22:霊能者より厄介な人達は?
誤字脱字報告ありがとうございます。
昏倒した検察の人は、もう一人の人が慌てて運んでいった。その際に私を見る目は、思いっきり怯えていたね。で、宗教関連の人達は、取り敢えず仕切り直しという事になる。
「ひよりさん、まあ何かあればまた連絡を下さい。微力ながら可能な限り協力しますよ」
「あ、ありがとうございます」
私は、榊さんにぺこりと頭を下げる。
「ほっほっほ、何かあれば尋ねてきなさいと言えぬ所が残念じゃな、高野山は基本的に女人禁制だでの。惜しいのう、その方が男であったならの」
お爺さんはそう言って出て行きましたが、そっか、女人禁制なのか。ある意味安心なのかな?
「おかしいわね、昔、お父さんと高野山に参拝したわよ?」
お母さんが首を傾げている。
「ひより嬢、ぜひ、ヴァチカンへおいで下さい。私達は貴方を歓迎します」
満面の笑顔で、そう声を掛けてくるのはカトリックの軽い司祭さんだった。
「あ、はい、もし機会がありましたら」
「それで構いません、またお会いしましょう」
そう言ってさっさと引き上げていきます。
「神原が誠に失礼な対応をしたそうですね。指導が行き届かず誠に申し訳ない。今後は、十二分に注意させます。ぜひ一度、伊勢神宮に参拝しに来てください、歓迎します」
「申し訳ありませんでした」
頭を下げて謝る神原さんと、丁寧に謝罪をくれる神原さんの上司さん。ただ、表情筋がどこかへお出かけしているのと、声にも抑揚がまったくないですね。目にもまったく感情の欠片も見えないので、まるでロボットの様です。
「もし機会がありましたら」
お母さんが返事をしてくれます。うん、あんまり良い印象がないので、こんなものかな?
上司さんもチラリと私を見て、そのまま神原さんを連れて帰って行きました。
「さて、私も失礼します。ただ、今回来た者達は、伊藤家に注目している者達の氷山の一角です。新興宗教系の者達は、非常に質が悪くやる事も荒っぽい。警察官僚も、そうそう諦めないでしょう。身の回りには十二分に注意を払ってください」
「ありがとうございます。今回も、こちらの騒動に巻き込んでしまいまして」
「ありがとう~」
「ぶふぉっ、あ、いや、どういたしまして」
今更ながらに小学生を演じるが、榊さんは思いっきり噴き出してくれます。失礼な!
笑いながら帰っていく榊さんを睨みつけていると、ちょっと遠慮がちに声を掛けられる。
「今朝の診療において、ひよりさんには特に異常はありませんでした。この後、退院なさって結構です」
「あら、ありがとうございます。精算はどうすれば宜しいのでしょうか?」
「先日作成された診察カードを、精算機に入れて頂ければ判ります。それと、ありがとうございます」
そう言って、お医者さんは私に頭を下げます。
「ん? 何の事でしょうか?」
「先程、精密検査で美月ちゃんはどこも異常が無いと連絡が来ました。まさに奇跡です。ありがとう」
改めて頭を下げる先生に、私は頬をポリポリ掻きながら、何かを言う事も無くお母さんを見る。
「良かったですわね。本当に、奇跡ですね」
驚いたような表情で、顔を上げた先生はお母さんを見ますが、お母さんは私を促して病室へと向かいました。
「美月ちゃん治ったんだね、よかったね」
「そうね、神様は見ているのね」
「うん、そうだよ。神様は見ているんだよ」
美月ちゃんの事も、もし私と知り合わなければ病気が治る事は無かったのだろう。運と言ってしまえばそれまでだけど、それこそ少しの掛け違いで物語は変わる。美月ちゃんが治った事を、あの会議室にいた面々は知った。そして、この事は私の存在価値を底上げしてくれた。
「本当に、一つでも掛け違ってたら、どうなっちゃっていたのかな?」
「本当にね、だから奇跡なのよ」
お母さんの言葉に、私は素直に頷く。
「あとね、情けは人の為ならずって言うのよ?」
「どういう意味?」
「情けを施すと、巡り巡って自分に帰って来るって」
そう言って笑うお母さんを見て、私も同じく笑顔になる。
「最後に美月ちゃんに会っていかなくていいの?」
「うん、会うと美月ちゃんも巻き込まれちゃうかもだし、ちょっと寂しいけど会わない」
「そう、そうね。またきっと何処かで会えるわ」
「うん、それに突然病気が治って美月ちゃんも大変かもだし」
そう言って私は笑う。
