25:時は中途半端に進んで
誤字脱字報告ありがとうございます。
強盗騒動のあった夏、それから時間はずずっと進んで私は小学5年生、あっという間に一年半近くの時間が過ぎ去って行きました。
あの後、お姉ちゃんは無事に鳳凰学園に合格しました。
結構な倍率だったみたいだけど、難なく合格したみたい? 入学後に貼りだされた学年順位はなんと、堂々の12位だったそうです。ちなみに、小学部から進んだ子達も同じ試験を受けさせられるそうで、外部受験の子と合わせて順位を出すとは思わなかったですね。外部生との軋轢が生まれそうです。
「う~ん、まあ無くはないよ? 何と言っても小学部から来てる子は、お金持ちの子が殆どだもんね」
などと割とサバサバとして、学校へ通っています。
私は、その後は大きな事件も無く、平穏な日常が漸く戻って・・・・・・きて欲しかったな。
流石に、当初警戒していたような襲撃事件などは発生しませんでした。際どい感じは何度かあったみたいなんですが、川瀬さんによる情報提供、弁護士さんによる警告、法的処置と続いて、その後落ち着きを取り戻したみたいです。
あと、浄化結界を強化したのが、何気に大きいと思います。我が家だけでなく、両サイドのお隣さんにお願いして道路まで続く浄化結界を張り巡らしました。定期的に真ん丸ダイヤを設置しに行かないといけないので、手間はその分増えました。それでも、悪しき思いで我が家へ来ようとする人は、急激な浄化によって我が家に辿り着く前に体調不良になります。
この様に、一つ一つの対処をしていったので、本来は平穏な日常が戻っても良いはずだったのです。
「なのに、何でこんな事になっているのでしょう?」
首を傾げる私は、黒い服を着て、サングラスをした思いっきり怪しい人が3人、後方には2人、合計5人の大人に囲まれてます。今日の授業が終わった私は、普段通りに通学路を家に向かって歩いていました。そして、幹線道路を外れ、住宅街に足を踏み入れた途端、こんな状況になってしまいました。
「伊藤小春さんの妹さんですね。我が主が、是非ともご招待したいとの事にて、お迎えにあがりました」
「家でも、学校でも、知らない人に付いていっちゃ駄目って言われてるので、せっかくのお誘いですがお断りします」
うん、お姉ちゃんの名前が出て来た事が、少々気にはなります。それでも、こんな怪しい人に付いていくなんて考えられません。
「小春様には、すでに別の者がエスコートに出向いておりますので、そう言わず是非にでも」
背後の人がじわじわと接近して来てるのを感じます。ただ、これはちょっと困りましたね。お姉ちゃんの状況が掴めません。デマだとは思うのですが、この人達の目的が判らないので動き辛いです。
「貴方達は、私の事を知らないのですか?」
「欺こうとしても無意味です」
うん、良く判らないのですが、どうやら私関係では無さそうです。何となくだけど、お姉ちゃん絡み?
「あ、ほら、駄目ですよ? 後ろを見てください」
「ふ、そんな子供だまし「た、隊長!不味いです」がつう・・・・・・何事です?」
私の背後から声が聞こえたのは、多分その隊長さんの後方が見えたからですね。
そっと後ろへと視線を向けると、思いっきり隊長さんの後方を指さしていました。そして、その指の先には、複数の大きいお兄ちゃんみたいな人が、思いっきりスマホを構えて此方を撮影していました。
「あのTシャツは何とかしたいなぁ」
大きいお兄ちゃんの着ているTシャツには、思いっきり”ひよりちゃんL♡VE”の文字が印刷されている。うん、私は芸能人になった覚えはないよ?
その横にいるちょっと細めの大きいお兄ちゃんは、これまた”魔女っ娘ひより♡”のTシャツを着ています。そうなんです、平穏な日常を取り戻せていないのは、何時の間にかネット上にて組織された私のファンクラブもどきのせいなんです。下手すると24時間見張られている気がする。ただ、彼らからは一欠片の悪意も感じられない為、浄化結界も意味を為さないのです。
何でこうなったかと言うと、それはやっぱりあの事件以降に問題がありました。
夏休みが終わって、学校が始まり、9月が過ぎて10月も終わろうかという時。色々と抑圧された生活を強いられていた子供達を、お父さんとお母さんは気分転換と息抜きも兼ねて2泊3日のファンタジーランドの旅へと連れて行ってくれました。
その際、ファンタジーランドの宿泊したホテルではハロウィン真盛り、別料金でコスプレ衣装の着付け、お化粧までしてくれるレンタルサービスがあって、思いっきり頼んじゃいました。
「お姉ちゃん凄い! 本当のお姫様みたい!」
「ひよりも可愛いよ~、魔女っ娘だね!」
お姉ちゃんはもとより、私もお化粧の御蔭で、普段より150%は可愛くなっている気がする。
そんな私達は、もう心はファンタジー、うん、良く考えたら前世はある意味ファンタジーだった。浄化の真ん丸ダイヤの入ったお守りも身につけて、意気揚々とファンタジーランドへ突撃します。
私は魔女っ娘、お姉ちゃんはやっぱりお姫様、それはもうノリノリでファンタジーランドを満喫しましたよ。お姉ちゃんも受験の追い込みなんのその、やっぱり受験ストレスも相当あったのか、私以上に大騒ぎ、でもすっごい楽しかったねって家に帰って来たんです。
これで終わっていれば何の問題も無かったんですが、私達の姿が結構な人にこっそり撮影されていたんですよね。
最初に掲示板に投稿した人は、これ誰だっけ? どっかで見た事あるけど名前が思い出せない。そんな感じで投稿したみたいなんですが、そっからは怒涛のように人物特定されて、ファンタジーランドでは知らない人がいっぱい写真を隠し撮りして掲示板にアップする。
一躍、私達は超有名人に仲間入り?
