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43:事件はこれで一件落着なのです、たぶん。

誤字脱字報告ありがとうございます。

「あ、やばいわ、部活棟の奥で叫んでた人って部連会長の金田先輩らしい。で、意識不明で救急車で運ばれたって」


「金田先輩って、確か鳳凰会の人だったよね?」


「うん、ただ鳳凰会では成金とか、成り上がりって言われてて、そのせいでメッチャ私ら庶民には当たりが強い人だったけどね」


 お姉ちゃん達のクラスで使われてるSNSで、何やら今日の出来事が載っていたみたい。二人で顔を突き合わせて携帯を見ているけど、その間にもお店の前には黒服さんの壁が出来上がり始めている。


「でもさ、あの先輩って卓球部だったっけ? 確かサッカー部じゃなかった? 何で卓球部にいたの?」


「何でだろ? そこまでは情報出ていないね。ただ、先生が突入する前に、生徒会が突入してたみたいで、後からその事を知った鳳凰会の人達が大騒ぎしはじめてるみたい」


「え? もしかして、生徒会が金田先輩を害したとか?」


「なのかな? そこら辺も良く判んないけど、ただ、その前に私達が部活棟に入ってたから、何か容疑者扱いされてたり。今、生徒会の関係者からも、鳳凰会の関係者からも指名手配掛ってるって」


 うんうん、何か大事になっているみたいだね。お店の前も大事になっているから良く判るよ。


「お姉ちゃん、あのお店の前で言い争っている人達が生徒会と鳳凰会の人?」


 うん、何かお店に入ることもしないで、お店の前で言い合いが始まっているみたいなんだよね。店内の生徒の人達も、いまや意識はそっちへと注がれているし、今なら脱出のチャンスと言いたいけど、出入り口は押さえられちゃってるんだよねえ。


「うわ、生徒会長達も来てる。あと、もちろん秋山先輩も来てる。まあ鳳凰会の金田先輩が巻き込まれてたら出てくるよね」


「売られた喧嘩は、絶対に買う人だからね」


「でも、その金田って人が悪意の塊だったとしたら、どっちがどうこうって話じゃ無いと思うんだけど、違うの? あれ、結構やばかったと思うよ?」


「普通の人って悪意とか見えないから」


「だよね、オカルトなんか本気で信じてる人ってごく一部だよ」


 う~ん、そういう意味じゃないんだけどなあ。悪意の塊を作り出せた、若しくは作らされたかな? とにかく、そこまで行くには専門の知識や、道具なんかが不可欠なんだよね。そうでなければ、そこら中でもっと危険な状況になってると思う。


「文芸部とか、何かそういう部活の人が裏で何か操作してたりとかしそう?」


 私が思いつきでそう口にすると、お姉ちゃんは慌てて私の口を塞ごうとする。でも、その前に佳奈お姉ちゃんが延ばされた手を払うようにして、体を割り込ませる。


「ふふふ、ひよりちゃん? 駄目よそんな事を言っちゃ」


「え、え~っと、何か佳奈お姉ちゃんの機嫌が悪くなるような事言っちゃった?」


「そうねぇ、ひよりちゃんには言ってなかったかもだけど、私ね、文芸部なんだよね」


「う、うにぃ~~~、ごめんにゃちゃい」


 言葉と共に延ばされた手で、私のほっぺは思いっきり、うにょ~んと引っ張られたのでした。


「いい、ひよりちゃん、文芸部っていう部活はね、皆に夢とか、憧れとか、美しさとかを気づかせる存在なの。だからね、裏で悪いことを企んだりはしないのよ?」


「ひゃ、ひゃい」


 目がマジでしたよ佳奈おねえちゃん。普段の快活な雰囲気なんて欠片も無かったです。


「腐海を広める事は、悪い事じゃないのかしら?」


 何かお姉ちゃんがぶつぶつ言ってますが、佳奈お姉ちゃんはそんなお姉ちゃんを笑顔で黙らせます。すごいです、笑顔ってあんなに怖い物なんですね。


「ただ、このまま此処に居るのもねえ」


「それにしても、ファミレスと違って前払いで助かったわ」


 あ、ちなみに私のドーナッツとオレンジジュースはお姉ちゃん達の奢りです。一応ドーナッツは遠慮して1個にしておきました。夜ご飯が食べれなくなると危険ですからね!


