48:ちょっと結界を過信していました。
誤字脱字報告ありがとうございます。
ちょっと痛いかも? な車が駆けつけて来てからは、家の前にいた警察官はあっという間に親衛隊に拘束されていました。
「お姉ちゃん、警察官って一般人に拘束されるもんなの? 公務執行妨害とかで、あとで問題にならないのかな?」
「我が家に押し入るその公務って何なのかしら? とにかく、これで一段落だわ」
お姉ちゃんはそう言って窓から離れるのですが、う~ん、多分そう簡単には行かなそうなんだよね。
「親衛隊の人達に声掛けなくて良いわよね? お爺ちゃんとかいなかったし」
「うん、声掛けない方が良いと思う」
私の言葉に頷いてお姉ちゃんは一階へと戻ろうとするんだけど、私はお姉ちゃんの袖を引っ張る。
「ひより、どうしたの?」
「あのね、こんな事を言いたくないんだけど、親衛隊の人達から悪意がすっごいの」
「え! 嘘! ちょっとマジ?」
驚くお姉ちゃんに私はコクンと頷く。さっきまでまったく感知できなかった悪意が、今思いっきり反応しています。
「あと、あの親衛隊の人達ってさ、裏から来た人と比べ物にならないくらいヤバそう」
「ヤバいってどれくらい?」
「お爺ちゃんに匹敵まではいかないけど、そんな感じ」
お爺ちゃんを引き合いに出して、お姉ちゃんに説明する。でも、比較がお爺ちゃんだと今一つお姉ちゃんにはヤバさが判らないみたい。
「八重垣が突破されるかもしれないくらい?」
「うわ! でも、親衛隊なんだよね?」
「服装はそうだけど、本当に親衛隊かは判らないよ」
私の言葉に考え込むお姉ちゃんだけど、そんな私達の思考を外からの声が遮ります。
「伊藤姉妹はご在宅ですね! 親衛隊の鈴木です、宜しければ中でご説明したいので結界を解いていただけないでしょうか!?」
顔を見合わせた私とお姉ちゃんは、出来るだけ気配を潜めて、そっと忍び足で居間へと戻ります。
「結界にまた魔力を込めておくね」
八重垣の一層が突破されているので、実際にはもう七層の結界になっています。本来であれば外に出て一層の結界を修復したい所ですが、今は姿を見られる方が不味そうなので我慢します。
「最悪は戦闘になると思う。六層目が突破されたら言うから、お姉ちゃんも変身してね」
「え? う、うん。でも私は戦闘とかしたことが無いわよ。近づかれたらあっという間に負ける自信がある」
顔を青褪めさせているお姉ちゃんだけど、お姉ちゃんの新装備は早々負けるとは思えないんですよね。
ただ、絶対はないし、八重垣だって本当なら破られるはずは無いんだから。
「私達が反応しないから、そのまま帰ってくれないかしら?」
「う~ん、あのね、今思うとあの警察官の人達は本物かもしれない。何かあの親衛隊もどきの人達が警察に嘘の通報をして、それで家に入ろうとしたのかも。だから悪意が無かったかもって今思った」
「え? でも、そしたら私達って悪い事しちゃった?」
「大丈夫、悪いのは今外にいる連中だから」
「あれ? でも、裏から入ろうとしたちゅど~んの人は?」
「判んないけど、本当の護衛の人? まあお爺ちゃんとか来ないと本当の事は判らないけどね」
二人でそんな事を話している間にも、どうやら外の人達は我が家に強行突入する事を決めたみたいです。
「魔力を込め直したけど、二層目あっさり突破されちゃった。やっぱりちゅど~んの人より数倍優秀そう」
真ん丸ダイヤに魔力を込めていく。ただ、八重垣に使用している外にある真ん丸ダイヤは、内包できる魔力量の限界が決まっている為に無暗に魔力で強化できる訳ではない。
「むぅ、あっさり三層目も突破された」
「三層目ってどんな結界だったの?」
「三層目は単純に相手の攻撃を倍にして返す設定だったの。でも、力技で来る相手にはすっごく有効なんだけど、ちょっと自信を無くしちゃう」
ちゅど~んで警戒した相手は、遠目からの攻撃で三層目を攻略するって思っての設定だったんだけど。見て無いからどうやって突破されたか判んない。
「四層目は持ちこたえてるね」
三層目の結界が壊されてから、もう5分が過ぎている。これは予想外の収穫です。時間が掛かればかかるほどに援軍の到着が期待できる、といいなあ。
「あ、突破された」
四層目は普通の侵入禁止の結界だったんだけど、やっぱりこれも突破される。
「あと四層だけど、それまでに援軍来るかなあ?」
「来て欲しいわね」
「私達が家にいるって思ってるのかな? それとも居ないって思ってるのかな?」
「ここまでするんだから、居ると思っているんじゃないかしら? 学校とかに確認取ってそう」
そうだよね。そうすると、狙いはやっぱり私達かあ。でも、ここまでの能力者を出してくるって事は、政府関係じゃなさそう。お爺ちゃんがあそこは人材不足って言ってたもん。
「なんとなく、外国が絡んでたりしそうで嫌だなあ。もしそうならお爺ちゃん達も足止めされてそう」
「嫌な事言わないでよ」
でもさ、外国だったとしても、違ったとしても、今まで大人しかったのに急に動き出したのはやっぱりポーションなんだろうな。
「五層目も突破されたから、お姉ちゃん準備してね」
「はあ、こうなったら仕方が無いわね、トランスフォーム!」
「おおお、凄いね、当社比200%の出来だよ!」
「意味判んないわよ!」
ブレスレットとアンクレットの御蔭で、以前のふわふわ綿菓子系から、どちらかと言うと少女神のような神々しさが加味されました。ただ、こうなると魔女っ娘ステッキが違和感を感じます。
「魔女っ娘ステッキのデザインを考え直すね。なんか今の衣装に合わない」
顔を真っ赤にさせているお姉ちゃんは、私の言葉にすっごくキラキラした眼差しを向けます。
「ねえねえ、それならもっと格好いいのにして! もう少し大人っぽいのがいい!」
う~ん、佳奈お姉ちゃんと要相談ですね。でも、何か必死に大人の恰好をしてますよって感じも良いかも?
