34:魔法少女の苦難?
誤字脱字報告ありがとうございます。
「それは開発に一週間もの時間を費やしてしまったのです。時間を、精神的な何かを、羞恥心を、様々な物を費やし、失いながらも遂に私は成し遂げたのです」
「いやいや、ひより? あなたは何を言っているのかな? 確かに目からハイライトが消えたような表情をしているけど」
お姉ちゃんが、何かドン引きしたような表情で此方を見ていました。
「見てお姉ちゃん、変身ステッキが完成したの! お姉ちゃんの為に頑張ったよ!」
私は小学校の体操服を着用して、お姉ちゃんに恭しくステッキを捧げます。
「え? うん、そのステッキがどんな物かは見てたから知ってるけど、え? それって私用なの?」
何かお姉ちゃんの表情が強張っています。
「うん、お姉ちゃんがこないだ楽しそうにしてたから頑張って作ったの!」
色々な物を犠牲にして作ったので、何としてもお姉ちゃんに使って貰わなければ。お人好しで、善意の押しに弱いお姉ちゃんだから、可愛い妹の健気な頑張りを無駄にする事は出来ないはずなのです。
満面の、欠片もお姉ちゃんが受け取りを拒否するなど思っていませんよという笑顔を浮かべ(ただし目からハイライトが消えている)、私は魔女っ娘ステッキをズズイとお姉ちゃんに差し出します。
「え、そ、そうなんだ。お姉ちゃん嬉しいなあ」
思いっきり引き攣った笑顔を浮かべながら、お姉ちゃんは魔女っ娘ステッキを受け取った。
「うん、チョロいね」
「ん? ひより何か言った?」
「何にも言ってないよ、あ、それ持ち主登録機能があるの。ほら、誰かが間違って使わないようにと、登録者の体型を把握しないと映像にズレが出るから。お姉ちゃん、このピンクダイヤに直接触りながら魔力を通してみて」
お姉ちゃんの手を掴んでピンクダイヤまで導きます。
「ぐぬぬぬぬ、お姉ちゃん、何で力を入れてるの?」
「え? えっと、何か取り返しのつかない事してる気がして」
本能でしょうか? 漠然とした何かを感じ取るお姉ちゃんですが、まだまだ甘いのです。
「お姉ちゃん、このステッキを使うと魔法を使っても正体がばれないんだよ! 怪我した人とか見ても、見ないふりしないでも良いんだよ? すごいよね」
「え? そうなの?」
「うん、変身する時さえ注意すれば大丈夫、魔女っ娘物でもそうだったでしょ?」
私の言葉にお姉ちゃんの力が緩みます。
「えい!」
「あ!」
力が緩んだ瞬間に、お姉ちゃんの手をピンクダイヤに触れさせました。すると、ピンクダイヤを中心にリング状の光がお姉ちゃんの頭上に現れ、ゆっくりと下へと下がっていきます。
「なにこれ?」
「それでお姉ちゃんの体形をスキャニングしてるの。併せて個別認証もしているから、お姉ちゃんあんまり動かないで」
「う、うん」
不安そうな表情で固まっちゃったお姉ちゃんは、無事にステッキ認証を受けました。
「それでね、ほら、ここをカチカチ動かすと登録された衣装の映像を纏う事が出来るの! 3個しか登録できないけどすごいでしょ! お姉ちゃんの学校の制服と、お気に入りのブルーのワンピースと、魔女っ娘衣装を登録してあるよ」
「うん、凄いのは判るけど、魔女っ娘衣装だけでいいんじゃないの?」
衣装切り替えのスイッチをカチカチと切り替えながら、お姉ちゃんが不思議そうな表情をして尋ねてきた。
「え? 駄目だよ。だって、スカートとかだと実際の服と映像が被るって説明したよね? いつ変身しないといけないか判らないし、だから制服の映像を用意したんだし。だから私もテストで体操服着てるんだよ。お勧めはやっぱり白のレオタードとかかな? お姉ちゃん持ってる?」
「はあ? ちょっと待って、制服もって、まさかだけど、日常的に白のレオタードで制服の映像で学校へ行けっていう事?! そんなの出来るわけないじゃん!」
