37:お姉ちゃんは妹に振り回されています。
誤字脱字報告ありがとうございます。
午後の授業も無事に終えて、私は塾へと直行します。いつもの事ですが、昼間の事があってちょっと疲れ気味です。そんな私を更に疲れさせることがまた一つ、塾の教室へと入ると学校では別のクラスの木之瀬さんがこっちへとやってきました。
「ねえねえ、伊藤さん、また鳳凰会の人達に嫌がらせされたって? あの人達ってお金持ちだからって私達を見下すから、大丈夫だった?」
「え? 嫌がらせされたのは確かだけど、まだ誰が犯人か判ってないよ? それに、鳳凰会の人にはどちらかと言うと今日は助けられたかな? 生徒会の人達に絡まれてたから」
「え? そうなの? 何か掲示板では鳳凰会の人がってなってるよ?」
うええ、またこのパターンだ。誰がやっているのか判んないけど、鳳凰会の人達に悪い印象を付けようとしているみたい。伊集院さんと何となく親しくなって、ファンクラブの人に絡まれた時も、あっという間に尾ひれや背びれ満載で話が広がったんだよ。あの時も大変だった。
「何か鳳凰会に悪い印象を与えたい人がいるんだろうね。私を巻き込むのは勘弁してほしいんだけどなあ」
「そっか、前の時もそんな感じだったよね。でもさ、伊藤さんも良く巻き込まれるっていうか、伊藤さんも標的になってない?」
「まあ嫌がらせの標的にはなってるね、間違いなく」
今日、机に落書きされていた事を話すと、木之瀬さんは顔を顰めました。まあ判るよ、良い気持ちはしないもんね。
「前からだけど、私物を学校に置いていけないから毎日の荷物が大変なんだよね」
「あ~~、そうだろうね。私は必要のない教科書とか普段は置きっぱなしにしてるもん」
その後、木之瀬さんの友達には正確な情報を回してくれる事になった。別に必要ないとは言ったんだけど、ちゃんとした事を判っている人がいる方が何かの時には良いからって押し切られました。
「帰り道とかは、伊藤さんはガーディアンがいるから安全だろうけど、一応気を付けてね」
木之瀬さんは塾からの帰宅時に笑いながらそう言ってくれるけど、まああれは慣れるとね。塾や友人達からはいつの間にかガーディアンって呼ばれてるけど、そんなカッコいいものではないよ。あのTシャツだけは何とかして欲しいと切に望みます。
家に帰ると待ち構えていた可愛い妹が走り寄ってきます。
見た目は本当に天使の様なんですが、いつの間にか不思議な力、魔法を使うようになって、もっともそのお陰で私も魔法を教えて貰えたのだから良いのですが。ただ、いつも何か事件に巻き込まれたり、飛び込んで行ったりと心配どころの話ではないので、学校での出来事は内緒です。いらない心配を掛けちゃいますからね。
「ひより、ただいま」
「お姉ちゃんお帰りなさい。学校はどう? 何にもなかった?」
「ええ、いつも通りよ」
上目使いに見上げてくる妹の可愛さに、知らず知らずに笑顔が浮かびます。
いつもの様に頭を撫でてあげながら、荷物を部屋へと持っていきます。いい加減重いですから。
「う~~ん、お姉ちゃん、お守り見せて」
鞄に着けているお守りは、定期的に妹のチェックが入ります。妹曰く、悪意と呼ぶ悪い物を、お守りが浄化してくれているそうす。当初は信じられませんでしたが、今では家族全員が信じています。ただ、良く我が家に来るお坊さんのお爺さんは瘴気って呼んでますけどね。
「あれ? お姉ちゃん、最近なんか悪意が濃い所に行った? 何か真ん丸さんが濁って来てる」
「そうなの? お姉ちゃんは見えないから、気が付かなかった」
恐らくは教室での事だと思う。ただ、私は残念ながら見る力は無いために絶対と言えるほどの判断はできない。でも、明日は教室に一番乗りをして、教室を浄化してみよう。このままにしておくと問題はより大きくなるような予感がする。
