36:事件は、お姉ちゃんの周りで起こっていた?
誤字脱字報告ありがとうございます。
鳳凰学院、全国でも名前の知られた中高大一貫のお金持ち学校。ただ昨今の少子化を受け、10年ほど前より中等部、高等部において特別クラスを増設、成績優秀者の奨学金制度を拡充し、国公立大をはじめとした有名大学への進学率を学校内で競わせる事で、高等部自体の偏差値を上げ、高等部のみならず鳳凰大学の知名度と偏差値、希望者数の強化を含め大きく方針を転換し名門校への脱却を図った。
10年という年月によって、ここ2、3年漸く名門というには今一つ伴っていなかった成績も上昇し、学内における教育システムも拡充してきた感のある鳳凰学院ではあるが、10年とはいえ急激な変革によって生徒の意識の二極化を招き、各種問題が発生し始めていた。
「ていう感じかな?」
「う~ん、小春ちゃん、突然変なナレーション始めるからびっくりした」
親友である佳奈が、若干ドン引きしながら私の顔色を窺ってるけど、それは私のナレーションのせいでは無いはず? たぶんだけど、私の机の惨状に対して気にしてくれたんだと思う。
「小説なんかでは良くある事だけど、現実に起きると何かすごいよね」
目の前の机の上には、マジックで私の悪口が隙間がないくらいに書き連ねられている。
「小春、大丈夫そうだね?」
「うん、可能性はあったから、教科書とか毎日持って帰ってたから。ただ、これって消しゴムでは消えないよね」
朝、教室へと入るとクラスメイトがみんな私の机に集まっていた。だから、嫌な予感はしたんだけど、思いのほか被害は小さくてホッとしてるんだよね。ほら、ゴミとか、生き物の死骸とかだったら、流石にここまで冷静ではいられなかったと思う。
「なんだ、何があった!」
机を眺めながら、どうやって落書きを消そうか悩んでいたら、クラス委員の三谷君が担任の早川先生を連れて来た。
「これは・・・・・・伊藤の机だな。朝来たらこうなってたのか?」
「はい。で、どうしたら良いのか途方に暮れてました」
「僕が気が付いたんです。伊藤さんの席に近いから、早川とかは僕の前に来てたけど、伊藤さんと席が離れてるから気が付いてなかったみたいです」
三谷君の言葉に、早川君は頷くけど、その表情はあんまり良くないかな? もしかして、一番乗りだから疑われると心配してるのかな?
「毎日、だいたい僕か三谷が教室一番乗りだから」
早川君がそう言って先生を見る。でも、先生もどうしたものか悩んでいる感じ? まあこんな事滅多に無いだろうし、仕方がないのかな。
「他に何か被害は無いか?」
「普段から学校に物を置いておかないようにしてるので、大丈夫です」
私の言葉から、どうやら先生は裏を読み取ってくれたようです。
「わかった、とりあえず空き教室から机を持ってこよう。悪いが三谷は手伝ってくれ」
その後、机を入れ替えてもらい授業は始まりました。でも、クラスの雰囲気は明らかにギスギスしています。今まで表面化していなかった物が一気に噴出しかねない状況です。
お昼休みに佳奈ちゃんと机を合わせてお弁当を食べながら、今の状況について会話します。
「これは困ったね。浄化するにもタイミングがなあ」
「あんまり目立っちゃだめだよ? ひよりちゃんにも注意されてるんでしょ? お守りで何とかならないの?」
休憩時間に二人でお守りを手に教室内をウロウロしてみましたが、あまり効果が見られませんでした。これも今までにない傾向です。
「うん、ひよりなら何か気が付くかもだけど、私だとわかんない。一気に教室内を浄化しても良いんだけど、誰かが居ると多分気が付かれると思う」
「困ったね。でもお守りは一応効果があるっぽいよね」
そうなんですよね、お守りの御蔭で何となくですが、教室内の爆発は抑えられている。何となくそんな感じです。
「うん、放課後にしか動きようがないけど、何か嫌な予感がするんだよね」
「うわ、小春のそういう予感って結構当たるんだよね」
二人で顔を突き合わせてもごもご言っていると、それこそ爆発の起点となる人達が教室に現れました。
「この教室で何か問題が発生したそうですが、誰か判る人はいますか?」
「あ、駄目だね」
「うん、爆発するわ」
先頭で、肩で風切るように教室に入ってきたのは鳳凰学院中等部3年生、ついでに生徒会会長もしてる醍醐修人先輩、成績優秀、冷静沈着、勧善懲悪であろうとする人。はっきり言って1の騒動を5にも10にも拡大する超迷惑人です。もっとも、これは私や佳奈の意見だけどね。
「伊藤小春さん、貴方ならわかりますか?」
私も一応ですが2年生における成績優秀者ですが、幸いなことに学年1位を取ったのは1年生の3学期期末、そのお陰で生徒会には誘われていません。それでも、常に学年で10番以内をキープしているので、名前と顔を覚えられちゃってるんですよね。
「内容は早川先生が把握されています。今、私の口からお話しするより先生に確認を取って頂く方が良いと思います」
出来れば係わりたくないなあとの思いから、思いっきり先生に押し付けようとしたんです。ただ、残念ながらそれは失敗しましたけどね。
「生徒会として状況を把握するために尋ねているんです。貴方の態度は些か失礼ではないでしょうか?」
いかにも美形メガネ男子&腹黒ですよねタイプのこれまた生徒会副会長の真田孝則先輩が口を挿んできます。でも、この人たちお昼御飯は食べたのかな?
