42:ひより達は逃げ出した、でも、回り込まれてしまった
誤字脱字報告ありがとうございます。
「なんで居るのじゃないでしょ? 魔女っ娘ステッキが壊れたみたいだから、慌てて駆けつけて来たのに」
あまりに無情なお姉ちゃんの言葉に、私はぷんぷんですよ。頬っぺたプックリしちゃいますよ。
そんな私の様子で、自分の失言に気が付いたのか、お姉ちゃんはちょっと慌てます。
「あ、心配してきてくれたんだ、ありがとうね。でも、小学校からは遠いでしょ? 大人も付き添わないで一人でこんなに遠出して、もう、何かあったらって考えると心配するから今後はまず連絡して」
「むぅぅ、でも、何もなければ魔女っ娘ステッキは壊れないよ?」
「それでもよ、もしかしたらすれ違っちゃってたかもしれないでしょ?」
明らかに心配そうな表情を浮かべるお姉ちゃんですが、おかしいですね、私が心配して駆けつけたのですよ?
「お姉ちゃんの居場所は判るので、すれ違いは起きないよ? それに心配なのはお姉ちゃんなのです! 何があったの? 魔女っ娘ステッキが壊れるなんて普通ないよ?」
「え? 私の居場所は判るの? 何かそれ怖いんだけど」
心配そうな表情から、何か顔を引き攣らせているお姉ちゃんに早変わり。ただ、そんな事で胡麻化されないよと更に問い詰めようとしていたら、佳奈お姉ちゃんが校舎から駆け足で出てきました。
「あ、小春、まだこんな所にいたの! 早く学校から避難よ避難。て、なんでひよりちゃんもいるの! ああもう、まずは学校から出る、急いで!」
「え? 佳奈どうしたの?」
「説明は後、まずは出るというか走る!」
佳奈お姉ちゃんが慌てて私達を学校から追い立てますが、たぶん校舎内でお姉ちゃんに向けられた薄らとした悪意のせいかな? たぶんこれ、お姉ちゃんを探しているよね。
「お姉ちゃん、良く判らないけど誰かがお姉ちゃんを探しているみたいだから、急いで学校出た方が良さそうだよ」
そう言って、お姉ちゃんの手を引っ張って学校の門をくぐります。それにしても、お姉ちゃんの学校は騒がしすぎますよね、変な事件とかに巻き込まれていないといいのだけど、もう遅すぎかも。困ったものですね。
佳奈お姉ちゃんが先導でお姉ちゃんたちが通学で使う駅へと向かっています。ただ、校門を過ぎた一本目の道を曲がるのは、たぶん学校から見えなくする為ぽいのですよね。うん、こういう所が佳奈お姉ちゃんらしいです。小春お姉ちゃんだったら、絶対に思いつかないで素直に真っすぐ歩いていきそう。もっとも、タクシーで来た私は、帰り道知りませんけど。
「よし、これで撒けたかな。職員室に鍵を返しに行ったらさ、何か先生達が大騒ぎしてて、ついでに生徒会の連中が入って来てやばそうだから逃げたの。何か小春を探してたみたい、まあ私がいるのに気づかないくらいのお間抜けさんだけどね」
得意気に言う佳奈お姉ちゃんだけど、問題先送りしただけ感が半端ないよね? 結局、明日に持ち越しされただけっぽい。
「うわぁ、明日面倒そう。本質的には、あたし達関係ないのに」
「うん、あたしは関係ないのにね」
「か・な? 若しかしたら一人で逃げようとしてないかな? もちろん、そんな事ないよね? 私達、親友だもんね」
うん、どうやらお姉ちゃんも気が付いたみたい。思いっきりプレッシャーを佳奈お姉ちゃんに掛けてます。
「そ、そんな事ないよ? やだなあ小春は、親友を信じられないの?」
「うん、ぜんっぜん信じられない!」
「酷い!」
相変わらずの夫婦漫才みたいなお姉ちゃん達です。ただ、今日の事はちょっと不思議かも、お姉ちゃんが発動した浄化の残滓があんなにあったのに、それでも残ってた悪意の塊。これって普通じゃないよね。
「今日有ったことを聞きたいよ。お姉ちゃん達はじゃれてないで教えて、あ、あと魔女っ娘ステッキは一回返してね」
「う、まあ仕方がないかな、初めて学校内の悪意見たけど結構ヤバヤバだったし」
「そこら辺は私には分かんないけど、あの場で倒れたり、しゃがみ込んでた子も結構いたから、言い訳とか考えないとだよ。あと悲鳴の件もあるしさ、どうする? どっかファミレス寄る?」
小春お姉ちゃんだけでなく、佳奈お姉ちゃんも思う事があるようです。という事は、割と真面目に不味い状況だったのかな。
「ファミレスって言っても、駅前だと不味いとおもうけど、先生とか生徒会とかに見つかる可能性高そう」
「生徒会は大丈夫じゃない? 会長や阿部さんとか通学は家の車でしょ?」
「あ、そっか、佳奈とは家の方向が逆だし、駅前にする?」
「でも、ファミレスで話せる内容? 誰かに聞かれたらシャレにならないと思うけど、主に伊藤家姉妹が」
佳奈お姉ちゃんの言葉に、思わず顔を見合わせます。
「あんまり他人に聞かれたくはないかな」
「うん、お姉ちゃんの話す内容は判んないけど、止めた方が良いような気はするかも」
「あたしの情報なんか知れてるし、このまま家に帰る?」
「どうしよう?」
「でも、お姉ちゃんの説明だけだと不安があるよ?」
私がそう言うと、お姉ちゃんは笑顔を顔に張り付けたまま、私を見ました。
「うふふ、ひより? それってどういう意味かなあ? お姉ちゃん、ちょ~っと気になっちゃうかな」
「え? 深い意味は無いよ? ほら、立ち位置で見え方って変わるし、当事者より第三者の方が冷静に物事を見ているっていうらしいよ?」
「ひよりちゃんってマジで小学5年生? ちょっとお姉さんびっくりだわ」
「どうせドラマのセリフとか覚えて言ってるのよ。でも、何かお姉ちゃんの尊厳が軽んじられている気がする。改善を希望します!」
相も変わらず変なことを言い出すお姉ちゃんだけど、それはそれとして、結局駅裏にあるミセスドーナッツへ行くことになりました。なんと、本日二回目です!
