21:政府関係は信用できませんね
誤字脱字報告、ありがとうございます。
翌日、朝9時からの診断は普通にありました。おかしいよね? 健康体なのにね。
そして、10時ちょっと前に、病院の中にある会議室へお母さんと一緒に案内されます。
「何かバタバタした感じだね。検診ってもう要らないと思う」
「病院に入院してるから、退院までは仕方がないのだと思うわ」
「今日、退院できるかなあ?」
「そうねえ、多分出来そうだとは思うけどね」
お母さんとそんな会話をしながら、看護師さんに案内されて会議室に入ります。
「すごいね、ギスギスしてるのが良く判るね」
「ええ、ただ何か人が多いわね」
そうなんですよね。てっきり、榊さん、神原さん、その上司さんの3人だと思っていたのですが、何と8人も人がいました。
「そちらへお掛け下さい」
診察をしてくれているお医者さんが、私達の座る場所を教えてくれる。でも、この先生も関係者だったのか。ぜんぜん判らなかった。
「一応、中立な進行をとの事なので、この病院の副院長である私が進行を務めさせていただきます。改めまして、副院長の清水元康と申します。本日は宜しくお願い致します」
そう言って頭を軽く下げるお医者さん。うん、やっぱりお医者さんで間違いなかった。でも巻き込んじゃってごめんなさい。
「それでは、そちらから自己紹介をお願いします」
向かって右側に座っている人から、順番にご挨拶みたいです。でも、この席順は誰が決めたのでしょう? 早く来た者順なのかな?
「検察庁、特殊犯罪対策課課長、渡邊綱吉です」
「同じく、特殊犯罪対策課主任、安部清里です」
ん? 検察庁? 神社の人じゃないの? またおかしな人が出て来たよ?
「神宮庁、伊勢神宮少宮司 藤原伊織です」
「同じく、伊勢神宮祭祀補特任巫女 神原洋子です」
神原さんの上司さん無表情だね。何を考えてるのかな? ついでに神原さんは借りてきた猫のような表情だね。もうバッキバキに緊張しているね。
「神宮庁、出雲大社愛知分院少宮司、榊 明成です。いやあ、何か人が増えましたね。私は了解した覚えがないのですが、困ったものです」
そう言って恐らく最後に挨拶となるだろう、お爺ちゃんに視線を向けます。でも、お爺ちゃんは一切無視ですね。
「日本カトリック正教、特任司祭、祓魔師統括官 サルヴァトーレ・チェルキです」
うん、明らかに外人さんだね、でも日本語はすっごい流暢。でもフツマシって何だろう?うん、良く判んないね。
「最後ですかな、真言宗高野派 賢徳と、まあ仏教代表とでも思って下され」
お爺ちゃんがやたらと大きな声で話します。うん、このお爺さんだけ何か余裕綽綽みたいな感じ?
「いつから高野山が仏教代表になったのやら」
相変わらず大きな声でぼやくのは榊さんです。でも、それに誰もコメントなし。榊さんもしかして嫌われてる?
「お母さん、ぜんぜん覚えられない」
「うん、大丈夫よ」
おお、お母さんは流石だ、この人たち全部覚えたのかと思ったら。
「お母さんも全然覚えられないから」
うん、駄目だね。というか、お母さん全然覚える気が無さそう。
「さて、伊藤さんへの自己紹介が済みましたので、話を進めさせていただきます」
どうやら、私達の自己紹介は要らないようです。もうとっくに知られているんですかね、そうですか。
「この度は、伊藤ひよりさんの異能について、そして今後、伊藤家に降りかかるであろう様々な事について説明を行わせていただきます。その後に各団体から伊藤ひよりさんへのPRを行い、伊藤ひよりさんには、どの団体への加入が良いかの選択肢にしていただきたいと思っております」
「あの、必ずどこかに所属しないといけないのですか?」
お母さんが進行の先生に疑問をぶつけますが、うん、一見して自由はこちらに有る様に見えるけど、何か勝手に決められてる?
「それも含めて説明をさせていただきます。では、まずは前の画面をご覧ください」
正面に映し出されたのは、何と! 私を含めた伊藤家の情報?
