27:私のアルバイト
誤字脱字のご指摘、ありがとうございます。
翌日、お母さんが学校へと呼ばれて、お姉ちゃんと連れ立って鳳凰学園へと向かいました。拉致未遂事件は、警察沙汰になったので隠しておけなくなったみたいです。
私の方は、特に表ざたにならなかったので、普通に学校へと登校しました。
今回の出来事は、幸いにしてマスコミなどには察知されていなかったので、小学校では噂の影すらありませんよ。うん、平和が一番です。
今回の騒動で、お姉ちゃんの学校が謎な状況になっている事が明るみに出ました。やはり恋愛ゲームに近いというか、どっちかというと生徒達が誰々は攻略キャラ、あの人は悪役令嬢などと勝手に役を当てはめているみたいです。
「勝手に他人に役を振られるのって、すっごい迷惑! 私は伊集院さんに虐めとかされてないし、ましてや特定の人と恋愛とか無いから! 私達まだ中学生だよ!」
その日、学校から帰ってきたらお姉ちゃんは既に帰宅していて、思いっきり膨れっ面で怒ってました。
「でも、結局は学校側も解ってくれたんでしょ?」
「うん、思い込みの激しい生徒が勝手に暴走したって事になった。というか、それが事実なんだけど、何か変な噂が広まってるみたいで、伊集院さんが悪者になってるの。先生達もそこら辺はどうだみたいに聞いてくるからすっごい腹が立ったよ」
「ふむふむ、陰謀の匂いがしますねえ」
そもそも、昨日の事件の内容が、今日の朝には広まってるっておかしいですよね。誰か第三者が見ていたにしろ、お姉ちゃんを助けてくれた人が逆に悪者にされているのも不自然です。
「う~~~ん、でもさ、携帯で情報が拡散したみたいなんだよね」
「ふむふむ・・・・・・良く判りません」
誰かが誰かに電話して、その誰かがみたいな感じでしょうか? でもって、伝言ゲーム的に内容が変質したのでしょうか?
「お姉ちゃんと伊集院さんは仲が良いの?」
「仲が良いっていうより、私が勝手にかっこいいなあって憧れてる感じ? 見るからにお嬢様って感じなの。ほら、白いワンピース来て、日傘をさしながら歩いてるみたいな、わかる?」
「確実にとは言わないけど、何となく?」
お姉ちゃんの憧れのお嬢様みたいな感じかな? でもさ、そんな人、現実にいるのでしょうか?
「明日から学校なんだけど、何か気が重いよ。伊集院さんのファンクラブがどういう行動に出るかも心配だし」
「あ、昨日言ってたファンクラブ? でもさ、お姉ちゃんは被害者なんだから問題なくない?」
「どうかなぁ、回りまわって迷惑かけたって何か言ってきそう。ファンクラブって大体の人は悪い人じゃないんだけど、会長とかがちょっと過激だし」
「会長? ファンクラブの?」
「うん、今の3年生で、秋山千鶴先輩。お父さんが伊集院さんの会社の関係者みたいで、小さいころから交流があって、伊集院さんを猫可愛がりしてるらしいよ」
「ふ~~ん、上級生だと厄介かもね」
「下級生にも熱狂的なファンもいるしね。もちろん2年生にもいるけど」
なるほど、思った以上に厄介な状況なんですね。
「お姉ちゃんだって仲の良い友達いるじゃん。ほら、良く遊びに来る人達とか」
「うん、だから平気と言えば平気なんだけど、逆に巻き込んじゃうと悪いなとも思う。佳奈なんかは運動部だからさ、すぐに矢面に立って騒動を大きくしちゃうし」
辻本佳奈さんかあ、何度か我が家に遊びに来てるけど、見るからに熱血運動部なんだよね。陸上部の短距離選手だったかな?
