんに怒られるよ」


 小学校は私の行く幼稚園より登校時間が早いのです。だからお姉ちゃんは早く支度をしないとお母さんに怒られるはず。


「う~~~ん、判った。まずはご飯食べよう」


 まずはという所が気になります。でもとりあえずお家へと二人で駆け込んでいきました。

 ただ、結局お姉ちゃんが帰って来るまで新しい事を始めるのは待つように約束させられちゃいました。幼稚園から帰ったら急いでポーション作りを始めようと思ってたのでちょっと残念。


「という事で、ポーション作りを始めます!」


「おおお~~~、ポーション!ファンタジーだね!」


 お姉ちゃんが大喜び。最近はファンタジーの本が大のお気に入りになったお姉ちゃん、そしてそんなお話に定番なのがポーションだそうです。


「まずはこの薬草を浄化したお水に入れます!」


「え? あの干した薬草じゃないの?」


「うん、この新鮮な採取したての薬草を使います」


 そうなのです。干した薬草と、新鮮な薬草では使い道が違うのです。それに、干して乾燥させるまでにはもう少し時間がかかります。


「ぐ~るぐ~るご~りご~り」


 私とお姉ちゃんで擂鉢で薬草を磨り潰していきます。この作業が子供にはすっごく大変。ある程度潰し終えたらそこにお水を入れて掻き混ぜます。


「これをぐつぐつと煎じるの」


「はいはい、このお鍋に入れてね。零さないようにね」


 火を使うのでお母さん立会いの下です。ちなみに、お母さんは私達が何を始めようとしているのか理解できていません。その為、お姉ちゃんと私で今作ろうとしている物の説明をさせられました。併せて、お庭の確認もしました。そこで漸くテーブルにはカセットコンロが置かれます。


「今後も火を使う時は必ずお母さんに言うのよ。勝手に二人で作業しちゃ駄目よ」


 もし駄目と言ってもこっそりやるのが目に見えているのか、お母さんはそう言って私達に約束をさせます。一応私達は約束した事を破った事はありません。その点においては我が家では約束事に信用があります。


 ぐつぐつしているお鍋を見ていると、台所からお母さんが茶漉しを持ってきてくれます。煎じた後に茶漉しで葉っぱの欠片とかを取り除くのです。


「結構簡単なんだね」


 煮立つお鍋を見ながらお姉ちゃんが言います。


「うん、初級ポーションだからね」


「う~ん、ところでそのポーションってなんなのかしら?」


 お母さんはぐつぐつ煎じられてより濃さを増したポーションに疑わしそうな眼差しを向けます。

 どちらかと言うと私達のおままごとに付き合ってくれている感じです。まさか真剣に薬を作っているとは思っていないのでしょう。


 ぐるぐる掻き混ぜるのと同時に魔力を加えてポーションへと生成を続けます。薬草を磨り潰しただけでも傷薬程度にはなるけど、ポーションには流石になりません。薬効は抽出されると思うのでまったく効果が無い訳ではないと思うけど、その薬効を強めるのに必要なのが魔力なのかな?


「るんたった~るんたった~」


 お鍋をぐるぐるかき混ぜます。弱火でぐつぐつしないといけない為、そこが一番時間がかかるんですよね。薬師とかは抽出するスキルがあるので時間短縮と効果倍増が出来るのですが、私にはそんな力はありません。


「結構時間が掛かるんだね」


「うん、このお水が半分くらいになるまで煮ないとなの」


 時々お姉ちゃんにお鍋混ぜ係を交代してもらいます。お母さんは夕飯の準備に台所へ行っちゃいました。

 ただ、火を使っているので十二分に気を付ける様にと離れる際に注意されました。それと、今度IHのプレートを買ってくれるそうです。火を使わないから安全?


 その後、これくらいかな? という所で火を止めて、2回茶漉しでポーションの原液を濾して最後にコップにポーションを注ぎました。


「お~~~、これで完成?」


「うん、これで完成!」


 久しぶりに出来たポーションを眺めると、透明で綺麗な緑色をしています。


「不思議だね、途中から透明になってったね、綺麗だね」


 お姉ちゃんもポーションを見て感想を述べます。

 出来たポーションをお母さんから貰った小瓶に小分けにして、お父さん用、お母さん用、お姉ちゃん用と3本のポーションが完成。一応みんなに常時持っていてもらうようお願いしよう。


「あら、あんなに濁っていたのに綺麗な色になったわね、でも、このポーションって何なの?」


 台所から私達の声を聞きつけたお母さんが戻って来て、ちょっと不思議そうにポーションを見ながら聞いてきました。


「基本的に傷の治癒薬なんです。深い傷には振りかけて一時的に治癒を速める方が良いですけど、ポーションが掛かった所しか効果は無いです。飲むとゆっくりと治癒が進むけど内臓を含めて体全体の怪我に効果があります」


「え? お薬? え? そういう遊びなのかしら?」


「遊びじゃないよ?ひよりは凄いんだよ?」


 戸惑うお母さんの横でお姉ちゃんが首を傾げています。そこで私は一つ一つ事例をあげて説明しました。


「あら? もしかしてこれってあのビー玉や水晶と同じようなものなの?」


「はい、そうなんです」


「凄いわね、でもひよりちゃんはどこでこのポーションの事を知ったの?」


 お母さんにそう回答したら、また質問されました。


 その質問にはどんな回答をしたら良いのでしょうか? 私が異世界からの生まれ変わりだと教えた方が良いのでしょうか?


「怪我の自然治癒を速めるのがポーションの効果なのです。だから病気は別のポーションの出番なんです。あ、あと毒とかにも効きませんから見極めが重要です」


「それはそれで凄いような気がするんだけど、でも答えになってないわよね」


 お母さんの目力が強くなります。ちょっと誤魔化せそうにありません。


「えっとね、お庭で薬草を見つけたの。それで薬草を手にしたら何かそういう知識が頭の中に入って来たの」


 魔物などの毒持ちに噛まれたとき、外傷だけ治して結局毒で死んじゃうってこともよくありました。毒でのダメージは外傷扱いじゃないんですよね。体や臓器が腐れ落ちたりする毒にはかろうじて対抗できるのですが、すっごい激痛でだいたい精神や心臓が持ちません。麻痺毒何かにはまったく役に立ちません。


「う~ん、毒はあんまり気にしなくていいかな」


 お母さんはそう言います。ただ今の所この薬草しか無いので解毒ポーションを作ろうにも作れないのですが。


「でも、食中毒とか怖いよ?」


「あ、そうね。小春は凄いわね、良く気が付いたわ」


「えへへ~~~」


「えっと、ただ今の材料では食中毒のお薬は作れないのです」


 お母さんに褒められて照れるお姉ちゃんもう、それはもう尊いのですが私は一応今の段階では制作不可能な事を報告しておいた。


「うん、大丈夫、いつか出来るよ! だってポーションが作れるようになったんだもの」


 ある意味根拠のない断言ではあるのです。それでも、お姉ちゃんがそう言い切ると何かそんな気がしてくるのが不思議です。ともかく、一応この世界にポーションが誕生したのでした。

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