31:蛇の次は牛ですか?
誤字脱字報告ありがとうございます><
「お爺ちゃん、あれって反則ではないでしょうか? さっきまでスル~ンでしたよね? あんなの見たら、うちのお姉ちゃん無理を言うよ? 胸を大きくする魔法を作ってとか!」
「さてのう、先程までは蛇じゃからのう、愚僧にはなんともかんとも」
「蛇でスル~ンなら、牛ならどうなるんですか? お爺さん、あれ牛神が憑いてませんか?」
「あ、あの、あまり見ないでほしいのですが」
お爺ちゃんと二人で、中学生が持つには相応しくない大きな胸をじっと注視していると、ベットの上に起き上がっていた少女はまたもやお布団の中へと潜り込みました。
「むぅ、とにかく、あのネックレスを封印しちゃえば事件は解決?」
あのネックレスが恐らくあの蛇さんの依り代なんだと思います。こっちの魔法なんかを調べた時に、何か似たようなお話があったのです。
「そうじゃのう、とりあえずは解決となりそうじゃが、果たしてそれで良いのか疑問が湧いてきたかのう」
「あ、あの、蛇神様を封印されちゃうと困るんです。お願いですのでお話を聞いてください」
布団から頭を出して、少女が此方へと視線を向けていますが、うん、あざといですね。
「隈取がなくなったら、なんかエッチな感じがする? あのお胸のせい?」
「そうさのう、なんでかのう」
お爺さんも否定しないという事は、やっぱりそう思うんだね。うん、巨乳は敵だね! 前世の記憶からも、早急に排除せよって指示が出ている気がするよ。
「あ、あの、ですから、姫神様は我が家をお守りくださっているんです!」
「すごいね、襟元からも胸が見えるよ、あれは悪だね!」
パジャマの胸元が乱れて、俯せに近い状態の少女の胸元が覗けます。きっと、見せてるのよって感じでしょうか? 敵ですね? 敵認定ですね?
「あ~~~、なんじゃ、里美嬢でよろしいかな? 記憶はございますかな?」
ガルルルと唸る私の頭を手で押さえながら、お爺ちゃんは我が家の敵になるであろう少女へと話しかけました。
「はい! 自分の記憶もあります。あと、蛇神様の意思も記憶しています!」
「ほうほう、それは吉兆、恐らくじゃがあの呪いが係わっておるのじゃろうが、それはこちらで防ぐでの、一度ご両親も含めお聞きできますかの」
「はい!」
「ほれ、ひよりちゃんや、まずは応接に向かうかの、お嬢さんも何か羽織っておいでくだされ。その姿は幼きものには少々刺激が強いようじゃ」
お爺ちゃんはそう言うと、私の頭をぐりんと回してそのまま抱えて部屋を出ていきます。
「その方らは入り口を固めよ。決して部屋の中を覗くでないぞ」
部屋の入り口で、邪魔が入らないように警備していた二人のお坊さんに、お爺さんはそう声を掛けます。そして、私を抱えたままスタスタと歩いていきますが、この時、私の意識はいまだに野生に返ってガルガル言っていました。
「ガルルルル・・・・・・ん? あれ?」
ふと気が付けば、何故か応接のソファーに噛り付いていました。なぜこんな物を齧っていたのでしょう?
「もしかして、何か精神攻撃に負けちゃったのでしょうか? 記憶が途切れています」
「そうじゃのう、そうとも言えるのかのう」
お爺ちゃんは、私の隣で呑気に日本茶を飲んでいました。
お向かいでは、伊集院さん夫妻が何か心配そうな表情で私を見ています。むぅ、失態ですね、これではアルバイト代が減っちゃうかもしれません。不味いですね。
「こほん、少々魔力の使い過ぎで」
「はあ、あの、大丈夫なのですか?」
伊集院さんの心配そうな眼差しがお爺さんに向けられます。
「そうさのう、蛇神様は今は憑依しておらん。お嬢さんは身支度して応接に来られるが、さて乳神はいかんとも」
「は? ちちがみですか? 蛇神様の父となる神が何か関係が?」
「蛇神様に父となる神様が?」
お爺さんの言葉に、伊集院さんと奥さんが疑問を浮かべますが、ただ娘さんが応接に来るとの事で安堵したような気配です。
「ただの、先程にこの屋敷が呪いの攻撃を受けておったのは気が付いたかの?」
「え? そうなのですか?」
どうやら、伊集院さんはまったく気が付いていなかった様子です。
「ひよりです! ひよりが撃退したんですよ!」
アルバイト代に係わるので思いっきりアピールさせてもらいます。
「うむ、このひより嬢が結界を張り直し、呪い返しをしましての、どうもお嬢さんの憑き物もその呪いに関係がありそうなのですわ。ともかくお嬢さんのお話をお聞きしてからですかの」
呑気にお茶を飲みながら、お爺さんは一応の説明をします。でも、そこはもっとこう盛り上がる説明をしても良いと思うのです。結構苦労しましたよね。
会話に入れない私は、仕方なく目の前の猫屋の羊羹を齧る事にしました。べ、別に猫屋の羊羹に意識を取られてて会話が終わってた訳じゃないですよ!