「あ、六層目まで突破された」
気が付けば二枚抜きされています。ただ、此処までで相手だって相当魔力を消費しているはずです。残魔力が勝負の分かれ目になるかもしれないですね。
「お爺ちゃん達は駄目ですね、間に合いそうに無いです」
「うん、それは仕方がないかもだけど、遠くでパトカーのサイレンが聞こえない? 一台どころじゃ無さそうな賑やかさで聞こえるけど」
「そっか、警察の人が連絡付かなくなれば、普通は援軍ぐらい来ますよね」
警察官が何人来ても何ともならない気はします。でも、警察官は銃を持ってますし、多少は期待できるのかな? でも、銃弾って結界で簡単に防げそうなんだよね。
「あ、駄目、七層目も突破されちゃった。玄関壊されたり、家の中で戦闘とか大変な事になるから玄関に出よ。でも、お姉ちゃんは私より前に出ないでね」
「え? あ、うん。でも、ひよりを守らないとだし」
「大丈夫だよ、お姉ちゃんよりは引き出し多いから、お姉ちゃんは隙をついて攻撃して」
「わかった。とにかく頑張る!」
お姉ちゃんの手を引きながら、私達は玄関を開けて外へと足を踏み出しました。
「こ、この野郎、やっと出てきやがったな。待ってろ、すぐにこんなの突破して遣るぜ」
「・・・・・・ひより、この惨状は、なんなの?」
玄関を出て、門までのほんの僅かな距離に、10人近いおじさんが半裸で倒れています。アフロの頭の人や、明らかに焦げちゃいました? といった感じの人。女の子座りで、どっか遠くを見つめている人。色々な人がいますけど、どの人の服装も、何処かが焦げたり溶けたりしています。
「ビジュアル的に最悪でした、要対策が必要です」
「「「ふざけんな!!!」」」
まだ比較的元気のあるオジサン3人が、目の前で半透明の触手のような物と格闘しています。
「あの人達何で態々戦ってるの? 避けて進んでくれば良いのに」
「あれは結界を具現化しているのです。だから、あれを倒さないと前に進めないのです」
「・・・・・・ひより、今度しっかりとOHANASIしましょうね。さすがにあれは不味いわよ! 物事にはやっていい事と駄目な事があるのよ?」
お姉ちゃんの目が、何か未だかつて見た事の無いような光を放っています。
「でも、あれは人体に影響の少ない溶解液を出しているだけで、新しい扉は開かないのです」
「うん、そこからは聞きたくないから言わなくて良いわ、あと、佳奈もお仕置きが必要ね」
「「「ちょっとまて、人体に影響の少ないの少ないってなんだ!」」」
あ、この結界の発想元が佳奈お姉ちゃんだと言うのがバレました。でも、佳奈お姉ちゃんの想定では、一人か二人は女性がいるので、それで撤退に追い込めるって言ってたのに。あと、オジサン煩いですよ。
「まったく、オジサンばかりなので、想定外で見苦しいですね」
「「「うるせえ! この後覚悟しやがれ!!!」」」
ふむ、ここまで相手戦力が削れているとは、良い意味で想定外なのです。
「お姉ちゃん、これなら、叫び声を上げれば変質者でいけそうな気がします?」
「いけてもあの車のせいで、後々ダメージがこっちに来そうなんだけど」
視線の先には、女の子の絵が書かれ、ひよりちゃんLOVEなどと書かれている痛い車が止まっています。
「はあ、せめて小春ちゃんLOVEとか、小春ちゃん命だけだったら問題無いのですが」
思わず溜息を吐く私に対して、何故かお姉ちゃんが掴みかかろうとしてきました。ただ、そんな最中に目の前のタコさんモドキが消えていきます。
「くぅ、まさか本当に八重垣が突破されるとは思いませんでした。すっごく悔しいです。蛸より烏賊の方が良かったでしょうか?」
「そういう問題じゃないわって、そんな事より、ひより、どうするの! 戦うって言ってたけど、私どうすれば良いの? もう撃っていい?」
お姉ちゃんが慌てて後ろから肩を掴んで揺さぶりますが、それより魔女っ娘ステッキを構えて欲しいものです。まあ命の遣り取りをした事がなければこんなものでしょうけど。
「はあ、困ったものです。で、そんな満身創痍の状態で続けて私と戦うつもりですか?」
自分のステッキを構え、いかにも歴戦の強者のように相手を睨みつけます。
前世で幾度も魔物を倒してきた私にとって、この程度の連中はオーガくらいの脅威なのです。
うん、まじめに脅威です。研究職を舐めるなと言いたいですね。
「黙れ! ようやくだ、貴様達を連れて行けば任務は達成だ。ハッキリ言ってとっとと帰りたいんだ!」
「なら来るなと言いたいのです」
「うるさい!俺はチビの方を確保する、お前たち二人は後ろのガキを捕まえろ!」
そう叫ぶと男達は、まだ結構あった距離を一気に詰めて私達の目の前に突然現れて・・・・・・落っこちて行きました。あのオジサンが振りかぶっていた手はきっと、私を気絶させるために殴り飛ばすつもりだったのでしょうか?
