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3:お祓いの効果はすごいですよ

 その週の土曜日に両親と揃って地元の神社へとやって来た。

 家族揃ってのお出掛け自体が珍しいのでお姉ちゃんは大喜び、更にお祓いが終わったら神社の傍のショッピングモールでお買い物をする事が決まっているので更に更にテンションは上がっている。


「お正月くらいにしか来ないからだけど、何か誰もいないわね」


「そうだね、お守り売り場も閉まってるよ? 営業してるのかな?」


 お姉ちゃんも不思議そうに見ているけど、そもそも神社は営業と言うのでしょうか? ただ、確かに人の気配が感じられない神社に私達家族はちょっと戸惑っています。


「もしかして、お祓いとかは予約しないとだったのかしら?」


 それこそ普通に神社に来れば神主さんがいて、普通にお祓いをして貰えると思っていたのですが、何となく怪しそうですね。お正月にはお守り何かが売られている社務所と呼ばれる建物自体も窓もカーテンも閉まっています。


「でもね、この神社の中には黒い霧がないの。すっごく綺麗だよ」


 お正月に来たときはここまで空気が澄んでいなかったのは、やっぱりお参りに来ている人達から黒い物が滲み出ているからだったのでしょう。参拝者が居ない現状において神社の境内はとても澄んだ空気に包まれています。


「そうすると、お祓いに効果はあるのかもしれないね」


「そうね、せっかく来たんだし、どうせならお祓いをお願いしたいわね」


 私達は神社の本殿前でうろうろしていると、中から神主さんの恰好? をした30歳くらいの男の人が出てきました。


「あの、お祓い何かは予約が必要なんですか?」


 お母さんがその人に近づいて尋ねると、やはり予約がいるとのお話でした。


「ただ、今日はこの後ご予約いただいているご家族がおいでですので、その時ご一緒にいかがですか?」


「あ、何方かご予約があるのですか?」


「はい、あと30分くらい後にご予約いただいておりますので、その際に御一緒にお祓いをさせていただきますよ」


 どうやら都合よくお祓いの申し込みがあるそうです。そのおかげで我が家も4人揃ってお祓いをしていただける事となりました。ちなみに、一人五千円の4人で二万円でした。高いのかな? 安いのかな? 良く判りません。


 こうして、家族みんなで一応本殿でお賽銭を入れて普通にお参りをして、その後境内をぶらぶらしていると、何やら悪意の塊みたいな物が近づいてくるのを感じました。


「あう、お父さん、お母さん、お姉ちゃん、ひよりが渡したお守りをしっかり握ってて、何か真っ黒なのが来る」


 私の言葉に家族みんなが私の視線の先、神社の入口方向を見る。

 すると、境内の様子も今までと一変、今までの清浄な空気が息苦しくなる。そして、視線の先からは黒い塊とそれに寄り添うかのように一組の夫婦がやって来た。


「あ、内田君だ」


「え? あの真っ黒なお家の人?」


 今回の騒動を起こした例の内田君。もっとも私には真っ黒過ぎてその中に居るであろう内田君の姿はまったく見えない。


「どうしましょう、お母さん達は面識が無いのだけれどご挨拶した方が良いかしら?」


 お母さんが常識的な事を言うけど、出来ればあれに近づきたくない。それこそこちらも巻き込まれそうだよね。でも、たぶん内田君の家族がお祓いを予約した人達だったんじゃないかな?


「あのね、その内田君が私には見えないくらい真っ黒なの。だから出来れば近づかない方がいいの」


「え? そうなの? そっか、内田君もこっちに気が付いてないみたいだしいいのかな? ずっと下向いててこっち見てないもん」


 お姉ちゃんの説明だと、内田君はどうやら一人で歩くのもやっとのような感じらしい。それを両親と思しき人達が両側から支えている。


「しかし、あんな様子だと普通は病院へ入院させたりするのが普通だと思うが、まあ何か思う所があるのだろうが」


 どうやらお父さんも内田君の様子が見えるらしい。


「そうよね、お祓いより普通病院よね」


 お母さんも同意見なようだ。確かにこの世界では呪いやお祓いなどは迷信扱いされている。以前の世界であれば魔物の瘴気に毒されるなどで教会に行って浄化してもらう事もあったんだけどね。これも文化の違いなのかもしれないけど、それで良くこの世界の人達は長生きできるなと驚く。


