32:一先ず騒動は終息しました・・・・・・のかな?
誤字脱字報告ありがとうございます。
結局の所、蛇神様は伊集院家を守ろうとして里美さんに取り憑いた。ただ言葉を話す事が出来ないので、誤解を生んでお祓いをお爺さんに依頼したという事だった。ただ、問題はこの伊集院家が絶賛呪いの標的になっているという事で、それをどうにかしないと問題の解決にはならない。
「でも、でも、お祓いは終わったよ? お仕事は此処まででよくない? 今後憑かれるのが嫌なら封印するよ?」
「そうさのう、ひよりちゃんは此処までかのう。呪いを辿るなどは榊の領分じゃろう」
うん、先程の呪い返しも意図しての事ではないし、ましてやその痕跡を辿るなんて私には無理だ。強いて言うならこの家の結界を強化するくらいしか出来ない。その強化も、おっきな真ん丸ダイヤで何とかなるけど、あれを置いていくのは問題かな。
「お爺ちゃんは結界得意だよね? 強化しないと同じくらいの呪いが来たら結界持たないと思う」
「うむ、まあ結界は儂らで何とかしようかの。既に数名此方に向かっておるでの」
前に見たけどお爺ちゃんの所の人が張った結界はそれは凄かった。ただ準備が結構面倒なので、拠点防御にしか使え無さそうだけど、今回においては問題ないし。
「後で送らせるで、ひよりちゃんはもう少し待って居ってくれるかの」
「うん、その代わり猫屋の羊羹貰って良い?」
「ほ、ほ、ほ、構わんよ」
狙っていたお爺ちゃんの羊羹を貰えて、私はご満悦です。先程と違って、一切れ一切れ味わって食べていると、何か周りが静かなのに気が付いた。
「うまうま、うまうま、ん? なんですか?」
顔を上げると、なぜか皆さんが私を見ています。見料でも取るべきでしょうか?
「おいしそうに食べるのう」
「美味しい物は、ちゃんと美味しく食べてあげないと失礼なんですよ?」
意外とこの世界の人達は、食べ物に失礼な人が多いです。美味しいのに値段が安い物は馬鹿にする人とか、値段の割にお得な物を認めないとか。きっと自分の舌に自信が無いんですよね。もっとも私は大抵のものは美味しく感じますけど。
「さて、儂は榊に連絡を入れるかのう。あとは榊の所の者が来てからじゃ、伊集院殿もそれで良いですかな?」
「今は安全と考えてよろしいのでしょうか?」
「そうさのう、あれ以上の呪を放つ者はそうそう居らんじゃろう。呪い師を何とかせねば繰り返されるやもしれんが、あれ程の呪を返されたのじゃ、しばらくは大人しくしておろう」
「はい、ありがとうございます」
伊集院のおじさんがお爺さんに、そして私に頭を下げる。
その後、お爺さんのお寺の人が4人やってきて祭壇を作り始めた。ここまで来ると私はもう帰っていいのかな? あれ以降、特に呪いが飛んできた様子も無いので私はお爺さんに送られて家に帰る事となった。
「お爺さんのお弟子さんが送ってくれるんじゃなかったの?」
「ほ、ほ、ほ、あそこまで行くとの、持久戦になるやもでの、年寄りは交代じゃ」
確かにいつ来るか判らない物を待つのは辛い。
「神主さんは待たなくて良かったの?」
「ほ、ほ、ほ、それこそ電話を受けてとっくに動いておるじゃろう。榊にとってはこの程度の距離は気にならんじゃろう」
「ほむ」
神主さんは神主さんで不思議な魔法を使うからなあ。あれもぜひ研究してみたい。ただ、とりあえずお仕事は終わったようなのでありがたいです。
「アルバイト代は既に振り込まれておろう。ただ、無駄遣いするでないぞ?」
「うん、でもね、結構買いたいものもあるから困る」
魔物が居ない為に魔石が手に入らない事が、これ程研究に影響するとは思ってもみなかった。いかに魔石に頼っていたのかと改めて痛感しています。その為、その代替えを探すのに結構馬鹿にならないお金を使っています。
「ところでの、ひよりちゃんの家の家宝の水晶玉、あれを見せてくれんかのう?」
「だ、駄目です! あれは我が家の家宝で、本当は家の外に持ち出したら駄目な物だったのです!」
お爺さんは残念そうな顔をしますが、家族みんなから厳しく注意されているんです。
それはもう、しつこいくらいに注意されています。