「ご覧のように、伊藤家の周辺におきましては、瘴気濃度低下、治安の安定化が他の地域に比べ著しく良く。またひよりさん、お姉さんの小春さん両名の通学する小学校においても、一時期は他の学校と同様に問題は発生した物の、現在は非常に安定した状況にあります」
うん、他の小学校との比較がすっごい怖いよ。うちの小学校で安定ってどんだけ荒れてるんだろう。
その後の説明で、この浄化を行っているのが伊藤家の子供、わたしであると言う事が説明されるが、未確認ながらお姉ちゃんも同様の力を持っている事が推察される。という所で説明は終わる。
「さて、ここからは儂が引き継ぎましょう。一応だが政府の方からも頼まれておるでな」
そう言って前に出て来た真言宗のお爺さん。それに対して、今回はチャチャを入れない榊さん。思わず顔を見ると、またもやウインクされたよ。
「ああ、先に行っておくが、我らはひより嬢に対し獲得を志す事は無い。それはお主らがよう知っておろう。なにせ奥の院は女人禁制じゃ」
また良く判らない言葉が出て来たなぁ。奥の院ってなんだろう?
そんな事を思っている間にも話は進んでいく。
「という所ですかな、まあ、大まかな説明じゃ。近年の瘴気濃度は異常じゃ、それによる人材不足もあるじゃろうが、問題は有象無象の集団が動かぬようにする。その事が肝要と心得よ」
お爺ちゃんの説明が終わった。
で、簡単に言うと、瘴気が濃くなった。何か異常現象が多発するようになった。人手が足りない。貴重な人材は喉から手が出るくらいに欲しい。という感じかな? もっとも、問題は、公式に認められている組織はともかくとして、非公式の危ない組織もいっぱいあるという事。で、そこが既に動き始めているらしいです。
「所属する、しないは強制いたしませんが、組織や団体に入る事でのメリットは、デメリットより多いと思いますよ」
お医者さんはそう言いますが、恐らくこのお医者さんも何らかの関係者なんでしょうね。
「そうですねえ、未公認の団体など犯罪者集団と言っても過言ではない者達も多いですからね」
イタリア人の司祭さんがそう言います。でも、言い方がすっごい軽いです。
「何か教会の司祭さんってもっと雰囲気があるんだと思ってた」
「ひより、それはね、あの人がイタリア人だからだと思うの」
「イタリア人は駄目なの?」
「イタリアの男性は、女性と目が合ったら声を掛けないと失礼に当たるっていうわ。すっごく女性好きとも聞くし、お国柄というのかしら?」
「あ、だから軽いんだね」
私とお母さんが話していると、咳払いが聞こえた。で、そちらを見ると、イタリアの人が何か困った顔をしていた。
「所で、なぜ特防が来てるんだ? ひより嬢は子供だぞ? 公務員の出る幕はあるまい」
「おや、伊勢の、それは見当違いと言う物ですな。我々はそこの伊藤ひよりを傷害罪及び、公務執行妨害の容疑者として書類送検する為に来たのです。たまたま、この様な説明会があるとの事で参加する羽目になったのですが、こっちも時間が無駄にかかって迷惑ですな」
「ほう、傷害罪と公務執行妨害の容疑ですか、それで態々特防が出張ると?」
「ええ、通常の犯罪ではなく特殊犯罪ですから」
何やら不穏な話が出てきましたね。逮捕ですって奥さん。などと若干現実逃避したくなってきました。
「なるほどね、裏にお前たちがいたのか」
「はて? 裏とは何でしょうか?」
今まで黙っていた榊さんがここで口出しをしてきました。
で、裏ってなんでしょう? 私もちょっと知りたいですよ。
「さっき説明があっただろ? 伊藤家の周辺には瘴気が少ないってな。そんな場所に凶悪犯が空き巣だと? 馬鹿言うなよ。ふつうなら瘴気の薄い地区に凶悪犯が向かうものか。どうにも不思議だったんだが、お前達何か仕組んだな?」
その言葉に、検察以外の人達の視線が、その検察の人2名に集まりました。
「邪推と言わしていただきますよ。そんな面倒な事を我々はしません」
「あんた達がしなくとも、県警は違うんじゃないのか? あの金田とかいう警部補、あれも普通じゃない。お宅ら何かしたよな?」
「これは困りました。このままでは、あなた方も公務執行妨害になりますよ?」
「ほう、黙って聞いていれば、我々に対する脅迫ですか、出来ますか? たかが検察が」
じっと聞いていた伊勢神宮の上司さんが初めて口を開きました。ただ、発言前にチラッとこっちを見たので、何となくこちらは守りますよのパフォーマンス? あと、もしかしたらだけど、これって出来レース?
