49:お爺ちゃん、来るのが遅いですよ
誤字脱字報告ありがとうございます。
幸いにして、お姉ちゃんが心配したみたいに死人は出ませんでした。流石に能力者というか、結構しぶといですね。結局の所、お爺さん達が駆けつけて来るまでには、更に30分以上かかりました。肝心な時に役に立たないお爺さんです。
「で、裏から侵入しようとしてきた人は結局何だったの?」
「電話が繋がらなかったので、独自に勝手に判断して私達に避難をするように告げる予定だった愚か者です。あのタイミングではとっくに周囲を包囲されていたと思うから、悪手も良いところですね」
「という事はやっぱり本当の親衛隊の人?」
「うん、でもダメダメですね。ましてや一人しか配置してないとか、お爺さん大失態です」
お爺さんの所属している組織の人だったみたいなので、お爺さんの大失態は間違いなしですね。一般人が相手だったら問題無かったようですが、世の中は結果が総てを物語るのです。
「でも今回はこの地区を停電までさせるとか、今までとスケールが違わない?」
「うん、それは私も思う、今回は最初っから変だったね」
そもそも警察を関与させる必要性が良く判りません。伊藤家と警察が揉めた事は確かですが、あれで信用を得ようとしたのでしょうか?
「目的はやっぱりポーションというか、ポーションの作成者ごと欲しいとかだと思うの。ただ乱暴すぎるかな?」
「犯人は確保出来たので、あとは警察さんとお爺さん達に任せれば良いと思う。面倒だもん」
そうこうしている内に、お爺さんと神主さん、それ以外に外人さんも居間に入って来ました。
「今回はすまんの。思いっきり油断しておったわい」
「私達も情報が入るのが遅くなりました。そのせいで後手後手に回ってしまい申し訳ありません」
お爺ちゃんも、神主さんも揃って頭を下げてくれますが、後ろの方はどなたでしょう?
「ひより嬢、この度はとんだ災難に遭われ、我々がもう少し早く動いていればと慚愧の念を感じえません」
「お爺ちゃん、この人は誰?」
「伊藤家を暫く警護してもらう者の代表じゃの。対能力者の訓練も行っておるから、その点は信用は出来るの」
お爺ちゃんの説明に合わせてニッコリと笑うけど、文化の違いか握手を求められました。
「要人警護専門の会社ですから、我々と幾度も協力して来ています」
「宜しくお願いします」
「警護ってどうするのか打ち合わせがいるよね? お家の中に知らない人、ましてや男の人が居ては欲しくないかな」
いくらお爺ちゃん達が信用していても、それとこれは別だと思います。そもそも破られたとはいえ、30分近くの時間を自力で稼いだのです。
「出来ればご自宅内に最低2名は配置したいのですが、勿論女性を選びます」
「両親と相談してお答えしますが、お断りすると思います」
おお、お姉ちゃんがキッパリ言い切りました。うん、家の中には結構危険な物もあるし、知られたくない事や、物も結構ありますからね。お姉ちゃんもその事を気にしてるのかな?
「ふむ、それは困りましたね。この件は、ご両親とお話させていただきましょう」
まあ最終の決定権はお母さんが持ってるから、お母さんが許可したら従うしか方法はなくなっちゃうけど。ただ、お母さんも我が家の危なさはしっかり理解しているから、厳しいと思うけどね。
「ところで、襲ってきたあの人達は何だったの? 結構な能力者だったよ」
なにせ自慢の八重垣が突破されましたから。改めて思い返しても、あれは結構なショックでした。
「六層目からはちょっと遊んだお茶目結界だったとはいえ、私の多重結界が突破されるとは思わなかったよ」
「ひより・・・・・・遊んだってどういう事かな?」
「四層もあれば突破されないって思ってたから、五層目は小さな蟹さんが纏わりついて挟みで攻撃、最後に自爆するの。六層目は真っ白な子犬が大きな円らな目で見上げて来て、油断して近づくと火を吐くの。七層目は、ヤシの木の上から豚さんがヤシの実爆弾を落としてくる。でも、豚さんは遠距離攻撃が効かないからヤシの木に登らないと駄目なの。で、最後の八層目が蛸さんだったんだよね」
「あの時に言ってたけど、それを倒さないと結界が消えないのよね?」
「うん、あとね、豚さんのヤシの木は時間経過と共に伸びるの、そういえば何で二枚抜きされたんだろ? 結構厄介だと思ってたんだけど」
ポケットからビー玉を出して、6層目の結界を疑似的に発生させてみる。
「あ、設定ミスだ、これは二枚抜きされる! うう、豚さんの可愛さ調整する為にヤシの木を低くしてたの忘れてたよぉ」
私の目の前には、高さ150センチくらいのヤシの木にしがみ付いたピンクの豚さんがいた。
「でも、この可愛い豚さんを、躊躇なく殺れるメンタルが怖いよね。私だったら躊躇っちゃうよ」
「殺せないとは言わないのね」
「「「・・・・・・」」」
うん、敵は敵なんです。可愛い姿をして魔物なんて、あっちでも結構いましたよ。ただ、それがお金や食べ物など生活の糧になるならば、誰一人躊躇しないと思います。こっちの世界だって、養豚場の人とかが良い例ですね。
「でも、ヤシの木に何で豚なの?」
「お父さんの持ってたアニメを見たの、映像は今ひとつだったけど、結構参考になったよ?」
「何んとなく何を見られたのか判るのですが、参考にしてはいけない物のような気がします」
「そうじゃのう、自爆は美学とか言い出しそうで怖いのう」
「私は寡聞にしてそのアニメは知りませんが、それ故にお嬢さんたちはその様に麗しい恰好をされて見えるのですね」
神主さん、お爺ちゃんは何となく判る系、この外人さんは脳筋系と分類ですね。佳奈お姉ちゃんとは時々進む方向で論議になるので、これくらい遊ばせてほしいのです。
「・・・・・・あ、・・・・・・あああ」
そんな事を思っていたら、突然お姉ちゃんの様子がおかしく成りました。
「お姉ちゃん如何したの? 何かあった?」
今、周囲で怪しい感じはありません。でも、よく考えたら結界が何も張られていない状況でした! 思いっきり油断していました。
「とにかく、通常の結界を張るね! お姉ちゃん待ってて! あ、家の周りにある真ん丸さんが皆壊れてるから、お姉ちゃん待ってて、急いで真ん丸さん置いて来る!」
私は結界を張る為に必要な、家の四方を守る真ん丸ダイヤさんを設置しに駆け出そうとした。
ガシッ!