せっかく知り合えたし、ちょっとでも一緒に遊んだから寂しいけど仕方がないかな。
その後、自分の入院していた病室を片付けて、あっさりと病院を後にする。
ただ、この時、私もお母さんもすっかり忘れていた事があった。
タクシーを頼んで家へと向かう。そして、家の傍まで来ると何やら家の前に人だかりが見える。
「あ、忘れてた」
「そうねえ、お母さんもすっかり忘れていたわ」
テレビカメラを手にした人が数人見える。その前には、マイクを手にした人もいる。
「運転手さん、ごめんなさい。このまま真っすぐ通過して〇〇駅まで向かって貰えますか?」
「おや、判りました。ありゃ、マスコミかい? すまんね、お嬢ちゃんはアイドルか子役だったんだね。おじさんは、そこら辺の事に疎くてね。どうりで可愛い子だと思ったよ」
お母さんと顔を見合わせて、又もや苦笑する。確かに普通の人の家の前にマスコミが居るとは思わないからね。
「病院からってことは、何かの病気かい? あ、言えなきゃ言わないでいいよ。駄目だね、おじさんもお嬢ちゃんくらいの孫が居てね」
結局、駅に着くまで運転手さんの会話に巻き込まれちゃいました。ただ、名前を聞かれて困っちゃったんですよね、別に芸能人って訳じゃないですからね。ちなみに、デビュー前なのでという事にして、芸名もサインもお断りしました。
「う~ん、失敗しちゃったね。誰かに家から付けられてる」
「あら、そうね、ちょっと不自然だったものね」
たぶんタクシーの動きに違和感を持たれたんだと思う。
「どうしよっか、お姉ちゃんの塾に向かう?」
家からもっとも近い地下鉄の駅で、お姉ちゃんの塾からも近い。でも、今はまだお昼だから時間はすっごく余っちゃうね。
「まずはお昼にしましょう。ファミリーレストランで良い?」
家の傍の駅だから、洒落たお店なんかまったくない。ファミリーレストランとラーメン屋さんが、それぞれ一軒あるだけ。
「荷物が邪魔なのに、困ったものよね」
私の着替えが入った、ボストンバッグをお母さんが持ってる。二日分の着替えと言っても、子供用だからそこまで重くはない・・・・・・のかな? 今日は、お父さんが車に乗ってっちゃってるから、タクシーだったんだよね、でもある意味助かったのかも。家の車は、マスコミの人にバレてるもんね。
「いらっしゃいませ~、空いている席にお座りください~」
どこかちょっと間延びした声のウェイトレスさん。私達は、窓から離れた奥の席に腰を下ろした。
「ここなら外からは見られないし、片方は壁だからね」
反対側のブースでは、サラリーマンのおじさんが何やらパソコンを出して仕事をしているっぽい。
「ひよりちゃん、何を食べる?」
「う~んと、キノコのスパゲティー」
我が家では、スパゲティーと言えばミートソースなのです。この為、外では絶対にミートソースは頼まないんだよね。
「お姉ちゃんと一緒だと、半分こして二つのスパゲティーが頼めるのになあ」
「お母さんと半分こする?」
「うん、する!」
という事で、お母さんが頼んだカルボナーラと、私のキノコのスパゲティーとを半分こして食べます。
もっとも、その間もファミリーレストランの入り口をそれとなく見張ってます。
「お店に入って来ないね。外で見張ってるのかな?」
「どうなのかしら?」
てっきり、私達に続いてお店に入ってくると思ってた視線の相手は、今の所中に来る気配はありませんね。
「ここ裏口ってないよね?」
「残念だけど無いわね」
スパゲティーを食べ終わった私達は、この後どうするかが問題なのです。
家に帰って強行突破するか、絵美さんのお家に匿って貰うか。ただ、何時までと言った期限が判らない為、これ以上絵美さんに迷惑を掛けるのも心苦しいです。
「小春が一人で帰ってきた時も心配だし、どこかで時間を潰して小春を迎えに行きましょうか」
「うん、結局、こないだ買い物も行けなかったもんね」
「あら、そうだったわね」
という事で、名古屋の街へ向かう事になりました。
「車じゃないから、ひよりも荷物持ち手伝ってね。夕飯の買い物もしないとだから」
「うん、でも時間によってはお父さん迎えに来てくれないかな?」
ちょっとした希望を告げますが、お父さんの今日の戻りは遅くなりそうで、残念ながら厳しそう。
「絵美おばさんにも、小春はこっちで迎えに行くって伝えたから、ちょっとバタバタするけど頑張るのよ」