「生徒会が関わる方が良いと判断すれば先生から説明があると思います。私ではそこら辺の判断が出来ないので、先生に確認してください」
「貴方、あくまで生徒会に反抗すると言うのかしら?」
「なぜ先生に委ねる事が、生徒会に反抗する事に繋がるのか判らないのですが」
生徒会書記の阿部先輩。この人も結構なんだかなあって感じの先輩なんだよね。家柄とか思いっきり気にするタイプで、私達一般庶民には当たりが厳しい。そもそも、被害者の私がなぜ攻め立てられているんだろう? もっとも、事件の内容を把握していないからかも?
佳奈が後ろから服を引っ張って来るのは、あんまり対立するのは良くないよって意味なんだろうけど、性格的にこの人達とは合わないんだ。今までは伊集院さんのグループが生徒会を牽制してくれてたんだけど。伊集院さんがお休みだから、動きが今一つになっちゃってる。もっとも、動かれるとそれはそれで困るんだけどねえ。
「生徒会の、ましてや上級生が下級生を威圧するのは如何なものでしょうか? 鳳凰学院の生徒会ともあろう者が嘆かわしいわねえ」
「あちゃあ、秋山先輩が出てきちゃった」
私の後ろで小さく佳奈ちゃんが呟くのが聞こえました。うん、どうせ出て来てくれるならファンクラブでも、もう少し穏やかな太田香織先輩とかが良かったなあ。生徒会VS秋山先輩だと、穏やかに終わる気がしないよ。
「秋山さんですか、相変わらず何処にも口出しなさるんですね、お暇なんですか?」
阿部先輩、思いっきり挑発していますね。
「私達はこっそり抜け出したら駄目かなあ? あとは御二方でどうぞって感じでって」
思わず声に出てしまってた。しまったと思ったら、いやもう両方からすっごい視線が突き刺さるのなんの。
「伊藤さん、騒動の中心はまたあなたですか」
「えっと、確かにそうと言えなくもないのですが、私は先生にお任せしてるんでとお断りしてたところです。生徒会の皆様が騒ぎ立てるよりは先生にお願いする方が穏やかに解決するかと思いますので」
まあ秋山先輩も、伊集院先輩が絡まなければそこまで面倒ではない・・・・・・と思いたい。だから秋山先輩を味方に付けよう。
「なんですって!」
「生徒会は、生徒の権利、安全を守るためにある。そこを勘違いしてもらっては困るな。君は前から生徒会を誤解しているようだ」
阿部先輩がお怒りになって何か言おうとした所を、肩に手をあてて生徒会長が前に出てきたよ。さすがに阿部先輩だと不味いって思ったのかな?
「あら、そうよね、伊藤さんも良く判っているじゃない。生徒会が何でも首を突っ込むから困るのよねえ」
「再度お伝えしますが、今回の事は先生にお預けしていますので、詳細は先生にお聞きください。私は学校の指示に従います」
「その今回の事というのを聞きたかったのだがな。まあ良い、君でなくても状況を知っている者はいるだろう。誰か詳細を教えてくれるかな?」
どうやら私から話を聞くのは諦めたみたいだね。本来、生徒会としてはクラス委員とかに聞きたいんだろうけど、このクラスのクラス委員は私だもんね。ついでに副委員は佳奈です。
「どうしたのかな? 遠慮はいらないから誰か話してくれないかな?」
うん、誰も言わないですよね。関わり合いになりたくないですから。
「ほ~ほっほっほ、流石は生徒会ですわね。皆さんの信頼が厚い事」
秋山先輩が、まさに鬼の首を取ったような感じで笑い声を上げます。でも、何か悪役令嬢みたいな笑い声ですね。
「どうやら周りに人がいると話しにくいみたいだね。生徒会室のポストに投稿してくれて構わないので、ぜひ情報を入れてくれ。みんな、引き上げようか」
生徒会長は秋山先輩を一切無視してさっさと教室を後にしていきました。ただ、帰り際に思いっきり生徒会メンバーに睨まれましたけどね!
「伊藤さんもあんな生徒会ではなく、何かあれば私達鳳凰会を頼って良いのよ? いつでもおいでなさい」
生徒会に勝ったのが嬉しいのか、普段の数倍は愛想良く秋山先輩達も教室から出ていきます。でも、取り巻きさん達は一言も言葉を発しませんでしたよ。
「いやあ、凄いね。どっちとも関わりあいたく無いなあ」
「小春は相変わらずだね。でもさ、どっから情報嗅ぎつけて来たんだろ? もう噂になっているのかな」
「佳奈は相変わらず冷静だね。でも、そういえばそうだなあ、先生達からでは無さそうだし、被害者が私って事も知らなかったっぽいし」
「被害者が小春って判ったらほっときそうだね、生徒会」
思わず二人で顔を見合わせて苦笑いを浮かべます。
「たださあ、先生達も当てにならないんだよね、たぶん」
「うん、騒動を大事にしたくないだろうしね」
困ったもんですよね。こっちは穏やかに過ごしたいだけなんだけどね。
これでなぜ日溜まりの君とか呼ばれているのか謎なお姉ちゃん。
う~~ん、やはり容姿なの? 容姿が全てなの!
という事で、数話はお姉ちゃんが中心になります。ふふふ、せっかくのステッキ、使わせず済ます者ですか(ぇ
ブックマークありがとうございます。なんと、500人を突破しました!
480人から中々増えなくって、結構気になってたのですっごい嬉しいです。
皆さんありがとうございます><