「お祓いを予約した家族って内田さんの所だと思う。一緒にお祓いって言われてたから私達も行こ」


 通り過ぎた内田君家族の後ろ姿を見ていた私達に、お姉ちゃんがそう言ってお母さんの手を引く。


「そうね、行きましょうか」


 お母さんもそう言って本殿へと進んでいく。ただ、私は本殿でのお祓いの並び順を考えていた。


「お母さん、お祓いでもし並ぶのなら内田君の家族との間には私が入るね。ビー玉を私が一番持ってるから」


「危なくないの?」


 心配そうに私を見るお母さん。


「判んないけど黒いのを見れるのが私しかいないから、あとビー玉もあるし私が一番良いと思う」


「無理しないのよ?」


 お母さんは私の言葉に一瞬考えた。それでも、たぶん私の言う事が一番良いと思ったのか小さく頷く。

 私もお母さんの言葉に頷いて、家族みんなで本殿へと足を踏み入れる。


「そちらのご家族は此方にお並びください」


 本殿では椅子が用意されていた。そして、幸いなことに内田君の家族とは椅子が少し離されている。


「それでは、始めさせていただきます」


 神主さんは玉串を持って祝詞を唱え始める。

 初めてのお祓いに私はドキドキしながらその様子を見ていると、玉串の一振り一振りで息苦しかった空気が浄化されていくのが判る。


 おおお、この世界の神様も馬鹿に出来ないね。ちゃんと浄化が出来ているよ。


 そんな事を思いながらお祓いを見ていると、祝詞の中にちゃんと内田君の家族の名前や住所があるのに驚く。この世界の神様はちゃんと住所が判るみたいだ。そして、内田君家族の頭の上で玉串が振られる。一振り二振りと振られるにしたがって黒い塊が消え、漸く私にも内田君の顔が見えた。


 私がお祓いに感動していると、内田君の中から楔のような物が飛び出して、それが玉串に打ち払われるのが見えた。それと共に周囲の空気は一気に澄み渡る。


「すごい、綺麗になった」


 思わず私が呟いたけど、その声は小さく幸いにも祝詞に紛れて誰にも聞こえなかった。その後、内田君の家族のお祓いが終わり、うちの家族の番になる。

 新たに祝詞が唱えられ、玉串が振られるとお姉ちゃんの中からも内田君と比べ物にならないくらい小さいけど、同じような黒い楔が飛び出して消えていったのだった。


「これでお祓いは終了となります。そちらからお帰りください」


 神主さんは特に何も無かったかのように淡々とお祓いを進行させ、あれほど黒かった内田君と、恐らく何かしらの悪意の目印であっただろう楔をお姉ちゃんのも併せて浄化させた。うん、単純にこの世界の神主さんって凄い、これは大きな発見だった。


「ありがとうございました」


 私達はお礼を言って、厄除けのお守り何かが入った紙袋を出口で貰って本殿を後にする。その際に何気に本殿を振り返ると、先程の神主さんが意味ありげに私に向かって片目をつむった。

 もしかするとこの神主さんにも黒い塊が見えていたのかもしれない。私はそんな事を思いながら、神主さんに小さく手を振って本殿を後にするのだった。


「お父さん、神主さんってすごいね」


 神社を後にし、みんなでお食事をしてお買い物中、わたしはお母さんとお姉ちゃんがあ~でもない、こ~でもないとお洋服を見ている間、お父さんと一緒にお店の傍にある椅子に座って今日の事を話していた。


「ん? そうなのかい? お父さんはひよりの様にその悪い物が見えないから判らないが、お祓いの効果があるなら行ってよかったね」


「うん、あと、ひよりを信じてくれてありがとう」


 私は素直にお父さんにお礼を言った。最初は気味悪がられるかもと心配していた、けれどそんな事はまったくなかった。その事が不思議でお父さんに理由を尋ねた。


「ひよりがお父さんたちに嘘を言うと思わないからな」


 何ら気負う事無く当たり前のようにそう告げ笑いかけてくるお父さんに、私は思わず涙が溢れてくる。


「お父さん」


 感動する私の頭にポンッと手を置いて、お父さんは更に話を続ける。


「それにな、ひよりがお母さんのお腹の中に居る時、お母さんがやたらと騒いだんだよ。空気が汚れてる、何か黒い物がふわふわしてるってな。ひよりが生まれてからは言わなくなったが、あれは恐らくひよりの影響だったんだろう」