「使うのは良い、身の危険があるならどんどん使いなさい。ただ、絶対にあれを人の手に渡してはダメだよ」
「そうねえ、お母さんでは判らないけど、判る人にはダイヤモンドってバレちゃうかもしれないものね」
「うん、そうなったらひよりちゃんは金の卵を産むガチョウになっちゃうよ」
そのお話はお母さんが買ってくれた絵本にありました。最後にはお腹をパカっとされて死んじゃうんです。人の欲は限りが無い事を私だって知っていますから、ダイヤの事は絶対に知られてはいけません。さすがにお腹をパカは無いと思いますけど、一生監禁はありそうです。
「それより、呪い返しの生贄の事が気になりますよ。最悪死んじゃってたりするんです?」
「何とも言えんのう。術者の力量、呪術の種類、色々と関係するからのう」
「呪いは嫌いです! 華やかさがないのです!」
「ほ、ほ、ほ、華やかな呪いのう、ふむ、楽しそうじゃのう」
お爺さんは笑いながら私の頭をワシャワシャと撫でます。でも、その生贄が女性だったり、子供だったりしたら、私はその術者を許しませんよ。神主さんが早く敵を見つけてくれる事を祈ります。
「ふむ、どうやら呪い師は、儂らにターゲットを変えたようじゃな。車で移動中ならば準備も無く行けると思われたかのう。はてさて、舐められたものじゃ」
突然お爺さんが真剣な顔をして、前方を睨みつけます。
私も前方へと意識を飛ばすと、何かが此方へと向かって来るのが判りました。
「オン、キャラハラ・・・・・・」
お爺さんは懐から何か変わった形の道具を取り出して、呪文を唱え始めました。私も一応自分を中心にして結界を展開します。
「・・・・・・オン!」
お爺さんから何か凄い力が飛んでいく気配がします。こっちの世界の魔法は見えないんですよね。なぜか車を透過しちゃうのが実に不思議です。
「あ、弾け飛んじゃったね」
割と凄い力に感じましたけど、お爺さんはあっさりと散らしちゃいました。
「あれも呪いなんですか? さっきと毛色が違ったように思えました」
「ほほほ、あれも呪いじゃな。もっとも、式に近い感じじゃ、陰陽道系かのう」
何と! 式ですか、ぜひ学びたい魔法の第一候補ではないですか!
「式は私も覚えたいです!」
「ふむふむ、ひよりちゃんなら使い魔などが良さそうじゃがのう。どうじゃ、黒猫など可愛いがの?」
「使い魔! それも覚えたい! 猫ならお耳がへにょんとしてるのがいい!」
「ふむふむ、お耳がへにょんじゃな、今度ペットショップに一緒に見に行こうかの」
「使い魔ってペットショップに売ってるの?」
「流石に使い魔では売っとらんと思うのう」
まるで攻撃が無かったかのように、家までお爺さんと使い魔の話で盛り上がっていました。
ただ、後でよく考えるとお爺さんらしく無い対応です。攻撃されて黙っているお爺さんではないですし、実に不思議です。それと、我が家に帰る前に家の傍に何時の間にか出来ていた、お爺さんの系列のお寺に立ち寄ります。ここで厄払いを受けました。
「ここで糸を断ち切っておかねばの。もっとも、今更糸を辿る事も出来まいがのう」
相も変わらず訳の分からない事を言いながら、ほっほっほと笑っているお爺ちゃん。ただ、お寺で長餅をお土産に貰えたので、私の疑問はどっかに飛んでいっちゃいました。長餅は美味しいですよ。
我が家の前に車が到着すると、お母さんとお姉ちゃんが迎えに出て来てくれました。
「この度は、またもやひより嬢にお力添えを頂き申し訳なくも多大の感謝を申し上げる」
お爺ちゃんはお母さんに深々と頭を下げる。お母さん達はあんまりこのアルバイトを喜んでないからね。
でも、強くならないと危険だからって理解してくれているから、お爺ちゃんや神主さん同伴の時のみではあるけどアルバイトさせてくれているんだよね。
「ちなみに、この度はひより嬢の口座に1000万ほど振り込まれておるで、くれぐれもひより嬢が無駄遣いをせぬようご注意くだされ」
ぬぅ、最後に要らない告げ口をしていきましたよ! お母さんの目が笑ってないですよ!
一応の決着? 血生臭い部分はひよりに隠れて暗躍するじいじです。
ひよりを可愛がっているのは間違いないんですよね、方向はともかく・・・。