「おかあさん、この国出るのは難しいの? あれだったらイタリアとかでも良くない? 女性には優しいんでしょ? お父さんは辛いかもだけど」
うん、こっちも牽制ではあるけど、結構真面目に考えちゃいます。だってさ、榊さんはともかく、何かすっごい面倒なんだよね。
「う~ん、お父さんのお仕事があるから、ちょっと難しいかもだけど、教会に所属したいの?」
「違うよ、この国が面倒だから出ちゃえばいいのかなって」
前世においても、各国で様々な特徴はあった。それでも、魔導師たちが国家間を移動する事は自由であり、自分に合わなければ移動するし、欲しい素材が採れると言って移動する。結局の所、自分の研究に少しでも利があるとなれば平気で行動するのが魔導師だ。
「そうね、でも逮捕されちゃう可能性もあるのよ?」
お母さんは、心配そうに他の人達の遣り取りを聞いている。
「うん、でもね、多分大丈夫だと思う」
そんなお母さんを安心させるように、私は笑みを浮かべた。
「え? 何で?」
「だって、ひよりを逮捕したら、多分だけど逮捕した人は終わっちゃうから」
「え?」
私の言葉に、お母さんはこの子何を言ってるのといった、キョトンとした表情を浮かべる。
「ひよりちゃん? どういう事?」
「うん、あのね、美月ちゃんの小児がんって普通は治らないんでしょ? この世界の魔法だと治せるのかな?」
「え? え? 何が言いたいの?」
「もしかしたらだけど、この世界で治せない病気を私は治せるのかもしれないんだよ? それなのに、私の機嫌を損ねたら治して貰えないんだよ、助かるかもしれないのに」
「・・・・・・そ、そうねぇ」
お母さんは、しばらく考えた後に頷いた。
「あとね、私って実はもっと色々な事が出来るんだ、私に手を出した事を一生後悔させる事だって、ね?」
実際に、今の魔力ではそこまでの事は出来ないと思う。それでも、そんな事をこの人達は判らない。ただ、一番大きな事は、私が美月ちゃんの病気を治したという確かな事実。その事実から、この人達は色々な事を勝手に想像してくれるだろう。
気が付けば、会議室は、し~んと静まり返っていた。恐らく、私とお母さんの会話を聞いていたのだろう。
「今ので脅迫罪も追加ですか」
検察の人がそう言って、私を見る。その目は恐らく私のハッタリを見破っているのだろう。でもね、確かにハッタリだけど、そうで無い部分もあるんだよ?
「あのね、あまり私を舐めないで欲しいな。検察って国の組織だよね? ねえ、国は私の敵になる、そういう認識で良い? 私は敵には容赦しないよ?」
伊達に前世で魔導師として生きていない。それこそ、生きるか死ぬかの瀬戸際を幾度もくぐり抜けてきている。その私の本当の殺気に、思わずこの場にいる人達は身構える。
「ねえ、何とかさん、どうするの? あなたの判断で、下手したら多くの人が死ぬよ?」
「ば、馬鹿な、そんな脅しに」
顔から、汗をダラダラと流しながら、反論しようとした何とかさん。でもね、この世界で学んだ事を合わせると、今の魔力でも色々できるんだよ。
「貴方、邪魔だよ」
その言葉と共に、何とかさんの口元の酸素濃度を変化させる。
ドサッ
おお、すごい、こんなに簡単に気絶したよ。
私は、内心では驚きに溢れていたけど、何でもない事のように周囲の人達を見渡した。
「私や、家族に手を出すなら覚悟してね、手を出したことを一生後悔させてあげる」
これは決して嘘ではない。その事は、この場に居る全ての人達に伝わった。
「はあ、まあ仕方が無いわよね」
お母さんが苦笑を浮かべながら、私の頭を撫でてくれるけど、この場に居る人達の中で、お母さんの胆が一番座っているかもしれない。だって、他の人は思いっきり顔を青褪めさせているもの。
ほのぼのが旅立って幾久しいです。
早く帰って来て欲しい、う~ん
集まっている人達と、今戦ったらひよりは普通に負けます。
ですから、ハッタリ命なのですが、系統が違う為に何をしたか正確に判っている人がいないのが強みです。