「え? お母さんが?」


 あまりの言葉に私は思わず絶句する。私の影響だったのかそれは判らない。ただ、お母さんもこの目の前の光景を既に見ていたんだとどこか安心した。


「最初は引っ越しも考えたんだが、今の仕事を考えるとそれも出来ないからな。その時、実は今日のように神社にお参りに行ってお札を貰って来たんだ。だから今回もそんな物かなってな」


 苦笑を浮かべるお父さんだが、そうか、そんな事があったのかと納得した私だった。


「お父さん、神社で貰った紙袋全部にお守りとお札が入ってるよ?」


「そっか、そしたら家の四方に貼ってみようか」


 お父さんとそんな事を話しながらお母さん達を待っている。

 心の中のどこかで感じていた不安が一気に安らいで、私はだんだんと眠気に負けはじめた。


「少し寝ていなさい。この後ひよりも忙しくなるだろうから」


 意識の外でそんなお父さんの言葉になんで? と疑問を持ちながら私はお父さんに凭れ掛かって眠った。


 もっとも、その後お父さんの予言通り戻って来たお母さん達に子供服売り場を梯子させられて、まさに着せ替え人形のごとく沢山の服を試着させられたため、私は本当に意識を失って帰宅する羽目になるのですが。


 お姉ちゃん及び内田君の事件はこれで終了したと、私達はそう思っていました。 

 でも、翌週学校から帰って来たお姉ちゃんは夕食の時に困った表情で家族に相談してきました。


「あのね、内田君は今日普通に登校してきた。でもね、斎藤君とか他の子はまだお休みだったの、他にも体調があんまり良くないって子もいて。それでね、内田君が神社でお祓いしてもらったら回復したって言って、でも誰も信じなくって、どうしたらいいのかな?」


 お姉ちゃんの言葉に、両親揃って考え込みます。


「そうよね、普通はお祓いして治るなんて思わないわよね」


「うん、私もお祓いして良くなったって言おうかと思ったんだけど、よく考えたら私体調悪くなってなかったし」


 お母さんの言う通りこの世界でお祓いはあまり治療方法としては確立されてないですね。それにお姉ちゃんはお守りで守られていましたから、それでお祓いなんて言っても説得力はあんまりないかも。


「それにね、何かクラスで内田君があんな遊びをしたから悪いって内田君を責める雰囲気が出てきてて」


「え~~~、お祓いは信じないのにあの遊びは悪いってなるの? 何か変!」


 子供の事だから仕方が無いのかもしれないけど、思いっきり矛盾した発想。


「でも、どうせなら駄目で元々でお祓いをして貰えば良いのに」


 私がそう言うと、お父さんが苦笑を浮かべる。


「そうだね、でもお祓いだってお金が掛かる事だから、例え一人五千円と言っても厳しい家だってあるかもしれないんだよ」


 我が家は4人で二万円、その他外食したり、お洋服を買ったりとまだ余裕がある方なんでしょうか? でも、毎月どっか連れてってくれるって事も無いし、普段だとお誕生日とかにしかお洋服は買って貰えません。


「うちってお金持ちだったの?」


 私の言葉にお父さんもお母さんも声を上げて笑い出します。でも、お姉ちゃんは首を傾げます。


「お金持ちというより、そうね、小金持ちかしら?」


 お母さんの言葉にお父さんは苦笑い、うん、大金持ちの反対だからお金持ちではないのかな?でも、貧しくは無いそんなところなんだろうと私は納得しました。ただ、お姉ちゃんはまだ首を傾げていました。


 その後の話し合いで結局の所、お姉ちゃんの教室内の問題は様子見になっちゃいました。我が家で学校の中に干渉する訳にはいかないです。その為、今後より悪化するなら何か考えるという所で落ち着きました。もちろん、その目安は結局の所ビー玉の状況なんですけどね。


「でも、そもそも今回のこれって何だったの?」


「う~んと、たぶんだけど呪いかな?」


 内田君がどういう思いで今回の事を企画したのかわからないけど、そこには何かしらの欲と言うか、悪意があったんだと思います。それに参加者たちの悪意が掛け合わさって更に周囲に漂う悪意も取り込んで力を持ったのかな? もっとも、あの後調べた限りでは、召喚術という物がこの世界にはあるみたいで、それで悪い物を呼び出したという可能性もあるのです。でも、私は未だにそんな悪い物を見た事が無いので、どうしても前世の知識寄りの回答になっちゃいます。


「う~~~ん呪いかあ、何か怖いね」


「うん、その怖いって思いも呪いを強化しちゃうから結構面倒なんだよね」


 でも、一番怖いのは呪いを成立させちゃう人なのかもしれないですね。

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