44:時は過ぎて、騒動の種は静かに芽吹く
誤字脱字報告ありがとうございます。
”鳳凰学院思春期だからって変態すぎだよね事件” が収束して早くも1年が過ぎました。あれからも月に1回くらいお爺ちゃんの所でアルバイトをしていますが、それ以外は大きな騒動も無く、家族みんなで平和に過ごしています。
「平和? 平和じゃないよね! 何でか佳奈に巻き込まれて、コスプレさせられたんだよ! 親衛隊のお礼って言われて、ついでにコスプレ撮影会も開催されたんだよ! しかも何時の間にかコスプレ部の部員になってたんだよ!」
「えっと、半分は自業自得だと思うよ? 佳奈お姉ちゃんには、私も巻き込まれたから逆に謝罪がほしい!」
お姉ちゃんが騒いでいるけど、とにかく、そんな平和が何となく怪しくなってきたかもと思うのは、今目の前で深々と頭を下げている50歳は超えてるんだろうなって思うおじさんのせい。その隣に座っているのはお久しぶりの榊さんという所が困惑を増長していますね。
「以前、伊藤家で作成したポーションを。この度ぜひ作成していただきたい」
この頭を下げているおじさんは、大和の国を治める皇室の人との事で、思いっきり神社関係者です。ただ、神主さんとは違う伊勢神宮の関係者との事だけど、我が家と神主さんが仲が良いので少しでもお願いを聞いてほしいと仲立ちをお願いしたみたい。
「ポーション? えっと、特に誰かに渡した記憶はないよ? あれ? あったかな?」
この世界の医学が、それこそ前世を凌駕するくらいに優秀な事もあり、あと変に広まると法律違反とかで逮捕されそうな気もするので、前世のようなポーションを作ったのはすっごく前だった覚えがある。
確か、ビー玉の粉を使って薬草を作って、そこから治癒のポーションを作ったよね。ただ、あれって誰かにあげたかな? 記憶がないです。
あと、下手なポーションよりお姉ちゃんの回復魔法の方が優秀なんだよね。騒動になると嫌だから、これはお爺ちゃん達にも教えていないけど。
治癒に限って言えば私より凄いんだけど、あれって私が教えてあげたユーステリア様を未だに熱烈に信仰しているからじゃないよね? 毎日お祈りは欠かしてないみたいだし、ユーステリア様の存在を疑っていない私が結構なあなあなのに、お姉ちゃんガチだもんね。ステータス見たら聖女とか、使徒とか出てそうで怖いですね。
「現代医学の発展は、確かに素晴らしいものがあります。ただ残念な事に、いまだにその医学でも治せない病がある事も事実。そして、誰とはお伝え出来ませんが、何とかお救いしたい命があるのです。お力をお貸しいただけませんか? 報酬はしっかりと払わせて頂きますよ」
神主さんが此処まで無理を言ってくるのは非常に珍しいですね。隣のおじさんは頭を下げたまま微動だにしませんし。
一緒に今回の面談に立ち会っているお父さんとお母さん、そしてお姉ちゃんも困惑しています。
まあ、化粧液とか、肌に塗る美白クリームとか、我が家&一部特定の人限定で色々作っているのは確かです。でも、ポーションかあ、なぜその情報が出回っているのか本当に良く判らないですね。
「そもそも、治癒ではなく、なぜポーションなんですか? 今更なのですけど、治癒の方が症状とか確認して行うので確実ですよ? もっとも、治せないものもありますけど、これはポーションも一緒ですし」
「それはですね、以前頂いたポーションで治った実績があるからです。もっとも、治ったのは実験用のネズミですが」
そう言って笑う榊さんを見て、そう言えば以前に研究してみたいと頼まれて、色々と作って渡したような? あれにポーションがあったかな? ただ、2年くらい前の話ですね。
「何色のポーションでした?」
「緑色の物です。成分検査した記録では、恐らくほうれん草が主原料の物ですね。あれでなぜ即効性の治癒効果が出るのかは未だに判っていませんが」
ほうれん草かあ、そうすると前世のポーションじゃないね。お父さんが、昔見た漫画でほうれん草がなんたらって言ってたから試したんだよね。今でも、特定の状況で非常に有効だから、ちょくちょく作ってはいるよ。そうすると、血液に関係する病気なのかな? あのポーションの効果は恐らく造血作用や、解毒など、血液内での効果だと思ってる。我が家での使用用途としては、お姉ちゃんの女の子の日によく使われますね。思いっきり貧血対策です。
「まさかと思うんですが、女の子の日が辛いので、とかそんな理由じゃないですよね?」
「ちょ、ちょっと、ひより」
「なるほど、そういう時にも有効なのですか。ふむ、娘にあげるのも良いですね」