「う~~~、お姉ちゃんが見えれば悪意が濃い所を避けれるのに、何とかしないとだよね。学校って普通にしてても淀み易いってお爺ちゃんが言ってたし」
「同級生とか見てても、ストレス溜まってそうな子はいるしね。ひよりの御蔭で助かってるけど、本当だったらクラス内で虐めとか起きてるかもだもんね。うちのクラスは御蔭さまで平和だって良く言われる」
実際、1年の頃に同じクラスだった子とか、塾の木之瀬さんとかには、よく言われるんだよね。なんか私の傍にいると、日向ぼっこしてるみたいな気持ちになるって。でもそれって眠くなるって言われてるような。何か複雑な気持ちにさせられる。
「佳奈お姉ちゃんもいるし、二人のお守りがあれば教室に悪意が溜まるとか普通は無いから。でも、どこで悪意に接触したんだろう? お父さんからは何にも聞いてないし、また変質者とかに見られたりとかかなあ」
ひよりが言うには、指向性の強い悪意はよりお守りを疲弊させちゃうらしい。という事は、やっぱり嫌がらせとかも影響してそうだ。ただ、悪意を持って私を敵視してくる人って思い当たらないんだけどな。
「う~ん、そういった視線は感じないけど、どうなんだろ?」
実際に、ストーカーされかけた事は数回あるらしい。ただ、お父さんたちガーディアンの人が私が気が付く前に解決してくれた。ストーカーされるほど美人でも、可愛くも無いと思うんだけど、世の中は不思議でいっぱいだね。
「真ん丸ダイヤさんを予備で1個追加しておくね。あ、あとお姉ちゃんの魔女っ娘ステッキかして」
「え? いいけど、あれって別に私のって訳じゃ」
「駄目だよ、あれお姉ちゃん専用にカスタマイズしちゃってるもん。お姉ちゃんしか使えないから。魔女っ娘になった時のアイマスク? に機能追加で悪意を見れるように出来ないか色々やってみる」
満面の笑みで手を差し出す妹だけど、その善意が痛いです。そりゃ、魔女っ娘に憧れた事はありますよ? 小学生低学年・・・・・・5年生くらいまで? でも、今は・・・・・・。
「まってね、はい、ステッキ」
「え! お姉ちゃん駄目だよ!? ちゃんと普段も持ってないと。どこで必要になるか判んないんだよ!」
「いや、ないない、必要な時ってどんな時よ」
しぶしぶ机の下の引き出しから魔女っ娘ステッキを取り出したら、妹に怒られました。でも、ほんとに必要な時ってどんな時よって、怪人とか街に出てくる? そんなの・・・・・・いそう、真面目にいそう。
「ひよりを見てると、本当に怪人とかいそうで怖いわ」
「酷い! それってどういう意味!」
「ごめんって、冗談よ。でも、荷物検査とかあるから、流石に学校へ持ってくのは勘弁してね」
頬をぷくっと膨らまして抗議する妹を、抱きしめて頭をなでなでしてあげます。結構甘えっこなんですよね。だからこれでご機嫌は直してくれるはずです。
翌日、学校へ行く為に荷物を持って玄関へと向かうと、妹が私を待ち構えていました。
「ん? ひよりどうしたの? 見送り?」
普段は自分もバタバタしている妹が、満面の笑みで私を出迎えてくれます。
「はい、これ!」
「え? あ、魔女っ娘ステッキ、あ~、だから、昨日も言ったように荷物検査とかでね」
「大丈夫、このステッキは魔力がある人にしか認識されないから」
「え?」
「頑張って改造したの、だから学校に持ってってね」
「ええ?」
結局、時間も無い為に妹に押し切られて、魔女っ娘ステッキを鞄に入れて登校する羽目になりました。
「あ~~~、何でまた」
遠い目をしながら、しぶしぶ学校へと向かう私ですが、まさかこの魔女っ娘ステッキが活躍するなんて思いもしませんでした。
「なんて馬鹿なことないから!」
私は心の中で勝手に作ったナレーションに思わず突っ込みを入れながら、重い足取りで学校へと向かいます。
あと2話くらいでお姉ちゃんの話は終わる・・・・・・といいなあ。
いっつも脱線して、話が明後日の方へいっちゃうから。