「あれって縮地でしょうか? 漫画やアニメだと定番だけど、本当にあるんですね。ちょっと吃驚したけど、女の子を殴ろうとするなんて許しがたい行いですよ?」
「え? え? あれ? 今、あの人達が突然目の前にっていうか、これ落とし穴?」
私は目の前にある大きな落とし穴を覗き込んで、その底で、うん、大体5メートルくらい下で倒れているおじさん達に言い放ちます。でも、どうやら気絶しているのか残念な事に返事はありません。
「お姉ちゃん、このおじさん達は、恐らく魔力頼みで結界や罠を判別してたんですよ。ただ、ここに来て最後に準備していた落とし穴は、逆に普段は魔力で荷重がかかっても落ちないようにしてたのです。で、玄関から出た時に、魔力を切ったので普通の落とし穴、魔力無しで探知不可能? になったのですね。オジサン達、相手の領域では油断は禁物なのですよ? って聞こえてます?」
穴のふちに屈んで、種明かしをしてあげたのに寝ていて聞いていないなんて、この人達は本当に失礼です。
「私、普段からこの上を歩いていたの?」
お姉ちゃんが穴を覗き込みながら、何か身を震わせています。うん、思ったより深かったかもしれない?
そんな私達の家の外では、パトカーやパトバス? が停車して警察官が走り出してきます。うん、どう見ても普通の警察官じゃ無い人が大勢いますね。
「なんだこれは!」
「木島班は近づかず、現場の保全をしろ! 馬場班はこの男達を確保! 併せて先に到着しているはずの者を探せ!」
明らかに私は特殊な部隊の隊長ですよって感じの人が、似たような服装の人に指示を飛ばしていますが、その後ろから、以前見た事のある人がひょっこり出てきました。
「あ、竹内さんだ、こっちこっち~」
何となく覚えている冴えない風貌に、思わず手を振ります。そんな私を見てお姉ちゃんは溜息を吐きますが、この後の面倒事を押し付けれる人が見つかったんですよ? ここは喜ぶところだと思いませんか?
「あ~、ひよりちゃん、久しぶりだが、いったい何があったか教えてくれないかな? こっちは伊藤家で強盗事件発生の一報からてんやわんやでな。先に着いているはずの者からは、今から家の様子を窺うって報告が来た後から連絡が途絶えてな。はっきり言って良く判っていないんだが」
「おい、竹内警部、ここは俺達が仕切る。邪魔するな」
「仁科警部、ハッキリ言って事件はもう終わってる。あとは尋問と裏付け、あんたら機動隊の出番はない」
うん、何か仲が悪そう。というか、竹内さん出世したんだね、前は確か警部補だったよね。
「竹内さんなら大丈夫なのかな? この倒れてる人達みんな能力者だから扱い気をつけてね」
「「はあ? こいつら全部?」」
うん、仲は良いのかもしれない。息がぴったりでした。あとは、お爺ちゃん達が早く来ないかな、来て欲しいな。
「落ちてる人、死んでないよね? 大丈夫だよね?」
お姉ちゃん、死んでても正当防衛だと思うよ。
ひより:結界抜けて油断してたら落とし穴、落とし穴って使い勝手が良いですよね?
小 春:そんな事より、結界の質が悪すぎでしょ! 触手とか、教えた佳奈も佳奈だけど、貴方も自重しなさい。貴方は小学生なんですよ!
ひより:お姉ちゃん、小学生だと何が悪いの?
小 春:え? えっと、それは・・・・・・、とにかく悪いの!
ひより:理不尽なのです。