あ、神主さん、お宅のお嬢さんはまだ3歳じゃなかったでしょうか? まだまだ早いと思いますよ? ついでに、娘の生理に気が付いて薬を差し出す父親、うん、思いっきり気持ち悪いので止めた方が良いですね。
思わず、我が家の女性陣全員の視線が冷たくなりました。男性ってそこら辺の配慮がね、あとこの国の風習で言うと、お赤飯のデリカシーの無さはあり得ないですし。
「あ~~~、その、なんですね。失言でした」
私達の視線に気が付いた神主さんが、思いっきり冷や汗をかいていますが、これは自業自得なのです。
「榊殿にばかり説明をお願いしていて、誠に申し訳ない。これはあくまでも私事なのです。私の息子が血液の病を発症しましたが、進行が思いの外早くこのままではと。何卒、何卒お力をお貸し願いたい」
先程から頭を下げていたおじさんが、漸く口を開きました。その様子を見た神主さんが、私達に改めて頭を下げる。
「実際ね、伊藤家は不可侵と言って良い立ち位置なんだよね。窓口は天台宗の爺さんと、神道では私とされている。また、権力者や何やらに目を付けられるような事には非常に注意を払っている。病気の治療などはその最たるものなんだ」
神主さんの言う事には、なるほどそうなっていたんだって思いますが、それでもちょっと首を傾げます。
「お爺ちゃんの所のアルバイトは良いの?」
「オカルト関係はね、信じる信じないは別として、まずもって証拠とされるものが無いからね。霊を払いました、呪いを返しましたと言っても、誰もそれを証明できないでしょ」
成程、道理でお爺さんから頼まれることは浄化関係ばかりだったのですね。
「ただ、今回は実際に病気が治ったという実績が目に見えて現れる。そうすると、日本中の、若しくは世界中の人が自分も治してくれと殺到する。それこそ、財力や権力、または暴力までも使用して無理を通そうとする。我々は、その可能性を非常に恐れているんだ」
「自分の身に降りかからなければって処ですか」
話を聞いていたお父さんが、静かに言葉にします。
「はい、もし他人の子供であったなら、私は立場的に言って情報を遮断したでしょう。それは否定しません。もし、息子が治るのでしたら、それこそ一千万でも、一億でも出します。借金をしてでも出させていただきます」
そう言って再度深々と頭を下げるおじさん。ただ、我が家の面々は困惑です。
「一応、彼の年収は1000万くらいだよ。だからと言って、今言った金額をポンと出せるほど裕福とは言えないけどね。あと、恐らく願いを聞き届けて貰ったら免職になるだろう。まあ私も何らかのペナルティーを受けるだろうが、彼には昔、世話になってね」
「え? そうなんですか?」
お姉ちゃんが驚きの声をあげる。
「ああ、国や宗教間で決められた協定を破る事になるからね」
「何か勝手に決められちゃっているのね。我が家の事、うちの子達の事を考えて頂いての事だとありがたく思うのですが、出来ればまず大人だけで話したかったと思いますわね」
「申し訳ありません。私の配慮が足りませんでした」
「誠に、誠に申し訳なく・・・・・・」
お母さんの言葉に、深々と頭を下げる神主さんとおじさん。ただ、普通は此処で会話の主導権をお母さんに任せるはずのお父さんが、珍しく会話に割って入ってきました。
「なるほど、新藤さんでしたか、つまり、ご子息はそこまで切羽詰まっている状態という事ですな」
「・・・・・・」
お父さんの言葉に、おじさんはただ頭を下げて沈黙を貫くだけです。
なるほど、そう言う事なんですね。時間がもうないのかあ。
「ひより、できたら作ってあげて、後の面倒ごとは榊さんが責任を持ってくださる、そういう事ですわね?」
「はい、全霊を掛け、可能な限り」
「あ、ありがとうございます」
二人揃って深々と頭を下げる。ただ、それは良いんだけど・・・・・・。
「お母さん、昨日お姉ちゃんに作ってあげたのじゃダメなの?」
「あ、そうね。そういえば昨日作ってたわね」
そんな会話を始める私の横で、お姉ちゃんが顔を真っ赤にして叫びました。
「あ、ひより! なんでそこで私の名前を態々出すのよ! ひ、よ、り、の・・・・・・ばっか~~~~~!」
「あら、駄目ね、それこそデリカシーが無かったわね」
顔を真っ赤にして、自分の部屋に駆け出して行ったお姉ちゃんを見ながら、改めて発言には気をつけないとと思いましたよ。
「お母さん、お姉ちゃんに止めを刺しちゃいました。どうしましょう」
「まったく仕方がないわねえ、今日の夕飯はあの子の好きな煮込みハンバーグにしましょう。ほら、そう言って宥めてきなさい」
おお、思いもかけず、今日の夜はご馳走ですね!
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