「うまうま、うまうま、お爺さん、羊羹おいしいですよ、さすが猫屋なのです」
羊羹を食べながら、何気にお爺さんの返答次第ではお爺さんの羊羹を貰う気満々の私ですが、その野望は乱入者によって残念ながら果たせずに終わってしまいました。
「お待たせいたしました。お父さん、お母さん、ご心配お掛けしました」
ドアがノックされ、開いた扉からさっきまで蛇少女だった少女が部屋に入ってきました。
「里美、大丈夫? 寒いの? 何かすごく重ね着してるけど」
「里美、無理せずともよいのだぞ」
伊集院さん夫婦が入ってきた少女に声を掛けます。
「伊集院里美さん? どっかで聞いたような気がする」
誰かから聞いたような気がするけど、きっとお爺さんかな? ただ、わざわざ胸元にケープまで巻いて、やたらとおしゃれしてます。自分の家でもこんなにおしゃれしないといけないなんて、お金持ちも大変ですね。
「さてさて、それではお話を聞かせていただけますかの? 蛇神様は何故お嬢さんを依り代にしたのかの」
「は、はい。説明させていただきます。蛇神様からも、お力をお貸し願いたいとの事で」
お嬢さんが深々と頭を下げたのですが、その瞬間私の中で一瞬アラートが鳴ったのですが、何だったのでしょうか?
「なるほど、やはり蛇神様は伊集院家の守り神だったのですな。実に興味深い」
お嬢さんの話では、どうも伊集院さんのお家が数日前から霊的な攻撃に曝されていたようです。ただ、残念なことに伊集院家で霊感などを持つ者は皆無、かろうじて直系女子であるお嬢さんが巫女として蛇神様の依り代になる事が出来た。その為、蛇神様はお嬢さんを誑かして憑りつき、伊集院家を守るために結界を強化して跳ね返そうとしたらしいのだけど、相手の呪力の方が強く、結界を維持するだけで精一杯だったそうです。
「蛇神様っていう割に弱いんだね」
「あ、いえ、我が家では既に伝承が途絶え、蛇神様をきちんと祭る事が出来ていなくてお力を落とされたそうです」
お嬢さんが慌てて弁明を始めます。でも、そっか、神様って信仰が力の源だろうし、家の神様とかならそれも仕方がないのかも?
「伊集院家に神の血が混じっておるとは儂も知らなんだしの。ましてや、何らかの儀式をしていたなど聞いた事もないで、恐らく100年以上前には廃れておったのじゃろう」
「お爺さんが知らないイコール100年って、お爺さんは何歳なの?」
100歳以上でこれだとしたら、まじめに妖怪だよね。もしかしたら狸の妖怪とかかも?
思わず疑惑120%の眼差しをお爺さんに向けちゃいます。これは仕方がない事なのです。
「た、確かに古文書で蛇神様の記述はありましたが、儀式ですか、聞いた事がありません。ただ、急いで他の古文書を調べなおしてみます」
「それはお任せするとしてじゃ、さて、ひより嬢の打ち返した呪い、何処に行ったのかのう。ここまでの呪いじゃ、呪い返しの対策もしておろうし、これで終わるとは思えぬの」
「お爺ちゃん、呪い返しの対策って・・・・・・もしかして身代わり?」
呪いに対して防御にも、呪い返し対策にも、有効なのが身代わりだったりします。ここが私にとって、この世界の魔法で気に入らない所第一位なのです。排除したければ堂々と爆破魔法でも打ち込めですよね!
何かお爺ちゃんとの会話形式がすっごく楽で・・・・・・
駄目です、このままでは迷走しそうです!