色んなところに写真は拡散して、また周囲が騒がしくなって来たんだよね。今度は、真面目に芸能事務所から電話は来るし、ネットではまた騒がれたり、でも、そんな時にフェアリーガーディアンという名前の、何か良く判らない集団が生まれたのです。
その集団の責任者の名前は、なんと、なんと~~~、パパンさん、何の事無いお父さんです。
どうやら、背後には榊さん含め、色々な人が絡んでいるみたいなんですよね。これを機に公に私達を守るためのファンクラブを作ってしまえと、うん、思いっきり発想が斜め上ですね。
「お父さん・・・・・・」
この事実を知った時のお姉ちゃんの眼差しを、私は今でも忘れません。お父さんは吐血してましたね。
この集団は、一応ボランティアなので伊藤家の懐に優しいのです。警護や、護衛を付けたりすると、思いっきり問題が出そうな所を誤魔化す為の策? おかげで普段も私やお姉ちゃんには隠れて警護が付くようになったんですが、その服装は何とかならないのでしょうか?
「映像が残っちゃったね。うん、拉致未遂? 事件かな?」
私は無邪気に微笑みを浮かべ、目の前にいるおじさんを見る。
うん、思いっきり動揺してるね。多分人が居ないのを確認して行動したんだろうけど、あの人達もあんな恰好をしているけどプロだからねぇ。
「く、その様な物が何の」
「あ、ほら、私もう警察に通報しちゃったから」
そう言って、ポケットから自分の携帯端末を取り出して目の前に翳す。
端末から漏れ聞こえてくる声は、この場所の住所などで、明らかに緊急っぽい雰囲気を醸し出している。
「・・・・・・」
目の前の隊長さん? は、少し躊躇した様子だったけども周りの人に視線を向けてバタバタと走って引き上げていく。うん、ここから無理をして私を拉致しても、状況が好転する事は無さそうだもんね。
「今なら言い訳が効くかな? 微妙ですよね?」
「無理でしょうねぇ、此方でもしっかり会話は記録されています。ああ、小春さんは無事ですよ」
携帯端末の向こうの人へと声を掛けると、どこか飄々とした声が帰って来た。
「既に小春さんへの襲撃で相手は割れています。もっとも、襲撃と呼べるような内容ではとてもありませんでしたが」
「今回の要因は、お姉ちゃん?」
「はい、鳳凰学園のご友人絡みですね」
「はあ、お姉ちゃんちょっとモテ過ぎ」
思わずため息が漏れます。
お姉ちゃんは中学2年生になってから、学校での状況が慌ただしくなって来ました。お姉ちゃん曰く、多分切っ掛けは1年生最後の期末テストで、学年順位1位を取っちゃった事みたい。
「今までも、大体10位以内にはいたんだけどね、やっぱり1位はね~」
中学に入っても、塾や英会話など、毎日忙しく、それでいて楽しそうにしているお姉ちゃんは、まさに努力の人です。魔術も今や浄化と治癒は結構な所まで使えますし、魔力も前世での初級クラス並みには増えています。
「だって、勉強も、魔術も、出来るようになって来ると楽しいよ?」
どちらかと言えば、享楽的というか、刹那的というか、興味のある事には此れでもかと注力するけど、興味の無い事にはトコトン興味を示さない私にとってお姉ちゃんは神ですね。私には絶対に無理です。
そんなお姉ちゃんの周囲が不穏になったのは、2年生のクラス替えの影響が大きいです。なんでも、学園でも有名な人達との交流が突然増え、まるでそれに合わせる様に嫌がらせが始まったって。
「直接どうこうは無いんだけど、最初は手紙とかで警告? そっから机にラクガキされたり、荷物はロッカーに入っているから大丈夫だけどね」
それでも、新しいクラスで仲良くなった人達が何か有名どころの男の子達で、そっからは何って乙女ゲームって感じでしょうか?
「お姉ちゃんはヒロイン属性すごいもんね」
思わずそう答えてしまった私は悪くないはず。なのに、デコピンは無いと思う。
お姉ちゃんの学園編ですよ!
でも、ひよりは別の小学校、うん、読者の想像力に頼る章が始まります(ぇ