「あ、それなら体操服でもいいかも? でも、そうすると魔女っ娘衣装のスカートをもう少し長めにしないとスパッツと重なっちゃうかあ」
さっき自分で試した時に、スパッツが微妙に映像の隙間に見えちゃったんだよね。あれは格好が悪いね。
「そういう事じゃなくて、実際にはレオタードなんでしょ? いくら相手の目にはそう見えなくたって、自分がそういう格好だってわかってるんだよ? 私には無理! そもそも、このステッキ持ってなくても映像は維持されるの?!」
「あ!」
うっかりしていました。そうですよね、ステッキの魔力供給が途切れたら映像は消えちゃいますね。これはうっかりしていました。映像維持だけを考えればそれ程魔力はいらないと思います、それこそビー玉サイズの真ん丸ダイヤさんでいけそう? ただ、ステッキを手放す事で映像の起点となる場所が定まりません。
「ううう、手放しちゃったら使えません。映像がおかしくなっちゃいます」
「そ、そうよね。よかった、もし大丈夫って言われてたら・・・・・・」
お姉ちゃんは顔を真っ赤にしています。でも、そっか、そうするとやっぱりその時に着ている服との調和が必要になるんですね。もしくは、座標指定・・・・・・。
「ひより、ほら、咄嗟に必要なときなんか滅多にないし、慎重に行動しないとどんな失敗をするかわかんないでしょ? だからお姉ちゃんは常時じゃなくていいと思うよ」
何か必死に私を慰めてくれるお姉ちゃんですが、手に持たなければアミュレット形式で行けそうなのですが。ただ、それだと魔女っ娘ステッキを使うという大前提が壊れるのです。
「そ、それにね、お姉ちゃんも懐かしかっただけで、ほら、中学生にもなって魔女っ娘はないでしょ?」
「中学生の魔女っ娘もいるよ?」
「そうなんだけどね!」
確かにヒラヒラキラキラ衣装を着るのは非常に恥ずかしいよね。ただ、中学生ならまだ問題無いと思うんだけど、流石に前世込みで200歳超えの私にはキツイけどね! もし弟子にフリフリ衣装を着た姿を見られたらと思うと寒気がする、いくら今の姿が幼いとはいえねえ。
「ひより、貴方ももう少し大きくなったらきっとお姉ちゃんの気持ちが判るようになるよ! 黒歴史っていうのは後から来るんだからね! 夜中にのたうち回るんだから」
「ん~~~、あ、中学生特有の中二病というやつですか? 前に本で読んで、良く判んなかったの」
「ち、が、う~~~~」
困りました。お姉ちゃんが何か壊れちゃいました。ブンブンと頭を振るお姉ちゃんを見ながら、結局の所この魔女っ娘ステッキはどうすれば良いのだろうかと途方に暮れます。
「うう、せっかく頑張って作ったのに・・・・・・」
この一週間の労力が頭を過って、思わず涙が流れそうになります。
「あ、え、その、だ、駄目って訳じゃないんだよ? ほら、いつもじゃなくって、ここぞって時に使えばいいんだから。ね、ね?」
お姉ちゃんは私の前にしゃがみ込んで頭を撫でながらそう言ってくれます。
「ぐす、ぐす、今、き、着てみてくれる?」
「え? それは」
視線を彷徨わせるお姉ちゃんに、私は尚もお願いします。
「駄目なの?」
「く、く~~~、き、着るわ、着るわよ!」
その後、流石にレオタードは持っていなかったのか、体操服に着替えたお姉ちゃんが魔女っ娘ステッキで衣装替えをしてくれました。
「うん、よかった、スキャニングちゃんと出来てる。ちゃんとサイズ変更が出来てるよ、でも端っこの映像処理がちょっと荒いかな」
映像の揺れ動きによるズレ対応を確認する為にお姉ちゃんには色んなポーズをしてもらいました。
ただ、だんだんとお姉ちゃんの瞳からもハイライトが消えて行っちゃいましたよ?
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