38:お姉ちゃんは友人にも振り回される
誤字脱字報告ありがとうございます。
私が教室へと入ると、数人のクラスメイトが既に登校していました。
幸いにしてクラスメイトの様子も普通なので、今日は特に何かおかしな事は起きていない?
「浄化」
一応、教室に入った瞬間に浄化を唱えます。すると、クラスメイト達が私へと視線を向けました。
「おはよ~、みんな早いね」
「おはよう。伊藤さんかあ」
「伊藤さんが入ってきた時、何か空気が綺麗になった」
「あ、俺もそれ感じた」
「何それ、変なの」
浄化の効果はやっぱり皆感じるみたい。私はみんなの話を冗談と捉えた振りをして、笑いながら自分の席に向かった。
「流石は日溜まりの君だね、入っただけで教室の空気が変わるとは」
陸上部の渡邊さんが、そう笑いながら声を掛けてくる。
「今日の朝練は早く終わったんだね。普段はチャイムギリギリに駆け込んでくるのに」
「うん、3年生が今日揃って休みだったんだ。だから早めに終わろうって事になったの」
こんな時期に風邪だろうか? 3年生限定という所に違和感を感じる。ただ、それも次々と登校してくるクラスメイトと話をしている内に忘れてしまった。
そして時間は過ぎてお昼休憩、佳奈と一緒にお昼を食べているのだけど、佳奈が変な事を言い出した。
「ねえ、呪いってあると思う?」
「突然どうしたの?」
佳奈の性格上、口にする事の無さそうな単語に思わずキョトンとしてしまう。
「3年生で何人も突然休んでるみたいなんだよね。それでさ、それが伊集院さんの呪いだって、ほら伊集院さんもここ数日学校を休んでるじゃない」
「え? それで何で伊集院さんの呪いになるの?」
相変わらず人の噂というものは怖い。しかもまた伊集院さんだ、明らかに誰かが作為を持って流しているんだろうな。
私も佳奈もこの世界には不思議な事がある事を知っている。だから、多分呪いもあるんじゃないかなと思うし、人の悪意も過ぎれば呪いになるんだろうとも思う。だから佳奈はこの噂をただの噂と放っておけなかったんだろう。
「そういえば陸上部でも3年生が休んだって言ってたね」
「10人じゃ利かないみたいよ。昨日までは何の予兆も無かったらしいし、何か怖い」
お守りを持っているとはいえ、佳奈も妹が言う悪意が見えるわけではない。目に見えない物は怖いんだよ、というか目に見えないから怖いと言うべきなのか。
「休んでいる人に偏りってあるの?」
「うん、鳳凰会の人で休んでいる人はいないみたい。クラブに所属している人が大半みたいだけど、何で3年生ばかりなのかは謎」
「何か良くない事が起こってそうだけど、呪いかぁ」
「ひよりちゃんを連れて来れればいいんだけどね。そうすれば、何か見つけてくれるかもしれないのに」
「ううう、一応ね、ひよりが気を使って・・・・・・なのかなあ? 遊びでって言う方が良いんだけど、あの子のいう所の悪意を見る方法はあるの」
「おおお、ひよりちゃんでかした! そしたら放課後見回りしてみようよ。私も付き合うし」
判らない事の方がやはり不安なんだろう。佳奈はそう言うんだけど、でも見る為の方法が。
問題が起きた時にはどちらかと言うと率先して動く私が、珍しく躊躇している事に佳奈が不思議そうな表情をする。
「何か問題があるの?」
「う、問題って言うか、方法って言うか・・・・・・ゴニュゴニョ」
「ごめん、聞き取れなかった。何って言ったの?」
「ううう、見る為には魔女っ娘にならないと駄目なの!」
「・・・・・・はあ?」
何を言ってるんだ此奴は。そんな表情で佳奈が私を見る。で、私の顔はきっと今は真っ赤になっているだろう。
「だから、魔女っ娘に変身しないと見れないの!」
「小春、熱でもある?」
私の額に手を当てようとする佳奈の手を払って、私は経緯を説明した。
「なるほど、でもさ、何も魔女っ娘にならなくても、スカウターとか、専用の眼鏡とか作ってもらえば良いんじゃない?」
「あ、そうだ」
「小春って時々どこか抜けてるよね、まあひよりちゃんに揶揄われたか遊ばれたんだろうけど。ただ今日は間に合わないから思いっきり魔女っ娘になろう! そして私に写真撮らせて!」
「写真は嫌!」
佳奈とワイワイしている間に昼休憩は終わって、あっという間に私は試練の時を迎えた。
私は佳奈と二人で、佳奈が所属している文芸部の部室である図書室横の用具保管室に入る。
「ここって相変わらず雑然としているよね。そもそも、文芸部の人が一人もいないし」
「まあ活動も文化祭前とかしか真面にやらないしね。それより体操服に着替えないの? ひよりちゃんが体操服にって言ってたんでしょ?」