「え? 何?」
走り出そうとした私の腕を、お姉ちゃんががっしりと掴んでいる。
「ひより、お姉ちゃんステッキをもう手に持ってないの。だけどね、何でまだ変身してるの?」
お姉ちゃんの普段より低い声が聞こえます。
「え? あ、それはね、ブレスレットとアンクレットで映像の座標設定をしてるの。あと、せっかくだから映像に使う魔力もそっから使用してるから、ステッキを落としたり、奪われちゃったりしても変身が解けなくなったんだよ! すごいでしょ!」
そうです、説明するのを忘れていました。これで、変身が解除されて正体がバレる事が無くなったのです。
「へ~~~、そうだったの。うん、凄いわ。でもね、それならもっと早く教えておいて欲しかったな。思いっきりこの恥ずかしい格好が見られちゃったじゃないの~~~!」
「え? でも、正体ばれてないよ? 変身してるもん」
「そんな訳ないでしょ! 思いっきりバレてるわよ!」
「お姉ちゃん、魔女っ娘は、変身すれば正体がバレない魔法がこの世界にはあるんだよ? だから大丈夫!」
「ほ、ほ、ほ、ひよりちゃんや、お爺もその様な魔法は初耳なのじゃが、誰に教えて貰ったのじゃ?」
あれ? お爺ちゃんも知らないの? でも、そうじゃないとアニメの主人公とか正体バレバレだよ? この世界の、お約束の法則なんだよね?
「で、誰に教えて貰ったの?」
「・・・・・・佳奈お姉ちゃん」
「か~~~な~~~~!」
あ、お姉ちゃんが暗黒面に堕ちちゃった。佳奈お姉ちゃんに言われて入れた裏設定モード、その衣装であるセクシー悪役衣装に華麗に?変化しました。参考は、もちろんあのドジっ子悪役女性ですが、すっごく似合わないですね。
「ほ、ほ、ほ、ひよりちゃんや、この衣装は少々退廃的じゃのう。お爺には刺激的じゃわい」
「そうですねえ、まあうちは神道ですから、有りと言えば有りですが。少々背徳的ではありますが需要はあると思いますよ」
「私の趣味では無いですね。わたしはもっとこう」
神主さんは何を言っているのでしょう? それと、外人さんはお姉ちゃんから視線を外し、両手で何かを空中に描きます。たぶん、ボン、キュ、ボンって言いたいのかな? でも、せめてその動作はやめた方が良かったと思う。怒りは時に限界を超えるのです。
「ばか~~~!」
「あ、すごいです。初動が見えなかったよ」
先程の暴漢さん達の動きに引けを取らないくらい素早く、お姉ちゃんは一歩踏み出しました。
「ごふっ~~~~」
何時の間にか両手でしっかりと杖を持ったお姉ちゃんが、思いっきり杖を外人さんのお腹に叩き込みます。うん、すっごく綺麗にお腹に入ったのと、杖が叩きつけられる瞬間光ったから、魔法が乗って効果は倍増? あれは厳しいですね。
「うわ~~~~ん、セクハラ野郎~~~、うわ~~~~ん」
その後もお姉ちゃんは、ガシガシと魔女っ娘ステッキを蹲った外人さんに振り下ろしています。
「お爺ちゃん、あの外人さん本当にプロです? 素人のお姉ちゃんに袋叩きにあってますよ?」
「そうさのう、新しい扉が開いたのを認めたく無かったのかのう」
うん、意味が判らないです。ただ、お姉ちゃんが今の衣装に気が付く前に、暗黒面から復帰する事を切に望むのです。うん、命の危険を感じます、佳奈お姉ちゃんの。
小 春:「ひより、そういえば前に悪意を見るサングラスつくったじゃない! よく考えたら、あれを私が貰えば良かったんじゃないの?」
ひより:「えっとね。お父さんに泣かれたの。だから駄目だよ」
小 春:「え? どういう事?」
ひより:「魔法を付与した魔力がなくなったら、レンズが粉になっちゃったの」
小 春:「え? あれって、お父さんお気に入りで、結構な値段だったよね?」
ひより:「うん、だから泣かれちゃったの。あと、お母さんに使う前に許可を取りなさいって怒られちゃったから、もうあれは無いの。お小遣い減らされたくないもん」