「こうなると、親衛隊の到着まで身動き取れないよね。親衛隊を呼んだひよりはファインプレーなんだけど、対価も含めて頭が痛いわ」


「あ、あれじゃない?親衛隊って、すごいわね」


 すごいわね? どういう意味で・・・・・・佳奈お姉ちゃんの視線の先へと目を向けると、うん、どこのアイドルコンサートから帰ってきたのかと思う程に、原色ピンクの法被を着た集団が目に飛び込んできました。


「ほら、タスキ見て」


 ひよりん命! や コハルちゃんLOVE とか、うん、思いっきり痛いです。手に持ってる団扇や扇子もなんだかなあ。さっきまで店内にいたTシャツのお兄さん達がお店の入り口で整列しました。


「あれって、まあいいや、これで脱出できそうね」


 お姉ちゃんの目からハイライトが消えましたよ。それと、どこか投げやりな感じがすっごくします。


「えっとね、お姉ちゃん。いま気が付いたんだけど、あの先頭にいるのお爺ちゃんだ」


「ほえ? お爺ちゃんって、お坊さんの?」


「うん、先頭で青の法被来てるの、お爺ちゃんだけ何で青なんだろ?」


 問題はそこでは無いのだろうけど、ただお爺ちゃんが何か話をしたとたん、生徒会の人も、鳳凰会の人達も、慌てて引き揚げていっちゃいましたよ?


「うわ、阿部先輩あれ気絶してない? 秋山先輩も逃げるようにいなくなったけど、あの先輩のあんな姿初めて見たわ」


 お姉ちゃんが、あっという間にいなくなった人達の感想を述べてるけど、確かにすごかったよね。黒服さん達は、主人を庇うどころか思いっきり頭下げて微動だにしなかったし。


「ねえ、あんたたちのお爺さんって何者? メッチャ怖いんだけど」


 結構真面目な声で佳奈お姉ちゃんが尋ねてきました。ただ、あのお爺ちゃんって本当に何者なのでしょう?


「ほ、ほ、ほ、エルオーラブリーじゃったかの?」


 団扇をフリフリして、奇妙なダンス? を踊りながらお爺ちゃんがお店へと入ってきました。

 そのノリを続けるつもりでしょうか? あと、微妙に間違ってるというか、あれでいいのかな? 良く判らないので詳しそうな佳奈お姉ちゃんを見ましたが、目を逸らされました。


 ただ、おじいちゃん達の姿は、ミセスドーナッツとは思いっきりミスマッチングです。似合わないどころか、ある意味おいしいドーナッツを冒涜しているとしか思えません。


「お爺ちゃん、お店で騒いだらメッなのですよ!」


 私達が早足でお爺ちゃんへと近づいていくと、お爺ちゃんは満面の笑みで迎えてくれます。


「おおお、ひよりちゃん、難儀じゃったのう。どれ、怖かったじゃろうに」


 腕を大きく開いて私を歓迎してくれますが、うん、その姿に飛び込む勇気は無いですね。


「うわ、むっちゃ胡散臭いわ」


 佳奈お姉ちゃん、さっきから本音が駄々洩れと、言葉が悪いですよ? もしかして、そっちが素ですか?