「学校行ってみないと分からないんだから、悩んでても仕方がないよ?」
「ひよりは良いなあ、学校では女番長だもんなあ」
「風評被害が著しいね!」
お姉ちゃんから思わぬ発言が飛び出しました。どっからの情報かと確認すると、なんとお母さんからでした。どうも小学校の父兄会でそんな発言が飛び出したらしいです。
「あら、あれは良い意味でよ。今年は学校が比較的落ち着いているって先生方が言ってたの。それで、良い意味でひよりちゃんが上級生にも下級生にも目を光らせてるからって、皆さん笑って言ってたわ」
「何かすっごい誤解されている気がする」
確かに、理不尽な行動を目にしたら私は注意します。そもそも暴力には屈しませんし、所詮は子供の振るう暴力など相手になりません。伊達に前世で生き死にの場を生きて来てはいないのです。
小学生の虐めや喧嘩など、気合で潰せますし、力はともかく体術などでは数段上を行ってますし、負ける要素はありません。
「今日中にアイテムを完成させるので、お姉ちゃんは明日はそれを持って行ってね」
昨日から試作している防御用のアイテムも、今日の夜には完成しそうです。まあ、何があってもお姉ちゃんが怪我をしなければ取り敢えずは良しとしましょう。
翌日、私はいつも通り学校へと向かいました。ただ、残念ながら学校へは行きつけませんでした。
「お爺ちゃん、急な呼び出しは止めてください。吃驚します」
「ほ、ほ、ほ、すまんのう。こういうものは何故か突然で困るのう」
私は頬を膨らませて抗議しますが、この狸なお爺さんはまったく平気な顔で笑います。
そうです、あの真言宗のお爺さんです。なぜか、あれからちょくちょく遊びに来ています。そして、厄介事を持ち込んできます。
「ひよりちゃんや、どうかこのお爺を助けると思って、ちと手伝ってくれんかのう。アルバイト代はたんと弾むからの。駄目かのう」
ある日、すっごく悲しそうな表情で頼み込むので、つい絆されてしまいました。
それからは、時折どうしてもお爺さんの所では手に負えない呪いなどを浄化するお仕事などをアルバイトでしています。うん、真面目に1回100万円とかで、しかも税金申告しなくていいらしいのです。
「あとで税務署が来ませんか?」
「ほ、ほ、ほ、税抜き金額じゃから大丈夫じゃよ」
だそうです。
「今度は何の浄化ですか? 何か最近増えてますよね」
「まあのう、景気も悪いでなあ、自殺も何気に増えちょるしのう」
子供の私では今一つ判りませんが、世の中は不況へと突入しているそうです。そうすると、なぜか呪いだ何だと事件が増えるそうです。ここで問題なのは、そもそも霊能力者って多いの? 少ないの? というところです。
「霊能力者育成の学校とかありそうなのに」
「ほ、ほ、ほ、それはまた漫画の様じゃの」
「でも、そういうの実際のところないの?」
「さて、ただ儂は聞いたことは無いの。佛教の大学はあるがの。霊能力者はおらんと思うぞ?」
笑顔で言われて、何かすっごく馬鹿にされている気がする。
そんな私の表情を見て、お爺さんはまた笑っている。ただ、榊さんに聞いた所、今この日本では笑い話で済まない状況ではあるそうなんだよね。私が言う悪意、お爺さん達が言う瘴気、この濃度が年々上がり続けている。そして、これは何も日本だけの問題じゃないらしい。
「瘴気がこれ以上増えれば、人が人で無くなるなどといった事が起きても可笑しくありません。それに、すでに精神に異常をきたした者達が増えてきています。これも瘴気の影響の一つです」
榊さんはそう言ってました。でもさ、何でも悪意のせいにしたら駄目だと思うんだよね。
信仰もそうなんだけど、人の心の中にしっかりとした物差しを作る。そういった作業がこの世界ではほとんど行われていない気がする。だから、悪い事は何で悪いのかが判らないし、他人に迷惑を掛ける事が何で悪い事なのかが判らない。
「そもそも、悪い事の定義が揺れ動いているんだよね」
「ん? そうじゃのう。時代ごとに善悪は変わるからのう」
「でもさ、お爺ちゃん。それって、おかしなことなんだって判ってる?」
根底にある善悪は不動だと私は思ってる。でも、この世界の人は違うんだ。
「はて、どうかのう」
お爺ちゃんは、いつもの笑顔を浮かべながら、私の言葉を考えているようだった。
「さて、どうやら到着した様じゃな、ここからは仕事モードじゃ」
そう告げるお爺さん。
そして、私達の乗った車は、大きな門の前で停車していた。
「伊集院」
その門にある表札には、そう名前が刻まれていた。
投稿が遅れて申し訳ありません。
休みに入ったら、実家で良いように使われて文章を書くどころか、PCを起動すらできません><
合間を見て書きますので、ちょっと飛び飛びになっちゃうかも。
ちなみに、前回、日付と話数の一致と書きましたけど、よく考えたら32話以上ってそもそも日付がなかったですね・・・