「えっと、ど、どうせならミシシッピーフライドチキンでもいいよ?」
「え? 嫌よ、制服でミシシッピーは無いわ」
「そうだね、麗しき鳳凰学院の女生徒が、制服でミシシッピーは無いわ」
「何その差別! ミシシッピーが可哀そうだよ? 改善を申請するのですよ!」
「男子ならともかく、女子には無理ね。日溜りの君が、肉食女子になっちゃうじゃん」
「佳奈? なんで私だけなのかな?」
「え? だって、私そんな恥ずかしい綽名ないし?」
「好きで呼ばれてるんじゃないわよ!」
何かお姉ちゃん達で争いが始まったのです。ただ、お互いに両手で力比べって、それこそプロレスとかですよね? 鳳凰女子云々が崩壊してるよ? 周りから見られてるけど良いのでしょうか? 困ったお姉ちゃん達です。
その後、結局ミセスドーナッツへ行くことになって、で、案の定おかしな事になっています。
切っ掛けは、店内に入って数分くらい経過した時、数人の鳳凰学院中等部の人が店内に入ってきました。その時は、ちょっと離れた席に座ったので気にしなかったのですが、その後、来るわ来るわであっという間に溢れかえっちゃいました。
「この周りの方達は、いったい何なのでしょうか?」
「入口際はTシャツからして家の護衛なんだろうけど、それ以外はねえ、見事に鳳凰の生徒で埋まってるわね」
お姉ちゃんの言う通り、鳳凰学院中等部の制服を着た皆さんで、ミセスドーナッツの店内にある席は埋まっているのです。しかも、皆さん明らかにこちらを意識されていますよね。
「不味いわね、所在情報が知れ渡ったわね」
「どっち?」
「たぶん両方かな? やっぱりさっさと家に帰る方が良かったか」
結局、今日有った出来事もしっかり聞けていない状況でこれです。このままだと、恐らくお姉ちゃん達が言う生徒会の人とか、鳳凰会の人とかがやって来て騒動が大きくなるのでしょう。
「仕方がありませんね、ここは強権を発動しちゃう場面なのです」
「え?」
私は携帯電話をごそごそと取り出し、お父さんへ電話を掛けました。
「お父さん、お姉ちゃんと一緒なんだけど、何かヤバヤバなのです。親衛隊による保護をお願いするのです」
電話にコール2回で出てくれたお父さんに、伊藤家姉妹公認ファンクラブの精鋭である親衛隊の出動を依頼します。これは、出動後に親衛隊に何某かの便宜を図らないといけなくなる、それこそ両刃の刃なのですが、何となく嫌な予感がするので思い切ってカードを切りました。
「ちょ、ちょっと、勝手に親衛隊を出動って、あれ前回の報酬がプライベート撮影会だったの、ひよりは忘れたの!? お姉ちゃんと一緒にもう二度と親衛隊はやめようって言ったじゃない!」
そうなのです、一応両親立ち合いの上での撮影会なので、全年齢向けで危なくないのです。それでも、素人の場慣れしていない私達姉妹には恐ろしく難易度が高かったのです。
「ダメダメ、もっと自然に笑って! ひよりちゃん、心から楽しって思わないと! 小春ちゃん、目が死んでるよ! それはそれで需要はあるけど、僕らが求めてるのはそうじゃないんだよ!」
うん、訳が分かりませんよね? ど素人のモデルでもない、ましてや演技やポーズの練習とかもした事のない人に、あの人達は何を求めているのですか! 撮影が終わった時、冗談抜きでお姉ちゃんと嬉しくて抱き合って泣きましたよ!
「うんうん、よく頑張ったわね」
お母さんがそう言って慰めてくれましたけど、隅っこで有料で販売がどうこうって何か話してませんでしたか? 結局胡麻化されちゃって、事実は闇の中に消えちゃいましたけど。
とにかく、それくらいに親衛隊の出動は対価が大きいのです。
「うん、でもね、今呼ばないと手遅れになる気がするの。すっごく嫌な予感がするんだよ」
私の言葉に、お姉ちゃん達は顔を見合わせた後、慌てて携帯を触り始めました。
きっと情報収集を始めたんだと思うんだけど、手遅れだと思うんだよね。だってさ、お店の前にすっごくヤバそうな車が止まり始めたもん。1台じゃなくって数台ですよ。
「お姉ちゃん達、いったい何をしでかしちゃったの?」
お姉ちゃん達を見る目が、思わずジト目になるのも仕方がないと思います。
相変わらずの展開の遅さですね・・・・・・
でも、次はなんと!さっそうと親衛隊が!!!
え? 親衛隊に期待が持てないですか?
大丈夫ですよ、作者だって欠片も期待していないですから(ぇ