「うん、がんばる!」
そう言いながらも、私はまだ子供の体力なのです。魔法は置いといて体力だけで考えると、結構ヨワヨワだったりするんですよね。
その後、洋服を1着と部屋用のスウェットを買ってもらって、お姉ちゃんの服も買って、お父さんの下着を買う。そして、夕飯の買い物をすると、両手に荷物がいっぱいになった。
「結構、良い時間になっちゃったね」
「そうね、小春の塾が終わる時間も丁度良い感じになったわ。時間余ると思ったけど、余らなかったわね」
クスクスと笑うお母さん、私が服を選ぶのに結構時間が掛ったのが原因だから、笑われるのは仕方がないよね。でも、洋服なんか滅多に買ってもらえないからね。
家の傍の駅を出ると、お姉ちゃんの塾は目の前に。ただ、普段は車の中で待つんだけど、今日は待つ場所がない。その為、塾の前でお母さんとお話ししながら待つことにした。
「あ、視線が増えたよ。待ち構えられていたかも」
「え? あ、忘れていたわ。そういえばずっと買い物の時も見張られていたのよね?」
「うん、特に近づいてこなかったけど、もしかしたら連絡されたのかも?」
あまりに当たり前に視線が着いて来るため、途中からまったく意識しなくなっていた。でも、その視線が駅を出た瞬間から増えた。
「あ、あの人だね、近づいてくるよ」
悪意という程のものは出ていないから、危害を加える気は無いんだと思う。
でも、一概にそれは判らないんだよね。危害と思ってなくても、迷惑だったりするからね。そして、この思いは思いっきり当たっちゃうんだよね。
「あの、失礼ですが、伊藤さんのご家族ですか?」
まだ若い男の人だね。その後ろにはカメラを構えた人と、荷物を持った人がいる。
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「あ、私はシャチホコテレビの者です。ぜひお話を聞かせてください」
何のお話なのかの説明は無し、あと撮影の許可もないですね。何となくだけど、断られるとは思いもしていない感がすごいです。
「特にお話しするような事はありませんが?」
「え? そんなはずは、お嬢さんが強盗に襲われた事、その際に不思議な現象が起きて娘さんが助かったんですよね。あの現象が今、テレビでも、ネットでも騒がれていますよ? お嬢さんは今や、超有名人じゃないですか、これを機に芸能人デビューも出来ます。うちのプロデューサーもぜひ後押ししたいと言ってます」
「いえ、うちの子は芸能界とかにまったく興味ありませんから」
「お母さん、お子さんの可能性を大人が狭めちゃ駄目です。見た目も悪くないし、お嬢さんなら将来、十分アイドルだって狙えます。芸能事務所を紹介できますから、それに今なら超能力少女とか魔法少女とかでインパクトを出せばいけます」
「本当にそういうの興味ありませんから」
「知名度さえ上げてしまえば、あとは何とかなります!」
うん、お母さんの言葉が、この人には通じていないみたいです。
あと、今日会った霊能力者の人達はこのマスコミさんの動きを、どう思っているんでしょう。一応、この目の前の人からは、善意っぽい感じがするのが一層厄介ですね。
「芸能人ですよ? お嬢ちゃんはアイドルで誰が好きかな? もしかすると会えるかもしれないよ」
腰を屈めて自分の視線を私に合わせてくれる。まあ、慣れているというのもあるけど、この人自体は悪い人では無いのでしょう。迷惑ではあるのですが。
あと、知名度が上がっただけでは何ともならなかった一発屋の方たちに謝罪してほしいです。結構好きな芸人さんで、最近見なくなった人がいるんですよね。
「ピロリさん、元気にやっているの? 最近テレビで見ないの」
「え? ピロリさん? ・・・・・・お嬢ちゃん、マニアな所来るねえ」
失礼な!一時期は、結構話題になった人なのに!
ピロリさんという芸人さん、いませんよね?いたら不味いわ・・・・・・
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あと、感想もすごく嬉しいです。続きのネタに絡みそうなものは、う、返信が、どうしましょ?となるのも意外に楽しかったり(ぇ
マスコミ関係のお話が一段落すると、少し時間が進む予定です。お姉ちゃんが中学生になるとこまでかな? あと1話か2話はマスコミ関係かな?