 私もお姉ちゃんも表情を引き攣らせながらも、親衛隊の人達にお礼を言います。


「むむむ、これはいかんのう。ひよりちゃん、どうじゃ、お爺がお土産にドーナッツを好きなだけ買ってあげよう。ほれ、選びなさい」


 どうやら自分の評価が駄々下がりしたのに気が付いたのか、お爺さんは思いっきり物で釣ってきました。


「え! お爺ちゃんありがとう! 大好き!」


「ほ、ほ、ほ、そうじゃろう、そうじゃろう」


 お爺ちゃんも大喜び。私もドーナッツが買ってもらえて大喜び。winwinの関係ですね。


「はあ、いつもすいません。ひよりがご迷惑をかけて」


「なんの、なんの、本当の孫が出来たようなものよ、儂もうれしいでの、小春嬢も好きに選ぶがよい。ほれ、そこの娘さんもじゃ」


「え? あ、私は結構です」


「ほ、ほ、ほ、遠慮はいらん、ほれ、選びなさい。あ、店員さんや、纏めて領収書を宜しくの」


 とにかく、危ない所を救われたのは確かなんだけど、お爺ちゃん都合よく駆けつけたなあって思う。何となく怪しいですよね。


「さてさて、では家まで送ろうかの。ほれ、車に乗りなさい」


 さすがに佳奈お姉ちゃんは電車で帰るそうです。一緒に送るよって言ったんだけど、家が真逆の方だからね。という事で、私とお姉ちゃんはお爺ちゃんの車に同乗しました。


「また明日ね~」


 佳奈お姉ちゃんに手を振って、車は走りだしました。そこで、私は一番の懸念事項をお爺さんに確認します。


「お爺ちゃん! この領収書何とかなる?」


 今日お姉ちゃんの所へと向かうのに乗ったタクシー代の領収書です。これをお小遣いで補うのは厳しいのです。


「ちょっと、ひより!」


「ほ、ほ、ほ、良い良い、ほれ、お爺が出してやろう」


「わ~~~い、ありがとう、お爺ちゃん! 大好き!」


 何か大好きの大安売りの日みたいになっていますが、タクシー代の為なら仕方がないですよね。


「はあ、昔はあんなに純粋だったのに、なんでこんな風に育っちゃったのかしら」


「う~ん、たぶん世の中が悪いんだよ? 強くないと生きていけないもん」


「否定できない所が辛いわ」


 お姉ちゃんが頭を抱えています。


「でも、これは仕方がない事なのですよ。要領よく生きないと駄目なのです」


「ほ、ほ、ほ、儂から見ると全然甘々じゃがのう。二人ともまだまだ純粋じゃわい」


 腹黒狸のお爺さんから、まだまだ発言をいただいちゃいました。むぅ、要修行なのです。


「ところで、お爺ちゃんは何でいるの? タイミング良すぎだよね? やっぱり例の件の続き?」


「流石はひよりちゃんじゃ、良く判ったの。まだ証拠集めの段階じゃったが、伊藤姉妹の御蔭であっという間に解決してしまったがのう」


 そう言って笑うお爺ちゃんですが、意外や意外、目が笑っていませんね。


「何か不味かった? 悪意の塊があったから、思いっきり浄化しちゃったんだけど」


「まあ大して結果は変わらんじゃろうが、不用意に一般人が係わりすぎたからのう。後の処理が大変じゃのう」


 成程、たぶんだけど、お爺ちゃんは出来るだけ穏便にというか、一般の人に気が付かれずに対処しようとしてたんだね。


「お姉ちゃんが、それこそ思いっきり力業で解決しちゃったもんね」


「え? 私って、あああ、確かに私だけど、何か納得が、でも私かあ」


「お姉ちゃん、これからは気を付けようね」


 落ち込むお姉ちゃんの頭を、やさしく撫でてあげます。え? 私の浄化ですか? ふ、あの時に言ったじゃないですか、し~らないって!


「これで伊集院家のお嬢さんの件も片付いたでの、まあ一件落着じゃ」


 なんと、結局は同じ糸で繋がっていたんですね。まあ同じ学校ですし、普通に考えれば思いつくことだけどね。


「あの、伊集院さんのと言うと、里美先輩が最近休んでいるのと関係があるんですか?」


「おお、うっかりしておった。小春嬢は知らなんだのだった。なに、ちと思いつめた愚かな男が、欲望に負けて好きな女子【オナゴ】を手に入れようとしたのじゃ。まあ、手を出した術式が大きく間違っておったがの」


「それって裏で誰かが操ってとかは無いのです?」


「うむ、金田の家に傍系も良いところではあるが、陰陽師の血が入っておっての」


 その後のお爺さんの説明では、金田何某さんのお父さんは、先祖返りなのか陰陽師の素養があったらしく、それを事業に利用して財を成したそうです。そして、息子にも陰陽師の修行をさせていた中で、伊集院さんへの慕情? 欲情? に暴走、成金さんというコンプレックスと、自分は陰陽師なんだという選民意識、何か色々が混じり合っての犯行らしいです。


「陰陽師の厄介なことはの、他者を上手く利用してリスク分散が出来る所じゃの。ひよりちゃんの呪い返しも上手く分散して被害を免れたようじゃ。もっとも、本人も十二分にダメージを受けていたがの」


 結局のところ、学校で伊集院さんへの反感を煽って、その思いを利用して呪いをかけたそうです。その呪いが、自分の使い魔としての隷属っていう所に思いっきり闇を感じますが。


「あうう、健全な恋をしましょうよ。恋愛ってそういうものじゃないでしょ?」


「お姉ちゃんは健全な恋愛をしているの?」


「・・・・・・」


 話を聞いていたお姉ちゃんの聞き捨てならない言葉に、思わず質問をしますが沈黙ですか、そうですか。


「お姉ちゃん、お家に帰ったら家族会議だね」


「なんで~~~~~!」


 まだまだ腑に落ちない所や、おかしな点があるんだけど、これで事件は解決したんですよね、たぶん。お爺ちゃんの事だから、更に何か隠していそうだけど、私は聞きませんよ。君子危うきにの精神なのです。



お姉ちゃん編というか、伊集院さん編はこれで終了です。


ひより:次は、ひよりちゃんは自重しない変ですよ!

小 春:え? それはいつもじゃない。

ひより:お姉ちゃん、酷! こんなに自重しているのに!

小 春:えええ? 嘘、あれで? 

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