「着替えるわけないでしょ! 佳奈、あんた遊んでるでしょ!?」
「うん、せっかくだし楽しまないと」
思いっきりニヤニヤ笑っている佳奈に思わずため息が出る。
「ほら、さっさとしないと誰か来るよ」
「まってよ! 覚悟がいるんだから」
鞄から魔女っ娘ステッキを取り出し構えるけど、中々に変身の呪文を唱える勇気が出ない。
「ああ、まともな感性の妹と友人が欲しかった。トランスフォーム!」
「あ、そこはパラリンなんとかじゃないんだ、残念」
佳奈の言葉は無視です。ステッキのピンクダイヤからピンク色の光が帯のように何本も現れ、私を包み込むように展開する。そして、その帯が消えると、私はフリフリの魔女っ娘衣装を身につけていた。
「はあ、自分の今の姿を想像すると溜息しか出ないわ。佳奈、さっさと終わらせましょう」
隣に佇む佳奈へと視線を向けると、佳奈が米神を抑える様にして俯いている。
「佳奈? あ、もしかして認識阻害で私が見えて無いとか?」
「いえ、まあ問題は認識阻害なんだろうけど、ぜんぜん認識阻害出来てないんですが、これって私だから? まあアイマスクで目元が隠れているから遠目には判らないだろうけど」
「ほえ? え? そのアイマスクに認識阻害がってひよりが言ってたんだけど」
「でも、そのアイマスクに悪意が見える機能を付けたんだよね? まさかと思うけど、認識阻害外してない?」
考えたくも無いけど、思いっきりありそうな話だよ。妹は結構おっちょこちょいで、何かを思いつくと、平気でそれまでの事を忘れる。
「拙いかも、今日はやめとこうか」
「それでもいいけど、変身してどうなの? 悪意が見えてる?」
佳奈に言われて慌てて周りを見回す。もともとお守りがあるし、この辺の悪意はとっくに浄化されているのかもと期待する。
「特に何にも見えないっていうか普通の視界? ただ、外はどうかな? ここって3年生の教室も近いし。教室の外は・・・・・・ああ、あれかあ、悪意と言うか黒い靄か煙みたいなのが見える」
用具室の扉を少し開けて、廊下の様子を窺うと、はっきりと黒い煙のような物が見えた。
「3年生の教室の方から流れてるね。ただなあ、この格好で学校歩きたくない」
「ふふふ、私に死角は無い! 大丈夫、助っ人を頼んでいるから、ちょっと待っててね」
「は? 助っ人って何?」
私の言葉そっちのけで、佳奈は図書室へと続く方の扉を開けて、図書室へと入って行きました。
「ちょ、ちょっと!」
私はこんな格好では佳奈を追いかけられるはずも無く、仕方なしに佳奈を待つというか、それしか方法は無い。そして気が付く恐ろしい事実。
「この変身って、どうやって解けばいいのよ? よく考えたら変身の呪文しか聞いてないんだけど」
佳奈が戻る前に変身を解こうとして、その肝心の方法を知らない自分に思わず愕然とした。
「れ、連絡しないと、ひよりは、あああああああ、まだ学校だよ、あ、もう帰ってる? 帰ってて」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、カバンから携帯電話を取り出す。そして、妹に電話をしようとすると図書室の方から佳奈と誰かが入って来た。
「ちょ、佳奈、なんでって、えええ」
入って来た人達を見て、言葉にならない声を上げる。
「小春、被服部、別名コスプレ部のメンバーに協力を依頼しました!」
「え? 小春さんなの! やだ~~~、なんだ同類じゃん、言ってよもう」
「うっそ! すっごい気合入ってる! それって魔女っ娘系? 見た事あるような、あ、もしかしてジュエリーのピンク? アレンジしてるけどすっごい可愛い!」
「やったね、部員確保! 高等部のお姉さま達も喜んでくれるよ! 人手が足らないもんね」
入って来た被服部の面々のテンションが異様に高い。ちなみに、部員確保ってなに? 聞き捨てならないんだけど。
「小春、口をパクパクさせてるけど、言葉になってないよ? まあいいや、それじゃあ見回りに行こうか」
「あ、あ、あ」
「さっさと終わらすよ。大丈夫、このメンバーなら怪しまれないって」
「え? 意味判んないんだけど?」
「まあいっか、何? 校内回りたいの?」
「まあ、みんなに見てもらいたい気持ちは良く判るよ!」
だ、駄目だ、私はもう駄目かもしんない。
佳奈に手を引っ張られながら、私の視界は実際の悪意以上に暗い闇が埋め尽くしている気がしました。
うん、変身はしたよ! 予定通りだよ!
佳奈ちゃんの暴走は予定外だったけどね(ぁ
佳奈ちゃんは、文芸部。うん、文芸部と被服部の接点とは!(ぇ